#17 激熱、あーしとゼクレイ!(5)
リノンはニホンに居た時から数回ケンカをしてきてますが、流石にヤンキーみたいなケンカの為のケンカじゃありませんでした。
的確にみぞおちを狙ったり狙われたりした事は無く、だからその単語は言い慣れてなかったんですね。
この女修道士について、ちょっとだけ語っとく。
コイツは元からふわふわした感じのおっとりちゃんで……いや歳は十九であーしより三個上なんだけど、普段は引っ込み思案な性格してるから呼び方はそれで良ーんだ。
まあ引っ込み思案なだけで、心の中に持ってる思いは中々なんだけどさ。
ウソが苦手でさ、前に二人で話した時もコイツは困ってたな。
『あーしの事、聖女らしくないなって思ってるだろ?』
『うへぁー!? な、なんでいきなりそんなこと言うんですかぁー!?』
『お前の心ん中の世界には、きっとおしとやかな聖女サマが憧れの存在として居てたんだろーなって、お前のあーしを見る目からそー感じたんだ。なんとなくな』
『うぅへぁー……』
『今のうへぁーは、あーしの言ったことを認めるうへぁーだな』
『うぅ。で、でもどーして分かったんですかぁー?』
『……あはっ。あーし、視線ってもんに敏感なんだよな。それが男からであれ女からであれ、視線でソイツがその時何を思ってるか大体分かるのさ』
『うへぁー。も、申し訳ありませんー』
『いーよ。ってかさ、ゴマかそうとしてたら逆にお前のこと嫌いになってたわ』
『えぇー!?』
『まあ、なんてーのかな? あーしがお前に言ってやれるのは、お前があーしを聖女らしくないって思ってたって、あーしはお前を好きで居てるよって、そーゆーこと』
『う、うへぇぁー!……リ、リノン様ぁー!』
『へへっ、お前とこの話出来て良かったぜ。それから、ウソを吐かないお前をこれからはもう少し頼りにさせて貰うよ』
『は、はいぃー。お、お任せくださぁーい!』
……で、今に至るってワケ。
……コイツとガッツリ話したのはこれが最初だけど、あーしが投げかけた言葉に一生懸命応えよーとしてくれてた。
あーしの、聖女としてのガワに対してだけ媚びてくるよーな事をしてこなかったのが、嬉しかった。
コイツ自身は言葉足らずなヤツではあるけど、それはコイツが賢いから、だから天然で一つ一つの言葉に思いを深く乗せてるってだけの事なんだ。あーしがそれを分かってやればいいってだけの事。
うん、あーしには分かるよ。だって賢さってのは、それこそソイツの目の光に現れるもんだからなっ。
あーしは、……そんなおっとり修道士のあーしを見る目を感じ取りながら、あーしの本気さを全力で言葉に乗せていく!
「いいかお前らっ! あーしの事をどーのこーのと考える必要は一ミリも無え! あーしのやってる事、あーしの起こしてる事のその先に在るものの事を見ろ! あーしの視線の、その先に立ってるものの事を見ろ!!」
あーしは、聖女だ。あーしは……あーしの心に煌めく道を全力で行くってだけさ!
――あーしの言葉の煌めきが、真正面に居るゼクレイだけでなく、全方位に向けて放射する。
皆の視線の性質が、変わる。重なり合って、確かな情熱の波動になってこの場所全体に響く!
「あたしゃ聖女様の戦いをしっかりと見させてもらうよっ! それにこの狐耳のお嬢さんも、なんとも凛々しい顔してるじゃないかっ! 好きだねぇ、あたしゃ好きだよぉっ!」
これは礼拝者の中の、あーしのファンのおばちゃんの声だっ。
……へへっ。やっぱあーしの事気に入ってくれるだけあって、ここぞって場合になるとあーしの感性に同調してくれるらしーな!
他にも何人も自分の声を上げるヤツが出てくるっ。
「リノン様っ! 私には今、貴女様のお姿が眩く見えますっ!」
「聖女リノン様の御心! そのお厚く温かな輝きに、自分は、自分はぁっ!」
「リノン様と相対しているというのに、その威光に少しもたじろがないこの狐野郎の女性も見事だ!」
「些細は分かりませんが、とても精神の位が高いお方なのですね!」
ナナカも、やれやれって感じでため息吐いてから、優しく微笑んであーしに話し掛けてきてくれる!
「……まったくもう、本当にやりたい放題じゃないの。けど物凄く貴女らしいわ」
「そーだろっ!」
「ふふっ。じゃあさ、私もちゃんと聞くわね。そのゼクレイって人、いや狐野郎はどういう野郎なの?」
そだな。じゃあここらで一回説明しとくか。
「へへっ、ちょっとワケ有りでさ……。ゼクレイはそこで寝転がってるエルギアドに手を貸して、フェイロード城襲撃の時一緒に来てたんだ」
話し始めた途端、さっきまではあーしが喋る事を許してくれてたゼクレイが攻撃を再開させてきた。
自分の話をされたとなっちゃ、やっぱ面白くないんだろう。一瞬の隙を突いてあーしの手を振り解き、力を溜めた大振りのパンチを放ってくる。
あーしは落ち着いてガードする。そんでガードした瞬間に、ヤツの攻撃の勢いを殺す為に後ろに飛び退いた。
「……へへっ」
「……ふっ!」
ゼクレイとは一瞬見つめ合う形になって、あーしは笑い、ヤツは短く息を吐いて攻撃後の力の消費を最小限に抑える。
あーしらの戦いにナナカは気圧され気味だったけど、それでもなんとか次の言葉を発することが出来たよーだ。
「それって、悪人の仲間だってこと……?」
その言葉にはゼクレイも、そしてずっと床に這いつくばってるエルギアドも何も反論しなかった。コイツら自身、そーゆー自覚をしっかり持ってるんだな。
けどあーしは別に、そこにはあんまり興味は無いぜ。
「まあ、人によってはそー捉えるとは思うけど。――フェイロード城に行った時、あーしはこのゼクレイとだけは直接会うことが出来なかった。サーニス公からコイツの話を聞いただけだったのさ」
あーしの拳がゼクレイの肩をかすめる。ゼクレイは拳を手刀の形に変えて、あーしの頬っぺたを同じくかすめた。
……いや、同じじゃねーな。手刀の形にした分、あーしが受けたダメージは打撲じゃなく裂傷になった。
頬っぺたから生温かい血が流れ落ちる。これはその内あーし自慢の聖女服にも付いちまうな。
「……あーしは話に聞いただけのコイツのことが、なんかめっちゃ気になったんだ」
あーしは改めてゼクレイの姿を見やる。……流れる頬っぺたの血は、拭わねー。
――(6)につづく!――
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