反省と苦悩
「というわけで一日、何度か戦ったわけだが...」
イオナが言う。
「まずエリニュス、何かあるか?」
真っ先に私に求められた。
今日試合したのはフンフとドライ。そういえばフィアは以前した時にコメントするのを忘れていた。
「まずフンフはルールが自分に有利な中、私と試合をしようとしてくれた事は嬉しく思う。でも、本当に必要な時は手段を選ばずに戦う必要がある。それに体格の小ささを生かして回避の練習をしよう」
フンフは頷いた。
「ドライ、魔法の乱用は禁止。後で条件について教えて。それと戦闘は向いていないから無理に戦わずに必要に応じて他を頼った方がいい。少なくともさっきの使い方はやめて」
ドライはいつもの眠そうな眼で私を見ている。
「それからフィア。センスは良い。戦い方も工夫が見られるけれど、慢心だけはしないで」
いずれこの子達は訓練では無く、本当に人殺しに手を染めなくてはならない。
だけれど、それはイオナと共にハイヴで百にも登る数を殺したのとどれ程の差があるだろうか。
ただ、その時に躊躇わず今度はこの子達を生かすために何が出来るか、話している彼女達を見ながら考えていた。
「んじゃ、ツヴァイには相手をしたアタシから。まず格闘だが大振りな癖があって...」
私に睡眠は必要無い。だが、彼女たちには必要だ。
何が私と彼女たちを隔てるのかは分からないが、それは私に時間がある事を意味しているとすれば喜ばしいことであった。
部屋の中で盾を作る。意思に沿って自在に展開可能な盾だが、大きさや意匠を変える事は出来ない。ならばと半透明の力場を出そうとするが、どうやら攻撃に対してしか反応しないのか、何度か試みても出現させられなかった。
もし彼女たちを失うとすれば、それは私が守れる範囲が限定されているからだ。この盾の影は彼女たち全員を守るには足りない。
そこで
(アルターエゴ。前に鞘に対して魔法の概念を付与?したことがあったでしょう。あれと同じような事出来ない?)
やりたい事は分かります。ですが耐性の付与は例えるならばアカウントを貸すようなもの。それに対して物理的に堅牢な防御を与えるのは新しいハードウェアを与えるような物です。エリニュスの防御を付与した性能の劣る盾を作るにもマテリアルが不足しています。
(なら、セイバーのやってた事の応用とか?)
空間断裂の応用ですか?仮に自動発動するよう付与できたとしても、発動した瞬間世界に対する多大な影響が懸念されます。セイバーが空間を崩壊させずに力を振るったのは断裂前の2点を意識して無意識に連続を保護していた可能性が高いです。
(なら、何か案は無いの?)
ドライの魔法は使い方次第でかなり役立つと思われます。
あの後詳しく聞いたところ、彼女の魔法は発動を起点として数十秒をやり直すらしかった。長くとも1分に及ばない程度の逆行で、回数制限は身体が限界を迎えるまで。でも酷使させる事で致命的な後遺症が残る可能性を考えれば、逆行の影響を弾ける私と複数回跳んでも現実的に詰みを回避できる手段とは思えない。
それと、発動には発動時に意識を保っている必要がある事も懸念ですね。わかりました。何らかの手段が無いか模索しておきます。
結局のところ前より入念に、追い詰められる事のないようにする他ないそれが結論らしかった。
フィアの目視範囲内の短距離転移、フンフの重力操作、ドライの時間逆行、それにイオナの炎と二人の魔法。これらを戦術的に組み合わせて確実に略奪を行うことが目標だ。それに思う部分がない訳でもないが、生きるための避難と割り切らねばならない。
アルターエゴが奪取してきた地図データから目標は4箇所。帝国領の端にある基地は民間人を巻き込む危険は無いが、敵戦力が多く見受けられる。同じく帝国領の衛星都市には戦力は自衛程度だが物質の集積が不明で増援の到着前に必要量の資源を確保出来るか分からない。ワルキューレ前線近くの前哨基地ならば上手くワルキューレの戦力とぶつかれば安全に資源が確保出来るがワルキューレとも交戦するリスクがある。最後は独立都市の一つだが、イオナ達曰く帝国領外でわざわざ独立を保つ国家は相容れない文化や未知の技術を保持している可能性が高いそうで、全くの未知数である。
ハイヴより近いので移動時間も短いが、同時に追跡される危険性も孕んでいると考えると目標の再選定も視野に入れるべきだ。
そう考えていたところで、戦略的に不可解な位置に刺されているピンに気付く。帝国領の対ワルキューレ戦線より数百キロ離れた位置にあり、大規模試験場と銘打ってある。
もし想定している類の兵器があるなら、ワルキューレを誘引できるかもしれない。今回の目標にはならないが覚えておくべきだろうと思った。
結局帝国領のどこを攻めようかと、そんな風に考え事を続け視界に表示される時刻は午前3時を回っていたその時、ひたひたと裸足で歩く音が聞こえた。考え事を中断して耳を澄ませる。ドアを開け、廊下を歩く音が聞こえる。私達の中に裸足の者は居ない。でも、こんな場所に人が来るはずも無いと思って扉を開けた。そこには連れ帰ってこれまで醒めなかった少女が立っていた。
「...わっ、ワルキューレ!?」
驚いた彼女の手には拳銃が握られていた。
(おかしい。彼女の身体は念入りに調べてあるし、ここに拳銃なんて置いてない)
「来ないでぇ!撃つよ!」
彼女は震える声で叫ぶ。
だが、拳銃程度なら私にとって全く脅威にならない。
「...待って。あなたを傷付けるつもりは無い。だから拳銃を下ろして」
そう言いながら近付く。
その間も彼女は拳銃を私に向けていたが、引き金を引く事はなかった。
ゆっくりと手を伸ばして彼女の手を下ろさせようとする。だが、触れた瞬間に拳銃が消え、それを握る形をした彼女の手だけが残る。
自分が触れられた事に遅れて気がついた様に、一拍してから涙が溢れる。
「こ、殺さないで...」
「待って。何か誤解してる。あなたを助けたのは私たちで...」
その後、ようやく彼女を落ち着かせる事が出来たのは、イオナ達が起きて来る頃の事だった。




