9話 帰還日
「はぁはぁ……」
獰猛に暴れる心臓の音を、荒い息づかいで掻き消す。ペース配分も忘れてただひたすら朱莉の背中だけを追って走った。
なんとかルージュ村の入り口まで辿りつけた。
「わ……はぁはぁ……」
息を整えもう一度疑問を口にする。
「私たちだけなの?」
「途中まで陣内くんと仁井くんが走ってくるのをうちは見たんやけど、その後は分からんとよ」
「回復できるの私だけだよ。どうする? 助けに行った方がいいかな?」
徒歩30分ならば2キロくらいだろうか、見晴らしのいい草原に目を向ける。遮蔽物の多い日本と違い、ここなら先ほど居た岬もかろうじてだが見える。
「やられたのかなぁ? 見えないよぉ」
「噛まれた直後はめっちゃ痛たかったとよ。そんでもね、すぐに動けるようになったけん、怪我をして倒れとうってことは、なかはずよ」
「3人とも『前衛』だから先に着いたとかぁ?」
「さすがに抜いたら分かるよ」
「連絡とってみらん?」
「隠れてたら音が鳴って邪魔にならないかな?」
「待つしかないね……」
待つしかできない現状に絶望する。
何分待っただろうか、ピピッと電子音が鳴る。
『水田さん、そっちは3人とも無事? こっちは秋水がやられた』
短い悲鳴のあと沈黙が場を支配する。
『晋作は無事で、一緒にいる。狼を引き連れて北の森の方へ向かって逃げたんだよ。今は隠れているところだね』
ルージュ村から草原を北へ進めば、かなり遠くだが森がある。
今どこにいるのか分からないが、仁井くん建ちは狼を連れてかなり走り回ったようだ。
『狼は森から来ているみたいで、僕らを見失ったあとは森の方へ帰っていったよ。それで、今からルージュ村に戻るから食堂で落ち合おう』
「分かった、待っているね」
定宿とかした『スリーカーメラ』で1時間ほど待っていると二人がやって来た。
「マップ見ても二人の位置が分からないから心配したよぉ」
「距離が離れると写らなくなるならね」
街中だと、街の規模に関わらずどこにパーティーメンバーがいるのか分かるが、フィールドだと距離が離れすぎると分からなくなるそうだ。
「それよりブレスレット見せて。HPどれくらい減った?」
二人のブレスレットを確認したが共に宝石の色に変化はない。
「それで、どうなったの?」
「さっき通話でも言ったけど、秋水がやられた」
鼓動が速くなる。
「橘さんの矢が狼の右目に直撃したのに合わせて、僕たちは切りかかったんだ。そしたら、急に狼の動きが素早くなったんだよ。それで秋水が一撃を入れたタイミングで、僕たちはルージュ村とは違う方向に全力で逃げたんだ」
モンスターには『怒り』状態になって、一時的に強くなるタイプがいるらしい。あの狼はそのタイプのようだ。
「『前衛』の僕らだとすぐに追い付く可能性もあったかね。距離を取りつつ、離されないようにして北の方へ逃げたんだ。それでも途中で追い付かれてね」
現実なら胴体のどこを切っても動きが鈍くなる。例え指先でも血が出で痛みが生じる。
右目に直撃してたら、それだけで逃げることは容易になるはずだ。あらためてゲームと現実の違いを思いしる。
「与えたダメージ量が多かったからなのか、秋水がヘイトを稼いでて……一撃だった。たったの一撃でやられてしまったよ。その後は動きが元に戻ってね。走っても追い付かれることなく逃げれたってわけだよ」
負けたことへの悔しさよりも、きちんと指示を出せていればもっと違う結果になったかもしれない後悔の方が、仁井くんは強いようだ。
「それで、何でこんなに遅くなったのぉ?」
「あーそれは秋水の武器を拾ってたからだ。またやるときに、武器なしだとあいつも可愛そうだからな」
「なるほどぉ」
対して陣内くんは一人の犠牲で他の皆が助かったことへの喜びと、簡単に倒せるラパン以外の強敵と出会えた楽しみが大きいようだ。
「今日はどうする?」
予定が大きく狂った、これからの動きについて話し合いたいと思う。
「狼いたけん、うちは外でるのパス。てかさ、古川くんって何時間待たないかんと?」
「どんくらいだ? 朝日が昇ったばっかだし、あと1時間くらいで終わるんじゃねーのか?」
陣内くんは指を折って、古川くんが何時間待ちぼうけをするのか数えている。
「ねぇねぇ。馬車でフィッシャにいくのもありじゃない?」
「私もあかりに賛成。次遊ぶときに、スロット埋めてさ古川くん驚かそうよ。ひなのはどうする?」
村からもう出ないで、このままここでぐたぐた過ごすのも悪くはないが、どうせなら新しい職業を覚えたい。
「馬車使うんやったらよかよ」
「それじゃ、すぐに行こうよ」
馬車の旅は非常に快適だった。
揺れまでは設計されてなかったようで、車よりも振動が少なくクッションも柔らかかった。
何よりも驚いたのは、街道を歩いていたプレイヤーが透過したことだ。街道を走る馬車は街を出ると、乗客以外見えなくなり、触ることもできくなるようだ。
「もう着いたんだねぇ」
「本当にあっと言うまだったよね」
「停留所って港の近くにあったとね。うち気がつかんかったとよ」
太陽の位置を確認する。ゲームが始まってまだ6日しかたっていないが、時間を確認するときは空を見る癖がついてしまったようだ。
「それで時間はまだあると思うけど、どうする? 冒険学校にもういく?」
「うーん……それもよかけど、ご飯も食べたくなか? 22日までこれんのやし」
「はいはーい! ひなちゃんに賛成だよぉ! 食べ歩きしたい」
「いくら食べても太らないもんねー」
「もうぅ」
朱莉が口を膨らませる。なんとなく突っついたら、「ぶっはぁ」と変な音がなった。
「ゆき遊ばないのぉ!」
「ご飯は時間があれば後でいこうか。馬車使ったしお金に余裕があるわけじゃないからね」
男性陣はご飯より強くなりたいようで、さきに冒険者学校に行くことになった。
私たちはフィッシャの街の中心部へ向かって歩き出す。
「人少なくなってない?」
以前は縦に並んで歩かないといけないくらい、大勢の人がいた。
今日は、ある程度広がって歩くことができるくらいにまで人が減っている。
それでも人が多いことは間違いないけどね。
「狩りに出掛けとうとかやなか? あとは宿でゆっくりしとうとか」
「それと、他の村に移動したってパターンもあるかもね。僕たちは見落としてたけど、馬車で次の村か街へ移動するだけのお金は初期資金として貰ってたわけだし」
街の中心部に近づくにつれて、人が多くなっていく。
「ん? あの行列はさ、何かな?」
「どっから並んどうっちゃろ」
冒険者学校から噴水広場まで延びている、人の列を見て陣内くんが嘆く。
「うげぇ……。待ってくれよこれはないんじゃねーか」
「これは時間かかりそうだね」と、考えてはいたが、列は想定より早く流れていき、馬車に乗っている時より短い時間で冒険者学校に入れた。
石造りの建物の中に入ると、学食のカウンターに並ぶように複数の列ができていた。本来ならバラけて並ぶべきだろうが、私たちは同じ列に並ぶ。
『ようこそ冒険者学校へ。本日はどのようなご用件でしょうか?』
受付のNPCからカリキュラム表を手渡された。カリキュラムには『授業』『進級テスト』『取得テスト』『説明会』『カリキュラムの説明』と書かれている。
「カリキュラムの説明をお願いします」
『カリキュラムの説明でよろしいですか?』
AIで作られたNPCの受け答えはもう少し、自然にならないのだろうか。
「はい、お願いします」
『『説明会』とは、各職業の説明及び取得テスト講座をおこないます。また、説明会に参加されている職業の、レベル10の能力を体験できます。料金は1000リンとなっております』
「お金とるとね!」
日菜乃のがツッコむ。
『『取得テスト』は職業レベル1を取得するためのテストです。テストは無料で何度も受けれますが、再試験を受けるには前回受けた日付より『現実時間』で一週間後からとなります』
「これは知っとうことやね」
『『授業』は1コマ60分で、座学と実技をおこないます。料金は1コマ受講するのに、受講時のレベル×100リン必要です。ただし、受講にあたって職業レベルが必要になる場合があります。ご了承下さい』
「つまり、レベル10の弓使いがレベル11の授業を受けるならぁ、レベル×100リンで1000リン必要ってことだよねぇ?」
「高レベルになると、授業を受けた方がいいかもね」
「昴せんせー。ゲームの世界でも勉強したくないでーす」
高レベルになると、レベルを1つ上げるだけでも万単位のリンが必要だ。ならば事前に授業を受けて、試験の傾向と対策をしたほうがいいだろう。
プレイヤーが実際にテストに受からないとレベルが上がらない、ファンタジーワールドならではの救済処置のようだ。
『『進級テスト』は合格すれば、職業レベルが上がります。また、テストは専用のフィールドでおこないます。料金はテスト時のレベル×1000リンとなります。以上でカリキュラムの説明を終了させていただきます。他にご用件はございますでしょうか?』
「どうする? このまま試験受けていいよね?」
「そうだね、少し急いだ方がいいかもだよ」
仁井くんが後ろを気にするように急がせる。
「えっと、私は『魔法使い』の取得テストと『ランナー』の取得テストを受けます」
『『魔法使い』の取得テストと『ランナー』の取得テストですね? よろしければブレスレットをカウンターの上にお乗せください』
私は指示に従い、左手ごとブレスレットをカウンターの上に置いた。
ピピッとブレスレットから音がなり、HPを教えてくれる宝石の1つが光る。
ブレスレットから出ている光がカードの形になる。カッと強い光を発したあと、何もない空間からカードが1枚現れた。
『こちらのカードをお持ちのうえ、正面玄関口より向かって左手に見えます取得テスト受け付けへお進みください』
取得テスト入り口と書かれた扉の前にいるNPCの女性にカードを渡す。
『空いている魔方陣の上に立たれて下さい』
部屋の中には、床に赤色の複雑な紋様が書かれた魔方陣がかなり沢山の数あった。
ある程度の数の魔方陣がプレイヤーで埋まると扉が閉まり、転送が始まった。
『それでは皆様、目をおつぶりになられてください。転送いたします』
明日は22時頃の投稿予定です。
徐々にですがシステム面が公開していきます。
自分ならこんな職業を取りたい、組み合わせたいと想像して頂けたら幸いです。
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。




