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銑鉄のワルキューレ  作者: 駄作卍
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愛娘

当たらないなら、当たるまで近づく。

場合によっては司令部の建物を直接制圧しようという事で、態勢の整い始めた防衛隊と直接交戦しながら進んでいた。

「4時の方向、15秒後に装甲車3台!」

「そっちはあたしがやる!ツヴァイ、フィアとあの監視塔を潰して来い!フンフ、正面の戦車は任せた!」

各々が自身の魔法を従前に行使しながら、敵を蹂躙していく。

特に厄介な戦車も、その自重故にフンフの重力操作に掛かれば逆に簡単に無力化される。数十トンの砲塔が高く浮かび上がり、解除した瞬間にそのまま巨大なハンマーの様に車体を叩き潰す。

視界が通る監視塔も、フィアが跳ぶには好都合。上を制圧した後そのままツヴァイが基礎を引き倒し、瓦礫が通路から逃げ遅れた敵を潰す。

ドライの予知があれば奇襲を受ける危険も少ない。

ただ、あたしの味覚の様に何かを失う事があるかもしれない事だけが心配だが、そんな事は終わった後にすればいい。

予告通りに現れた装甲車を、そのまま中身ごと焼き払う為に、足裏の爆発で加速して一台目の横っ腹に拳を叩き込み内部で燃やす。爆発を背に、残り2台から展開した敵兵がこちらを照準しているのが見えるが、敵は動揺を隠し切れていない。

好都合にも私はこの車両にマウントされた12.7mmを見逃さなかった。ちょうど砲塔の真下のこの辺りに...

金属の箱を探り当てて腕を引き抜いた。

狙い通り掴んだ弾薬箱を放り投げ、敵の直上で炎を当てる。弾薬の信管なんてほんの200度もあれば発火する。私の炎なら訳もない。

見事に炸裂したそれは鉛玉の嵐となって撒き散らされた。その直前に別の遮蔽に飛び込まなければ私ごと貫いていただろうが。

呻き声と炎しか無くなったことを確認して私は振り返る。だが、その瞬間ドライが首から血を吹き出し倒れたのを彼女の他に誰が予見できただろうか。


「4時の方向、15秒後に装甲車3台!」

イオナに伝えれば、的確に指示が返ってくる。ドライの役目は常に魔法を張っておいて予想外の攻撃に備えておく事だ。

「アイン、合図でしゃがんで!...今!」

ちょうど命中するタイミングが分かれば狙撃だって避けられる。

そのまま狙撃手にカウンタースナイプを叩き込み、通路際のトラップの爆弾を事前に炸裂させて無効化する。

指示を完了したツヴァイとフィアが戻ってくる。フンフも瓦礫を振り回して敵を潰して回っている。

イオナが直ぐに戻ってくるまで此処で待っている筈だった。

既に複数回使っていて頭が痛くなり始めてる。

でも解除した瞬間に誰かが危険になるんだから、甘えていられない。

そう思い直した瞬間、横にいたフィアの首から鮮血が吹き出す。動脈が切れた様で、慌てて押さえているが血が止まらない。

「フィア、今血を...」

駆け寄ってきたアインが頭に風穴を、いやその向こうでツヴァイもが倒れている。攻撃の手段が分からないと戻っても回避できない。でも戻らないと私が死んだら回避の目も無くなるから仕方なく発動する。


2秒後にフィアの首から血が吹き出る筈だ。撃たれたのか、魔法による攻撃か、とにかく避ければいい筈だ。

「フィア!前へ跳んで!」

先ほどから数度繰り返した様に、反射的に指示通り動き、そしてもし考えが当たっていたら下手人だけがそこに残されている筈だ。先までフィアの立っていた場所に炸裂術式を載せた光弾を打ち込む。

爆ぜた土と共に虚空から血と呻き声が出る。とすれば

「アイン!頭を守って!ツヴァイは巨大化!」

アインは頭を庇った腕が弾け飛んだが、頭は傷を負いながら急所を外れた。ツヴァイは一回り大きくなった事で、先の攻撃でなぜ倒されたか分からないが即死は回避できたらしい。背中に刺されていたナイフに手が届かないでいる。だが初撃を回避しただけで脅威は消えていない。

むしろ私が回避させたことも当然気付いただろう。だが見失ってしまった今、次の奇襲も防ぎ切れるか分からない。

ここは一度イオナに合流しなくては。戻った事で無かった事に出来たが、ループの中で一度、私が死んでしまったのを尾で蘇らせて貰ったから戻れた事がある。

イオナを呼ぼうと向き直した時、視界の端に一瞬の揺らぎを捉えた。人型のシルエットが空間に溶け込みきらずに見えている。

咳の音と共に虚空から地面に吐き出される血の量は相当で、先の攻撃で折れた骨が肺に刺さって血で溺れているかの様に思われた。

(今ならッ!)

先に片付けようとばかりに拳を叩き込む。

ワルキューレの膂力で殴ったなら、人間の骨格など容易に砕ける。だが、胸部の中心を陥没させる様に確かに命中した拳を、同時に姿を消せ無くなったか、現れてしまった彼女は自分にめり込んだ腕ごと掴み、全力でしがみ付く。掴まれそうな瞬間に咄嗟に払おうとしたが一瞬遅れてしまったからだ。

何故ならその顔には見覚えがあった。その顔は若干歳が違うが確かに教会で見たシューレの顔をしていて...

瞬間、彼女の腰に付けられた手榴弾のピンが一斉に外れる。急いで振り払わなくては、だが何故彼女が此処にいる。

咄嗟に動けずにいると首を冷たい感触が、続いて焼ける様な熱さが走る。

不味い、考えるべき事だったが敵は一人じゃ無い。目の前の彼女を振り払うために盾を展開すると、光る盾の縁が彼女の腕を切り飛ばし、焼ける断面を晒しながら外れた瞬間に彼女を全力で蹴り飛ばし、首の傷を抑える。

目の前で爆発して幾つかの破片が身体に刺さるが関係ない。それより感覚からして残り2か3回程度しか使えない逆行の間に敵の人数でも弱点でも、少しでも多くの情報を得なくては。

周囲の警戒に当たってくれているアイン達に伝えるには喉の傷が深すぎて声が出ない。

ただ私を庇う様に駆け寄ろうとしたツヴァイは足を切られ前に倒れ、そのまま前のめりに倒れて起き上がらなかった。首の後ろに刺さった柄を見れば即死の致命傷なのは明らかだ。他二人に手を突き出して来ない様に留める。

だが、視界はだんだん暗くなり音は遠のいて行く。

(限界...かなぁ)

完全に意識を失う前に、時間を戻らなければ。



私は失敗した。

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