#13 アブナイ女とアブナイ男!(4)
レティシア姫もエルギアドも、それぞれに思いがあるのですよね。
「答えなさいエルギアド。貴方は何の為にこの城にやって来たの?」
姫さまの真剣な眼差しがヤツを刺す。
……その心の刃が効いた。エルギアドの重かった口がここで遂に開かれたんだ。
「……レティシア。僕はね、この国に封じられている魔物の守り神を、この手で目覚めさせるつもりでいるんだ」
魔物の守り神ぃ!? なんだそりゃ!
姫さまもその単語には驚いてるみてーだぞ。
それに、なんかドナキロも凄え驚いてる……?
「それってまさか……」
姫さまは勢いよくサーニス公の方に振り向いた。
「お父様! お父様がかつてお聞かせくださったあの――ってこんな時に何をお食べになってるんですのっ!!」
「うおおっ!? す、すまんレティシアぁっ、あむあむぅ!!」
ごめん姫さま、それあーしがあげたこの城の飴玉。
でもサーニス公も流石王様だ。実の娘にキレられたからって急いで飴玉を噛み砕いたりはしてねえ、どこまでもお上品に舐め続けてるぜ。
「魔物の守り神といえば、魔王軍全盛の頃にこの地を脅かしていた存在あむ……当時一介の戦士だった私が、あむ、仲間と共に封印した魔物の重鎮のことだあむ。エルギアドよ、お前はそれを復活させよういうのかっ! あむっ!!」
めっちゃ真剣な顔でエルギアドに問い詰めてるけど、口の中で飴玉を転がしてるもんだからイマイチ話の深刻さが伝わってこねー。やっぱその飴玉もう噛んじゃっていいんじゃねーかな。
けどエルギアドはそこは気にしねーとばかりに、サーニス公の言葉に答えてきた。
「その通りですサーニス公。僕は貴方が封じたものを解き放つことで、貴方が築いたこの国に新たな可能性を示せると思い至ったのですよ。その為にこの城を訪れました」
……はぁん? なんだコイツ、サーニス公への当てつけみてーに言いやがってよ。
だけどサーニス公の方は驚愕って感じの表情になっちまってた。姫さまやドナキロの驚き方よりも遥かに凄え顔だ。
「まさか、封印の鍵となるあの品が狙いか!? いかん、いかんぞエルギアドっ!!」
封印の鍵ぃ? んだよ新情報が多過ぎんぞ、ったくよー!
エルギアドは更に姫さまに対しても熱弁かましてきやがる。
「レティシア。僕は以前からキミに話していた通り、魔王軍から離れられずその残党とならざるを得なかった者達に、手を差し伸べる人間になるんだ。――一番最短の方法でね」
さんざん勿体つけた分、ドヤァって感じの顔でそー語るエルギアド。はっきり言って、あーしから見れば面倒くせえことこの上ねー。
だけどエルギアドはそんな風にエラそーにしながら、姫さまに対しては手を差し伸べるよーにしてくる。
「……今だったら、僕はキミを連れていってあげられる。あの頃、僕の話にキミは耳を傾けてくれて、そして共感もしてくれた。キミが一緒に来てくれるなら僕だって嬉しいんだ」
「エルギアド……」
「どうだい、レティシア?」
レティシア姫は悩んだ様子だったけど……。
でも悩んだ後、エルギアドの言葉にはこういう風に返したんだ。
「エルギアド。それなら何故、この城から脱出をしたあの時に私を連れていってくれませんでしたの?」
あの時って。サーニス公がエルギアドを幽閉しとこうとした時のことか。
「あの時はまだ僕自身色々な準備が出来ていなかったから、そんな不安定な状態のままキミを巻き込んではいけないと思ったんだ。さっきまでキミに中々話し掛けられなかったのは、キミを置いてきぼりにしたことの気まずさからさ……」
エルギアドのヤツは、なんかもっともらしーこと言ってやがるけどさ。
でもそれってさ……。
ヤツは本当に気まずかったっていう表情を姫さまに見せた後、こう続ける。
「でももう違う。あれから僕は頑張って闇魔法も習得して、そして今この城の中で優位に立てたことから自信も付いた。この先キミを連れて行ってからでも、僕の力で守ってあげられると約束出来る!」
本気に姫さまのことを考えてるっていう、その気持ちは感じるけど。
でもコイツさ。やっぱちょっと、思い違いをしちまってるよ……。
「……」
姫さまはずっとエルギアドの顔を見ながら、黙ってた。
まるで、アイツの瞳に自分がどう映っているのかを見極めたかのように。
「……そう。私を頼りにしては貰えない、ということですのね」
姫さまが言ったこの言葉の意味が、あーしには分かる。
姫さまはエルギアドのいかにも『キミを気遣ってるよ』という言葉を、自分という存在への――いや、自分という女への拒絶だという風に受け取ったんだ。
そしてそんなエルギアドの言葉を、自分もまた拒絶した。
……そこに恋心が絡んでいるのなら、そこに関わる一切のことを常識なんかで考えちゃいけねー。
片方が白だと思って言ったことでも、例えそれを聞いた外野全員も白だと思ったことだとしても、当のもう片方がそれを黒だと思えば、その白は全部一斉に黒へとひっくり返る。
それが恋する者の世界ってヤツなんだ。
エルギアドは『バカな、そんなの信じられない!』って顔でレティシア姫さまを見てる。
姫さまはそんなエルギアドの顔を、悲痛な顔をしながら、それでも目をそらさずに見つめ続けてる。
誰も、この二人の世界には割って入っちゃいけない。
……だけど。どーやらこれで、あーしのすることが決まったぜ。
「頼りにって……。でもキミには、魔王軍残党や蔑ろにされた魔物達の心に通じうる闇魔法の習得は不可能じゃないか。彼らにアプローチを掛けることに関しては僕でなければならない。それが叶うまでは一緒に居ても寧ろキミに迷惑を掛けてしまうだけだし、それなら一旦は離れていた方がお互いの為だと思って……」
「さっきから聞いてりゃ、理屈くせえことばっか言いやがってよー」
あーしの言葉に、姫さまとエルギアドが反応した。
「聖女様!?」
「な、なんだい突然……」
「女が一緒に居たいと思ってる時に傍に居させてやる――たったそれだけのことで良かったのによー。お前は無駄な言い訳ばっかり抜かして、それをしてやらなかったんだよっ!」
「な、何をっ!!」
あーしのこの言葉にエルギアドは顔を真っ赤にして怒ってくる。
そりゃそーだよな。手前が良いことだと信じて必死で姫さまに伝えよーとしたことを、赤の他人のあーしから『無駄』って言われたんだからな。
そりゃ怒るよな。でもまぁ、それでいいぜ。
二人の世界にはあーしは入らねえ。エルギアド、お前から見てただのムカつく赤の他人で構わねえ。
姫さまが不安そーな顔でエルギアドとあーしのことを見てる。
心配すんなよ、レティシア姫さま。アンタは心の勝負ではもうエルギアドに勝ってっからさ。
後は行き過ぎたことをやったコイツへのお仕置きをするだけ。でもそれはあーしにやらせてくれ。
この聖女リノンさんにな、へへっ。
あーしはエルギアドに向けてこう言ってやる。
「キレイな理想ばっかり振りかざしてたって、女は乗れねーんだよ! それが分からずに『キミの為』なんて言ってるの、サイコーにダセえぜエルギアド!!」
そして手に煌綺妙杖を出現させる。
あーしの行動に、エルギアドも完璧にキレた表情になって手前の杖を構えてきた。
ゼルトユニアに来てあーしが新しく読めるよーになった空気――。
それはっ!
「如何にファリシアの聖女とて、僕の理想を、レティシアへの思いを汚すことは許さんっ!」
「闇魔法でもなんでも、かかってきやがれっ!」
真剣戦闘開始の空気だぜえーーー!!
――#13 おわり!――
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