#10 レティシア姫、のち曇り!(2)
聖女リノンVSレティシア姫!?
※
レティシア姫さまの部屋の前。
あーしはひと呼吸してからドアをノックした。
「――無礼ね。次は夕食の時に来なさいと私は命じたわよ」
気の強よそーなピシッとした感じの声でそんな言葉が返ってくる。
どーやらあーしをさっきのメイドさんと勘違いしてるみてーだな。
「さーせん、あーしファリシアの聖女リノンっていいます」
「えっ!?」
あーしが名乗ると中からバタバタと音がしだして。
そっからちょっと音が止まって。
「……?」
……あーしが変に思って近付こうとした時に、まるで狙いすましたみてーに勢い良くドアが開いた。
バンッ――。
「危なっ!!」
「……この奇襲を躱すとは、確かに並の人ではないわね」
「何が奇襲だっ! とっさに避けたから良かったものの、危うく顔面ばちこーんってなるトコだったろーが!」
姫さまの姿が見えた。あーしよりちょっと背が低いかって位で、多分百六十四センチある。
あーしのミルクティー・ベージュの髪よりも、もっと金色に寄った、けど温かみもある感じのキャラメル・ブロンドのロングヘア。
フリフリのドレスとかではない、淡いアイボリー色のフォーマルな長袖服とプリーツ・ロングスカート。
きっと城の中での普段着ってヤツなんだろうな。
逆に言えば今日この格好をしてるってのは、最初から聖女のあーしを謁見の間で迎える気は無かったっていうことだ。
それでもそんな普段着でもこの姫さまは、はっきりした形の大きな目でめっちゃ可愛いし気品もあるし、おまけにあーしに負けねー位胸がでっかい。
が、あーしの顔面にばちこーんさせようとしたことは許せねー。
「貴女のその荘厳な気に溢れた姿。本当に聖女様でいらっしゃいますか?」
「だぁらそー言ってんだろっ!」
くっそ。微妙に褒められてる気はするけど、やられた事が乱暴だから素直に受け取れねーっ。
「リノンちゃん落ち着くんじゃい。こっちが怒ってしまったら、何の為に姫のおやつ後に会いに来たか分からんのじゃい」
「私の、おやつ後? 成程そういうことですのね」
ドナキロの言葉にレティシア姫は半分呆れた表情で頷きだす。
「おやつ後という言い表し方は新鮮に聞こえますが……ティータイム後のことであると理解しました」
「くっ。すまねーな、そーゆー品のある言い方が出来なくてよー」
「そういえばそのティータイムの最中、世話番の給仕が変に私の機嫌をうかがっていたのですわ。でもそれは聖女様がお越しになることを、給仕も知っていたからなのですね」
この姫さま、あーしの怒りを涼しげに受け止めてやがるっ!?
流暢な感じでそう語って、そんでもって逆にあーしへと探るよーな目線を向けてきてるぞ……。
コ、コイツ……。
あーしより年下なのに、なんていうかマジに骨のあるヤツだ。
「え、えーっと」
くっ、しゃーねー。ここはドナキロの言う通り落ち着いて、ホントのこと言うか。
ここでキョドったら更にナメられちまいそーだかんな。
「実はサーニ――」
「ごめんなさい」
うっ、言葉が被った?
「えっ?」
「あっ?」
「ああいや、レティシアさまからどーぞ」
流石に冷静な会話で姫さまより出しゃばるワケにはいかねー。さっさとこっちの用件も言いてーところだけどな。
「それでは。……ごめんなさい、今日は聖女様のお出迎えに参加せずにいて」
そう話をしだした姫さまはさっきまでのやや硬い感じから一転して、やたら素直な感じでぺこりしてきた。
後ろに居るウブなドナキロが思わず「お、おう……」って表情を和らげちまう位の、素直で可愛らしい仕草だ。
……なんかマズい流れかもしれねーって、あーしの女の勘がそー言ってきてる。
用が有って来たのはあーしの方だってのに、さっきから話の主導権が姫さまの方にあるみてーな空気が漂ってる。
このままじゃなんとなくはぐらかされて、強引に話を終わらされるかもしれねー。
ならここは――ヘタに空気に逆らうな、だ。
「別にいいっすよー、事情が有るからだってのはサーニス公から聞いてきてますから。それより中に入っていいすか? あーし、その辺の話を姫さまとしたくて来たんで」
あーしも自分から態度を柔らかくしていくぜ。
空気を読めないヤツってのは、空気にテメーの波長を合わせられないヤツのことだからな。
あくまで親しげなニッコリ顔を見せながら、会話のターンがこっちにある内に一気にそこまで伝えていく。
――そして、言葉以上に目でっ! 姫さまに向かって『中に入れろ』とそー叫ぶっ!
「うっ!? い、一点の曇りも無いその煌びやかな瞳……。そのお申し出、無下には出来ませんわね」
まるで怖気付いたみてーな感じで姫さまがそー答えた。
よし、あーし自慢の目力が役に立ったな。
そー長く使えるもんじゃねーけど、一瞬でも怯ませることが出来ればやりよーはあるんだよっ。
言ってる間に、姫さまは元の骨のある表情に戻る。
「ただし、そちらの従者の方にはご遠慮願います」
「このドナキロは魔物だけど良いヤツっすよ?」
「そういうお話ではありませんの。一城の姫たるもの、みだりに殿方を部屋に入れてはならないのですわ」
あー、そーゆーことか。確かに変なウワサとか立ったらめんどくせーもんな。
「と、殿方……。そんな風に言われたらなんか照れてしまうんじゃい……」
ドナキロのヤツは相変わらずって感じで顔赤くしてるけど。
残念だけど今回の殿方って言葉は単に男だって意味なだけで、別にカッコいいとかってことじゃねーぞ。勘違いすんなよ、ケガすんぞ。
実際姫さまはドナキロにはそんなにキョーミを示さずに、独りうつむいてため息を吐いてた。
「それに……」
「姫さま?」
「……いえ、話は中で致しましょう。待っていて下さいますね、従者さん?」
苦笑みてーな微笑みで、ドナキロに告げてくる姫さま。
「おう。ここでいつまでも待つんじゃい」
そして素直に言うことを聞くドナキロ。完全にこの姫さまのことを『姫さまっ』て感じで見てやがる。
まあしゃーねーか。ウブなコイツに女の裏まで見抜けなんていうのは酷な話だ。
他のヤツが中にやって来たりしないよーに、ここで見張って貰ってた方がいい。
これからきっと重要な話になるだろーからな。
「すまねードナキロ。ちょっとの間辛抱しててくれよな」
――(3)につづく!――
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