#10 レティシア姫、のち曇り!(1)
城といえばお姫様! ……かどうかは知りませんが、ここの姫は一癖ありそう?
サーニス公とダンタリアスおっさんの話に、あーしは割って入ることにした。
「あのー、そのレティシア様ってどうかしたんすか?」
二人のあまりの慌てっぷりに、こりゃ聞かずにはいらんねーだろってなったからだ。
「おおぅわっ! い、いやリノン様が気にされる必要は無いですぞっ!」
「そ、その通りぃっ! これはあくまでフェイロード城内部の事情なのだあ!」
いや、そんなめっちゃキョドりながら強がられてもな……。
「でも見た感じ、二人ともめっちゃその人の事気にしてそーだし。あーしも折角招待して貰っといて、このままただ知らん顔は出来ねーっつーか、ね?」
それにやっぱ、リアルに姫様っていうもんへのキョーミもあるしさ。
あーしの言葉にサーニス公とダンタリアスはハッとした表情になって、今度はお互い顔を見合わせながら遂には鼻息だけで会話をし始めやがった。
「フンフン! フフンフ、フ、フ、ンーフッ!!」
「フンフフ、フッ! フフンフフ、フッフン!!」
――ぜんっぜん分からん! てかなんでこいつらはこれで通じ合ってんだよっ!!
ったく。ほれみろ、周りの家来とか兵士とかみんな笑っていいのかどうか微妙な顔してんじゃねーか。
「なあドナキロ、アレどー思うよ?」
「ほうほう、成程なんじゃい」
「お前は分かってるんかーいっ!?」
コイツ、アゴに手ぇ当ててマジで真剣に頷いてやがる……!
「おう。アレはゼルトユニアに伝わる、熟達の者同士にだけ可能な対話法――」
「いい、知りたくねー! 知ったら今後あーしまで、フンフン言わなきゃいけなくなるよーな気がすっからぁ!」
そんなんぜってーイヤだからぁっ!!
「そ、そうか。リノンちゃんがそんな怖い顔してまで言うんだったら、ワシも無理に教えたりはせんのじゃい」
よっし。そーゆー風に相手の嫌がる顔見てちゃんと止められるトコが、お前のイケメンたる所以だぜ。
ただ『怖い顔』っつったのは一言余計だけどなっ。
そーこーしてる内に二人のフンフン語が収まった。
そんでもって――。
「リノン様、お恥ずかしい話になりますが貴女にお話ししましょう。我が娘レティシアのことを……」
サーニス公がちょっとだけ疲れたおっさんみてーな顔をしながら、あーしにそう言ってきたんだ。
「そ、そうすか。お願いします」
……良かったぜ。
あーしにまでフンフン語使ってきたらどーしようかと思ったわ。
※
謁見が終わって、今あーしとドナキロは来賓用の部屋でまったりしてる。
来賓ってのは、まあ簡単に言えば超お客様ってことだ。
「で、リノンちゃんはいつレティシア姫に会いに行くんじゃい」
腕組みしながら言ってくるドナキロに、あーしはソファーに座った状態で答えてやる。
「そーだな。おやつ食ってからにしよーぜ」
『しよーぜ』と今決めたみたいに言ったけど、実は最初から行くならそのタイミングにしようと決めてた。
「ふむぅ。てっきりリノンちゃんのことだから、サーニス公から姫の話を聞いた後すぐに行くんだと思ったんじゃい」
「そんながっついた男じゃあるまいし。幾ら気になる相手だからってそんな速攻で行きゃしねーよ」
こーゆーのは基本焦って動いても良いことねーもんだ。
ドナキロのヤツは「うむぅ」とか言って目線を上に向けてやがる。
過去の自分の女に対する行動でも振り返ってるのかもな、へへっ。
あーしは机にちょこんと置いてある籠から、包みに入った飴玉を手に取った。
「……はむ。うん、美味え」
適度な甘味が口ん中に広がって、心にまで浸透して落ち着いた気分にさせてくれるぜ。
「ほら、お前も食べろよ」
そう言ってドナキロにもひとつ手渡してやる。
「おう、頂くんじゃい」
一口めで速攻バリッて音が鳴った。
ったく、ゴーカイな食いっぷりだな。
「……うむ。美味いんじゃい」
「だな。この飴玉以外にも城の連中って普段から良いもん食ってんだろーなー。特に姫様ともなるとさ」
「そりゃあ国のてっぺんに立つ人間のお子さんなら、丈夫で居てもらう為にもしっかり栄養を摂らせるもんじゃい」
「まーな。でもそうやって育てた子供が十五歳になった今、絶賛反抗期を迎えちまってるワケだ」
サーニス公の言葉の一部を思い出す。
『我が娘は良く文武に打ち込み気風もしっかりしていますが……恥ずかしながら最近はそんなあの子を、私の方が御し切れておらぬのです』
あーしも高校生なりたての頃の方が、もっと大人に対して反抗的だったなー。
でもあーしの場合は別に理由とかは無くてさ。
なんつーか自分の中でやたらとパワーが溢れてしょーがなかっただけだった。
親よりも自分の友達と一緒に過ごす方が、ずっと大事みてーに思ってたもんだ。
「どうしたリノンちゃん、何笑ってるんじゃい?」
「ん、ちょっと昔を思い出してた」
トントンと、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けて出迎えたドナキロに、ノックした本人であるメイドさんがめっちゃ驚いた顔をしてから――
「聖女様、レティシア様がティータイムを終えられまして御座います」
――一瞬で落ち着き払ったすまし顔になって、そう教えてきてくれた。
流石メイドさんってのは、礼儀作法ってのが整ってるもんだな。ちょっぴり憧れるわ、ホントにちょっぴりだけな。
「そうすか。りょーかいしました」
この人はレティシア姫のお世話番でさ。
実は事前に、レティシア姫がおやつを食い終わったら教えてもらうよー頼んでおいたんだよな。
「よっしドナキロ、姫様がほっこりしてる内に会いにこーぜ」
大人はどーか知らねーけど、年頃のヤツなら誰でもおやつはちょっとした特別なものに見えてる筈だ。
それを食って心が満たされたそのすぐの間なら、幾ら反抗期の姫様だろーとそうそう邪険にされねーだろうさ。
多分な、へへっ。
――(2)につづく!――
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