フルメタル・ジャケット
翌12月27日、水曜日。午前8時13分。驚くほどぐっすりと眠れた義人はテレビを点け、ニュース番組に目を通す。内容は2つの超人戦。寄生生物の数と木島、脇谷、そして謎の白い触腕のこと。数が合わないと伝えている。さらに今後の世界情勢。加えて本日午後1時より総理が再び緊急記者会見を予定しているとの速報をアナウンサーは読み上げた。
「…………」
義人は世界の大きなうねりの当事者でありながらも自分がどうなるのかまるで想像ができない。ただ黙って、画面を見つめることしかできなかった。そんな時だ。扉が2回、叩かれた。
「……どうぞ」
「失礼します」
来訪者は佳歩である。彼女はパンツスーツに身を包み、緊張した面持ちを義人に向けた。
「おはようございます。梅竹さん」
「おはようございます」
神妙な面持ちの彼女を見て何か重大な事柄が告げられると察した義人はテレビを消し、彼女と向かい合う。
「本日は内閣情報調査室、超常現象対策研究準備室の藤川佳歩として参りました」
「はい……」
「梅竹さんにお伝えしなければならないことがあります」
「…………」
なんとなく、予想は付いていた。だが、余計なことは言わず、彼女から告げられるのを待った。
「内容は内閣総理大臣からの技術協力依頼です。ですが、拒否権はありません。本日午前9時より木島龍之介及び特定指定薬物回収作戦への参加を要請致します」
特定指定薬物…………? ――――超人化薬かッ!!
やはりあったかと納得した彼は即座に彼女へ尋ねる。
「回収ですか……。もし木島が抵抗し、回収困難となった場合はどのように対処すればよろしいですか」
「それは……」
義人も解っている。解っているからこそ、総理と口約束をする必要があった。自分の身を守るためにも。
「身柄拘束困難の場合、現場判断で射殺もやむなしとのことです」
「—―—―了解しました」
俺に殺せってことか…………。
義人は自然と組んだ両手を握り締める。
「—―それと、梅竹さん」
「はい」
「総理は1時の会見までに良い知らせをお望みです。良い知らせしか聞きたくないそうです。この意味、ご理解頂けますね」
そう来たか…………。
義人は一呼吸おいてから答えた。
「もちろんです。問題ありません。ご期待に沿えるよう全力を尽くしますとお伝えください」
失敗は許さないってか? 上等だ。やってやるよ……。
義人は静かに闘志を燃やす。
「解りました。そうお伝え致します。それとこれ、着替えです。こちらにお着替えください」
「ありがとうございます」
そう言って紙袋を受け取る。中に入っているのはコンバットウェアだ。
「荷物はその紙袋に入れて頂ければご自宅までお運びしますね」
「ありがとうございます」
「—―—―それでは、失礼致します」
「ありがとうございました」
そう言い残し、彼女は病室を後にする。
「ふぅー……」
なんか疲れた。彼女との距離が大きく開く。お互い、精神的にまいっているのがひしひしと伝わってくる。だが、だからと言って少年は止まる訳にはいかない。
「大いなる力には、大いなる責任を伴う—―」
有名なセリフを口ずさみ、義人はベッドから立ち上がる。
午前10時24分。清水区。指定暴力団組事務所。それは住宅街の一角にある灰色の要塞。窓は少なく、塀は天高く積み上げられており、張り巡らされた無数の監視カメラがこの堅牢な要塞の目であり、耳である。その荒い目で周囲の情報を隈なく記録し続けていた。
その閑静な住宅街という完成された空間を踏み荒らすように4台の黒い特殊車両が姿を現す。中からは愛知県警から集められた20名の精鋭。特殊急襲部隊、SATだ。ネイビーブルーのタクティカル・アサルトスーツに防弾チョッキ。下手をすれば首を痛めそうな頑丈なヘルメットを装着し、両手にはMP5。サブマシンガンだ。そして全員身元が割れぬよう黒いフェイスマスク。バラクラバを被っていた。隊員らは素早く事務所を取り囲む。
そんな彼らに続き、駆け降りてきたのは義人だ。服装は吸水性と速乾性に優れた黒のインナーに黒のタクティカル・アサルトスーツ。靴は能力と機動性を考慮し、ショート丈のタクティカルブーツ。フェイスマスクも隊員らのものと同じバラクラバだが、骸骨の下顎が禍々しく描かれている。
最初見た時はなんの冗談なのかと思い、佳歩が用意したものなのか。それとも別の誰かなのか考えはしたが、きっと隊員らと区別しやすいための目印か何かなのだろうと自分で結論を出す。
重厚な規律の中に混じる唯一の軽装備な異物は車から降りるとそのまま閉ざされた門へと走り、鋼鉄の触腕2本でそれを打ち破る。火花とともに鉄門はひしゃげ、ボルトが弾け飛ぶ。巨大な音を立てる鉄の扉。さらに義人は単独で直進し、玄関の扉をも打ち壊した。
木島ァッ!!
少年は宿敵の名を叫ぶ。
「…………」
来たか――――。
拝み虫は得物を前に両手を合わせた。




