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銑鉄のワルキューレ  作者: 駄作卍
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目覚めた少女

「あー、つまり拾って来た子が目を覚ましたけど状況が分からずって事か...」

イオナは呆れたように言う。どうやら昨夜の、と言うより早朝の件で目覚めてしまっては居たらしい。

今は広間に全員で集まっているが、その間にも一悶着あったのは言うまでもない。

確かに、苦もなく建物を倒壊させられるような兵器が何人も囲んできたら、人は恐怖するものだろう。


「それで、もう一人はどこに行ったのかしら?」

アインが訊く。

「...もう一人?起きた時には一人だったよ?」

彼女は言う。

部屋を確認しに行くと、一方のベッドは乱れており、もう片側は初めから誰も居なかったかの様に整って居た。

「それより、本当にワルキューレとは違うの?」

彼女は聞いて来る。その目が私たちの畳まれた翼や一部露出している金属面に走るのを感じる。

「うん。私たちは...名前はないけれどワルキューレとは別。言っても信じて貰えるか分からないけど」

「わかった...信じるよ。だって私を殺そうと思えばいつでも殺せたはずだもんね」

彼女はかがみ込むと、いつのまにか現れた猫を撫でている。

それをすかさずフィアが抱き上げようと飛びつくと、触れた瞬間に解ける様に消える。フィアは確かに見えて居た猫を掴めなかったどころか消えてしまった事に首を傾げている。

「!?何するの?」

驚いて彼女は尻餅をついた。

いや、むしろこっちこそ聞きたい。

「さっきの拳銃や今の猫って君の魔法?」

手を差し伸べて引き起こしてあげる。

「え、うん...」

「君、名前は?」

「あ、名前も言ってなかったね。私、シューレ」

「私はエリニュス。ねえシューレ、あなたの魔法について聞いてもいい?」

「良いけど、なんて説明したら...何がほしい?」

「欲しい?えっと...いま必要なのは食料に医療品に衣料と...」

「待って待って!えっと、見せることはできるけどさっきみたいに消えちゃうから」

なんとなく分かった気がする。

「じゃあ、さっきの猫もう一回出して」

「え?それで良いなら...」

猫を抱える様に腕を組むと、その腕の中で身を捩る猫が現れる。毛並みまで艶々としていて、まるで本物と遜色ない様に見えた。

「なんでも出せるの?」

「いや、手に持てるくらいの物しか作れない。あと、作れるのも知ってる物だけ」

そういうと、猫をフィアに向けて投げる。フィアは、それを受け止める様に腕を伸ばすが、触れた側から猫は虚空へ消えた。

手にグラスを作って落とせば、破片は本物のガラスの様に飛び散りながら消え、ショールを作って首に巻いた後、近くの椅子にかけると同じ様に消える。

幻術に近いのだろうか?人の性格が千差万別である様に魔法も多種多様だが、なかなか面白い光景だった。


「戻りたくない?」

私は聞き返した。アイン達は清拭と食事に行った後、私はシューレと先に外で話していた。

「うん。どうしてか分からないけれど、私戻りたく無い。帰るのは絶対に嫌。」

困った。アイン達とも違う、正真正銘の人間だ。ここに残す意味は薄いし、寧ろ足手纏いとさえ言える。

「お願い。ここに居させて。出来ることがあれば何でもするから」

「でも私達はすでに人殺しだし、ここに居るのは帰る場所を失ったワルキューレ達だよ?君はここに居るべきじゃない。帰れる場所があるなら帰った方が良い」

そう言うと、彼女は言葉を受けて大きく息を吸って吐いてから言う。

「じゃあさ、エリニュス。私のことも殺してよ」

私は息を呑んだ。

「殺すだなんて...何がそこまで貴方を追い詰めるの?」

「私には帰る場所はあっても居場所が無いの。だから、ここにも居られないならいっその事...」

そう言うと彼女は、拳銃の幻影を自身に突き付ける。

白日の下で見る事で、その銃身には使用感を漂わす細かな傷が鈍く光り、フィルムの中の物でなく、確かな手触りを感じさせた。

「...これが撃てないって思ってる?他の人には幻術でも、私にとっては現実。私、絶対に帰らないから!」

魔法は心象。なら死を願う人の魔法は本当に死んでしまうかもしれない。

「わかった。ここへの滞在を許すから、だから事情を話して。銃は下げなさい」

その手中から銃が霧散する。

「...ありがとう。でも、事情は...ちょっと整理がついてからにして。ごめん」

その時の表情は俯いていてわからなかった。でも、顔を上げた時、そこには笑みが貼り付けてあった。

「ごめんねエリニュス。ちょっと色々あって疲れちゃったみたい。元の部屋でちょっと休ませてもらうね」

まるで発作の後の様な気の抜けよう。フラフラとした足取りで建物へ戻っていく。

ちょうど入れ違いに出て来たイオナ達は、生気のない様子の彼女を不思議そうに見て、聞いてくる。

「なあエリニュス、何があったんだ?」

「ただ、彼女が帰りたくないって言うから理由を聞いただけなんだけど...」

「はぁ?まあ、いい。それで、結局ここに置いておくのか?」

「うん。私達と同じ、居場所のない子みたい」

「まあ、エリニュスがそれで構わねえなら良いが」

あのトラウマ様な過激な反応。何がきっかけになったかは分からないが、こんな世界で増してや兵器の贄にされそうだった子だ。どんな事情を抱えていても不思議じゃない。

少なくとも、彼女の今後は私達と共にあるとすれば、今すべきを成すのが先決だ。

「じゃあ、今日の訓練も始めようか」

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