5話 宿を求める者達
港で宿を探す際に、1つ分かったことがある。
まず最初に、私たちは1階部分の外壁が青色の建物に入った。
店内ではすでに酒盛りが始まっていて、多数のプレイヤーがお酒を楽しんでいた。
店員のNPCに話を聞くと、未成年もプレイすることから、アルコール類を扱うお店は分かりやすく1階の壁が青色で作られているそうだ。
私たちは港エリアの宿泊施設をくまなく探したが、空き部屋は一室もなかった。
最初は「皆で泊まれたらラッキーだけど、人が多いから宿はバラバラになってもしょうがないね」の気持ちでいた。
心に余裕があったのは、港エリアの探索が終わるまでの間だで、今は「泊まれる宿が見つからないかもしれない」と焦りを感じている。
夜のフィッシャは暗い。港も同じで、街灯が薄暗く光っているだけで他に光源がない。まだ豆電球の方が明るく感じそうだ。
二人一組で宿を探すことにして、私は仁井くんと共に噴水広場周辺に向かった。
輝き始めた月明かりを頼りに噴水広場を見渡すと、宿が見つからなかった人々で溢れかえっていた。
「昼から思ってたけど、この街さ明らかにキャパシティーをオーバーしてるよね」
「そうだよな……。これだけの人がいるってことは宿はもう期待できないね」
静かに「そうだよね」と同意する。これは野宿を覚悟するしかないようだ。
「こうなったら神殿に行ってパーティー組まないか?」
仁井くんの虚を付かれた提案に少し考え込む。
パーティーを組むメリットに1つ思い当たる節がある。
「もしかして、パーティー集会所使うの?」
「そう思ってるけど、どうかな? 利用時間とか値段とかも分かってないけど、このまま野宿をするよりかはマシだからね」
簡単に街の配置図を思い浮かべる。まず中央に噴水広場、東側に冒険者学校があり西側には神殿、南には港があり、北側には集合場所だった『カンドル亭』がある。
噴水広場に集合してからメインストリートを西門へと向けて歩くと、すぐに目的の神殿へ到着した。
神殿は広い庭と中央に三角屋根の本堂があって、その左右に6階建の建物が密接するように並んでいる。
中央の本堂へ入ると、シスターの格好をしたNPCたちに出迎えられた。
『迷える子羊よ。本日はとのようなご用件でしょうか?』
「パーティー結成とパーティー集会所の使用をお願いしたいです」
他のプレイヤーはそこまで多くはないが、ぞろぞろと居ても仕方ないので、受付は仁井くんに任せて私たちは神殿内部を見て回る。
「思ったより人おらんね」
「パーティー集会所のこと知らないんじゃないかな?」
赤い絨毯が敷かれた床に女神をモチーフにした石像や、ステンドグラスに彩られた窓があるが、光源が松明と蝋燭しかない。
LED照明とまでは言わないが、もっと光源は欲しく思えてくる。
「松明だけだとやっぱり暗いよねぇ」
「でもさ、雰囲気なか?」
「めっちゃあるよね」
「お化けでそうだよぉ」
雑談をして盛り上がっていると仁井くんから呼ばれた。
「サブリーダー任せてもいいかな?」
「サブリーダー?」
「リーダーとサブリーダーを二人決めないとパーティーは作れないんだってさ」
「いいけど、サブリーダーは何するの?」
「『PTS:礼拝』とか『PTS:召集』が使えるけど、僕らには関係ないからなぁ……。名前だけ借りる形になるかも」
「それ関係ないの?」
確か以前の話では積極的にポイントを稼ぐって話をしていたはずだ。
「神殿クエストをすると『PTP』が貰えるよね。それを消費してPTSを発動することはパンフレットにも書かれてたけど、パーティーを解散すると『PTP』もなくなるそうなんだよ」
「え? 事前情報や攻略サイトに書かれてなかったよねそれ?」
「なかったね。でもさ、体感時間が1日が1年に変わってることもそうだけど、多分色々と伏せてた情報あるんじゃないかな?」
「なるほどね……」
PTPが無くなるなら、ログアウトも気軽にできなくなる。まさにデスゲームだ。
パーティー結成には3つのグループリーダーの認証が必要になる。
私と仁井くんと陣内くんで3つのグループを作り、仁井くんをリーダー、私と陣内くんをサブリーダーとしてパーティーを結成した。
パーティー集会所の使用料金は、パーティー平均レベルが3未満だと必要ないようだ。私たちは朝まで一室借りることにした。
「思ったより広いね」
案内されたパーティー集会所は、神殿入り口と同じ赤い絨毯が敷かれた床に、中央にはダイニングテーブルがあり、壁に黒板が備え付けられている。
入り口の正面に窓が1つあるだけで窓は他にはなく、光源はテーブルの上にある蝋燭だけのようだ。
「疲れたぁ。絨毯がふかふかだよぉ」
「普段なら絶対にせんよこんなこと」
「そうだよね」
テーブルを横に倒し中央に仕切りとして置く。
「まさか初日に雑魚寝するとは思わなかったぜ。まぁー可愛い子たちと、共にいれるのは嬉しいけどさ」
相変わらず陣内くんは軽口を弾むが、疲れているようだ。
私はブレスレットからシステムメニューを開き、職業欄を見る。
そこには『後衛』『空きスロット』と書かれていた。
「それよりもさ、パーティー組んだらスロットが増えたね。スロットの数がプレイヤーレベルだから、私たちプレイヤーレベル2ってことだよね?」
ベータテストの時は最初から5つの空きスロットが貰えていて、それ以上スロットは増えなかったらしい。
正規版からはスロットが1つしかない状態で始まり、特定の条件を達成すると空きスロットが貰える。入手の仕方は分かっていなかったが、パーティーを組むことでスロットを1つ手に入れることができた。
「そうだね。スロットを埋めに明日、冒険者学校に行ってもいいかもね」
仁井くんが反応をするが、声が疲れきっている。
「宿を見つけたあとに、だな」
陣内くんのツッコミに力なく「確かに」と笑う。
まさか初日からベッドで寝れないで、6人で雑魚寝をしながら夜を明かすとは思ってもいなかった。でも、まぁ楽しい1日だった。
しかし、翌日の目覚めは最悪だった。
眠い。
寝起きはそこまで悪いタイプではないはずだが、やはり慣れない雑魚寝が悪かったようだ。頭が覚醒しきれていない。
窓からは、柔らかな光が室内を照らしている。
「うっ……あ、あぁぁあ」
日菜乃が大きく伸びをして、眠たそうに眼鏡を探している。
「寝た気がしないよね」
「うちもそんな感じとよ」
ピッピッと短い無機質な音がブレスレットからなった。
ステータス画面を開くと『症状:睡眠不足』と書かれている。
「睡眠不足だって」
「うちもやん」
お互い力なく笑う。その声につられたのか残りの人たちも起きた。
「全員睡眠不足か」
陣内くんが回りを見渡す。
「Q&Aを読んだけどさ。『睡眠不足』が一定値溜まると『衰弱』に変わって、『衰弱』のまま対処しなければ衰弱死するってさ。しかも『ベッド又はテントなどの決められた寝具をしようしないと睡眠不足や衰弱は解消できません』だって」
仁井くんが寝癖のついたソフトモヒカンを整えながら調べたことを報告するが、いつ調べたのか不思議なくらい手際がいい。
「マジかよ。てことはだ、このまま雑魚寝してっと衰弱死するってことじゃん! やべーよ頭脳! 出番だぞ」
陣内くんが眠たい頭を切り替える様に、テンションを上げていく。
少し考え込んだ仁井くんが「冒険者学校に行ってから次の街にいくか?」と皆に提案する。
「いけるのか? 俺たちで」
「待ってよぉ、次の街ってどこあるのぉ?」
古川くんと朱莉が不安を口にする。
システム画面から世界地図を開く。
自分達がいる場所が常に中央にセットされていて、ほとんど何も書かれていない真っ白な地図だ。この世界地図からだと、世界の大きさも想像できない。
「次の街がどこにあるか分からないよ?」
地図を開いたまま仁井くんに視線を向ける。
見切り発車の提案ではないようで笑顔のまま、「大丈夫だよ」と頷く。
「場所については、ゲームである以上はNPCに聞けば教えてくれると思うから、まずは聞き込みしてみようと思う」
「まぁーそうだよな。普通はそうだな」
RPGゲームをしたことがある陣内くんは大きく頷いている。
「次に、辿り着けるかどうかだけどさ」
「ん?」
古川くんを見ながら仁井くんが提案する。
「全員が新しい職業を取るのは後にして、まずは秋水がサムライの職業を取るのはどうかな?」
仁井くんの提案に皆が考え込む。
悪くない手だと思う。
パンフレットには取得テストは無料で受けれると書いてあった。
職業レベルを上げるには受験時のレベル×1000リン必要だが、全員で出しあえば2万リンはある。全国大会に行ける古川くんならば、レベル10のサムライにはなりそうだ。
それなら古川くんに富を集中させて、守ってもらいながら進んだ方が効率はいいかもしれない。
「私は賛成だね。このままだと宿取れそうにないし」
「リーダーとサブリーダーが賛成してんだしさ、決定ってことでいいんじゃね」
「陣内くんもサブリーダーだよ」
「俺は名ばかりさ」
朝食を終えた私たちは古川くんだけ冒険者学校に向かわせて、残ったメンバーで男女に分かれて西側を中心に聞き込みを開始した。
「相変わらず人多かね」
日菜乃がキョロキョロと見渡している。
「えっとぉ、聞き込みは3つだっけぇ?」
「そうだね。まず、NPCにこの周辺に街か村がないか。次にプレイヤーの人にモンスターと戦ったか、戦ったのならその感想だね。最後に空いている宿を知らないか」
「それに付け加えて美味しいご飯のお店もしりたか!」
「いいねぇ! ひなちゃんそれ最高じゃん」
昨日の疲れもすっかり忘れて、私たちは今置かれている状況を楽しんでいた。
「あれ? あそこの公園っぽいところ、人だかりができとうよ?」
「ナイスだよひなの。行ってみよう」
公園の周りは木々で覆われていて、中央の小高い丘の上に人だかりができていた。
中心には黒髪を短く切り揃えた上半身裸の筋肉質の男性と、白銀の長い髪に日菜乃くらいありそうな長身の女性が演説をしていた。
「私たちはベータ参加者です。フレンドになることが前提ですけど、スロットの取り方、次の街への行き方、職業の効率のいい取得方法などの情報を売りますよー」
「情報料は3000リンです。いかがっすかー」
「3000リンだって? どうするゆき」
日菜乃と朱莉を連れて、公園の端に移動する。
「詐欺だとは思わないけど、欲しい情報が街の行き方だけなんだよね」
「そうなのぉ?」
「スロットの取り方がパーティーを組むことだったら私たち知ってるしさ。仮に知らなかったとしても、スロットも職業の効率のいい取得方法も今は必要ないよ」
「そうやね。泊まる場所もなかし、地に足がついとらん状態やもんねうちら」
二人は私の判断に納得の表情を見せる。
「まずは、自分達で街の情報集めてみない? それでダメなら聞けばいいしさ」
「それもそうやね。人がいっぱいおるけん、すぐにおらんくなったりはせんやろ」
その場を離れて西門へと歩みを進める。
少し歩くと、前方から人混みを縫うように走ってくる屈強な男性とぶつかった。
「あぁ、ごめん。大丈夫かいお嬢ちゃん?」
ドンっと音をたてて尻餅をついたが、全く痛みを感じなかった。
差し出された手を握り、立たせて貰う。
「はい、痛みは全くありませんでした」
手首や足首を軽く回してみたが、痛みはないようだ
その事を伝えると「本当にごめんね。それじゃ!」と、挨拶もそこそこに男性は走り去っていった。
「大丈夫やったと?」
「うん、平気だったよ。もしかしたらさ、街中ではダメージ入らないのかな? 私の手のひらを思いっきり叩いて」
日菜乃に手を広げて差し出す。
躊躇うことなく、振り下ろされた手からパッンっと痛々しい音が響き渡る。
「どうやった?」
「全く痛みがなかった。それどころか叩かれた感触もなかったよ」
「ならこれはどうかなぁ?」
朱莉が私の手の上に手を重ねて、すぐに手を引っ込める。
「今のは置かれた感触があった」
「えっと、つまりどういうことと?」
首を傾げる日菜乃に合わせて、金色の髪も流れるように動く。
「男性にぶつかられても、ひなのに叩かれても痛みどころか何も感じなかったのよ。つまりこれってさ、街中では一定以上のダメージは受け付けないってことじゃないかな?」
「なるほど」
「まぁ、街中で戦闘することがないと思うけどねぇ」
「確かにそうだね」
仁井くんからの連絡をブレスレットが知らせる。
「仁井くん何ばいいよった?」
「今からこっちに合流するから動かないでって。あと、古川くんはサムライのレベル5になったらしいよ」
「おぉー流石だよぉ。今夜はお祝いしないとだねっ!」
「さすがにお金に余力ないよ」
「飯より宿」は格言だと思います。仁井くんが噴水広場で「ここをキャンプ地とする」と言い出さずによかったです。
本日も貴重なお時間を頂けて幸いです。




