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10話 初めての職業テスト


 軽い浮遊感に襲われた。


『目をお開き下さい』


 目を開けると6畳くらいの部屋の中にいた。

 床は木のフローリングで窓はないが、壁は三面が床と同じ材質の木で、1面だけ真っ白な壁だ。天井部分は作られてなく、柔らかな日差しが降り注ぐ。


『『魔法使い』取得テストをおこないます。白線の後ろからターゲットに向かって、魔法を1度当てると合格です。制限時間は1分ですが、時間内ならば何発撃たれても問題ありません』


 白の壁が音もなく消えて、白の壁があった場所に白線が書かれていた。

 白線から5メートルくらい先だろうか。直径1メートルはある大きな的がでてきた。


 普段から『後衛』をやっている私には簡単だが、経験がなければ当てるよりも魔力を練るのが難しい試験なのかもしれない。


 すでに始まっているらしく「10秒経過」と秒読みされる。



 杖の先端に光が集まるイメージをする。魔力が集まってくる。あとは当てるだけだ。


「やっ!」


 魔力を放つときのリリースの感覚もバッチリだ。この距離でターゲットは外さない。


『合格です。職業『魔法使い』を取得しました、ここでセットされますか?』

「お願いします」


『セット完了致しました。現在のスロットには『後衛レベル1』『魔法使いレベル1』『空きスロット』となっております。続けて次の『ランナー』試験を受けますか?』

「受けます」


『魔方陣の上に移動して、目を閉じてください』


 軽い浮遊感と眩しい光が収まると、草原の中にいた。


 360度見渡す限り緑色の草と青い空以外何も見えない。雲1つなく、虫の音どころか風の音すらしない。



『ランナー取得テストへようこそ』

 先ほどは女性の声が聞こえていたが、今度は男性の声が聞こえる。


『本テストではスタート地点からゴール地点まで走っていただきます。それではスタート地点へ移動してください』


 案内に従い少し歩くと、ゴールまで続いているのだろうか、車1台通れるくらいの広さの土でできたレーンが現れた。


『1キロを10分以内にゴールしていただくと合格となります。準備ができたタイミングで走り出してください、白線を越えた瞬間からカウントいたします』


 1キロ10分は遅すぎる。歩けば15分くらいで着く距離だし、この世界のプレイヤーは高校生男子と女子の平均的な運動能力が基本値になっている。

 普段から運動をしない帰宅部の私は女子平均よりかは遅いが、ゲームの世界では職業をセットしてなくても普段より速く走れるのだ。


 さすがに普段でも10分は余裕で切るはずだ。


 と思う……だといいな……。




 試験はすぐに終わった。

 待ち合わせ場所の噴水広場に向かう人が多くすぐに合流できなかったが、移動時間の方が長かったくらいだ。




「ゆきどうやったと?」

「余裕だったよ」

 私はブレスレットからメニューを開き、プレイヤー名と今セットしている職業レベルが書かれているステータスカードを4枚発行して皆に配る。


「おー魔法使いの誕生だぁ! はい、これ私のカード」

「こっちはうちね」


 まずは日菜乃から見ることにした。

 手渡されたカードをブレスレットに近づけると、吸い込まれるように消えていった。フレンド画面から日菜乃のステータスを見ると、『弓使い 1』『アスリート 1』『狩人 1』と書かれていた。


「『狩人』受かったんだね! おめでとうひなの」

 日菜乃をぎゅっと抱き締める。狼の接近に気がつかず不意打ちを受けた後悔から、日菜乃はモンスターの位置が分かる職業を取得することにした。


「試験どうだったの?」

「かくれんぼやったとよ。3分以内に見つけないかんかったね。あと『弓使い』の試験はめっちゃ簡単やった。うちとあかりならレベル20はいけるんやなか」


 次に朱莉から手渡されたカードをフレンド画面から見ると、『弓使い 1』『スポーツマン 1』

『ホルダー 1』の文字が並んでいる。

「『ホルダー』は木箱に出されている物を入れるだけで終わりだったぁ」

「使ってみた?」

「ゆきちゃんはこれ見える?」

 朱莉がパントマイムのように見えない箱を差し出す動きをする。


「いや、全く見えないよ」

「やっぱり私しか見えないのかなぁ。見ててねぇ」


 石を拾い見えない箱の中に入れて、蓋を閉める動きをすると一瞬手元が光り、カードが出てきた。


「私だけにしか見えない箱があってねぇ、その中にカード化できるものを入れてぇ、蓋を閉めるとカードにすることができるのぉ」

「めっちゃ便利だね」

「ただ、箱が小さいからさぁ……。もっと大きくするためにレベル上げないといけないのとね……。体がだるいのぉ」


 いつもほのぼのとしている朱莉がきつそうに眉間に皺を寄せる。


「魔力使ってカード化するみたいでねぇ、一応職業補正でMPが貰えてるけど5枚も作れないのぉ」

「MP使うって仁井くんか言ってたベータと違うよね?」

 追加された職業だけではなく、既存の職業にも変更点があるようだ。


「次からは授業受けとったほうがよかね」

「そうだよね。それであかりの変わりに私が『ホルダー』を取り直そうか?」


「それは保留で。新田さんは戦闘で魔力を使わないし、常時カードの出し入れをするわけでもないからね。できればこのままがいいよ」

 仁井くんからステータスカードを受けとる。


「確かに、魔力は時間がたつと回復するもんね」


 仁井くんは『剣士 1』『アクロバット 1』『スポーツマン 1』を、陣内くんは『戦士 1』『スポーツマン 1』『ウエイト 1』を取得していた。


「アクロバットってなに?」

「新体操選手のように体の動きをサポートしてくれるらしいんだ。最初は『スプリント』を狙ってたけど、より三次元の動きができる『アクロバット』にしたよ。『アクロバット』は、跳び跳ねたりバランス感覚だったりが上昇するって職業だね」


「俺は『サムライ』をやめて、『ナイト』になろうと思って『戦士』と『ウエイト』にしたぜ。そっちの方がパーティーのバランスがいいって昴が言うからな」


 仁井くんの方を見ると軽くうなずいた。


「基本は好きに取っていいけど、悩むならパーティーバランスを考えて取ってくれた方がみんな助かるからね」


 女性陣は自分がしたいことを中心に考えていたが、仁井くんと陣内くんはそこから足らない職業のフォローをしたようだ。


「『ナイト』は受けなかったんだ?」

「近くにいた人に聞いたけど、『ナイト』の試験難しいらいしんだ。先に『戦士』のレベルを上げて盾の使い方を覚えないと受からないって話だぜ」

「そうなんだ。試験って誰でも受かるのかと思ってたよ」


 日菜乃が少し顔を歪める。

「ゆきはさ『後衛』だったから気がついとらんけどさ、『弓使い』の試験は弓道場っぽいところで試験やったんよ。いつもと距離は変わらんかったけん、28メートルやと思うけどね。んでね、的もいつもより大きかったとよ。うちやあかりなら余裕で中れたけど、全くの初心者やったら絶対にあたらんよ。やけん、本来なら中衛のレベルを最大の10まで上げて、授業を受けないかんと違うとね」


 

 中学生の頃に1度だけ日菜乃に無理を言って矢を射らせて貰ったことを思い出す。確かにその時は、10メートルも飛ばなかったはずだ。

 多少の補正があっても私では弓使いの試験に合格はしないだろう。



「ゆきちゃんの『魔法使い』のテストは何だったのぉ?」

「5メートル先の的に魔法ぶつけるだけだったよ?」

「この世界ではねぇ、誰でも魔法が使えるわけじゃないのよぉ。魔法職をセットしてないと魔法は使えないからね、『後衛』をセットしてなかったらはじめっから受かりっこない試験なのぉ」

「職業に優劣はないって建前になっとうけど、どうも取得難易度にばらつきがあっとよ。魔法職をとるには『後衛』が必要のような前提となる職業もあるみたいやね」



 日菜乃は中学から、朱莉は高校から弓道を始めている。この二人は経験があったから1段階飛ばしているだけで、本来ならば職業を取得するだけでもかなり難しいゲームのようだ。



「なるほどね……。帰ったらネットで調べた方がいいかもね」 



「ところであと何時間くらいここ居れるんだ?」


 陣内くんに釣られて、二人して太陽を見るとそろそろ南中に差し掛かろうとしていた。


「お昼食べたら時間かもね」

「あぁー現実に帰還かぁ」

「親戚回りばして、お年玉貰わないかんとよ」

「秋水のやついじけて先帰ってねーだろーな」


 春の日差しが心地よく、気を抜くと睡魔に誘われそうなぽかぽか陽気の中、私たちはゆっくりと残されたわずかな時間を使いフィッシャの街を探索する。



「あ、見てみてぇ。グラタンあるよこのお店」

 朱莉の目線の先には、お店のメニューが書かれている小さなボードがある。


「フィッシャの街は初期設定で色んな食材を貯めているみたいだね。お店ごとに特色があるよ」

 仁井くんは隣のお店のボードと見比べる。


「ルージュ村だとラパンのお肉を焼いて味付けしたのと、サラダとパンだけだったもんねぇ」

「あとラパンを煮込んだスープだね」


 ルージュ村の食事は本当に貧相だ。50リンのワンプレート定食には、焼いたラパンの肉と水洗いされただけのレタスにキュウリ、トマト。そして、握り拳くらいの大きさのおかわり自由なロールパンだけしかない。


 他に定食メニューはなく、1品料理としてスープを追加注文できるくらいだ。

 ルージュ村へ到着した翌日の夜まではまだ、種類こそ少ないが様々な料理が楽しめた。それは、各街や村に少量ながら食材がスタート時なら用意されてたからだ。


「プレイヤーが食材を持ってこないとそのうち尽きるのかなぁ?」

「一応NPCも貿易をしてるって設定だから尽きることはないと思うけど、食べれるものがぐっと少なくなるとと思うよ。例えば具無しスープだけとか」


 食事の種類を増やしたりするには、モンスターを倒してカードを手に入れる必要がある。

「次にルージュ村に行くまでに誰か発展させてくれぇ!」

 陣内くんの悲痛な叫びが木霊する。



「日が沈み始めたね」

「だね」

「いつ帰還するのかなぁ?」


 ベンチに腰かけて、真っ赤な世界に模様替えした噴水広場を眺める。


「宿とっと?」

「お金の無駄じゃない?」

「帰還明日だっけぇ?」

「いいや、今日のお昼だよ」

 ゲームの世界の体感時間は外の世界の6倍だとすると、外で1時間たつと中では、6時間進むことになる。


「宿とって帰還始まるとかなり無駄になるし、パーティー集会所にいようか。そこなら時間潰すための部屋が借りれるし、それにログインすると教会スタートだったから教会に行かないとログアウトできないのかもしれないからね」


「ん? 私たちって、パーティー集会所は借りれるのぉ?」

 仁井くんの提案に朱莉が首をかしげる。


「最低人数の6人を割っても、割った時点からゲーム時間で24時間はパーティーのままなんだよ。パーティーが強制解散になるのは6人を割ってから24時間たつか、リーダーとサブリーダーが戦闘に負けてログアウトしたときだけだね」

「なるほどぉ、なら明日の朝まではパーティーだねぇ」


 ルージュ村と違い、街頭があるとはいえかなり光は弱い。日が沈みきるより先に教会へ向かうことにした。





前回仁井くんの職業で、『ビルダー』と書いてたとこは『ウエイト』の間違いです。


訂正して、お詫び申し上げます。


『ウエイト』が筋力増量の職業になります。

例えば、高レベルになれば車を軽々と持ち上げたりできる職業です。



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