6話 いざ! ルージュ村へ
地図を開けば今どこにいるかわかるため、待つのはさほど苦にはならなかった。
ただ、地図で常に位置を確認するのはストーカーみたいで気持ち悪いなと思いはした。
残りのお金を大事にしたい私たちは、公園の芝生に円になり報告会をすることにした。
「そっちはどうだった?」
「全然だめだったよ。ベータプレイヤーが3000リンで情報売ってたくらいかな」
仁井くんにベータプレイヤーの件を伝えると「その判断でいいと思うよ」と、私たちの考えに同意してくれた。
「僕たちの報告だけど、村の情報を手にいれたよ。西門から街道をまっすぐ進むと半日でルージュ村へいけるってさ」
「半日……」
村の情報に喜びはしたが、半日も歩かなければいけないらしい。
正確な時刻はわからないが、太陽はまだ南中していない。急げば黄昏時には間に合うだろう。
「モンスターの強さは分かるの?」
「その辺は全く分からないけど、すでに何人も向かっているらしいんだよ」
「それなら仮に強いモンスターがいても何とかなりそうだよね」
プレイヤーが何人も向かっているならば、強いモンスターがいても先行プレイヤーが教えてくれるはずだ。例え言葉じゃなくても戦った形跡で知ることはできる。
「そんで職業はどうすっと? 予定通り後日?」
「それをどうするか悩んでいるところだよ。1、2時間くらいのところに村があると思ってたから後日でもいいと考えてたけど、半日も歩くなら先に職業を取った方がいい気もするんだよな」
「でも、今から取得してたら今日は出発できないよ」
仁井くんが慎重案を提案したが、私は反対だ。
「今日行って宿がないって可能性もあるぞ。それなら職業を習得してルージュ村に宿がなければ先に進むことも考えて方がよくないか?」
やはり自分の肩に仲間の命がかかっていると不安に思うのだろうか。古川くんはとどまる派だ。
「ゲームが始まってまだ24時間たってないぜ?急げば宿が取れるんじゃねーのか? 明日行って宿なかったらどうするよ?」
陣内くんは先に進む派のようだ。
「それにさ、最初の街から次の村までは大抵のゲームならレベル1でもいけるだろ。次の村から別の村に行くには装備もレベルも揃える必要があるんじゃねーか?」
「確かにそれはあるな。レベル上げする余裕もないし、先にいくのもいいね」
仁井くんはまだ考えがまとまってないようで、両方の意見に耳を傾ける。
「でも村だよぉ? 宿が1つしかなかったらもう無理だよぉ」
どちらの意見も利があるため話がまとまらない。
私と陣内くんは、「宿が残ってる可能性は今出発した方が高いから今すぐ出発派」だ。
古川くんと朱莉は、宿が無かった時に一度フィッシャの街まで戻らなければ先には進めない可能性が高い。ならば「先に進むことも視野に入れて、準備をしてから進もう派」だ。
仁井くんもとどまる派に意思が傾いてるようだ。
昨日パーティーを作るときに取り決めを作った。それは多数決で話をまとめるが、「3対3で意見が対立してしまった場合リーダーとサブリーダーが多い方の意見を採用する」というものだ。
今は2対3だが日菜乃が進むを選ぶと、サブリーダーの私と陣内くんがいることから進むことが決定する。
逆にとどまるを選ぶと、2対4の多数決でとどまることになる。
日菜乃に皆の視線が集中するが、案の定悪い癖が出て長考に入ってしまった。
こうなれば仕方がない。
「クジにしよう。これ以上考えても結論でないしさ」
「ゆきはさ、思いっきりがよかよね」
考えがまとまらない日菜乃から笑みがこぼれる。
誰からも反対意見はなく、クジの結果ルージュ村へいくことが決定した。
時間があまりないことから、冒険者学校に防具を貰いに行くのは後日に回して先に、古川くんの武器と水にビスケット、そしてリュックを1つ買って西門へと向かう。
これで残り3000リンしかない。
『冒険者よ。街道をまっすぐ二半刻進むとルージュ村だ』
西門の門番にも話を聞いてみたらより具体的な情報が手に入った。
「二半刻ってぇ?」
朱莉が弓に弦を張りながら聞いてくる。
「一刻が二時間だから5時間だね。太陽が傾き始めてるから急がないと夜になるよ」
門の前で各々準備をしていると、仁井くんから「水田さん以外は初期職業で体力補正があるから、水田さんがペースメーカーをやってくれ」と言われた。
ゲームの中だと、『後衛』のフルマラソンのオリンピック選手と『前衛』の運動が全くできない人がいたとしても、外の肉体の影響は受けないから『前衛』の運動が全くできない人の方が体力は多い。
このメンバーで一番体力が少ない私に、ペース配分を任せてくれるようだ。
フィッシャの西門を出ると牧草地が広がる。牧草地では他のプレイヤーがモンスターを探して、歩き回っている。
草花が生えていない白い土がむき出しの街道を、1時間くらい歩くと丘が見えてきた。
「あれ丘だよね? 完全に同化して丘に気がつかなかったよ」
「私もだよぉ! 自然ってすごいよねぇ」
潮風が心地よく吹く、丘の上で休憩をすることにした。
北側には山があり、南には海が見える。そして街道をまっすぐ進む西には……。
「あれって地平線なん?」
「始めてみたから自信無いけど、たぶんそうじゃないかな?」
「すっごい綺麗やね。夕日が沈むともっと綺麗になるやなかとね」
「ルージュ村でその景色みようね」
水平線は見飽きるほど、見たことがあるが地平線を見るのは始めてだ。日菜乃は休憩が終わるまで、にやにやしながら地平線を見つめていた。
「誰かモンスター見た?」
辺りを警戒しながら、古川くんと一緒に先頭を歩く仁井くんが振り向く。
「まだ見てないよ。このまま見ないで終わりたいよね」
「1時間くらいは歩いてるのにモンスターを見ないってのも面白くねーよな」
最後尾を警戒する陣内くんからは不満の声が漏れる。
「単純に見つかんないだけかもね」
辺りを見回すと、街道は変わらず白い土がむき出しだが、丘を下ると街道沿いに生えている草花が膝丈くらいまで育っている。
モンスターがどれくらいの大きさなのか分からないが、もしかしたら草花に隠れて見えないだけかもしれない。
さらに歩みを進めると小さな橋が見えた。
「川辺で休憩にしない?」
私の提案にみな頷く。正確な時間は分からないが、半分くらいは到達したはずだ。
水が澄んで魚が泳いでいるのが見てとれる。
「これ飲めるんやない?」
「お腹壊しても出すところないし、飲む?」
「状態異常になったらどうするのぉ? やめようよぉ」
ファンタジーワールドの世界では、排泄行為が必要ないどころか、機能が備わっていない。 そのため何日も夜営してもトイレ事情は気にしなくていいのは非常に助かる。
「お? モンスター発見」
せせらぎの音で疲れを癒していると陣内くんがモンスター見つけた。
ここから100メートルくらい離れている草むらに真っ白な塊が見えた。
「あれはウサギ型のモンスターで『ラパン』だな。攻撃方法は体当たりと爪でひっかくだけだったはずだ」
仁井くんは事前情報で出されてたモンスターの名前や攻撃方法を全てを覚えているようだ。
「やるか? 昴」
古川くんは武器屋で買った刀を抜きながら仁井くんに判断を委ねる。
「負けることはないだろうしやるか」
近くで見るとかなりでかい。伏せているのに、爪先から頭の天辺まで1メートルは優にある。また、全長だと2,3メートルはありそうだ。
ラパンに向かって古川くんを先頭に仁井くんと陣内くんが間合いを詰めていく。日菜乃と朱莉も弓を構えて不足の事態に備えるが、私は後方で待機だ。
「ィッヤァァァアアア」
剣道の発声をした直後、古川くんがラパンを真っ二つにしていた。
一瞬すぎて動きが目で追えなかったが、無駄のない流れるような一撃だったと思う。
真っ二つになったラパンは、砂山が崩れるようにサラサラと消えていった。
「一撃かよ……。次は秋水抜きで戦おうぜ」
初めての戦闘でわくわくしていた陣内くんが落胆の表情を見せる。
「ん? 『ラパンの肉500g』と書かれたカード6枚と『ラパンの毛皮』のカードを1枚落としたぞ」
ラパンを倒した場所に、トランプぐらいの大きさのカードが落ちてた。
「モンスターを倒すと、ドロップ品は全てカードの状態で手にはいるんだよ」
「そんなこと言ってたな? それで、どうやって使うかわかるのか?」
古川くんが拾ったカードを、リュックを持っている私に手渡す。
「んー……。ベータテストだと誰でも使えてたって話だから、システムから使うのかな?」
「ごめん水田さん。夜に報告するつもりだったけど、カードの事はわかるよ」
先ほどはルージュ村についてしか話をしなかったが、仁井くんと陣内くんは午前の聞き込みでゲームについても色々と情報収集をしてたようだ。
「中身を出すには街にあるカード屋にいくか、『ホルダー』って職業を取得する必要があるんだ。『ホルダー』は戦闘能力は全くないけど、ドロップしたカードの中身を外に出すことや、アイテムとか装備をカードにすることができるんだ。だから『ホルダー』が居たら水とか食料もカード化して持ち運べるし、橘さん達の矢もカードにすれば大量に持っていけるよ」
「究極手ぶらで旅ができっとね? めっちゃ便利やん」
弓と矢筒を常に持ち歩く日菜乃や朱莉にとってはかなり気になる職業のようだ。
「それと通常ドロップは必ずパーティーかグループの人数分ドロップするように変更されたってさ。モンスターを倒しても、お金は落ちないから、ドロップ品を売ってお金に変えないといけないけどね」
ベータテストではカードに入ったリンが落ちてたらしいが、ここも変更された部分のようだ。
「パーティーってやっぱり便利なんだね」
「そうだなゆきっち。それに、そもそもこのゲームがソロでクリアできる設定じゃねーしな」
スロットの上限がいくつなのかは分からないが、組み合わせ自由の50種類以上の職業に、パーティーボーナスのドロップ品の数々。
確かに一人で進めるのはきついかもしれないと、陣内くんに同意する。
小川を出てからどれくいたっただろうか。古川くんが瞬殺したけど、あれからラパンと4回戦った。太陽も赤く輝き始めている。
「もう夕方やね」
「もうすぐ着くと思うけど……」
「くふふふー私発見しちゃいましたぁ! あれがルージュ村じゃない?」
朱莉が街道の先を指差すが、私には見えない。
「ひなのは見える?」
「あー見っけ! うち目が悪かとになんで見えっととかいな?」
「中衛だから職業補正がついて目が良くなっているんじゃないの? 眼鏡外せば?」
「絶対無理! 素顔とかさらしきらんよ」
ずっと視力がよかっただけに、眼鏡は邪魔なものとしか思えないが、日菜乃にとってはそうではないらしい。
街道沿いの荒れた畑の先に、木の柵で囲われてた村があった。
『おや? この村に来るのははじめてかな? さぁさぁ、村長へ挨拶をしてきなさい』
ルージュ村の地面は舗装されておらず、石造りより木造の建物が多い。また意外にも、1階部分の壁が赤色と青色に塗られている木造4階建ての宿が多い。
「プレイヤー結構いるけど、宿も多いよね」
「1階に色が塗られてる建物は宿だっけ? 先に宿を探すか?」
陣内くんが鋭い目付きで周りを見渡す。
「そうだね、僕が村長宅へ行ってくるからみんなは宿をお願いするよ」
村長宅へは仁井くんが向かい、他の人たちで宿を探すことにした。
さっそく陣内くんが一人飛び出して、目についた建物の中に入っていくが、どうやら空いてなかったようだ。
門からまっすぐ進むと中央に井戸がある広場に出た。
街や村の中心部には噴水か井戸が必ずあるのだろうかと思いもしたが、今は疑問は投げ捨てて宿探しに集中することにした。
「すみません、部屋空いてますか?」
『申し訳ございませんが、ただいま満室でございます』
4軒目も同じ答えだった。もしかしたら、宿に泊まれない可能性もでてきた。
ブレスレットが小さく音をたてる。
『一人部屋なら2部屋空いとうって。どうすっと?』
日菜乃の元気な声が聞こえる。
『とりあえず予約すればよか?』
「そうだね……。キャンセル料金でお金を無駄にしたくないからさ、泊まる人がきたらすぐに予約できるようにひなのはカウンターの近くから動かないで待機してて」
『分かった!』
バラバラで宿を取るのも悪くはないができれば皆一緒がいい。
『スリーカーメラ』と書かれたお店に入る。
今までは1階の食堂か酒場には大勢の人がいたけど、この宿は閑散としていた。
「すみません、部屋空いてますか?」
『はい、空いてます。お部屋のタイプは全て三人部屋で一泊が、一部屋500リンとなっております』
泊まる人数で支払うものだと思っていたけど、どうやら一部屋毎の値段を支払うシステムのようだ。
「部屋はどのくらい空いてますか?」
『ただいま四階に三部屋空きがございます』
「男女合わせて6人いますけど、二部屋借りれますか?」
『一人のプレイヤー様で二部屋借りることはできません』
普段なら気にはならないが、早く宿を取りたい焦りから、融通が効かないNPCの受け答えに苛つきが生じる。
パーティー通話で、近場にいた朱莉を呼ぶことにした。
「呼ばれて飛び出て……。なんだっけ?」
朱莉のマイペースぷりに、先程の鬱憤も薄れていく。
「鍵がないって無用心だよね」
受付を済ますと『401号室と402号室です。ごゆっくりおくつろぎ下さい』と言われただけで、鍵は貰えなかった。
401号室の扉を開けて中に入る。
「痛ったぁ。入れないよぉ?」
「入れないの?」
朱莉は見えない壁に阻まれているようで中に入れないようた。
「うん! 声は聞こえるよぉ」
「もう一度入ってみて」
「あれぇ? 次は入れたよぉ?」
401号室と402号室で試した結果、部屋に登録されたメンバーしか中に入れないようだ。
登録されてない人では扉が開かないし、入ることもできない。ただし、部屋の住人が招けば、入ることができるようだ。
ゲームの世界ならではの防犯対策なのだろう。
「401が女子部屋で402を男子部屋にすればいいよね」
しれっと角の日当たりの良さそうな部屋を私たちは女子部屋にした。
宿を確保したことをパーティー通話で知らせると、仁井くんから全員で村長宅へ来るように言われた。
村長の家は村を一望できるところにあった。
木造の平屋で、庭には色とりどりのチューリップが風に吹かれて大合唱をしてるように見える。さらに奥に30メートルはあるだろうか、大きな広葉樹が村の平和を見守るように立っている。
『遠いところよくぞおいでになられました冒険者殿。何もない村ではございますがゆっくりされてください。ただ、夕方から早朝にかけて凶悪なモンスターがでます。村の外へ出掛けるのはお止めになられてください』
声に抑揚のない、人間味が全く感じられないNPCの話を聞く。
夜になると凶悪なモンスターが出るらしいが、陣内くんが言うには昼夜でモンスターが変わるのは、RPGならよくあることらしい。
初期職でレベルも上げてない私たちだと出歩かない方が無難だろうとその場で結論が出た。
『それではようこそルージュ村へ歓迎いたしますぞ、冒険者殿』
ピロンとブレスレットが軽快に歌う。
『クエスト名:始めての村に到着。実績クエストをクリアしました』
「え、これってもしかして」
ブレスレットからステータス画面を取り出して、隣にいた日菜乃と朱莉に見せる。
「プレイヤーレベルが3になっているよ。スロット3つ目だね」
「めっちゃ簡単にスロット増えるみたいやね」
「最初だけだと思うけどぉ、いいペースだよねぇ」
村長宅を出ると外は暗闇に支配されていた。
フィッシャの街では、申し訳ない程度だが街灯があった。
しかしここルージュ村では街灯どころか、かがり火すら炊かれていない。
月もまだ出ておらず、外に漏れているわずかばかりの家屋の光を便りに『スリーカーメラ』へ戻る。
宿につき部屋の管理者を朱莉から仁井くんに変えて、装備を置きに部屋にいくことにした。
10畳くらいの部屋に入って左手に二段ベッドがあり、右手にはクローゼットの上にベッドがある。奥には木製の小さなテーブルの上で、燭台に灯された光が静かに揺れていた。
「よかったと? 下で」
「そのうちわかるよ。絶対に下がよくなるから」
日菜乃が二段ベッドの上段で、下段が私だ。下段で揉めると思ってただけに、すんなりと決まって驚いた。
1階の酒場はカウンターテーブルと円卓のテーブルがところ狭しと鎮座している。全てのテーブルの中央には、優しい光を発する燭台が置かれ、壁にはランタンが吊るされている。
皆でシェアするために、大皿の一品料理を4品ほど注文した。
「お疲れさまでした!」
ブドウジュースで乾杯をしてご飯を食べる。
部屋は埋まっているはずだが、ここにいるのは私たちだけらしい。
「疲れたねぇ。五時間も歩けるってびっくりしたよぉ」
「あかり、冒険者やるとこれが毎日だよ」
「うげぇ……。もっと楽で楽しいと思ってたよ」
「そうだよな。冒険するってことは毎日5,6時間は歩きっぱなしってことだよな」
「まず体力つけないと無理だよねぇ」
想像とは違ったゲームの世界に陣内くんと朱莉がげんなりしている。
「この世界やとさ筋トレしても無駄ったいね?」
「そうだねひなの。職業をセットしないと身体能力は上昇しないからね」
例え毎日筋トレやランニングをしてもステータスが増えることはない。モンスターを倒しても同じだ。
強くなるには職業をセットして、職業レベルを上げるしかない。
しかも、今の私たちにはそのスロットが二つも余分にある。
あるのだが……。
「スロットに空きあってもすぐに動けないよね」
「だな。フイッシャに行っても泊まる場所ねーぜ」
「その前にリンが足らないよぉ。残り1500リンだから明日の宿泊費とご飯代で尽きちゃうよぉ」
「明日はいくら稼がないといけないの?」
私の視線に合わせて会計担当の日菜乃と古川くんを見る。
「えっと……。宿泊代が全員合わせて一泊1000リン。明日からの食費が1食50リンやったら、1人1日150リンで6人いるけん900リン。合わせて1900リンは稼がないかんとよ」
今の手持ちだと、明日1日過ごせないことが判明した。
「明日1日なら400リンでもいいけど、最低でも1900リンは稼がないといけないのか」
「ゆきちゃん、それだけじゃないよぉ。歯ブラシとか着替えとか欲しいよぉ」
「あとお風呂入りたか」
「分かる。ゲームなんだからさ汗とかなくていいじゃん」
『スリーカーメラ』には浴場がない。正しくは、この村の宿にはすべて浴場がついてなく、お風呂屋さんに行かねばならない。
男性陣は気にも止めてないが、このままだと二日もお風呂に入れない。仁井くんにお風呂に入りたいオーラを出すが、男性陣はすでに今後の狩りについて話してた。
「昴、ラパンはいくらで売れるか分かるか?」
古川くんが『ラパンの唐揚げ』をつまみながら話す姿は絵になる。
現実世界では坊主に近い短さでツンツンに立てていたが、ゆらゆらと漂うろうそくの明かりに照らされている髷を結った姿は、現代に蘇った侍にしか見えない。
「事前に調べてた攻略サイトの情報を鵜呑みにすると、100グラム1リンだったよ」
「つまり、『ラパンの肉500g』のカードは1枚で5リンしか貰えねーのかよ! それはないぜ」
陣内くんががくりとテーブルに崩れ落ちる。
「今回は進むことを目的にしてたからあんまり狩ってないし、それにベータテストの時はリンがドロップしてたらしいからな」
「つまり値が上がってる可能性もあるってことでしょ? それに同じでも今日だけで5匹倒して、30枚のカードがあるのよ。100gが1リンでも150リンはあるわけだしさ」
仁井くんの話を元に計算した結果を言うと、陣内くんが「50匹も1日に倒すのかよ……」と、テーブルに伏したまま絶望していた。
「明日は日が昇ったら狩りに出ようよぉ!そしてお風呂! 着替え!」
お風呂入りたいオーラに気づいてくれない男性陣に、しびれを切らした朱莉が直接言う。
「そうだね。明日は稼がないといけないから、日の出と共に狩りをしようか」
「日の出とともってはやくねーか?」
仁井くんの宣言に陣内くんが待ったをかける。
「テレビもゲームも漫画もないし、夜やることないから寝るしかないだろ? それにさ、蓄えが全くないと雨が降っても狩りを休めないぜ」
「それもそうだな……。俺、起きれるかな」
のそのそと起きあがった陣内くんが不安を呟く。
「大丈夫だ晋作。お前が無理でも僕か秋水が起きるよ」
「自信ないが任せとけ、晋作」
「自信ないやつに任せられるかよ!」
長い2日間がやっと終わった。
1日目はお昼から観光して宿が取れずにパーティー集会所で雑魚寝。
2日目の今日は、古川くんがサムライを取得してルージュ村まで半日も歩いた。
明日は日の出と共に起きて、狩をしなければならない。
想像してたゲーム生活と全く違うけど、これはこれでわくわくしてきた。
今回は8500文字と、読みやすいとされている1話辺り3000~5000文字をオーバーしてしまい申し訳ございません。
なるべく読みやすいように1話辺りの文字数は考えて編集します。