#12 タテマエの上にノリを乗せればウマイ!(2)
レティシア姫様の心は複雑な様子……?
「ところで姫さまから見て、サーニス公ってどーすか?」
「どうして父のことをお聞きになるんですの?」
そんなのいきなりエルギアドのこと聞いたって、アンタすんなり答えたりしねーだろが。
だからちっとばかり遠回りして話振ってんのさ。当然、本題への入り口だってのを匂わせ過ぎねーよーに偽装もしてな。
「そっすね。あーし一応ファリシア寺院を代表して来てるワケっすから、この城の代表をやってるあの人のことはもっと知っときたいなって」
この辺は本題に対してはぶっちゃけ建前ってヤツなんだが、でもこれはこれでちゃんと重要なことだったりするんだぜ。
狙いは二つだ。
一つめは今後も、サーニス公やフェイロード城の人らと上手く付き合ってく為。
何も今回の問題だけ解決したらハイさよならってするワケじゃねー。
なんたって魔王軍残党なんて厄介なもんも居るんだからな。
いざとゆー時にここの人達に手ぇ貸して貰えるよーに、サーニス公とはちゃんと仲良くしとく必要がある。
二つめは……姫さまが自分の立場ってもんをどれだけ自覚してるのか。それを見る為だ。
「……強くお優しい方ですわ。民も臣下も父を敬愛しています」
ふーん。流石にいきなり『父はそれ以外の者は蔑ろにしていますけど』とは言ってこなかったか。
そりゃそーだよな。幾ら心ん中ではサーニス公にムカついてたとしても、あーしに向かってそんなことは言えねーよな。
何故ならあーしが寺院の代表だって前置きしてる以上、姫である手前がこの城の代表をサゲるワケにはいかねーからだぜ。
手前の立場を何も考えねーでそんなことをするなら、この姫さまは本物のバカヤローだ。
バカヤローじゃないからこそ、この先もちゃんと舌戦する価値があるのさ。
「ああ。実際今外で待ってるドナキロのことだって、受け入れてくれたっすもんねー。確かに器のデカそーな人だなって思いますよっ」
ここは少し強く押してくか。わざとノー天気な感じ出しながら言ってやる。
あーしはニホンでも煌めくギャルだったんだ。賢くしながら頭悪く見せるなんて余裕でやれる。
「……」
……あーしの言葉に姫さまの表情が一瞬変わった。当然それは見逃してねーぜ。
「……けれど父も一人の人間。全ての者に対してその寛容さを向けられる、という訳ではありません」
あくまで平然を装って、かつ自分の親父を気にかけてる風に返してきたな。
でも姫さま、アンタから出てる空気が張り詰めてきてるのはゴマかせてねーよ。
「それは、まあそーすよね。けどそんな中で頑張って王さまやってるんだから、あーしはやっぱあの人凄えなってなるなぁ。……そんな人のことを悪く思うなんて、まさかそんなこと出来るヤツ居ねーっすよね姫さま?」
更に煽っていってやる。押すなら静かに熱く押せ、だ。
さあどー出るレティシア姫。ここからの返しはアンタの真価が問われるぜ?
「……」
姫さまが、今度は露骨にジト目を向けてきた。
こっちの揺さぶりが効いてる証拠だ。
さあ何か返してこいレティシア姫。それともまさかレベルの低い女みてーに、ここまで来てもまだ機嫌悪く見せりゃそれでなんとかなるなんて、そんな行動はしねーよな?
姫さまはジト目顔から一転して、さっきまでの平然とした落ち着き顔を取り戻した。
「当然のことでしょう。父に反目するなど、とんでもないことだと思いますわ」
……なるほどそーきたか。
姫さま、逆に絶対に隙を見せまいと決意し直したみてーだ。
今の状況からここまで立て直してみせやがった。やっぱこの姫さまかなり精神強いわ。
ただ……。
「国を思う父の心労、如何ばかりか。私も胸が痛みます……」
もしかしたら、姫さまの中でホントに何かを思い直した可能性はゼロじゃないかもしれねー。
左胸に拳を当てて、物思うよーに目をつむってる姫さま。その仕草は何処となくサーニス公に似てたんだ。
……親父さんのこと、なんだかんだでよく見てるのかもしれねーな。
「あーしもサーニス公のことは頼りにさせてもらおーと思ってるっす。姫さまもどーかよろですってことで、ね?」
あーしは姫さまとも仲良くはしてえ。だからウインクキメて、右手をすっと差し出したぜ。
「……こちらこそ」
姫さまは落ち着き顔はキープしてるものの言葉数は少なく、それでもあーしの手を握り返してきてくれた。
「アナタのこと、とても頼もしい方だと思いますわ」
お、なんだよそれ。もしかしてちょっと皮肉入ってる?
けどそーだとしてもありがたいね。異世界の国のお姫さまと、ちゃんと甘噛みのケンカが出来てるってことだからさ。
「姫さま、結構カッチリした手なんすね」
「剣の鍛錬をしている以上、どうしてもそうなるのですわ」
「そっか。姫さまだって頼もしいすよ」
ケンカってのは互いの意思がある程度通じてるから出来るもんだ。
例え元居た世界が違ってよーとも。あーしにとっちゃあこれで、姫さまとは同じ地に足つけた人間同士なんだってことが確信出来たぜ。へへっ。
姫さまは握手を解いてから、ひとつ小さくため息をついた。
そんで改めて……ん? なんかあーしのことを全身舐め回すよーに見てきたぞ。
「……ところで聖女様のその衣服、とても良いお品と見受けます」
――っ! マジか、この聖女服に興味持ってくれてるのか!?
こりゃあ姫さま、皮肉だけじゃなくホントにあーしに一目置いてくれてるかもしれねーぞ。
まだ笑顔でトークってワケにはいかねーけどさ。素直じゃねーってだけで、ここまでのあーしの立ち回り方に関心は示してると思うぜっ。
じゃなきゃわざわざ服のことなんて聞いてこねーよっ。
「あー、そーなんですよー! これ、ナナ・クゥって防具ブランドのデザイナーに作ってもらったもんなんです!」
それにこれはナナカのブランドをアピれるチャンスでもある。ぜってー雑には出来ねー話題だ!
「もしかして特別注文ですか? ナナ・クゥという名は知りませんでしたが、その外観からは美麗さは勿論のこと、厳かさと貞淑さの両方が感じられます」
「そっすかー! ありがとーございますっ!」
姫さまのこの言葉からはウソは少しも感じられねー。純粋にこの聖女服を褒めてくれてるんだ。
これはホントに間違いねー。服と食う物と住んでる所、この三つを不当にサゲてくるなんてことは人間としてあっちゃダメなことだもん。
あはっ、そっかー。厳かさと貞淑さってどっちも意味は分かんねーけど、とにかく姫さまが良い印象を持ってるのだけはめっちゃ分かるぞっ。
「ナナ・クゥは戦う女のオシャレが構想なんす。防具としての機能だけじゃなく、その美観が纏った女の容姿や精神の能力値をも引き上げるんすよ! でそれが実際に戦いの中でも活きるんす!!」
あーしのまくし立てるよーな説明に、姫さまは一瞬戸惑う感じになりながらも最後まで聞いてくれた。
「な、成程、ナナ・クゥとはステキなブランドなのだと思いますわ。――それにしても、うふふ」
うおっ、今度はなんか笑いだしもしたぞ。
「さーせん、一気にしゃべり過ぎたっすね」
「いえ、構いませんわ。こちらも聖女様の熱の入ったご説明につい驚いてしまって」
姫さまの声色があったかくなってる。
なんか急にトントンと良い感じになってきてるぞ。
けどまぁ一度こっちのことを大したヤツだと思わせられれば、こーゆー流れも起こるもんだぜ。知らんけどなっ。
「ホントにさーせん。でもあーしこの服手に入れる為にマジで頑張ってたんで」
「そうですか。ふふふふふっ」
姫さまはなんかもー、あーしと心の距離を取ってたのがウソみてーに、腹に手ぇ当てて爆笑しちまってる。
そっか、それがアンタの笑顔なんだな。なんだよ可愛らしいじゃねーか。
姫さまは笑い終わってから、改めて落ち着いて話しかけてきた。けど前よりもちょっぴり良い顔になってる気がする。
「――聖女様は本当は私に、他にお聞きになりたいことがあって来られたのでしょう? なのに本来の目的とは違うであろうお話を、最初からずっと真剣に語ってくださってましたね」
「へへっ、まぁね。けど姫さまとこーして話すの自体が、ぶっちゃけ楽しかったすよ」
あーしは自分が今一番心に思ってることを素直に打ち明けた。
「そうですのね。ふふっ」
姫さまがふっと笑ったのを見て、あーしも――
「あはっ」
――自然と笑っちまってた。
ーー(3)につづく!ーー
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