11話 結論
パーティー集会所は、椅子が1つ空いていることを除けば、前回と何ら変わらない。
「一旦話を整理しよう。さっきの受け付けのNPCは帰還できないって言ってたよな」
憔悴しきった顔立ちの仁井くんがみんなを見渡す。
ファンタジーワールドにはログアウトする方法が3つある。
1つ目は街中限定だが、ブレスレットからメニューを開きログアウトする方法だ。
2つ目は神殿か教会で神の世界へ行くことを選ぶことだ。
そして、最後の方法は古川くんのようにゲームオーバーになると、1度強制ログアウトさせられる。
再びログインをするときは最後に利用した神殿または教会か、スポット登録している教会からとなる。
「言ってたね……。神の世界からの通信が途切れているため、現在利用できませんって。バグが続いているみたいだよね」
「それともぉ……」
朱莉が何かを言おうとして止めたが、皆も理解したのだろう。沈黙が場を支配する。
「そのさ、実際にあり得るのか? デスゲームってやつ。もしそうなら秋水のやつ……」
「晋作やめろ! やはり普通に考えてバグが続いてログインとログアウトができないだけだって」
机を力一杯叩き、鋭く睨む仁井くんに身が震える。
「あのぉー………。もう1つ……私重要なことに思い出したかもぉ」
重い場の空気に飲まれながらも朱莉がおずおずと挙手をする。
「あかりは何思い出したの?」
「みんな普通に6倍で話してるけどねぇ、1日が1年かもしれないのよね?」
「待て待て仮にだ。そうだとした場合は何時間くらい外の世界でたったことになる?」
「24時間で12ヶ月だから、2時間で1ヶ月くらいで1時間で2週間かな」
難しい顔で時間を計算してた陣内くんより早く仁井くんが答えを出す。
「つまり体感時間が変わってるなら、秋水のやつたった30分足らずで戻ったってことか」
「仮にそうだとしてぇ、ログアウトできまで何日かかるのかなぁ?」
「たった30分でバグが直るとは思えないから、あと1,2週間は見とかないといけないかもね」
仁井くんが満足げに答える。
「明日は聞き込みでもするのはどうかな?」
「ゆきっち、それいいな。俺たちだけで結論つける必要もないし」
寝不足でぼーっとした頭を強引に覚醒させて、噴水広場に向かうことにした。ここなら人も多く聞き込みに適しているといえよう。
「聞くことはログアウトの方法と、圧縮について。それと、ゲーム攻略の情報もあるといいかもな。それじゃ、男女に分かれて一時間後にここに集合ってことで」
「すーばるせんせー時計ないのでわからないっす」
「それならある程度集まったら連絡しあおう。そしてここに集合ってことで解散」
私たち女性陣は噴水広場から北側で聞き込みをすることにしたのだが、思うような成果が出ない。
「変だね」
「あ、ゆきもそう思っとうと?」
「何がぁ?」
「えっとね、ログアウトできないってかなり重要なことじゃない? にもかかわらず誰も答えを知らないどころか話に乗ろうともしないの」
「それどころかログアウトできないならもっと騒いでよかのに、騒いでいる人もおらんもんね?」
辺りを見回すが、騒いでいる人が全くいない。
「確かにそうだねぇ」
「何かあったっぽいけど、とりあえず時間までは聞き込みやりますか」
そろそろ聞き込みを終わり、連絡をしようかというタイミングで声をかけられた。
「こんにちは、ログアウトの方法をお探しですか?」
振り替えるとなんとも胡散臭そうな笑顔の中年男性が立っていた。
仁井くん達と合流して近くのお店に入る。
朝ごはんを食べてない私たちは美味しそうな匂いの誘惑を我慢しながら、飲み物だけで話を聞く。
「プレイヤー名『リヴァエル』と言います。それで帰還方法をお探し何ですよね?」
少々甲高い声がますます胡散臭さに拍車をかける。
「そうです」
リヴァエルさんとの話は仁井くんに任せて、私はブレスレットのメモ帳に話をまとめることにした。
「ログアウトできなくって困りますよね。私もそうですから」
リヴァエルさんは私たちを見回し一息ついて提案した。
「実はログアウト機能がエラーで使えないそうです。GMに連絡したプレイヤーがいたらしく、その人が言うには強制ログアウトしかないとのことです」
強制ログアウトの言葉に息を飲む。
「それはモンスターにわざと殺されろってことですよね?」
仁井くんの声が震えているのが分かる。
痛みは一瞬だろうが、いくらVR世界でも死ぬのは怖すぎる。
「ええそうですね、すでに何人も強制ログアウトを試していますよ。ここフィッシャも当初は人が多く宿が取れない人で溢れていましたけど、かなり少なくなってきましたからね」
確かに人が少なくなっているのは間違いないが、私たちのように他の村に移動したプレイヤーや狩りに出ているだけの可能性もある。
「何人くらい強制ログアウトしたんですか?」
「私は20人以上、ご案内してますよ」
「リヴァエルさんはログアウトしないのですか?」
「そうですね、私はもう少し楽しんでからログアウトするつもりです」
「デスゲーム疑惑がありますけど、強制ログアウトは迂闊じゃないですか?」
リヴァエルさんの目付きが一瞬鋭くなる。
「ははは、君たちは本当になにも知らないようだ。まず1つGMが強制ログアウトを進めている、2つ目はゲームが始まってすぐにモンスターに負けて強制ログアウトしたあと、ログインした人がいるわけだ。今はログインできないが当初はできていたわけだからデスゲームなわけがない」
ログインできた人の情報を聞き、皆から安堵の表情が見てとれる。
「1日が1年の圧縮の話はどうですか?」
リヴァエルさんが落胆の表情で大きなため息をつく。
「君たちはまだ若いから仕方がないが、少しは考えたらどうだい? 1年分の体験を圧縮して、その情報量を脳が処理できるはずがないだろ。しかも47万人分のデータを処理するコンピュータも必要になるが、それができるとも?」
確かに筋が通っている。
1日で1年間体験できるように設定したと言われても、当初のベータは3倍の圧縮しかできてなかった。
そこから半年近く開発をして6倍の圧縮に成功してたはずだ。もとから無理がある話だと思う。
「それで、どうしますか? 今からログアウトしますか?」
「いや、僕たちはもう少し遊んでからにします。強制ログアウトするときはお世話になるかもしれませんから、その時はよろしくお願いします」
仁井くんが連絡先を交換して、お店の前でリヴァエルさんと分かれた。
私たちは、噴水広場に向けて誰からともなく歩みを進める。
「みんなはさ、リヴァエルさんの話どう思った?」
「めっちゃうさんくさか」
「ひなちゃんわかるそれぇ。言ってることは本当だと思うけどぉ、何かねぇ騙してやるぞオーラ出てたもん」
リヴァエルさんの事は満場一致で信用ならない人物となった。
噴水広場のベンチに腰かけて、これからのことについて話をする。
「結局情報なしか。しかもパーティー集会所も使えないから、そろそろログアウトできないことに俺らなりの何らかの結論を出す必要があるんじゃねーか?」
陣内くんの質問の意図が私には分からないが、自分の考えを伝える。
「私は……デスゲームとは思えない。仮にデスゲームだとして、ゲームで死ねば現実でも死ぬってあり得るのかな? 誰かが亡くなったらすぐにゲームは中止になっちゃうよ?」
「まぁーそーだよな」
「それとね、圧縮倍率が変わってることも本当とは思えないのよ。リヴァエルさんが言ってたこともそうだけどさ、私たち契約書書いたでしょ? 未成年は保護者のサインがいるやつ」
プレイヤー登録をする際に未成年は保護者の同意書が必要だった。
高校生からは一人でも遊べるが、それより下の年齢は引率者が必要だったはずだ。
「勝手に倍率変えたら違法でしょ。だから、技術的にも法律的にもデスゲームはあり得ないと思うな」
皆の視線が私に集中する。
「ログアウトできないのはぁ?」
「それってさ、ゲームの中から答えがでるのかな? まだ外の世界だと1日が終わったところだよ。陣内くんの言う結論が何に対してなのかわからないけどさ、今焦って結論出さないでもいいと思うけどな」
「確かにそうだな」
陣内くんが頷く。
「なら今後の俺たちの方針は、死ぬと強制ログアウトして戻れないから、死なないように立ち回りながらログアウトできるまで待つってことでいいんじゃねーのか?」
「うちは陣内くんの意見に賛成、仁井くんは?」
「ゲームの中から答えがでないことは納得だし、晋作の方針で問題はないかな。あとは現状パーティー組めないことをどうするかだよな」
既にパーティーは強制解散されてしまった。
グループで狩をするのもありだが、パーティーを組んでた方が便利はいい。
「あ、そうだ。水田さんは山口に連絡取れる?」
「フレンドになってるから取れるよ」
そう言えば山口くんとフレンドになっていることを忘れていた。
フレンドリストを開くと、山口くんの横に緑色の印がついているからゲームをしているようだ。
「誘うのか昴?」
「他に知り合いいるか? 会長は6日にログインできるけど、まだここにいないし。他に知人いないぞ」
「そうだな……。部活の後輩が何人かやるらしいけど、連絡先知らねーや」
「うちらも一緒やね」
他にゲームをしている人を知らない私たちは、山口くんに連絡を取ることにした。




