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銑鉄のワルキューレ  作者: 駄作卍
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死の匂い

幾つか誤って吹き飛ばしてしまった倉庫などもあったが、概ね食料や医療品などは確保できた。

PXを見つけたおかげで娯楽品や衣服さえ手に入る。

思えば石鹸などの衛生用品さえ無かったのだ。

略奪に勤しむ彼女たちを脇目に、私は司令部になっていた建物に足を踏み入れる。何か情報が残っていれば、少しでも私たちのこれからの生存率を高める事に繋がるだろう。

そう期待して破壊した穴を潜る。

基地内でも焦げた匂いや血の匂いは漂っていたが、建物の中では更に澱んでいるように感じる。

大きめのデバイスは巻き込まれて破壊されているが、ノート型パソコンや携帯端末など、無事そうなものを片っ端からアルターエゴに解析させながら歩いた。

そうして建物内の確認を進めていくと、僅かに啜り泣く様な声が聞こえた気がした。

(アルターエゴ、聴覚の感度を上げて)


そうして再び耳を澄ませると確かに気のせいではなかった。

確かに子供の啜り泣く様な声が聞こえる。

正直、一瞬迷った。ここで仮に子供が生きていたとしてどう扱う事になるか。それを考えれば接触せずに帰るのが賢いだろう。

それでも、私は見ないという選択を取れなかった。自然と足は声の方へ向き、次第に声の主へと近づいて行く。

少女というには幼過ぎる。黒髪の幼女が、床に座り込み、俯きながら啜り泣いている。側に倒れている男性が...いや、既に明らかな傷と流血量で死んでいる遺体があった。

人を殺すとはそういう事だ。私には彼女への謝罪の権利さえ無い。私が出来る事は何も無い。そう思ってせめて覚えておかなければならないと光景だけ目に焼き付けて踵を返そうとした。

ふと、鼻腔を腐敗臭が突く。

いや、まだ遺体が腐敗するにはあまりに短い。その腐敗臭が背後から漂って来た様に思って振り返れば、状況を把握するまで一瞬目を疑った。動くはずの無い遺体が、ぎこちない動きながらも傍の幼女の頭を優しく撫でている。その動きは明確に意思を感じさせ、決して死後硬直、まして幼女自身の行っている行為では無い。

それに髪が汚れるのも厭わず、撫でられるがままの幼女はいつの間にか泣き止んでいる。

(なんだ、何が起こってる...?)

ますます強まる腐臭。周囲から人が動く様な物音が聞こえ始める。

ここにいたら不味いという警鐘が頭の中で鳴り響く。目の前の存在を今直ぐ殺さなくては取り返しがつかない事になると。

一方彼女もフラフラと揺れながら立ち上がると、顔を上げ、視線が交差する。その顔に現れていた感情を私はうまく読み取ることが出来なかった。

ただ紫に光る目、頭上に現れた光輪。瞬間、私は反射的に引き金を引いていた。加減なしで放った炸裂術式を込めた光弾は吸い込まれる様に彼女の胴体の中央に命中し、壁を打ち壊して吹き抜けにする程の威力で炸裂した。だが人体を完全に消滅させるには不足、というより不適だったのが災いした。

飛び散った肉片に、もう動くはずの無い、しかし事実として黄泉返った死者たちが飛びつき、それを食らった。

付近に十を超える数がいた為に、本能的にそれは不味いと思いながらも阻止しきれなかった。

「イオナ!建物を全力で焼いて!」

外に向かって全力で叫ぶ。聞こえる範囲には居るはずだ。1秒でも早く彼らを完全に焼かなければならない。

加速させた思考の中、炎が来るまでの数秒さえももどかしく、一体でも殺さなくてはと手近な肉片を食らった個体から優先して撃ち抜いていく。

彼らは僅かな知性を有しているのか、明確に私を敵対的な目付きで見つめ、腕が折れていて照準もままならないが意図を持って拳銃を抜いた個体もあった。

間も無く空間ごと焼ける様な炎が建物を包み、無数に空いた穴が煙突の様に働いて建物の内が窯の様に地獄と化す。

流石に損壊が激しすぎると動けないのか、そもそも起き上がらない個体、頭を吹き飛ばした個体などは地に倒れ伏すが、他の起き上がった者達は灼熱の中で必死に身を捩り、声にならない声を上げながら力尽きていく。

火葬された死体が動かなくなる様子を確認しながら探知を走らせる。


エリニュス。残念ながら3体ほどが建物の炎上前に外へ逃れました。そして「動く者」の数はこの建物を中心に、より広域に増えて行っており...


手が回り切らず、止められなかった。とすれば、この事実が指すのは基地の防衛戦力との2回戦。そこら中に転がる遺体が全て再び立ち塞がるという事だ。

(放置した場合の影響は?)


おそらく、かの魔法は呪いに類するもので、ともすれば性質上は対象を介して伝播し、最悪は地球上のどこにおいても死者が再び動き出す事になる事も考えられます。

加えて言えば、露見した瞬間に明確にワルキューレ案件と判断され、部隊が派遣される可能性が非常に高いです。


最悪の事態だ。放置してワルキューレの戦力に任せれば地球規模の最悪の事態は防げるというのは朗報だ。だがそれは私たちの位置を露見させるリスクも招く。なぜ今回、拠点から近い場所を襲撃した時に限ってこの様な事態になるのか運命を呪いたいくらいだ。

結局ほとんど情報も得られずに、焼けて動かなくなった死体を後に建物を飛び出し、イオナ達に状況を共有せねばと、先ほど彼女達と別れた場所へと駆け出した。

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