葬送
私たちが持ち帰るものを選定して運びやすいように梱包などしていると、エリニュスは情報が残っていないか探しにいくと言って建物に入っていった。
既に制圧は終わって危険は無いだろうが、私はアイン達が既に少女の顔に戻っているのを少しだけ眩しく思いながら周囲の警戒に当たっていた。
「うへぇ〜。ドライ、魔法の使いすぎで疲れたんだよ〜」
「じゃあ...ドライ...手ぶらで、帰る?」
普段の2割増しで怠そうなフンフがドライに辛辣に返し
「フィア、これ持って帰りたい!」
「いや、ゲーム機だけあっても電源が無きゃ使えないでしょ?」
「じゃあ発電機も...いてっ」
ツヴァイが無用な大荷物を抱えようとするフィアを叩いている。
黙々と服を見ていたアインは、フリルのついた可愛い服を手に取っていて、一瞬アインが着るのかと驚いたがよく見ればサイズが小さかった。こんな時でも皆の姉なのだろう。
「...?気のせいか...」
一瞬、視界の端で人が走る様な影が見えた気がした。だが、既に周囲に人は居ないのは確認済みだ。それに逃げていくなら別に問題は...
「イオナ!建物を全力で焼いて!」
聞こえて来た声はエリニュスのものだ。すると、何故か身体が勝手に動き出す。いや、この感覚は彼女の命令権によるものだ。
理解すれば、これに逆らう必要が無い事が分かる。それほどまでに彼女が危機的状況にあるという事だ。詳しく考えるより先に身体を預け、動くままに尻尾の一本を切って全てを炎に変換する。おそらくエリニュスでさえ熱いだろうが、そう簡単に死ぬ彼女では無いから全力でいい。
無意識に燃やす物と、そうで無い物の区別をしている思考のリミッターさえ外し、対象の全てを焼き尽くすつもりで放った。
放った後は身体の拘束が外れる。地面をガラス化させながら建物というより空間ごと焼き払う炎を眺めていると、エリニュスが飛び出してくるのが見えた。
「お前ら!何かあったみたいだ!備えろ!」
だが、目にしたのは流石に予想外な出来事だった。通りのあちこちに転がっていた遺体。首を掻き切られたり手足が捥げていたり、明らかに死んでいた者たちが動き、起き上がってくる。
彼らが友好的とはとても思えない。私は躊躇う事なく炎で彼らを包み、焼いていく。
手を止め、建物から出て来た彼女たちも、砲を展開して死体を撃つが、胴や四肢を撃ち抜いても止まる様子はない。
エンジンの始動する音が聞こえた。建物に突っ込み、運転手は窓から飛び出し死んでいたトラックが、蘇った運転手によって再び動き出し、アクセル全開で突っ込んでくる。
「ツヴァイ!」
言うや否や、射撃を辞めた彼女は直ぐに巨大化し、真っ向からトラックを受け止める。質量そのものが殺せないからこうする他ない。
地面を滑りながら減速するツヴァイに、更にエンジンを吹かすトラック。炎を弱めたりツヴァイごと焼いたりする訳にもいかないと考えていると、ちょうどエリニュスが間に合った。
彼女は回転しながら運転席に盾を叩きつけ、大きく陥没した車体が中の運転手を圧殺しただろう。
「ツヴァイ、離れて!」
指示に従ってツヴァイが放すと、エリニュスは盾でトラックの進路を逸らし、運転手を失ったまま暴走したそれは死者の一団を挽いた。
「大丈夫!?」
「ああ。それより指示通り焼いたが良かったのか?」
「それが...」
彼女は言い淀む。
「発生源は死んだ。でも、拡散を止められなくて、このままじゃまずい事になる」
「そりゃ、見りゃ分かるが。それで、私らはどうしたらいい?」
「向かってくるのを殲滅して。それより、離れていく個体は見てない?」
「ああ。...いや、建物を焼く前に出て来たのが居たな」
「それ!そいつらを探して止めないといけないの」
「“ら”?複数居るのか?」
「とりあえずここを維持できる?」
「所詮は死体が動くだけだから問題無いが...誰か連れていくか?」
彼女は少し悩んだ。だが、結局一人で行くと言い、飛び去る。
ひとまずこちらも一段落した様だが、まだ基地中から気配を感じる。今殲滅したのは通りにいた40人ほどだけで、損壊が酷いと動かないらしいが全体で見ればまだ相当数残っているはずだ。
その時、銃声が聞こえ近くの地面が土を巻き上げる。
私たちの武装とは違う明確な銃声。既に人は居ないはずだから、あるとすれば死者が銃を使った訳だ。
だが撃って来た方向を見ても、既に狙撃手は引いている。
「ドライ、魔法を展開しておけ。ツヴァイ、フンフ、暴れるぞ。フィアは狙撃手を見かけたら潰してくれ」
その時、通りの向こうから戦闘服を着た一段が近づいてくる。
いや、近づくだけじゃ無い。明確に銃を向けて来ている。銃声が聞こえるのを合図に、私たちは動き出した。生きた人間よりは明確に精彩を欠くとは言え、武器まで使う時点で基地攻略の延長戦と言っても良い。既に初めての実戦の後で緩んだ皆の気を引き締めながら、基地を外から攻めた私たちが逆に基地中から向かってくる敵を中央で迎え撃つと言う構図はどこか皮肉な様だった。




