#16 深い話すんのは楽しいって思う!(3)
ファンタジー要素、業について語られてます。
物語の軽いスパイスとしてお楽しみ下さいませ。
業ってのは――良い行いをすれば良い報いが、良くない行いをすればやがてソイツ自身に良くない報いが返ってくるっつー、そーゆー目には見えない力を表した言葉でさ。
それは個人がそれぞれの精神に持ってる、数値化出来ない能力値でもあるんだな。
あーしの立場からしたら、痛くて困ってる人を無償で助けたことで、良い業が溜まったってなるかもしれない。
けどそのケガした人の側からしたら。
起こった苦難を己の手をまるで汚すことなく、何の対価も払うことなく払拭してもらうってゆーのは、どーゆーことに繋がるのか。
……肉体的な面だけでいえばただケガが治るだけに見えても、実際は精神的な面の方が、肉体が負う筈だった痛みを肩代わりするよーにささくれちまうんだってさ。
それが良くない業が溜まるってゆーことなんだ。
「楽をさせたら、その楽をソイツの精神が憶えちまう。そしてその分精神の根深いところの構造は脆くなり、ちょっとしたことで心が病み易くなったり、他人への愛が上手く表に出せなくなったりとその後の生活にも影響が出る……。だからお布施という形で対価を貰って、それで業の帳尻を合わせるよーにするってことなんだよな」
ナナカが「分かる話だわ」って言った。
「業って仰々しく言うと怖い感じにも聞こえるけど、ニホンにもそういうもの自体は存在してて、どんな人でも大なり小なり背負ってるものなのよ。寧ろそれが人として普通なの」
「うん。ただあーしが良いことと思って相手のケガをタダで治してやるのが、相手にとっては……もっとカッチリした感じで言えば、相手の生の営みってことになるのかな。それにとっては、良くねーことになっちまうってことでさ。そーゆー因果関係ってヤツのことをデゼルに説教された時、深いなって、理屈抜きにそー思ったんだ」
あーしは腕組みしながら、なんとなく上の方を向く。
「ソイツ自身が何か思うところあって、覚悟して手前で良くない業を背負う分には、まだソイツの問題な分マシだけど。――でもその気も無えヤツにあーしの力使って、勝手に業背負わせるなんてなったら……そりゃあさ、あーしだってとんでもねーことだなって思うよ」
ケガの回復一個取っても、ソイツの生の営みには一大事。あーしに回復の魔力が有るからって相手の大事を軽々しくどーこーしようとするのは、それはおこがましいことなんだ。
「リノン……」
ナナカが少し心配そーな顔してる。あーしがこの話を深いものとして語ってるんだと感じて、慎重に返す言葉を選ぼうとしてくれてる。
……やっべ。あーしまた思わせぶりな感じになっちまってるな。この話に重みを感じてる、ヘコんでるって風にナナカに思わせちまったらいけねー。
そーじゃねーんだよ、そーじゃねー。あーしはこの話を良い話として語ってる。デゼルの説教と業って概念が心に深く残ったことを、良かったことだと思ってるんだよ。
それを深いもんとして感じ取れたってゆーことは、あーしがそれだけ相手と、精神の深い部分で向き合える素質を持ってるってゆーこと。
そんなあーし自身を、あーしは自分で、好きだなってそー思ったってことを言いたいんだ。
「要するにさ……」
けど肝心なところまでをちゃんと話そーとすると、頭ん中で思ってることが、なんでか難しいことのよーな形になっていっちまう。
難しい言葉が声になって出てしまいそーになる。それは、あーし的にはムカつくんだよ。
あーしはこの思いを、単純な言い方でこそ伝えたい。
――あ、そーだ。ガツンと心にきたって、あーしさっき自分で思ってたじゃん。
それでいーわ。擬音で言い表してやるぜっ。
あーしはナナカの方に顔向けて、両手を目いっぱい広げて笑った。
「相手の精神の重みへと意識を向かせるって感覚が身についた時、あーしの中でガツンとでっかい衝撃が走って、ぱぁって心が広がったんだ。まるで体の外にまで飛び出していく位に、ぶわっとさ。――そんなあーしだから、聖女なんだわ。へへっ」
……うん。完璧に言えてサイコーに良い気分だわ。
ナナカは少しの間、目をぱちくりさせながらあーしの顔をじっと見てた。
そして、例の感じでぷっと吐き出したんだ。
「……あははっ。貴女ってやっぱり本物よね。ホント、貴女と知り合えて良かったって思うわよ」
また出たよ、『本物』って一体どーゆー意味だっての。けど言葉の意味は通じてなくても、アンタがあーしを分かってくれてるってのはその笑顔から伝わるぜ。
「どんな難しいことを言われるのかと思えば、最後の最後――貴女自身の気持ちのことになった途端に、恐ろしいまでにシンプルな物言いになるんだから、もう」
「へへっ、さーせん」
「良いわよ別に。てゆうか、そのシンプルな捉え方が出来てしまえることが、貴女の凄い所なの」
ナナカがそー言って微笑んでくれて、あーしは単純に嬉しくなった。
あーしは改めて周りへと目を向ける。修道士や礼拝者達の様子を確認する為に。
……そっか。良い気持ちの時に、来てくれたな。
「ごめんナナカ。ちょっとあっち行ってくる」
ナナカに手ですまんのジェスチャーして、あーしは歩き出す。
目線の先には、フード付きの全身覆うタイプの外套に身を包んだ一人の客と、それを礼拝者だと思って声を掛けるもガン無視されて困惑してる修道士の姿がある。
あーしは修道士に「あっち行ってな」と告げ、残った客の真正面に立った。
……フードから覗ける顔の部分。目元でクールにギラつく薄い緑の水面のよーなアイライン。
「よーこそファリシア寺院へ。……吟遊詩人に託したあーしの招待状、それ聴いて来てくれたんだよな?」
フードの女の口から、エッジの利いた声色で返事が出た。
「お前を、泣かしに来たっ!!」
外套がぶわっと宙に舞う。
激しく白に寄った色素の薄い、それでいてめっちゃ照り感のある紫色した髪。そこに付いてる、狐の耳。
凄え、切れ長の綺麗な目が怒りでめっちゃくちゃギラついてんじゃん。あーしに対して怒ってんのか、そっか。
まったく、出だしからワクワクすんじゃん。テンション上がんじゃん。
「来てくれたなら早速話しよーぜ。拳同士ででもいーよ」
あはっ。ヤッベ、自然とニヤリとしちまったぜ。
――#16 おわり!――
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