#15 ファリシアの基本理念!(1)
前回までのフェイロード編から、また新たな展開です。
リノンが城で出逢わなかった、ある人物についてのお話が……?
フェイロード城でエルギアドを帰らせた後のことは、大体こんな感じだ。
『レティシア、すまん。封印の鍵は奪われてしまった』
まず宝物庫から謁見の間に戻ってきたサーニス公が、申し訳なさそーに姫さまに謝ってさ。
『そうですか。お父様、あまり気に病みませんよう』
姫さまが優しい言葉を掛けてあげてたのを、あーしは闇魔法で弱った人らを回復させながら聞いたよ。
『うむ……。しかし一応、犯人の顔を見ることは出来た』
サーニス公が言うには宝物庫で、丁度封印の鍵を持って逃げよーとしてる犯人と鉢合わせしたんだとさ。
最初、犯人の姿は影のオーラに包まれててその姿は分からなかった。どーやらエルギアドがソイツに姿隠しの魔法を掛けてたらしい。
ただでさえ沢山のコウモリが城中飛び回って混乱してる状況で、そんなヤツに紛れ込まれたら兵士達も対処し切れねーよな。
おまけにかなりすばしっこいヤツらしくて、宝物庫近くに居た兵士は皆ソイツの速攻の不意打ちで動けなくされちまってて。
それでもサーニス公は一人で、ヤツの手から封印の鍵を取り戻そうと剣で立ち向かっていったんだ。
相手の姿を捉え難い所為で苦戦したものの、でもサーニス公は一瞬の隙を突いて攻め込んだ。
そんで、焦るソイツの精神集中が乱れて、姿隠しのオーラが掻き消えたんだってさ!
ただ……その明らかになった姿がちょっとばかり異常だった。
『狐の耳と尻尾を生やした、人間の顔と肌の女ぁ!?』
『それって、通常の狐野郎とは違う……ということですの?』
この世界ゼルトユニアには獣人族っていう、全身ほぼほぼ何らかの獣みてーな見た目でありながら、それでいて人間みてーな二足歩行の体格を持った種族が居る。
ソイツら自身は基本、顔や体の風貌が獣のそれであることに種族としての誇りを持っててさ。
人間と共存はしてるけど、自分の種族の見た目が人間に寄り過ぎてしまうよーなことは嫌ってるんだ。
だから狼人とかって風に呼ぶとイラつかれる。◯◯人じゃなく◯◯野郎って呼ばれる方が、ソイツらにとっては寧ろ好ましいことってワケ。
……一見ふざけた話みてーに思えるだろーけど、これが連中にとっては笑い事じゃあ無い。
『狐野郎であること自体は間違い無いだろう。ただ、恐らくその者は変異種だ』
サーニス公のその言葉を聞いて……あーしは前に寺院で読んだ、この世界についての本の一冊に書いてた内容を思い出した。
『獣人の変異種――人間の輪からも獣人の輪からも外れがちで、それ故に世界に対して捻くれちまいがちな、あまりに自身の魂の因子が作用し過ぎた存在。遍く輪廻の奔流の中では稀に生じ得る、魂に刻まれたかつての記憶が肉体までもを変異させた希少事象……か」
あーしは自分で言った言葉でありながら、言った後でなんとなく感じたその重みから、ため息を吐かずにはいられなかった。
基本難しい文章は苦手なあーしだけど、そのあまりにもエッジの利いた単語ばっか並んだ文章は、逆に頭にこびりついて離れなかったんだよな。
……そん時は変異種って単語に、はみ出し者ムーブしててかっけーじゃんって、そんなプラスのイメージを持ちもしてたけど。
変異種ってのはさ、まさにその人間に寄り過ぎた外見として産まれたヤツのことなんだ。
産まれた時から既にはみ出してるってこと。実際の本人やその周りの連中からしたら、結構な一大事だってのは流石に想像が出来る。
『狐野郎の変異種で、女……ですか。お父様、他に背丈などの特徴はお分かりですか?』
『姫さま、まさかここに来てソイツに嫉妬とかしてるんじゃないすよね?』
『ありませんわ。エルギアドがそういったことには無神経な人だというのは、既に思い知っていますから。――彼は相手が男性でも女性でも、分け隔て無く天然に尊大というだけの人なのです』
姫さまのそのエルギアド評は、あーしには正しいもんだと思えたよ。
『まあ、次に会った時には確実に私が殴ってやりますけど。……そうですわね、具体的には鼻骨を割ります』
『レ、レティシアよ……我が娘ながら、逞しく、な、なったな……』
サーニス公は若干引いてたけど、姫さまのその心情には、あーしは細かく触れる気は無かった。
複雑な思いはそれはそれで抱いたとして、それとは別で、シンプルにムカつきは晴らしたい――そーゆー二つの気持ちを同時に持つのは女には普通にあり得ることだからな。
『そっか、なら良かったっす。姫さまが割るなら、きっと良い音が鳴るんでしょーね。あーしも出来れば傍に居てその音を聞きたいっすよ』
女がそーゆー微妙な心理状態してる時は、あーしはあんまり刺激しないでいてやってる。
別に嘘でもいーから大体な感じで肯定して見せて、相手の気持ちをしっとり宥めてやるイメージで接するんだ。
『ふふっ。聖女様ったら、変なおだて方をなさいますのね。けど悪い気はしませんわ』
姫さまはあーしに、そー言って笑ってくれた。
あーしの言葉が嘘と分かってるんだろーけど、でも下心の無い思い遣りの為の嘘だとも分かってるから、こーして笑ってくれてたんだろーな。
『……せ、聖女様は我が娘にも増して精神が屈強であられますなぁ』
サーニス公は純情過ぎるから、あーしらのトークを鵜呑みにしてカンペキに引いてたけどさ。
そんなサーニス公だったけど、それでも変異種とやらの特徴はしっかりと話してくれたんだぜ。
『その者は明るい紫のような色の癖ついた髪をしておってな、後ろ髪の長さは首の辺りと短めだった。切れ長の目で目元をこう、とても薄い緑の水面のような色に塗っておって。とにかく独特な印象を放っておったが、しかし美しい女であったぞ。背丈は……うむ、聖女様よりも少し高い位かもしれん』
『目元を塗ってるってのは、アイラインのことすかね? ……薄い緑かー、ちょっと興味湧くな』
『私でしたら選ばない色ですけれど。聖女様は好みの幅が広いのですわね?』
姫さまが意外そーな感じで言ってきたけど、あーしが思ってることはちょっと違ってた。
『いや、あーしも自分じゃ選ばねーすよ。でも髪色が明るめの紫してるってんなら、なんとなくそれとは合うのかもしれねーって思って』
『確かに、コーディネートとは全体を考えて行うものですが……しかしその者の合わせに興味をお持ちになるというのは、つまりどういうことですの?』
そー尋ねる姫さまに、あーしはこー答えた。
『手前に合う化粧を知ってるってのは、手前っていうもんを手前でちゃんと理解してるってこと。……そーゆーヤツには、あーしはある種の女の格を感じるんすよ』
この返しだけで、姫さまはあーしの意図を理解したようだった。
『――っ! 聖女様はもう既に、まだ見ぬその者との距離を詰め始めておられますのね。的確に、相手の心へと狩りを行いにいく為に……』
――この城でこの私にもそうしたように……姫さまの目は、あーしに向けてそー言ってたぜ。
相手との相性ってもんは、理屈で考えて測れるよーなもんじゃねえ。ほんの少しの特徴から、手前の感性で感じ取っていくのさ。
『へへっ、まあぶっちゃけるとそーゆーことっすね。相手がどこまでやれるヤツなのか次第で、あーしのやり方も変わってくるんで』
出来れば、手加減しねーでいい相手だといいって思うよ。制限無しに思いっきりやれる強敵の方が、作戦は寧ろ立てやすいからな。
……と、ここまでが封印の鍵を奪った犯人についての話だ。
――(2)につづく!――
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