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8話 マリーゴールドの花畑(前編)


 ゲームが始まってから4日目。ラパンを12匹狩り終えた私たちは一度宿に向かう。

 太陽はすでに南中を終えていた。


「人多くない? スロットが貰える情報が出回ったのかな?」

 フィッシャの街よりは少ないが、どこもかしこも大勢の人々で賑わっていた。


「こんなに人いたら泊まる場所ないぞ」

「日帰りやなかと?」

「スロット貰ってすぐに帰るなら、確かに日帰りはできるな。体力持つかしんねーけどさ」

 ルージュ村まで来た人たちの、帰路を陣内くんが心配している。


「でもさ、フィッシャから来た人たちが大勢いるなら、情報は集めやすそうだね」


 お昼ご飯を食べて情報集めと探索を開始する。

 一昨日は夕方に到着して、昨日はみな仲良く寝坊したから探索の時間はほぼなく、私たちはルージュ村に3日もいるのに詳しく知らなかった。


 古川くんとペアを組み南東を中心に探索を開始する。


「あれ、馬車だよね?」

「だな」


 中央広場から南東へ坂を下ると、『ルージュ村停留所』と書かれた看板と待合所があった。 その前では、2頭仕立ての馬車がゆっくりと動き出している。


「いっちゃったね」

「とりあえず調べにいくか」

「うん!」


 待合所の中は、カウンターで受付をしているNPC以外誰もいず深閑している。


『ようこそ、ルージュ村停留所へ』

 老婆の見た目をしたNPCは、起伏のない声で話しかけてくる。


「ここで馬車に乗れるのか?」

『行き先を教えてください』

「馬車にはどうやってのる?」

『行き先を指定して、受付でチケットを購入ください』

「古川くん古川くん、私に任せて」

 NPCから情報を上手く聞き出せないで、イライラしている古川くんに代わり情報を聞き出すことにする。


「各停留所の料金を教えてください」

『フィッシャの街 600リン、ダルク村 600リン、フラリスの街 1200リンです』

 新たな街の情報に、私と古川くんは顔を見合わせる。


「水田、もっと聞き出してくれ」

 軽く頷いて質問を飛ばす。


「フラリスの街の情報はありますか?」

『フラリスの街へは1200リンでいけます』


 この質問ではだめか。


「フラリスまでの所要時間を教えてください」

『フラリスの街まではおおよそ2時間30分で到着します』


「フィッシャまでの所要時間を教えてください」

『フィッシャの街まではおおよそ1時間15分で到着します』


 値段設定からフィッシャの街とダルク村までは同じくらいの距離だろう。

 そして、フラリスは値段が倍。つまり、フラリスはフィッシャからルージュ村の倍の距離はあることになる。


「馬車について教えてください」

『馬車は各街や村に設置されている停留所を移動できる乗り物です。ご利用いただくにはリンが必要ですが、徒歩より安全に旅を楽しむことができます』


 フィッシャはエルベオ地方にある中心都市だ。各街や村に停留所があるなら、フィッシャの停留所に行けば料金や時間で大まかな地図が予想できる。


 もしかしたらあの時のベータプレイヤーは、馬車の情報を売っていたのかもしれない。


「まどろっこしいな。質問メニューとかはないのか」

『こちらが概要になります』

 私たちは『初めての馬車の旅~The next generation of fantasy worldの世界を巡る~』と書かれたパンフレットを手渡された。


 今までの苦労はいったいなんだったのか。ますます融通が利かないNPCが嫌いになりそうだ。



「街の情報と馬車の存在はラッキーだね」

「ああ、値段もフラリスは1200リンでちょっと高いが、ダルクとフィッシャまでが片道600リンだから乗れなくはないな」

「さすがに徒歩でフラリスは1日かかりそうだし無理かな?」

「モンスターの強さが分からないからな……」

「だね。あとは毛皮が売れたらいいけど……」


 NPCとの攻防に疲れきった私たちは、停留所で休んでいた。


 パンフレットに軽く目を通す。

 馬車はお金を払えばいつでも乗れる『通常便』と、お金は払わないでいいが出発時間が決まっていて、襲ってくるモンスターから馬車を守る『護衛便』の二種類がある。

 フィッシャ辺りまでなら『護衛便』でもいけるだろうから、遊びにいくにはいいかもしれない。


 沈黙を打ち破るように、ブレスレットが鳴り響く。

『もしもし?』

「ひなの? どうしたの?」

『どうやった?なんか集まった?』

「馬車と街の情報を手に入れたよ」

『すごかやん! やったねゆき』

 日菜乃の明るい声に疲れきっていた心が癒される。


『情報集めは終わりにして話し合いしたかって仁井くんがいいよるけん、戻ってきて』

「りょーかい」


 宿にはすでに全員揃っていた。


「それコーヒー? 苦くない?」

「うん、かなり苦いよ。失敗した」

 仁井くんがしかめっ面でコーヒーを飲む。


「さて、みんなも揃ったし話をしようか。まず僕たちから話すね」

 仁井くんは朱莉とペアを組み村の中心部で調べていた。


「正式にリリースされてからの新機能に『交易所』と『街の発展』が追加されたんだ。教会と同じで、街や村に最低1つは『交易所』あってね。そこにカードやモンスター素材を売ると、新しい商品ができるんだ」


 雑貨屋の1階は、不自然な程商品が何もなかったことを思い出した。

 街の発展に合わせて、色々な商品が置かれるのだろうか。


「例えばカレーのスパイスをドロップするモンスターを狩って『交易所』で売ると、その街の食堂でカレーが食べれるようになるようだね」


 その場に居なかったが、『ラパンの肉』は宿に卸してたはずだ。

 その場合は街の発展はどうなるのだろうか。と考えていると、表情から読み取ったのか陣内くんが話を続ける。


「あと宿に直接食材を卸した場合は、その宿だけで作られるそうだ。そして僕たちの材料で作ったカレーを他のプレイヤーが食べると、売り上げの一部が貰えるようになるってさ」


 もしも私たちだけで材料を独占できたら、大量のリンを稼ぐこともできるわけだ。


「次に『街の発展』だけどね」

 仁井くんが一口コーヒーを苦々しく啜る。


「苦い……。」

「次になんだよ!」


 陣内くんの軽快なツッコミに笑いが生まれる。


「『街の発展』は、その街のクエストをクリアしたり、素材を交易所に納品すると発展するんだ。以上が交易所で手に入れた情報だよ」


「つまりみんなで村を発展させようぜ! てことだな。次は俺らか、ひなっち任せた」

 陣内くんが強引に閉めて日菜乃に説明を丸投げする。


「うちらは教会を中心に北西を調べてきたんやけどさ。やっぱイベント飛ばしとったよ」

「何飛ばしてたの?」


「スポット登録やね。フィッシャの神殿クエストば受けんと、スポット登録ができんって」


 スポット登録ができないと、ワープすることができない。あとは、ログイン時の場所指定もできなくなる。


「あとは神殿クエストを、うちらはまだ受けれんってことだけやね」

「教会関係で困るのはワープできないことだよねぇ」

「あー……それは大丈夫だよ。馬車見つけたから」


 皆が驚きと期待に満ちた表情を見せるなか、私は停留所のことを伝えた。



「レベルが合うなら行こうぜ。フラリスに移るのよくないか?」

「やね。この村だと冒険者学校がないけん、成長できんし」

「でもぉ、今回は時間ないし無理じゃない? それに神殿クエストを受けてないから行ってもスポット登録もできないよぉ」


 日菜乃と陣内くんが「そういばそうだったね。忘れてたよ」と表情で語る。


「ひなのたちが集めた情報なのよ。忘れないでよ」

「当初の予定なら帰還まであと三日! 稼げるだけ稼いでスロット全て埋めてから帰るか」

「やね! そーいやさ、毛皮はいくらで売れたとね?」

 流れを変えようと、二人して強引に話題を変える。

 この二人は変なところで似ているな。


「毛皮8枚で800リンだったよ」

「かなり稼げたやん」

 毛皮1枚100リン。ドロップ率は低いけど、臨時収入と考えれば悪くはない。


「ただ、このゲームお金がかなりかかるのよね。職業を取得するのはタダでもレベルを上げるには、レベル×1000リン必要だからね」


 ゲームの中で生活をするだけなら、そこまでお金は必要ない。例えソロでやってても、1日にラパンを10匹倒せば十分に生活ができる。

 ただ、装備を整えてレベルを上げるにはパーティーを組む必要があるのだろう。


「明日からまたでかうさぎ狩か……。別のモンスターと戦いたいぜ」


 

後編は18時代に投稿します。


物語は徐々に動き始めます。



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