STAND ALONE COMPLEX
弾は肋骨を砕き、左右の肺、心臓、胃、小腸、大腸といった臓器をことごとく貫く。意識はとうに失っていた。
「…………」
だが、義人は感覚で解る。このままでは再生してしまうことを。止めを刺すべきか確認しようとしたところ、SATの隊員たちが駆け寄ってきた。
「あとは我々が」
そう言うと隊員の1人が持っていた積んでいたカッターソーで木島の首を切断した。隊員の体に血が付着する。地面にも赤い血液が流れ出た。
自分がやった方が綺麗に終わるのに……。
そう思っていると、佳歩が車で迎えに来る。
「乗ってください」
「解りました」
義人は隊員らに会釈し、助手席へと乗り込んだ。
走る車内。内調としての佳歩は次なる指示を義人に伝える。
「お疲れ様でした。梅竹さん」
「……お疲れ様です」
義人はバラクラバを脱ぐ。
「これから梅竹さんには上着だけ着替えて頂いて、新幹線に乗って頂きます」
「新幹線!? 今度はどこまで行くんですか?」
なんなんだ今日は……。義人はうんざりとした様子を見せた。
「東京です。東京で総理に会って頂きます」
「え!? 東京!? しかも総理と会う!?」
なんの冗談だと義人は強い忌避感を示す。
「こちらの想定以上に事態が順調に進んでおり、組事務所に合った超人化薬と組長が持ち去った物も回収することができました。1時からの会見でそれを総理は大々的に発表するでしょう。残る超人の居場所も把握し、現在監視中です。事態終結までもう間もなくといったところでしょう」
「ああ……。そうなんですか……」
それはいいことだが、なぜ自分が総理と? 義人の頭はもう巨大な渦を前に困惑することしかできない。
「はい。そこで総理は功労者の1人である梅竹さんにぜひ感謝の言葉を直接述べたいとおっしゃられております」
「そのお言葉だけで十分なのですが……」
拒否権はないのだろうが遠回しに尋ねてみる。
「申し訳ありませんが、これは決定事項です。梅竹さんの個人的感情は関係ありません」
「そうですよね……」
分かってはいたことだが、直接言葉を突き付けられると嫌な気分だ。そのことに気付きつつも佳歩は話を続ける。
「12時のひかりに間に合えばそれに乗ります。間に合わないようでしたら13時のひかりで東京へと向かい、そして到着後、こちらが用意したホテルでシャワーを浴びて中のインナーなどを着替えて頂きます。ただその際、このコンバットウェアを着て頂きます。そして総理官邸まで車でお送りするというのが今後の流れです。あと、念のためシャワー後と総理会談前には最低限のボディチェックをさせて頂きますのでご了承ください」
「こんなボロボロの恰好でいいんですか?」
袖口や背中は破れ、とても国の代表と会うには相応しくない格好だ。だが、佳歩はそれを否定する。
「総理はそれをお望みです。今まさに血と汗を流し、国民のために戦った英雄としての梅竹さんとお会いしたいんです」
「…………」
なんか、きな臭いな…………。
嫌な予感がすると義人は佳歩に再度確認した。
「あの、僕は総理と会うだけでいいんですよね? 会って話をしたらそれで終わりなんですよね?」
確認するまでもない。一国の首相が一国民に労いの言葉を掛けるためだけに会うはずなどないと。そこには政治的意味が含まれているはずだ。そこまで解っていながらも一縷の望みに掛けて尋ねずにはいられなかった。
「――――いえ。それだけではありません。総理官邸の記者会見室で総理とともに壇上へと上がって頂き、写真撮影があります。国内外に今回の功労者の存在をアピールしなくてはなりません」
「え? 冗談ですよね?」
写真撮影? その言葉を義人は拒絶する。
「もちろん、マスクとサングラスは掛けて頂き、一言もしゃべる必要はありません。総理と固い握手を交わし、写真撮影をする。ただそれだけです。すぐに終わります。もちろん謝礼も致します。500万円以上は振り込まれるかと思います」
「ちょっと待ってください……」
「その後は自由です。良かったら東京観光でもしませんか? 何かおいしいものでも食べましょう。どこか行きたい場所はありますか?」
「いや、ちょっと待ってください!! なんですか写真撮影って。嫌ですよそんなの!! なんで晒されなくちゃいけないんですか!!」
「…………」
佳歩は一度言葉を区切った。そして再び理由の説明を行う。
「これは決定事項です。1時からの会見で、総理の口から梅竹さんが東京に向かっていることが伝えられます」
「そんなの知りませんよ。また命を狙われたりするかもしれないじゃないですか」
何を言っているんだと義人は聞く耳を持たない。
「そこは安心してください。身元は割れぬよう、最大限の配慮を致します」
「配慮ってなんですか。表に出ないことが一番の配慮じゃないですか」
違いますか。義人はそう佳歩に問い掛ける。
「……梅竹さん。私たちはもう、この国を守るために全力を尽くさなくてはならなくなったんです。もう逃れることはできません。ここで逃げ出せば国内の混乱は元より、近隣諸国から攻め込まれる危険性も高まります。そうなればこの国は再び戦火に包み込まれることになるんです」
解ってください。佳歩の声はどこか震えていた。もう自分の手には余る事態に飲み込まれてしまったからだ。
「そんなこと言われても…………。えぇ…………」
頭を抱える少年を乗せ、車は駅へと辿り着き、そのまま新幹線へと乗り込む。途中、青ざめた少年の顔を富士の山が見下ろした。




