必然の攻防
滑り込んだそこは、ただのコンピュータルームとは違った様相だった。一つ一つのコンピュータが箱で閉じられ、冷媒で冷やされている。施設としては合理的かもしれないが、今の状況には最悪だった。
叩き割るわけにもいかず、一つ鍵を開けてジャックに髪を接続してみる。
違います。これはダミーです。
思わず叩き壊しそうになったが、今はそれどころじゃない。
次の鍵も、その次の箱もハズレ。床板を剥がして走っていたコードに接続してみるが、それも無関係なものだ。ハードのレベルでダミーを用意されているとは思わず、途方に暮れる。
仕方ありません。掌握は諦めて破壊しましょう。
無人化されている兵器を鹵獲するチャンスだったが、仕方ない。
手に刀を握り、縦横無尽に裂く。これで全て破壊した筈だ。用も無くなってしまったので、私は壁を最大出力で打ち抜いて建物を出た。
包囲する様に戦車や、ハイヴでアルターエゴが使っていた二足歩行型兵器もあったが、しかしそれらを無視して背後から撃たれながら、一連の動きが何の収穫も無く彼女達のリスクを増やしただけに止まった事を歯噛みしながら、彼女達の方へ飛んだ。
「ツヴァイ!しっかりして!」
アインは倒れたツヴァイの側に跪いて、自分の手首を切って血をツヴァイの口へ流し込む。
肺まで貫通した傷で落ち窪んだ胸郭も、抉れた脇腹も、少しずつ盛り上がって戻っていく。
やがて少し咳き込んで血の塊を吐くと、ゆっくりと目を開いた。
「...アイン...フンフも...無事、だね...」
「もう...アイン、無茶して...」
「だって、...こうするしかないでしょ」
そうこうしている内に、空へ牽制の炎を放ちながらイオナとドライ、フィアが降りてくる。
「なあ、さっきの...」
惨状を見てイオナは察する。
「見ての通りよ」
「ああ、立派だよツヴァイ。ここからはあたしがやるから皆下がっとけ」
先ほどツヴァイに攻撃した一群はあくまでコンテナ一つ分のドローンだけで、まだいくつ分かもわからない程の数が空に上がっている。だが
「...?なんかパターンが変わったか?」
先ほどまで数十機で一群だったドローンが、群れを統合しながら大きな群れとして波打ち始め、変則的な軌道で攻撃を避けながら、時に屋根の高さよりも低く飛んでこちらに接近してくる。
「くそっ、厄介な...」
羽音が再び複数に分かれたのが聞こえる。おそらくこちらへ飽和攻撃を掛けようというのだろう。
イオナは舌打ち一つ打つと、自らの尾を一本千切り取る。
「お前ら!壁を背に固まれ!」
そう叫ぶと、遂に津波の様にドローンの群れが迫る。だが、敵が数で押すならこっちも火力で押し返すだけ。
握り込んだ尾を一閃すると、空を覆う様な火力の炎が夜を照らし出し、津波を蒸発させるかの様にぶつかる。そして一瞬遅れて炎の軌跡に沿って爆炎が空を飾り、次に静寂が占めた。
イオナの背後には8本になってしまった尾が揺れている。
「一本と引き換えか。まあ安いもんだな...行くぞ、立てるかツヴァイ?」
建物を飛び出してから全速で移動したが、空に向けてバケツで水を撒いた様に放たれた凄まじい火力が群れを焼き払ったのを見て、間に合わなかった事を悔やみながらも彼女らの無事を安堵した。
まだ司令部は健在な様だが、6人もいれば攻略は時間の問題。その前に基地のインフラと増援の排除を行わなくては、そろそろ奇襲開始からの経過時間的に敵の体勢が整ってしまう。ただの皆殺しが目的ではなく私達の勝利条件は全員生存という事を間違えてはいけない。
部隊を再編しようと集合している場所に炸裂術式を降らせながら、轍を辿って兵器庫を探す。
二足歩行兵器ジャガーノートという名称で、ハイヴにあった施設防衛型とは亜型のものが配備されている様です。起動にかかる時間からして、既に戦闘体勢の筈です。気をつけてください
アルターエゴが警告してくれていたが、一瞬遅かった。私の目が格納庫のうち一つ、扉が開いた隙間からこちらへ突き出された砲身を見つけた時、あちらは既に引き金を引いていたのだから。
咄嗟に盾を出して構えたが、空中では踏ん張りが効かずに制御を失った。見たところ105mm程の口径長。ハイヴのものと違いショルダーマウントできる拡張型の兵装だろう。
建物の壁を砕きながら墜落した後、直ぐに走り出したが、既に後手に回っている。
3方から迫る網の全ては避けきれず、一本が足に絡まる。直ぐに刀で断とうとしたが、それより先に身体が浮き、地面に叩きつけられた。
致命傷にこそならないものの、それを分かってか直後に30mmの斉射を喰らう。
握っていた刀のせいで盾の展開が遅れ、結界が間に合わなければまともに喰らうところだった。
熱感知で見渡せば、最低四機が私を囲んでいる。効力の確認の為に止んだ射撃の雨も、煙が晴れれば今度こそ削り切られるまで撃たれるだろう。
先に煙の中から盾だけを目立つ様に投げる。一瞬照準がブレた瞬間を狙って飛び出す。戦い慣れた集団の様で距離をとって互いの射線に被らない様に布陣している。遮蔽も無い場所では安全地帯は後ろではなく前。
先に投げた盾に向けて照準、炸裂術式を込めて射撃。上手く至近で爆ぜたその爆風が盾を加速させ、敵の意識の外から予想外の角度で飛来する。
数百キロにもなる鉄塊をまともに喰らい、姿勢がのけ反った一機に飛び付き、足元の油圧シリンダーを斬りつける。
油が漏れ出して動きの鈍くなったそれを駆け上り、胴体中央のコックピットを狙って刀を突き立てようとする。
だが、一瞬早く背面からパイロットが脱出し、抜け殻となった機体に鉛玉の雨が降り注いだ。
既に敵に加減の文字はなく、更に間髪入れずに一機の肩にマウントされたランチャーから10発以上の誘導弾が白煙を引いて向かってくるのが見える。
「私一人に大盤振る舞いだね」
敵は戦い慣れた部隊の様だが、私は負けるつもりは毛頭無いと、無意識に口角が上がっていた。




