#16 深い話すんのは楽しいって思う!(1)
しばしデゼルとドナキロが離脱します。
その分、更にリノンがクローズアップされる展開となっていきますよ!
フェイロード城でのゴタゴタから数日が過ぎた。
あれからあーしはファリシア寺院で、本格的に聖女としての仕事をやり始めてる。
デゼルとドナキロが居ない間、あーしがメインでこの寺院の運営をしなくちゃいけねー。必然的に気合いも入るってもんだぜ。
……エルギアドっていうこの国にとって危険な存在を、あーしが退けたこと。
それが街中に知れ渡った結果、そのあーしが居るファリシア寺院は前よりも人気になっていた。
ネットの無いこのゼルトユニアでそんなすぐに情報が広まるのかって、そんなこと気にする必要は無え。
この世界には吟遊詩人ってゆー連中が居る。
ソイツらは手にした楽器の演奏や歌のリズムに乗せて、色んなニュースを聴かせて回るのを仕事にしててさ。
いや、正確にはニュースじゃなくて叙事詩っつーらしいけど。
とにかくソイツらが街の各地であーしの活躍を叙事詩として聴かせて回ったお陰で、一気に多くの人が知ることになったんだよなー。
吟遊詩人同士はそれぞれが付かず離れず、それでいて持ちつ持たれつみてーな関係性をしてるらしくって。
最初にあーしの叙事詩を歌ったフェイロード城お抱えの吟遊詩人は、他の吟遊詩人にもその叙事詩を歌うことを許可して、より早く民衆に情報が伝達するよーにしたんだとさ。
中々やり方が上手いと思ったのが、吟遊詩人それぞれが、ちょっとずつ内容を変えて歌うよーにしてるってトコ。
あーしとエルギアドとの戦闘を長めに歌うヤツも居れば、そこはサクッと済ましてその後の闇魔法に倒れた人らの治療のくだりを厚めに歌うヤツも居た。
ソイツ的には、あーしの聖女としての献身的な一面を掘り下げたかったって狙いがあったそーだ。
たしかに歌って形で他人に話を聴かせる場合は、いくつもの要素をそのままぶち込むワケにはいかねーもんな。
そんなことしたら単に歌が長くなって、その上内容もまとまりが無くゴチャゴチャするだけ。
聴いてる側からしたら『コイツ結局何が言いたいんだ?』って、ダレちまうに違いねーよ。
だったら一個の歌の長さを抑えめにして、要点は歌それぞれで変えて何個もの歌を作っちまった方が良い。
聴くたびに内容が微妙に違う、そして聴けば聴く程より深く叙事詩の内容を把握出来るよーになる――。
そーゆー仕組みにすれば聴く側も食いつく。吟遊詩人側も複数居ることが逆に強みになって、良いことが多いってワケだ。
……なんであーしがここまで自分の叙事詩について知ってるのか。それは単純に、あーしがちょくちょくお忍びで吟遊詩人の歌を見に街に繰り出してたからだ、へへっ。
吟遊詩人について他にも思ったのは、アイツら中々パワフルなんだってゆーこと。
ネットと違って基本顔出しでしかやれねーのに、その場のノリで元の話から色々アレンジなんかもしていくからな。
ヘタなアレンジすりゃ炎上どころか速攻で街人からボコられるっつーのにさ。それでも手前の情熱が命じるままに、叙事詩に手前のセンスという名の色を混ぜていくんだ。
なんつーか話を歌って聴かせることへの、覚悟付きの意識の強さってもんを感じたぜ。そーゆー姿勢、あーしは嫌いじゃねーよ。
まあその中で見かけた吟遊詩人のひとりが、あーしのことを――
『魔道士に挑みしその聖女ー、心も体も力漲りー筋肉|はー……はち切れんばかりにー隆々《りゅうりゅう》ぅー』
――なんて歌いやがった時には、その場で尻蹴り上げてやったけどな。
でもちょっとウケちまったのが、ソイツ悶絶しながらそれでも『あーはぁーっ!? か、輝けるぅー、き、きんにぃくぅー……』って、最後まで筋肉で歌を締めてたんだよな。
まったく。歌ってる最中にあーしとドナキロのことをごっちゃにしちまったのか。
それとも単にどんな話のどんな登場人物でも、手前の脳内で勝手に筋肉隆々にしちまうってゆー性癖のヤツなのか。それはまあ、知らんけど。
それでも手前の歌の色を決して変えなかったその根性だけは、あーしも認めてやったよ。
お前バカだけど、でも中々一本スジの通ったバカじゃねーか――的なさ。
……と、そんな話を、あーしはスタミナ・ポーション買いに寺院に来てたナナカに話した。
「……ごめん、最後の方は一体何の話だったの?」
呆れてるっつーより、ガチで反応に困るみてーな表情でナナカはそー返してくる。
「いや、だからあーしは吟遊詩人ってもんが気に入ったってゆー話だよ」
「けどお尻蹴り上げたのよね?」
「ああ、蹴り上げて顔と名前憶えた」
「それ完全に『次に変な叙事詩歌ったら憶えてろよ』って脅す流れじゃない!」
「ちげーよ、ソイツのことは認めはしたって言ったじゃんっ!」
「でもお尻蹴り上げたのよね?」
二回目はちょっと念押す感じで言ってくるナナカ。でも若干変顔っぽくなってる辺り、半分はもう話のノリで言ってるだけ――みたいな雰囲気が出てる。
要するに、仲良い者同士の会話になってるっつーことだ。
「蹴り上げるくらいはするじゃんっ。そこはボケたらツッコミ入れられるまでがワンセットって感じで、蹴ったからこそその時点であーしの怒りも収まってるよっ!」
あーしも興奮気味に言ってるけど、ホントの気持ち的にはそこまででもないし、割と冷静だし、ぶっちゃけ勢いとノリを楽しむ為にそーしてるだけなのが顔に出てる筈だ。
「んふふっ、きっとその吟遊詩人さん的には天然ボケだったでしょうけどねっ」
「んふふっ、多分今日もどこかで『筋肉ぅー、きんにぃくぅー』って感じで歌ってると思うぜっ」
「んふふっ、やだもー」
「んふふっ、肩叩くなっての」
礼拝の間にあーしとナナカの和気あいあいな笑い声が響く。いやもちろん声は抑えめにはしてるけど。
周りに居る修道士や礼拝者達が慣れた感じで、主にあーしの方を向いて苦笑してくる。
「あっはっは、今日も聖女様はお元気だねぇ。ホントにもう、アンタが居るってだけでこの場所が明るくなって見えるよ」
「おー、そりゃあここはあーしの拠点だかんなっ。おばちゃんもいつも礼拝ごくろーさん」
今のはここによく礼拝に来てくれる街のおばちゃんだ。
あーしが聖女服を手に入れる前、ドナキロと一緒に街の小悪党をぶっ飛ばしてた時に知り合ってさ。
『あーしはその内ファリシアの聖女としてデビューするんだ。だから今あーしのファンになっとくと、後で古株として他のヤツに自慢出来るぜ?』
『あっはっは。威勢の良い子だねぇ、お前さんの全身から元気がみなぎって見えるよ。……そうだね、飽きがくるまでは追っかけさせてもらおうかねぇ』
……そんなやりとりがあってから、この寺院に顔出してくれるよーになったんだ。
今んところは、あーしにもこのファリシア寺院にも飽きずにいてくれてるってことなんだろう。知らんけどさ、へへっ。
このおばちゃんをはじめとして、ここに居る人らはもう大体あーしのノリを分かってる。
別にそーなるよーに狙ったりなんかはしてないぜ。
ただ単に、周りの人らの気持ちがちょっぴり軽くなるよーなことを言ったりやったりしてる内に、いつの間にかそーなってたのさ。
――(2)につづく!――
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