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銑鉄のワルキューレ  作者: 駄作卍
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再びあの場所へ

「...ぬし...これ、醒めぬか」

ペシペシと、いや柔らかな毛並みではたかれて覚めた。

「全くお前様ときたら、寝ずに済むからと何日寝ない気じゃ?人間の精神は食事と睡眠とってこそというのに全く...」

身を起こす。やっぱり身体は縮んでいるし、あの神社だ。境内のど真ん中で寝ていた、というよりは目の前のお姉さんに呼び出されたらしい。

「えっと...?」

「前に来た時は非常の時であっただろう?故に急いで送り返したは良いものの待っても来ぬ、おまけに干渉も無意識下に弾かれ、ほとほと困っていたがようやく来てくれた様じゃの」

「それは...確かにそうだったかも。でも、今更私に何の...」

そこまで言ったところで記憶の回路が繋がり発火した。イオナの炎の力には彼女が何かをしたんだった。

掴み掛かろうとしたが、霞の様に手からするりと抜ける。

「イオナに何を渡した!」

ただ叫ぶことが私に出来た全てだった。

「おや、おやおやお前様よ、それではまるで渡したものが原因で味覚を失わせた様な言い草では無いか、カカッ」

「何がおかしい!」

「おかしい、箸が転ぶよりおかしい。あれが力を暴走させずに、加えて奇跡の代償も味覚で済んで、感謝こそされど怒鳴られる筋合いなど無い。それに本題に入るのに邪魔じゃ、不都合じゃな」

パチンと指を鳴らすと、口まで出た言葉を無理やり腹の中へ押し戻される様な、冷水を浴びせられた様な気分になる。

確かに、イオナ自身も、まして私をも死の淵から幾度か救い、その代償が味覚。持って行かれたのが視覚の様な致命的なものでなかったのはむしろ有情とさえ言える。

「さて、頭も冷えたようじゃし、本題に入ろう。実はわしは現世でお前様のしていることは全て認識しておる。じゃから敢えて言おうか迷ったが、そのままでは主は取り返しのつかぬ事になると警告してやろうというわけじゃ」

「それって、どういう...」

確かに作戦は一般的に言えば無謀も良いところ、だがワルキューレは容易く殺される存在でもない。

「これは伝えて良いとのお達しだ。じゃから言わせて貰うが、そのままではお主しか生き残らん」

「...ッ、じゃあどうすればっ!私以外は撃たれたら死ぬし、食事も睡眠も必要だし、シューレだって。もうこうするしかない、私にこれ以上出来ることがあるならやってる!」

「全く、昔と変わらん奴じゃの。やる事ならあるじゃろう、ほれ」

軽く手を叩く音がして、私はふらついた。次の瞬間、見下ろしている自分の手が見覚えのある大きさにまで大きくなっていた。

「一つ稽古をつけてやろう、構えよ」

そういうと彼女は虚空から一本の刀を、見覚えのあるセイバーのものと同じ刀を抜き出した。

私はその様子に油断なく現世でやる様に盾を出す。どうやら、今は現世と同じに動ける様だ。

話すとか話せないとかと言われ続け、現世では何も助けてもくれないくせにと、色々な事で気が立っていた私はとにかくその調子で盾を振りかぶって、押し潰してやろうと叩きつける。

だが、手応えの代わりに返ってきたのは盾の縁をしなる様に廻って翻る辛うじて見えた太刀筋が2本。

完全に盾で死角になっている筈の私の両目を左右対象に二筋の刀傷が走る。

鋭い痛みと共に視界が潰された、そう認識した瞬間身体が鋭く返される。そして中空にある内に鳩尾に強い衝撃が走り、地面に叩きつけられた。

思い切り肺の空気を吐き切り、視界が赤から黒へと変わるが、追撃を逃れる為に盾を残して全力で転がる。

目元の血を拭うと切られたのは瞼だけの様で視界が開け、そしてそこに立っていたのは先ほどと変わらない様子で佇むだけの彼女だった。着物には一筋の乱れも無く、息が上がる様子もない。ただその目だけは無様に地面に這い蹲るこちらを見遣り。

「カカッ、これはまた滑稽な芸じゃ。よもや手合わせに加減が必要かの?」

優雅に盾を摘むと事もなげにこちらへ放る。とてもそんな投げ方で扱える重さではない筈だが。

「ッ、冗談っ!」

盾が意味を成さないなら、身軽に格闘した方が良い。そう判断して、受け止めた盾は一旦消して鋭く低く踏み込み、後ろ回し蹴りで首を狙う。だが紙一重で避けられ、続け様に足をかける様にもう一回転、しかし重心の動かない滑る様な一歩で蹴りの届かない位置へ下がる。

跳ね起きて拳を、蹴りを、そこに盾を出現させてと織り交ぜてのいずれも一重で躱され続ける。

「飽いたのぅ」

そう発した次の瞬間、打ち込んだ肘を腕を掴まれ一打で関節を外され、そのまま極められたところで蹴りの一発が膝の関節を見事に打ち抜いた。

残った片足で飛び退るが、その瞬間に残った足を払われ、倒れた喉元に刀を突きつけられる。

「弱い。お前様、弱いのぅ。カカッ」

だが、返す言葉も無い。ワルキューレとして相当な身体能力を得ていて、これほどまでに加減されて尚、打ちのめされているのだから。

「のう、ぬしに足りぬ物が何か、忠告を聞く気になったかの?」

「何...どうしたらあの子達を守れる?どうしたら良い?」

「ぬしの弱点は明白よ。確かに盾は硬い。主自身も生半可な武器では傷も付かぬ。だからこそじゃ、ぬしの弱点はぬし自身。その傲慢さよ」

傲慢。それはアインにも言われた事だし、その前も。確かに、私が今まで戦ってきた中で生き残れたのは必死だったからだ。それが今どうか?自省する程にこれほど相応しい言葉はない様な気がしてくる。骨身に染み込む様だ。

「外が硬いという事は裏を返せば中が脆いという事じゃ。そんな脆い内に抱え込んだものを守り切れる程世界は甘くない。じゃからここにぬしを呼んだのじゃ」

「でも、私は出来る事はした!精一杯に!」

「分かっておる。ぬしは強欲でも怠惰でもない。それにぬしを責めるつもりは元より無い。ただ、ぬしの先を思っての老婆心じゃ」

その一言でどっと、今までの色々が堰を切ったように押し寄せる。無意識に頬を涙が伝った。

「辛いと思うなら今日は辞めにしてもよい。苦しいと思うなら彼女らを捨てて逃げてもよい」

だが、私は目を拭って起き上がる。既に砕けた関節は治癒している。

「いいや、彼女達と生きる為に戦う。だから私に稽古をつけて」

「カカッ。その目じゃ、その意気じゃ。では今少し戯れるとするかの」

そういうと彼女は虚空から朱色の薙刀を一本握った。

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