追悼戦
基地内の殲滅はイオナたちに任せる事にして、私は逃げた個体を追う。彼らが逃げるほど呪いが広まってしまうが、幸いここは付近に人のいない場所だ。
それでも探知を放ちながら基地の端へ向かって飛ぶ。だが突然、機関銃の音と共に弾丸が傍を掠める。更には建物の屋上から私を目掛けて跳んできた死人を避け、捜索の為に低空で飛んでいたが慌てて高度をとった。
外へ向かう反応が見つかりません。対象はどこかで他の個体に紛れています。
アルターエゴが言う。それはつまり完全な殲滅戦を強いられる最悪な戦術だ。死人が次第に生者に及び得るほど狡猾になって来ている。
目立った集団に降り立ち、盾を振り回して薙ぎ払う。胸郭が落ち窪み手足が折れ曲がろうと、人なら絶命する攻撃でも彼らは動き続ける。その一体ずつを完全に殺す前に路地から現れた個体を掴んで壁に叩きつける。頭をトマトの様に潰せば流石に動かなくなるが、効率が悪い上に気が滅入る。
汚れた腕を振って血と脳漿を落とし、先に薙ぎ払った個体の中に様子の違うのが居ないかと探すが、見つからない。既に移動もままならないだろうと判断して次へ向かう。
飛翔音と共に白煙が尾を引いて迫ってくる。どこかにMANPADSが残っていたのだろうが、一射だけなら回避は容易だ。急な切り返し軌道で振り切ると、発射点を探す。
シーカーを起動して私をロックし、発射するまでの一連の手順は明確に知能が無いと行えるものでは無い。恐らく探している内の一体がいるはずだ。
直ぐ、発射を終えた発射機を放り投げて走り出すのを見つけた。あそこにいた一体に違いない。
建物を破壊しながら追跡する。だが、知能ある敵が無策に逃げ回るだけの筈はなかった。所詮はほんの少し長らえただけの死体。そう思っていた私は地下通路に逃げ込んだ相手を素直に追って飛び込んでしまった。
暗い通路の中、少し進んだところでそれは立ち止まっていた。相手を前にした事で警戒が疎かだった私に死角から無数の鉄球が向かってくる。着弾より早く反応して防御したものの、その為に一手後手に回ってしまった。そいつが手に握ったスイッチを握るや否や連鎖的に通路の各所が発破し、慌てて脱出するより早く崩落する。
罠だったと気付いた時にはもう遅かった。
辛うじて上からくる瓦礫の直撃こそ防いだものの、土砂が身体を埋める。
立っていた位置からして相手も埋まったのだろう。だが、それと自爆と引き換えに身体を拘束されたのは完全に油断だったと言う他ない。
上方向に押し返そうとするが、足元も安定せず、また上の土砂は相当な量で到底無理だった。
(アルターエゴ、この状況をどうにか出来る方法は?)
検索中...行使可能な魔法の中に候補が存在しません。
周囲を液状化させ地中を泳ぐことの出来る魔法が有りますが、詠唱を完了する前に中途半端に流体化した土砂で中断されるでしょう。
ただ代替案として、推奨はできませんが、閉鎖空間内で強力な爆発を起こす事で上の土砂を吹き飛ばせるかもしれません。
なるほど確かに考え得る限り最も現実的で、最も遠慮したい手段だ。
たとえ私の身体でも、恐らく閉鎖空間での強力な爆発は相当に堪えるだろう。
だが、ここで埋まって踠いて時間を浪費するわけにはいかない。一息吐いて覚悟を決め、盾をしまう。屋根を失って崩れてくるより早く砲身を作る。
先ほどと同じ、最大威力の炸裂術式を込めた光弾を作る。砲口と身体の間に滑り込んだ土砂が多少マシにしてくれることを期待して引き金を引く。
世界が真っ白に染まり、一切の音と感覚が消える。平衡感覚さえ失ってどっちが上かも分からないし、流石に砲身を展開した腕がまるで押し潰された様に痛むが、かろうじて致命傷にはならなかったらしい。
少しして感覚が戻ってきた頃には、まだ身体の半分以上が埋もれている自分の体を身を捩って無理に引き摺り出し、翼が外に出た時点で飛行術式も使って飛び出した。
(死ぬかと思った...)
正直、半端なく身体中の節々が痛いし、右腕は完全に折れている様でダラリと垂れている。
まだ比較的無事な左腕でポーチを探ったが、出てきたのは割れたガラスの破片だけ。
(やっぱりダメか...)
案の定アインの血は使えなくなっていたが、アルターエゴがすぐに再生術式を走らせる。
折れた右腕をさらにグシャグシャに踏みつけられている様な痛みに耐えながら、外からも骨の位置を戻しつつ、まだ見た目は酷いが最低限動く程度には治った。
引き攣る腕の調子を確かめ、次に取り掛からなくては。
幸い、先の戦いで掃射で潰した兵器庫の近くであった為に追撃に来る死者こそ居ないものの、休みたいのは山々だがその時間はない。
(あとの2体はどこにいるか分かる?)
盾を出して握れることを確かめながら、私は歩き出す。
魔導反応の大きな個体を探知しました。ですが、恐らく罠の可能性が高いと思われますが。
それでも、彼らの一体でも見逃すという選択肢のない私にとっては変わりない。
彼らは死んでいる以上、生者であった頃より大胆で捨て身の戦術を取ると思えば、生きている人間以上に厄介な存在になると改めて認識させられた。




