#18 同じ舞台に上がった仲!(3)
リノンの歌声は良いですよ。
ゼクレイが叫ぶ。
「私が一番ムカついてるのはね、お前が私のことを自分の思い込みで振り回そうとしたことよっ。私自身は別に狐野郎の変異種であることに負い目なんて感じちゃいない、周りが勝手に私を避けるから独りで居てやってるだけなのっ! なのにお前は私が孤独で可哀想だと言わんとするような歌を広めて、私の精神を貶めようとした……だから私の手で泣かすって決めたのよ!!」
……へえ。そっか、お前的にはそれが気に入らなかったのか。
まあ歌の解釈なんて人それぞれだかんな。お前にとっちゃサイコーにムカつく歌詞だったってんなら、それはそれで構わないぜ。
そーゆー可能性もあるだろーなと思ってたから、お前がここにキレながら来た時点であーしは戦闘の覚悟決めてたんだ。
……けどな。お前のその真っ直ぐな怒りには、あーしだって真っ直ぐに返事をするぜっ!!
あーしはゼクレイの顔へと、押し込む位の気持ちで本気の右フックをぶち込んだ。
「――ばがっ!?」
ゼクレイがこれ以上無いってくらいの『信じらんねー!?』って顔で硬直する。
あーしの握り拳が頬っぺたにめり込んでるってのに、そこにすら気がいってねえ。
どーやらそれくらい、ここであーしに殴り返されたことが予想外だったよーだ。
まーいいわ。とりあえずこれは先に言っとかねーとな。
「……お前はさ、手前の意思でこの寺院に来たんだよな。歌で誘われて、その歌詞にムカついて、それでお前自身が舞台に上がってくるつもりで、歌手のあーしを直接ぶん殴りに来た。――でもそれはこの歌に、お前自身の思いを乗せたって事なんだよ。その時点でこの歌はあーしとお前二人の歌だ」
「――っ!」
あーしの言葉に、ゼクレイはハッとした顔になった。
「お前はこの歌の、この舞台の共演者になったんだ。だからあーしはお前を殴り返す。……ハンパな気持ちじゃ歌ってねーんだ。お前にも演者として、とことん付き合ってもらう」
「お前……!」
ゼクレイはマジな顔でそーとだけ言って、それ以上はもー何も文句を言ってこなかった。
「……あーしがあの歌に込めてた思いを、今から話す。まずあーしはお前を貶めよーなんて少しも思っちゃいねー」
「……」
「あーしが『孤独』とか『冷たい夜にひとり佇む』とかって言葉を使ったのは、お前に格好良いってイメージを持ってたからだ」
「……格好、良い?」
「そーだよ。……フェイロード城であーしはお前の話を聞いたワケだけどさ。城の誰ともロクに絡みもせずに、黙々と手前の目的を果たそーとしてたお前のことをあーしはそー感じたんだ。一人でそんなことするなんてあーしには無理だ、それこそあーしじゃ寂しくなって心が負けちまう」
ゼクレイはまだ固まったままの状態で、自分から率先して言葉を発しよーとはしてこない。
……手前の頬っぺたにめり込んだままのこの拳、離そーともしてこない。
「……」
なんか不動の迫力すら感じさせる。
激しい動とグッと構えた不動――真逆だってのに、コイツの中じゃそれがニコイチになってるんだ。
本当に絡みがいのあるヤツだってそー思うよ。
「あーしがこの世界に転移してすぐの時にはさ、もー既にあーしに優しくしてくれるヤツが身の回りに居たんだ。この寺院の人達のことなんだけどさ。そのお陰で特に不安に思うよーなことも無く、割と気楽に異世界新生活を始められたよ」
こんな話でも、自然と言葉として出せる。
「……」
ゼクレイのあーしを見る目が、花緑青のアイラインを引いたその目が、鋭く光りながらも少しだけ優しい感じになってた。
「けどあーしには、ちょっと物足りないって気持ちもあったんだ。あーしに良くしてくれる人らにそんなこと言うのはワガママだって分かってたから、口に出しはしなかったけどさ」
……ゼクレイはあーしの言葉を、鋭さと優しさが混じった目のまま聞いてくれてる。
「その目で見られると心がなんだかゾクゾクするわ、良い刺激ってかさ。……獣人族の変異種ってゆー、この世界の中ではみ出し者やってるヤツらが居るって知った時、あーしはこんな風に思ったんだ。――ソイツらからしたらあーしは一体どんな風に映るんだろうってさ。偶然ふらふらとこの世界に来て、何の苦労も無くちやほやされて、世の中ちょろいとナメてかかってる、そんなアホ丸出しのヤツに見られたりすんのかなって。それが知りたくてしょーがなかった」
「……お前は最高にイカれてるけど、アホとは違うと思うわ」
ゼクレイが静かにそー言った。
「お前はホントのホントに自分の興味心だけで私に近付きたいと思って、そしてその思いを実行に移した。いや近付くどころかこの寺院に呼びつけようとしたんだから、めちゃくちゃ精神力がぶっとい」
嫌味とかは少しも感じられない。本当に素直な感想を言葉に出してるって感じだった。
「その上いざ面と向かえば、今度は自分が私の本気を引き出すとかそんなことを言い出す始末。……そんなヤツがただのアホなワケ無い。常人の理解を超えた何かよ」
あはは……。コイツに言われちまうんなら、あーしも簡単に否定は出来ねーな……。
「それは、ホントにお前にマジでぶつかってきてほしかったから……。ただ呼びつけよーとしたことは、まあその、ごめん。あーしは長くこの寺院を出るワケにいかなかったし、マジで賭けのつもりで吟遊詩人の歌の拡散力を頼ったんだ」
謝るあーしだったけど、ゼクレイはそこは別にいいって感じで微笑んだ。
「ある意味、物凄く勇気のある行動だと思うわよ。その分私も、そんな大それたやり方で私の心を掻き乱してきたことに激しくキレたワケだけどね」
「へへっ……。ホント、さーせん」
「いや笑うところじゃないわよ。……まったく、お前ってこっちが油断するとすぐ自分の調子に巻き込むのね。最高にムカつくわ」
ゼクレイはそんな言葉を、けどやっぱりめっちゃ落ち着きながら話してた。
――話の途中から気付いてたけど、コイツ冷静な時は寧ろ賢そうな喋り方なんだな。それに実は結構、懐も深いって気がする。
なんつーか二面性が物凄いよな。それはあーしにとっては勿論、良い意味でだけどさ。
「ところでさ、もーそろそろあーしの拳撥ね除けてくんね? ずっとお前の頬っぺたに貼り付けたままで、流石に腕も痺れてきてるんだけど……」
「……自分で下げればいいでしょうがぁっ! ホントクソガキだわコイツっ!!」
んーだよ瞬間湯沸かし器かよコイツ。キレる時はすぐキレる、感情のアップダウンも超激しいのな……。
「いやまあそーだけどさ。ただなんとなく拳が密着してる方が、お前とあーしの場合は絆が深まりやすいかなって思って」
「……ふんっ」
あ、そこ否定はしねーんだ。
まーあれだけ殴り合ったんだから、お互いの拳にも何かしらの力が通じてるって気はしてもおかしくねえかな。あはっ。
――(4)につづく!――
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