甘き死よ来たれ
反応を捕捉。ターゲット、ロックオン。詠唱準備完了
「星々の軌道は重なりて、大いなる天より降りて地を穿て『流星』!」
普通、人は一つの魔法しか使えない。それは魔法を使うに足る情動は一つが限界とも、人間の魔法を使う器官のキャパシティとも言われていた気がする。だが、私は例外的に数多の魔法を行使できる筈という事も確かに知っている。何故か...までは覚えていないけれど。
アルターエゴが組んでくれる概念に私が詠唱を通じて形を成し、上空にプラズマの塊の様な星が顕現する。
ハイヴで使用した時より大きな星を降らせるのだ。
ゆっくりと動き出したそれは徐々に地表へ向けて加速し始めた。
使えると言っても私の魔法というわけではないから隙も大きい。咄嗟に使えるものでは到底無いが、こうして張られた罠ごと粉砕するには最良の手段だ。
それに、呪詛の中にいる彼女たちも長時間晒されたらどんな影響が出るか分からない。ワルキューレに見つからないより、一刻も早く彼らを殲滅する事を選んだ私はもう手段を選ばない。
区画ごと、質量と熱で押しつぶし、跡形も無く蒸発させる。
昼間の如き明るさで地表を照らしたそれは、範囲内の全てを焼き払った。初めからこうすれば良かったとさえ思える程の呆気なさ。
だが、そう思えたのも束の間、背筋を逆撫でるような嫌な感覚が走る。
先程まで何の反応もなかった場所。いや、違う。あそこには確か、イオナたちが交戦した部隊の死体が...
純白の輪が、現れる。それはハイヴの化け物やさっきの少女に現れかけたものと同じ。
いや、それよりもっとタチの悪いものだった。
輪の下に立っていたのは、先に見かけた個体の内最後の一体。最初に彼女の髪を撫でていた男性の遺体で間違いないだろう。だが、おかしいのだ。男性に魔法は使えない。
思ったのも束の間、不気味な。本当に不気味としか形容できない霧が光輪から降り注ぐ。
その向こうがどこへ繋がっているのか分からないが、物理的な繋がりでは有り得ない一種のワームホールの様な空間なのだろう。
だが問題はそこでは無かった。地面から土が盛り上がる。それは次第に形を変えて行き、ついに完成すると、そこには人が立っている。
それが数十や百ではない。無限に等しい足元の土を使って埋め尽くす様に数千以上の人が生み出された。
中央の死人の側に、見覚えのある幼女が抱きつく様に立っている。
本当に不味い。あらゆる魔法の行使が許される世界でも、これは最も触れては行けない禁忌だと私は誰よりも一番知っている。
次々と造られる人の数が万を超える前に、イオナ達が戦っているはずの場所へ向けて光弾を放った。
空にいる限り、地の上の彼らが届く方法はない。だが私たちはいつか降りなくてはならないのは自明の理だ。地平の彼方までも埋められる前に核を潰す。
幸い、作られた人間たちは普通の人間と大差ない能力しかない。彼らは落ちていた武器を拾い上げて散発的に撃ってくるが、その程度問題ではない。
いつの間にか縮んだ光輪を頭の上に乗せた彼女は真っ直ぐこちらを見ている。
まず牽制として、流星の二発目を撃とう。
「...大いなる天より地を穿て『流星』」
すぐに放たれた星は彼女の周りの人達ごと蒸発させ、人の群れの中に大きな穴を開けた。だが、気配が消えない。
そう思ったのも束の間、それは突如数十が同時にそこら中に発生した。群衆の隙間から確かに彼女の紫に光る目と頭上の光輪が覗く。それが複数
死という概念の超越。それはもう魔法の核が物理的に潰せないという事。魔法そのものが魔法を定義している以上、魔法以外の手段で否定出来ない。
そうこうしている間にイオナ達が来ることを期待していた。ワルキューレの武装で撃てば、それは戦闘を中断してでも来る程の事態だと察してくれると期待してのことだった。だが、その方角から時折り激しく上がる炎こそ見えど、向かってくる様子は微塵もない。
その事に私が気付いた事に気が付いたのか、幼女はわずかに首を傾げる。
既に死者蘇生の波は基地の境界へ差し掛かっていた。既に万でさえきかない数が呼ばれているだろう。
イオナ達の元へ向かうか、目の前の敵と決着をつけるか。迷わなかったといえば嘘だ。でも、イオナが居る以上、彼女達は大丈夫だと思えた。原理は分からないが彼女の魔法と彼女を信じられた。
アルターエゴに探らせても、まるで大海の様な反応と、その中に点在する反応も区別こそ出来るがその中で大小の区別はなく、どれかがメインコアと言った弱点は無さそうだ。
となればする事は一つしかない。
一体目掛けて盾を大きく振って周囲を薙ぎ払いながら降下する。
魔法を否定するには魔法しかない。
「概念接続、開始ッ!」
その頭を掴むや否や、腕を青白い雷光が走る。同時に向こうからも紫の雷光が走って衝突し、私の意識は深い所へと落ちていった。
...権限α確認。非ワルキューレ個体へのアクセスを許可




