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8話 マリーゴールドの花畑(後編)


 他のプレイヤーも納品していたのだろう。

 ラパンの毛皮を3枚納めたら『ラパンの毛皮コート』が防具屋に並んだ。



 1日の目標がラパン30匹で9000リンだ。時々レアドロップなのか『ラパンの肉1kg』のカードを落とすこともあるが、『ラパンの肉500g』で目標を建てている。そのため所持金は若干想定額より多い。



 ゲーム開始から5日目の夜、私たちは宿の食堂で明日のことを話し合っていた。


「予定では明日で帰ることになるけど、時間になったら即帰還なのか?」

「どうなんだろうな晋作? 事前に連絡はあるんじゃないか? それにここでの1年が現実の1日になっているって噂もあるしさ。正直よく分かんないな」

 仁井くんが首をかしげる。ソフトモヒカンはぺちゃんこに潰れて、可愛らしくなっている。


「あー……。オープニングセレモニー信じてる人たちか。私は本当だとは思わないけどね」

 

 昨日の情報収集で、デスゲームと時間の圧縮については色々な意見を聞けた。

 その大半が「デスゲームはあり得ないし、圧縮も変わってないだろう」と言う意見だった。



「それよっかさ、次うちらが入れるのって22日やったよね?」

「そうだよぉ。部活終わったらみんなでいこうねぇ」

 1月22日が私たちの2度目のプレイ日だ。18時から22時までの4時間だが、体感時間が6倍に圧縮されているなら、24時間冒険できる。


「3週間近く来れんけん、明日は歩いていかん?」

「えぇー! 嫌だよ、馬車使おうよ」

「最後だし歩こうぜ! ゆきっちはそんなに嫌か?」


 陣内くんがすごくいい笑顔を向けるが、正直5時間も歩きたくない。


 結局明日は、お弁当を持ってフィッシャの街までピクニックをすることになった。


 体力補正がないから歩きたくないが、皆乗り気だし仕方がないと覚悟を決める。



「ところで皆は何を取るか決めたの?」

 時間が余るようならフィッシャの冒険者学校で職業を取りにいくつもりだ。


「僕は『剣士』か『サムライ』。あとは補助職として『スポーツマン』と『スプリント』かな」


 『スポーツマン』は運動能力全般が上昇する職業だ。

 持久力の上昇率は『ランナー』より伸びず、筋力の上昇率は『ウエイト』より伸びず、瞬発力も『スプリント』には負けるが、運動能力全般が上がるのが特徴だ。



「私たちも『スポーツマン』は必須だよねぇ」


「うーん……。私は後衛だしさ、運動能力全般より体力強化重視で『ランナー』にしようかな?」


「それもありやね。魔法で戦うわけやけん、体力以外の運動能力はいらんと思うし。うちは『弓使い』にしようと思っとうとよ」

「ひなのたちなら20レベルはいけるかな?」


「レベル10で中学平均、30でインターハイクラスで40でその道のプロやったっけ?」

「それで、レベル50を越えると人間を辞める強さらしいよねぇ」



 ファンタジーワールドの世界ではレベルが上がるごとに、職業強化とは別にレベルサポートを受ける。


 例えば剣道を全くやったことのない人でも、『サムライ』のレベル30をスロットにセットすると、インターハイ出場者クラスと同等のサポートを受けて動くことができる。


 無論『戦いかたを知っている』かは別問題で、経験者やファンタジーワールドの世界でよく訓練をしている人と、職業レベルだけが高い人とでは、前者の方が強いらしい。


「ゆきは『後衛』はそのままなんよね?」

「そのつもりだよ。レベル5になったら全ての属性が使えるからね」


 『後衛』は魔力の固まりを飛ばす無属性魔法と『Ta:小回復』がレベル1の段階で使える。

 レベル5になると火、水、風、雷、土の属性魔法がさらに使えるようになる。


「とりあえずはレベル5にして、自分に合う属性を探さないといけないからね。正直ずっと『後衛』のままでいたいよ」

「初期職業は最大レベル10までやもんね」


 強力無慈悲な火力を持つ魔法使いにもデメリットが存在する。それは、火の魔法を使いたいならば『火魔法使い』にならなければ使えないのだ。


 火属性吸収で水属性が弱点のモンスターと戦うことになっても、『水魔法使い』をスロットにセットしていなければ水魔法を使うことができない。


「しかもさ、水と火の二つ持っとってもスロットに空きがなかったらクールタイムもあるけん、付け替えは簡単にはできんもんね」


「レベル×日数だろ。6倍に圧縮されてるわけだし、レベル60の付け替えでも10日でクールタイムは終わるんだぞ。気にする必要はないだろ」

「秋水に同意だぜ。そもそも今後も予約が簡単に取れるか分からないしな」


 毎朝髷を整えるのに飽きた古川くんは髪を後ろに1つ結びにしている。陣内くんも編み込みをやめて、後ろで結んでいる。

 ルージュ村には鏡がない。女性陣は毎朝お互いの髪を整えあっているが、男性陣は櫛でセットするだけで終わっているようだ。



「結局『ホルダー』はどっちが取るの?」

「私だよぉ」

「うちは『狩人』やね」


 『狩人』は策敵能力の上昇と弓、短剣の攻撃力が上昇する職業だ。


「恋のハントよりもモンスターをハントしてよねひなのは。それよりもさ、明日で終わりだよね」


 お風呂にも中々入れず早く帰りたいと思っていたが、いざ終わりが近づくと寂しい気持ちになる。




 最終日は強い光を発する魔力ランタンを持って、日の出前に出発した。


 陣内くんの「少しでも地図を埋めたいから来たときとは違う道通ろうぜ」の提案に、反対意見もなく街道から南へ外れて歩くことになった。


 歩き出して30分程たったところに海を一望できるオレンジ色の小さな花畑がある岬で、朝食だ。


「食材が増えれば料理のレパートリーも増えるんだよな?」


 食パンにレタスとラパンの肉を挟んで、軽く味付けをしただけのサンドイッチをほぼ張りながら、陣内くんが不満を口にする。


「次来たときはもっと増えているかもよ」

「だといいけどな」


 陣内くんが眺める先に目を向ける。

 太陽の頭が水平線から見え隠れする。空と海の境界線が融合して、薄紫の静寂に世界が包まれる。


「結局ログアウト直らなかったね」

「そうだな。でも五泊六日しっかり楽しめたぜ。色々あったけどな」

「そうだよね。本当に色々あったよね」




 ガサ…… ガサ……




 背後から小さな音が聞こえる。


 私たちは座ったままの体制で、ゆっくりと後ろを振り向く。



 真っ赤に燃える真紅の光が2つ、まだ薄暗い草原に漂っていた。


 太陽がゆっくりと昇る。


 キャストを覆い隠してた緞帳(どんちょう)が上がり、ゆっくりと辺りが太陽のスポットライトで照らさせる。


 花道をゆっくりと歩むヤツは真紅の瞳がより一層燃え上がり、訪れた出番に笑みを隠そうとはせずに、肉をたやすく噛み千切りそうな牙を誇らしそうに見せる。


「うっお! 何だあれ? 狼か?」


 体高が2メートルはある、巨大な狼が獲物を求めて立ち塞がる。


 どうやら今日のお題は巨大狼討伐のようだ。



「うっ……おぉぉぉお!」


 真っ先に古川くんが雄叫びを上げて威嚇するが、狼は意に返さず突っ込んでくる。


 慌てて立ち上がり戦闘体勢に入るが、それより先に狼が日菜乃めがけて飛びかかる。


「きゃぁああ! い、痛い……。痛い!」

 血は出てないが、日菜乃の胸から首筋にかけて深々と牙が突き刺さる。



「くっそやろうが!」

 陣内くんが狼へ詰め寄り、剣を上段から振り下ろす。


「グルゥル……」

 ダメージは全くないのか、攻撃に怯むことなく加えていた日菜乃を地面に叩きつける。 



 そして、ターゲットを陣内くんに変更したのだろうか。

 1歩、また1歩とじわじわと陣内くんを睨みながら近づいていく。


「くっそが!」

 先に動いたのは陣内くんだった。


 しかし、それより速く狼が陣内くんの腹部を噛む。


「ぐっ……がぁあ!」

 深々と噛まれている痛みからか、悲痛な叫びをあげる。


「任せてぇ!」

 朱莉が放った矢が狼を捉える。


 矢が中った狼は小さく「ウガァ」と吠えた。


 吠えたその一瞬の隙を逃さず、狼の口から転げ落ちた陣内くんを仁井くんが救助する。




 仕切り直しのつもりなのだろう。狼は私たちから距離を取り、機をうかがうようにゆっくり円を描くように周辺を回る。


「ひなの、陣内くんこっちきて。すぐに回復するから」

 私は杖先に貯めた魔力を『Ta:小回復』と唱えて、回復魔法に変換して日菜乃を癒す。


「痛みは?」

「噛まれとうときは痛かったんけど、離れたらすぐに痛みは治まったとよ。やけど、ブレスレットが……」


 日菜乃のブレスレットに目をやると、5つの宝石のうち2つが真っ黒になっていた。これは先ほどの攻撃で4割り近くHPが減ったことを意味する。


 私たちはフィッシュの冒険者学校で防具を貰っていない。未だに初期の厚手の布の服のままだ。

 それに、職業を優先して貯蓄していたからルージュ村で装備も整えてもいない。



「ルージュ村へ戻るよみんな」


 ルージュ村まで徒歩30分の道のりだ。走れば10~15分で着くだろう。


 今の私たちの装備とレベルだと勝てないと判断した仁井くんは撤退を決めた。


「秋水は殿だ!」

「あぁ、任せろ」

 

 陣内くんを癒し終えた私は、狼から見られていることに気がついた。より一層赤みを増した瞳は私の喉元を狙っている。


「ねぇ、ずっと私のこと見てるけどき、気のせい……かな?」

「もしかしたら、水田さんにヘイトが集中しているのかもしれない」

「に、仁井くん。ヘ、ヘイトってなによ?」

「ルージュ村に着いたら説明する! それより逃げることを考えて」


 狼と私の間に古川くんが武器を構えて立ち塞がる。その二歩後ろに陣内くんと仁井くんが三角形の形になるように位置どる。


 日菜乃はいつでも矢が放てるように弓を構えて、朱莉は私に寄り添うように弓から短剣に装備を替えて側にたつ。


「橘さん、準備ができたら弓を引いてくれ。それに合わせて僕たちも飛び込む。そして新田さんを先頭に全力で走って逃げてくれ」


 仁井くんが狼から視線を反らさずに指示を出す。


「一撃入れたら僕たちもすぐに逃げる。秋水が殿で新作、僕の順で逃げる」

「いいのかよ俺が先に逃げて」

「君よりは長く剣道を続けてたからね、逃げる時間くらいは稼いでみせるよ」


 狼がじりじりと寄ってくるのに合わせて、私たちも少しずつ後ろに下がる。

 

 私を食べるには前面の人たちを食べるしかないと考えたのだろうか、ターゲットが古川くんに変わっているようで、私の方は見ていない。




 前傾姿勢をとり、深く飛びかかるように屈む。




 が、それより先に……。




 ビュっと風を切り裂く音が、狼の右目に直撃する。



「走れ!」

 日菜乃の怒号が響き渡る。それに合わせて、私は後ろを振り向くことなく全力でルージュ村へ走る。



「ゆき速く!」


 『中衛』は前衛に比べたら微々たるものだが、身体能力は上昇する。

 先に走り出したのに、いつのまにか日菜乃が並走する。



「うっおおおお!」

 背後から誰かの雄叫びが聞こえる。



「晋作いけ!」

「昴ここは俺に任せてお前もいけ!」



 先頭を行く朱莉の背中だけを見て、全力で走る。




 魔法職でも逃げるときに運動能力は必要だし『スポーツマン』を取ろうかな、そういえば雑煮まだ食べてなかったや、最終日なのについてないななど考えながら、狼から追われていることを意識しないようにして全力で走った。




 8話後編の投稿です。

 やっとバトルシーンまで辿り着きました。

 

 明日はまた18時投稿にしたいと考えています。これからもよろしくお願いいたします。



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