アーチャー
私は、シューレも含めて全員を招集するつもりだった。しかし他の前だからと遠慮したりして欲しく無かったから、まずアインから。
そんな気遣いを知ってか知らずか、彼女は
「お気遣いはありがとうございます。ですが、それで遠慮したり後悔する子達ではありません」
「でも、こんな事...」
「こんな事だからこそ、ですよエリニュス。私は姉妹が一緒に居られれば良いんです。もし誰かが行かないと言うなら、申し訳ないですが、皆行かないつもりでいて下さい」
そう言われてしまったのもあって、改めて全員と一堂に会する事になった。
皆の視線を一身に受けながら私は口を開く。
「私たちは当分の食料も手に入れた。衣服や医薬品など、当分の心配は無い。それでも、この生活を続けていればいつか限界が来る。誰かを失う」
ドライが僅かに身じろぎする。
「だからその前に。こんな世界だから、皆が憎しみ合い、殺し合う世界だから...私は決めた。私は世界の方を変える。不毛な戦争も不幸の連鎖も終わらせたい」
「そうは言うが、どうするつもりだ?この人数じゃ人類を全て相手取るにも、ワルキューレを殲滅するにも到底及ばないぞ」
イオナが言う。
「私の知るワルキューレはこんな事のために造られたものじゃ無い。それに奇跡がこんな使われ方をするのは間違っている」
「...エリニュス、お前一体何を知ってる?」
「わからない。でも、全て話すと長くなるけれどやっと思い出してきた。だから、どうしてこんな事になったのか確かめに行こうと思う。それでも来てくれるというなら...」
「フィア、エリニュスと一緒に行きたい!」
「こら、フィア。勝手に...」
すぐに結論を出したフィアをアインが引き止める。
エリニュス、宜しいですか?今、ワルキューレシステムの再解析を完了しました。
ちょうどその時、アルターエゴが頼んであった仕事を終えた。どうか予想が外れていてくれと願いながら結果を促す。
結論から言いますと、情動抑制機構に巧妙に紛れる様に、ワルキューレの上位存在に対して好意的になる様精神操作を加えていると見られる箇所が見つかりました。
この話をすると決めてから一つ懸念があった。彼女達への絶対命令権を持つ私が決議を起こしたところで、彼女達は本心を表すことができないのでは無いかという点だ。当たって欲しく無い予想ほど当たる。
(解除する事は出来る?)
システムの精神操作はPTSDなどを抑制する面があります。もし解除すればどの様な影響を齎すか分かりませんが...解除自体は可能です。
ワルキューレには元から精神操作が、と言うよりシステムの本質的な部分だ。それに
「なあエリニュス、それは死に行く様なものだ。本当に私達で...お前がしなきゃいけない事なのか?」
イオナが言った。
「確かに、こんな生き方は長続きしない。そんなのは分かってる。だけども、そんな事までしなきゃいけないか?静かに私達だけで暮らす訳には行かないのか」
アインも黙ってこちらを見つめている。彼女達は特に、他の姉妹を案じている。きっと私がみんなで死ぬまで世界の片隅で生きようと言えば。いや、それさえ分からない。そもそも彼女達の言葉は、どこまでが本音で、どこから操作を受けている?何をするのが彼女達の為だ?
システムによって私に賛同するなら、人形の様に使い捨てる事と同じだ。かと言ってシステムを外せば彼女達はどうなるだろう。
先程まで確信を持って紡いだ言葉が、決意がいとも容易く崩れていく。私のために戦い、そして死んでくれとは
「ごめん、イオナ。私はそう思ってる。でも...今は言葉が纏まらない。集まってくれた皆には悪いけど少し時間が欲しい」
結局、言い出せなかった。
執務室の椅子に座る。差し込む日の色が少しずつ赤く染まり、やがて暗くなる頃になっても、気持ちの整理は付かなかった。
だが、日も沈んで空気が冷えてきた頃、ノックの音が響く。
「エリニュス、いる...?」
入ってきた足音は二つ。振り向けばフンフと、ドライだった。
「...昼間の事なら気にしないで」
だけれど、訪ねてきた二人に私の口を突いて出た言葉はどこか素っ気なくて。
部屋の中に沈黙が流れる中、ドライが口を開いた。
「ねえエリニュス。なんでついて来てって言ってくれないの?」
(言っても分かるはずない)
だが、そんな事は言えなかった。
「もう大丈夫だから、早く寝た方が...」
「エリニュス」
真っ直ぐにこちらを見つめて言う。
「私を、一緒に連れて行って」
「私“たち”、だよ?フンフも、エリニュスと、行きたい」
彼女達の覚悟の籠った明確な意思。答えを出せない私と違って、彼女達は...それでも
「...ごめん」
「どうして。なんでエリニュスは私たちを遠ざけようとするの?」
「エリニュスと、行きたい。エリニュスの、目指す、世界を。フンフ、ちゃんと自分で考えた。自分で、決めた」
「......ごめん」
ただ俯いている事しかできなかった。
「...エリニュスにとって、私達は邪魔なの?」
だが、続く言葉に彼女達に誤解を植えていた事に気付く
「違う!そんなことは無い!」
「じゃあどうして!どうしてそんなに辛そうなのに頼ってくれないの!」
涙を浮かべて叫ぶドライ。それでも
「だって...」
言葉に詰まる。だって、どう言えば良いのか分からない。
そう考えていた時、ドライが左手に砲身を。虚を突かれ反応出来ないまま、その照準は私の方を向き。
「何故」と考える間も無く射撃された。
それは私の背後の壁を撃ち抜き、そしてそのまま私を突き飛ばした。
「ッ...!?」
しかし理由は次の瞬間に分かった。建物の外に投げ出され、開いた壁の穴から、天井を貫いて一条の光が私の立っていた場所に着弾し、近くの二人を巻き込んで大きく爆ぜた。
「ドライ!フンフ!」
私も爆風に押されて転がりながら二人の名を叫び、そして盾を出して攻撃の方向を見上げた。
「あら、当たったと思ったのに運が良いのね」
そこに浮かぶのは明らかに規格外の化け物
対象確認しました。クラス・アーチャーです。
アルターエゴに言われるまでも無い圧倒的な存在感。
不敵な笑みを浮かべ、しかし肌を指す様な殺気。
「ごきげんよう。そしてさようなら」




