運命を信じますか
「防空兵器9割喪失!地上部隊にも収拾不能な損害が!」
「ジャガーノート隊、起動シークエンスを省略して緊急起動!武装完了まで2分!」
夜間体制で居眠りさえしてしまいそうだった静かな司令室は、突然の襲撃により蜂の巣を突いたような大惨事だった。
入室した私に気付いた全員が敬礼しようとするが留めて配置を保つ様に一喝する。
「お休み中、申し訳ありません。原因は分かりませんがワルキューレの襲撃を受けました」
夜間に私の代わりを務める副司令が席を明け渡しながら言う。
「構わん。それより...」
基地の戦略図が映し出された大画面を見上げながら状況の把握に努める。
状況開始から約10分。教科書通りの副司令らしい遅滞戦術が敷いてあり、まだ戦線は遠い。敵は7機らしいが、ワルキューレの小隊は基本5機編成だ。些細な事だが何か妙な予感がする。
「司令官殿!『愛娘』が出撃すると通達を送ってきました!どの様にいたしますか?」
下から声が掛かる。
(『愛娘』か。あの男から預かっている部隊で指揮系統が別とは言え通達か...)
「構わん!ただ記録は残しておけ」
むしろ経由地のここに居るタイミングで来たのは僥倖なのかもしれない。
盤面に増えた輝点が動き出すのを見ながら、追加の指示を出していく。
戻る瞬間、どこに戻ろうかを考えていた。そもそも詰んだのは喉を裂かれたからだ。だが間接的にはシューレの顔を見たから回避が遅れた。もちろん二度目ならそんな事はもうない。だがそもそも狙われたのは回避の指示のせい?だけど回避させないなんて選択肢は無い。
回避の指示でなく反撃をとも思ったが、しかしあの場において襲撃を受ける事もどう死ぬかを知っているのも私だけ。共有する時間もなければ正確に何をしたら良いか分かっている訳でもない。
戻った瞬間、視界の端に人型の揺らぎが見える。
だが先のループでは彼女に構ったのが間違いだった。
敵が何人いるか分からないが最優先で狙われているのは私だ。
「アイン!全員、私から離れて!」
声だけで姉妹を押し留め、私は全力でイオナに向かって駆け出す。
彼女に私の背後を焼き払って貰えば、姿が見えなかろうと関係ない。私を追った事で炎に突っ込めば相当な傷になる。
その角を曲がれば、燃え盛る炎の音の中に居る彼女に声が届けば。
だが、宙を舞う箱を見た瞬間私は全力で物陰に飛び込むべきだった。
すでに頭痛と吐き気の中、ただループ直後に彼女の元へ行けばとしか考えていなかった私は、その鉛の雨を避けられなかった。
脇腹と首を深々と12.7mmの弾頭が犯す。
衝撃で脳が揺さぶられ、視界が暗転する。
再び戻る事を考えるより先に私は
目の前で倒れたドライに直ぐに駆け寄り、私は彼女の服を弄って急いでアンプルを取り出す。
「ドライ!しっかりしろ、どうした!」
まさかドライが来るとは思ってなかった。だがワルキューレの身体なら即死する事はない。彼女なら逆行して避けるはずだ。
彼女の身体の上でアンプルを割り、アインの血液を傷口に掛ける。だが、彼女の姿に僅かに違和感を覚えた。アインの血をかけても再生が遅い事もそうだが
(...出血が少ない....?)
首の頸動脈も椎骨動脈も損傷する角度で入った弾丸が、両方の血管を傷つけているなら、出血量があまりに少ない。傷口が焼灼されたとかってものでも無く、まるで初めからドライの中に血液が余り残っていないかの様だ。よく見れば顔は青白く、体温も低い。
魔法を使えば代償を払う。それは買い物の時に代金を払うくらい当たり前の事だ。ただ、その代償が何かは人によって記憶だったり身体の一部だったり、一見何も失っていないとしても寿命や因果などの場合もあるという仮説が有力だ。
ドライはおそらく血液を逆行のたびに抜かれていたのだ。だが、分かったところで状況の改善には何ら役に立たない。むしろ状況の悪さが露見する。
アインの血も私の尾を使った蘇生...と言うより無かったことにするにしても、目立つ致命傷の治療は出来る。だが血液の補充は怪我の治療とは別の問題だ。
(出来るのか?私に...)
腕の中で痙攣を始めるドライを見て一刻の猶予もない事を悟る。
尻尾の全てを使い切っても良い。死なせはしない。




