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銑鉄のワルキューレ  作者: 駄作卍
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九尾の末裔

瞼を開く。焼けついているような感覚もあるが、瞼を引きちぎるつもりで強引に。

身体が熱い。熱で、いやもはや身体がボロボロなのか、片側の視界は効かず、見える方も歪んでいるが、しかし目の前の黒い鎧に包まれた足くらいは見える。

右手を動かす。掴もうとして指が無い事に気づいた。

なら、左手。足を掴んだ。もう一歩。

盾を握ることが出来ないのは承知、ほんの一瞬でいい。右腕を振るいながら、右手に盾を握るイメージを固める。顕現した盾は頭部と見られる場所に当たる。

音も聞こえないけれど。盾も握れなかったばかりに遠くへ飛んでしまった。


鈍い音と共に目の前のワルキューレが崩れ落ちる。成したのは当然

「エリニュス!」

確信があった。何故かは分からないが彼女だと。

彼女の元へ、思い通りにならない足に鞭打ち、這う様に駆け寄った。

「エリニュス...」

見れば見るほど、彼女の身体はズタボロで破れた雑巾の様だ。身体は炭化して無数の穴が開き、片目は貫かれている。だが、もう片方の目は確かに私を見ている。

「...ッ...」

声を発しようとしたのだろうが、肺も喉もダメで、掠れる様な音しか鳴らない。

私は彼女を抱きしめながら、懸命に祈る。私の炎を彼女の再生の為に使う様に、私の命を燃やすつもりで強引に。彼女の中に強い反応を感じる。思い出した、彼女に預けた尾の一本。

炭化した肌が割れる様にして、間に瑞々しい肌が見える。私は後はただ見ているだけだ。


視界が定まった私は、私を見下ろしている彼女の顔を見た。

「イオナ...悪いね」

瑞々しい唇からは正常に言葉が紡げた。

「お前っ...死んだと思ったぞ。なんだよアレは」

胸に手を当てる。そこに鼓動を感じる。これは私の心臓ではない。でも、きっともう私でなくなる事は無いだろう。

「話すと長くなるよ...それよりランサーは?」

「ああ、アレだよ」

そういって指差す。

そっちを見ようと上体を起こし、初めて自分がワルキューレの装甲以外に一糸纏わぬ姿である事に気がついたが、ともかく。

そこに転がっていたのは黒い鎧だけ。落ちた兜の内側は完全に何も無く

「気がついたらああだった。もちろん中身が逃げたとかってのは見てねえ。全く意味がわからねえが、今大事なのは」

そういって彼女は落ちていた端の焦げたシーツを投げてよこす

「二人とも生き残ったって事だ」

「待って、そういえばアルターエゴは?」

バイザーを下ろして念じてみるが応答がない。

その時、天井の大穴から何かが落下してくる。

咄嗟に盾を握り、イオナは拳に炎を纏わせ構えた。が、そこに居たのは一体の作業ロボットだ。いや、

「無事ですかエリニュス。こちらは7機撃破、ただし接続が切れてしまい待機して地下での反応が消えた為に降りてきました。様子はどうですか?」

中身はアルターエゴだ

「はっ、もう終わったよ。ったく、まだ居たなら手伝ってくれりゃ良かったのに」

イオナは悪態をつく。だが、それも安堵の裏返しなのが見え透いていた。

「すみません。ひとまずエリニュス、状況把握のために接続を許可してください」


接続確認:ログ集約中...


「作業と並行して報告です。地上部分にて確保しておいた物資のほとんどが焼失及び損壊。およそ100食ほどのMREと数種の医薬品のみ確保してあります。地上撃破のワルキューレに関しては状態の良かったコアのみ引き剥がしてありますが隠滅の為に破棄しますか?」


データ処理完了

緊急システムスキャン...状態安定、異物検出

悪性度判定:無害

第一封印の解除確認


「作業完了。ログの空白部分は後で伺いましょう。それとエリニュス後で話があります。ですがまず、帰りましょう」

そう締め括られた一言で長い遠征は幕を閉じた。

施設は結局、撃破したワルキューレの残骸達ごと自爆装置を作動して蒸発させ、荷物は私が抱える事になった。アルターエゴは惜しみながらボディを破棄し、イオナは飛べないのでどうするのかと思えば、耳と9本の尾を出して足元を爆ぜさせた移動の応用で空を蹴って駆けた。

「いや、おかしいでしょ」

「一番おかしいお前に言われたくねえよ!」

私の身体のこと、過去の事、撃退したランサー、これからの事。懸念も疑問も尽きないが、今は生きている事が全て、それで良い。抱え込みすぎず、ただ私がしたい様にしようと思った。

「ところでエリニュス。このジャッカルの尻尾みたいなやつについてなんか知らねえか?」

「え?それ、多分狐の尻尾だよ。日本で有名な九尾ってやつっぽいけど。それに耳も可愛いよ」

「は?耳!?耳まで生えたやがるのか?」

一生懸命頭を弄っていたが、実体がない様で触れない。そうしてヘニョンと落ち込むと耳も同期して尚可愛い。

教会へ着いた私は入る前に一度深呼吸をする。今回、イオナを失うところだった。他のワルキューレ達も私のせいで死ぬかもしれない。そうした責任を取るべきか?だが、私は自分の目が届く範囲くらいは護りたいのも事実だ。

「おいエリニュス、先いくぞー」

そう言って扉に手をかけたイオナは、そのまま扉をもぎ取った。

「うわ!?うわわわ」

「待って!そのまま置いて!」

ゆっくりと扉を横たえ、自分の手を見つめている。

「...どうなってんだ?」

私は一つ思い当たる節があった。元々ワルキューレシステムは私の()()()()()為のシステムだ。今彼女は安全装置を焼き切っている。

「ねえアルターエゴ、どうにかならない?」


残っている部分を使って調節する事は出来ると思いますが...新しいものを探すべきでは?


そうするかも知れないけど、まずは応急的に対応しよう。

彼女の手を取り、調整が終わるのを待つ。


完了。と言っても戦闘出力の為には再度焼き切ってもらう他無い融通の効かない制御ですが。


終わったことを伝えると、彼女は横たえた板に近づき、持ち上げようとするが、見た目相応の力しか出ない様だ。

「あー、一度慣れちまうと不便なもんだな...」

そう呟きながら枠だけになった扉を潜っていく。

教会を壊してしまった事に罰当たりな罪悪感を感じながら、そういえば最初に教会に来た時の事を思い出す。

(あの時、扉は内から封されていた。それにイオナは言及しておきながら地下の確認を結局していない)

その思考に至った時、私は気付いた。私の力が増して思考操作を跳ね除けた事を。いや、もしかすれば教会自体が術式で壊してしまった可能性もあるが。

ともかく疑問を抱いたなら確かめるべきだろう。私は少女達の待つ礼拝堂へ向かわんと扉を潜った。

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