#17 激熱、あーしとゼクレイ!(4)
エルギアドはね、根っこは悪いヤツじゃないんですよ。
寧ろ良いヤツなんです。ただめっちゃウザいんです……。
寺院の中で、あーしとゼクレイのパンチを打ち合う音が鳴る。
……さっきあーしが攻撃を受け止めたのを、コイツはしっかり意識の中に入れてるみてーだ。
大振りな攻めは控えて、時に牽制の拳を混ぜつつ、かつ手前の防御もしっかり取る戦法に移行してやがる。
あーしの攻め方もそんな感じ。
もっともあーしの場合はエルギアド戦でもやった、相手の思いと力を受け止めて返すっつー聖女スタイルなワケだけどなっ。
……激熱で意識が過敏になってるから、肉弾戦しててもナナカから飛ぶ声がちゃんと聞こえるぜ。
「一体何がどうなってるのよ!? ていうかその前に貴女煌綺妙杖と攻撃魔法を使わないって、それが逆に相手へのハンデになってると思うんだけどっ!?」
「ええ? ――いーんだよ、そんな細かいことは! 聖女たる者は戦う相手それぞれに対して、ソイツと一番通じ合えるやり方でぶつかってくのさっ!」
話しながら、あーしはゼクレイの頬っぺたをギリギリかすめるパンチを打てた。
ゼクレイは間一髪って感じの顔をしたけど、でもそこから素早くあーしの伸び切った腕を掴み取った。
マジで一瞬。こっちの不意を突く形で、あーしの胸の辺りを思いっきり殴りつけてきやがった。
「ぐぁっ!」
今度は掴んでた方の手を離して、腹のちょい下に強烈な一撃っ!
――確か、み、みぞおちって言うんだったな……!
明らかにピンチだ。このピンチを認められねー程あーしは怖いもん知らずじゃ無ぇ。
数歩退がって、間合いをリセットする。
ゼクレイはここで手を休めたりなんかはしねー。さっきまでの打ち合いより攻撃への比重を置いた動きで、ガンガン来やがる。
――防御、防御、防御! あーしはここでは打って出ずに、ひったすら守りを固めてった。
「……へへっ」
「――ッ!」
不意に、笑みがこぼれちまった。劣勢ってヤツだってのに、この心にヒリつく局面にあーしのテンションは上がっちまう。
「お前ぇっ!」
ゼクレイが叫んできた。まあコイツからしたら、ただあーしが笑ってるってだけでムカついてしょーがないんだろーな。
「……ッ!」
重みの増したパンチ、それをあーしは両手をクロスさせて防ぐ。
脚にまで衝撃が来やがる。けどよ、この衝撃はあーしにとって良い気つけ効果だぜ。
お前のその焼けつくよーな視線……。なんとなく、分かるよ。
お前、今こーして戦ってるあーしの事をちゃんと真っ直ぐ見据えてんのな……。
「――なあナナカ! 今このゼクレイ、めっちゃマジだよな!」
「え、ええっ?」
あーしの声掛けが急だったのか、ナナカはらしくない間抜けな返事をしてきた。
んだよ、このバトルはそっくりそのまま、あーしとゼクレイの会話なんだぜ? ちゃんと少しも逃さず聞いてろよ。
「あーしが聖女として、今コイツのマジさ加減を引き出してんだぜ! あーしはもう分かってる! コイツ程マジな心したヤツはそーそー居ねえって!」
この言葉は、もちろんナナカだけに向けて言ってんじゃねー。今この場に居る全員に向けて言ってんだ!
ナナカは息を飲んでる。
「マジっていうのは、分かるけど……! ていうかそもそも、魔法戦ならともかく聖女って相手と殴り合いまでするものなの!?」
……そうか。ナナカは単純にあーしの心配をしてくれてるから、ゼクレイの方には視線が行きにくいんだな。
「あーしは大丈夫だよ! それよりもこのバトルそのものを見てくれ!」
なんなら、あーしは皆にゼクレイの方こそ見てほしーんだ!
「けどっ……!」
ナナカはあーしの事を結構分かってくれてる人だ。
それでも、そもそもこのバトルをただのケンカみてーに思って、その上そのケンカであーしが傷を負うのを見てられないってなってんのかもな。
いきなり始まったバトルだ、戸惑っちまうのも無理は無え。
けど礼拝者の皆、修道士達なんかはもっと酷え。
どいつもこいつもあーしの言ってる事やってる事に『ワケが分かんねー付いてけねー』って顔してる。はっきり言ってざわついてる。
きっと皆が皆、それぞれ『聖女ってもっとさぁ……』みてーな思いでこの戦闘を見てんだろーな。
ゼクレイが、不意に舌打ちをした。
……もしかして、こーゆー空気にムカついてるのか? そーいや、さっき言ってたもんな。ギャースカ喚くよーなヤツらは嫌いだって。
あーしから見ても今の連中は、――ただ一人の視線を除いて、まあ酷いありさまだ。
………………しゃーねーなぁ。
だったらガツンと言ってやるよっ!!
気合いと一緒にあーしの、ゼクレイの攻撃を見切る力が高まった。
今度はコイツの刺すよーな右ストレートを、さっきやられたみたいにあーしの方が紙一重で避けて、手首を掴んでやる。
「くっ!?」
驚くゼクレイ。
……あーしの手首を掴む力が思いの外強かったんだろーぜ。けどこの力は、あーしの気持ち的にはゼクレイに向けてのものじゃ無ぇ。
そーさ。この思いは、今この場に居る全員に向けてぶつけてやるんだ!!
「他の聖女がどーだろーとそんなのあーしにはカンケー無え! ってか他の聖女の背中なんか見て、手前に合ってるやり方でも無えのにソイツの真似事して人々と向き合おうとするなんて、そんなのが聖女なんてこのあーしが納得出来ねえ!!」
あーしの叫びに、誰よりも先にゼクレイがぴくりと反応した。
「……!」
やろうと思えばコイツならどーとでも反撃出来ただろーに、攻撃の手を止めてくれたんだ。
めっちゃ眉間にシワが寄っててめっちゃ眼光が鋭くて、あーしが何を叫んでも、コイツはとにかくあーしの事から目を離さねーんだなってさ。そんな風に直感出来た。
テンパってるのは寧ろ周りの方。……この時点でさ、あーしとゼクレイの戦闘に外野が口挟むのは間違いなんだ。
そんなお前達に聖女の言葉、もっとたくさん聞かせてやるっ!
「――聖女ってのは聖なる女だ! 何処に出しても恥ずかしく無え女なんだ! そんな女が、他のどんな女っ! よりもっ! 手前のやる事を手前が信じてるのは当然なんだよ!」
あーしの心ごと、この言葉寺院中に響けぇっ!!
…………。
――ざわついてた空気が完全に止まったのが、分かる。
「リ、リノン様ぁー……」
とある女の修道士がぽつりとあーしの名前を出してた。
ふわふわした感じの、おっとりした声。
……へへっ、でもあーしは知ってる。コイツはこれで結構根性あるヤツなんだ。
コイツだよ。あーしが叫ぶ前から、ただ一人あーしを信じて見守ってくれてたのは!
――(5)につづく!――
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