出揃った手札
ツヴァイと見合い、構える。
「..はじめ!」
組に漏れたフィアの声と共に、始まる。
開始早々、長い肢体を踊らせ鋭い貫手が差し込まれる。
昨日の訓練でイオナとの組み手など通して洗練され、戦闘経験のない彼女達らしからぬ動きになっているようだ。
弾かれた勢いのまま蹴りが飛んできたのを仰け反って避ける。その軸足を薙ぐ様に蹴ると、綺麗にバランスを保って回転し、地面を転がって距離を置く。
もちろん思考加速を使えば反撃も捩じ込めるが、格闘センスは十二分に感じさせる。
そのまま一度仕切り直すと、今度はストレートに殴り掛かってくる。だが、その単調な攻撃を掴んで投げ飛ばそうとした時に、なぜか攻撃が予測タイミングとずれ、掴み損ねた。
(なぜ!?)
だが答えはすぐに分かる。叩きつけられた拳は本来の大きさより一回りも二回りも大きい。
そのまま、後ろにバランスを崩し、2mを越す長身となった彼女の身が覆い被さる。慌ててお腹に足を当て、後転する勢いのまま投げるが、なるほど驚かされた。
受け身をとって構え直す彼女の大きさは元の大きさに戻っているが、確かにあの瞬間彼女の身体は実際より大きくなっていた。
「それがツヴァイの魔法って訳...?」
「まあね、でも大きくなるだけが能だなんて思わないでよね!」
次の一合で私は盾を横振りに叩き付けた。だが、先程より更に大きくなった彼女はそれを受け止めきる。
膂力まで増している様で、盾ごと私の身体が振り回され、地面から離れされたので盾を消して飛び退った。
それを見て砲を展開する彼女、大きさは身体に合わせて展開されており、威力が据え置きとは期待できないだろう。殺す気は無いだろうが、侮れない気配に再び射線を盾で遮った瞬間、盾越しに大きな衝撃が走り土埃を舞い上げた。
一瞬視界を失ったが、直ぐに向かってくる気配を感じ、合わせる様に回し蹴りを放った。感覚通りなら当たるはずのそれは空を切り、同時に背後から犬の飛びかかって来た様な衝撃。背後にぶら下がっている様な重さと、砲の展開音が聞こえ、後頭部に細い砲身が突きつけられた。
「これでチェックメイト。まだある?エリニュス」
そう声が掛かる。
身体を大きくするだけでなく、縮小も出来ると。確かに鮮やかな手並みだったが、どこか油断を感じさせるその声が気に入らなかった。
「当然、私の勝ちって事で...って、ちょちょっ!?」
だから、私は背部を地面に打ち付ける様に自ら倒れ込む。慌てて離れたツヴァイが横の地面に転がってるのを掴み取り、眼前に吊るす。
「何すんのよエリニュス、状況的に私の勝ちでしょ?」
「ツヴァイ、状況的な勝ちなんて無い。それに小さくなったままじゃ殺傷力も下がるでしょ?多分その威力じゃワルキューレには致命傷にならない」
「だとしても...よっ!」
彼女は吊るされたまま自由な右腕で砲身を顔面に突きつけてくる。だが、これなら手を使うまでも無い。
バチっという音と共に半透明の揺らぎが彼女の照準を、加減を誤って腕の関節ごと外した。
「...満足?」
私は彼女に聞いてから、ポイっと前方に放り投げる。
元の大きさに戻ってから着地した彼女は不服そうな顔をしていたが、しかしそれ以上攻撃のそぶりを見せることも無かった。
「あー、もう。分かったわよ。せっかくならあんたから一本取れるかと思ってたのに」
そう言うと彼女は外れた右腕を支え、息を整えてから押し戻した。ここ数回の訓練においてもワルキューレの治癒力あっての治癒だが見ていて痛ましい。
だが、実戦において死ぬ事に比べればワルキューレである事をこうも逞しく利用する方が良いのは明白だ。
そうして再び場所を整えてから最後、アインと対峙する事となる筈だった。だが彼女自身の強い要望により、訓練形式ではなく魔法を見せる形となった。
「では、見せますけど...エリニュス、驚かないで下さいね?」
そう言うと彼女は右手に砲身を展開する。何をするのか見ていると、徐に自身の左腕に突きつけていた。
何をと言う前に引き金は引かれ、当然の如く彼女の左腕を打ち抜き前腕が落ちた。
「アイン!」
「良いんです!エリニュス。見ていて下さい!」
気が気では無かったが、そう言うので見ていると、彼女の呻くうちに断面が盛り上がり元の左腕を形作っていく。
私達ワルキューレにはある程度の再生能力が備わっているが、それは創傷や銃創の回復程度の話であって欠損部位の再生がこんなにも早く行われると言うのは中々に正に魔法の様な話だった。
地面に散った血と落ちた腕は構成が解ける様に光と消え、後には継ぎ目もなく再生された元の左腕だけがあった。
「えっと...これが?」
「はい。私の魔法です。戦闘向きでなくて済みませんが」
そうは言うが、ただでさえ化け物じみているワルキューレが撃っても撃っても再生するとなれば普通の人間には恐怖以外の何者でも無いだろう。
「それと、あまり使いたく無いんですが...」
そう言うと彼女は服の中から数本の小さな瓶を取り出す。中身は血液だろうか?
「もしかして...」
「はい。私の血です。飲んだり傷口に掛ければ一時的に再生を促します」
私の防御、イオナの炎と幻、アインの再生にツヴァイの大きさ変化、ドライは時間の逆行とフィアが短距離転移、フンフが重力操作。多種多様な能力だが、上手く組み合わせる事が出来ればどんな局面でも切り抜けられるかもしれない、そんな一抹の希望を抱かせる。
一体私は今この世界で何をしなくちゃいけないのかは分からないが、しかし何をしたいかは分かる。彼女達の居場所を、私たちの居場所を作るためにできる事を全力でやろう。シューレも、他に虐げられる子供達も、守るための盾が手中にあるのだから。
そう決意を固め、彼女達の方へ歩き出した




