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34話 都忘れが咲く


 先ほどの小休止から30分ほど森の中を歩くがモンスターの気配が全くしなくなっている。

 若干の登り道に差し掛かったところで、先頭を歩く日菜乃が立ち止まった。


「今さ、何か大きな生き物の気配がせんかった?」

 私たち全員に聞いてはいるが、実際には朱莉だけに聞いているのだろう。


「んー……私は何も感じなかったよぉ?」

 後方にいる朱莉には気配を感じることはなかったようだ。

 日菜乃は「気のせいかな?」といい歩みを進めた。


 三叉路を西に抜けて木漏れ日が降り注ぐ中、モンスターを探して歩みを進める。


「んー……」

 先頭を歩く日菜乃がまた歩みを止めると「どうした?」と、仁井くんが辺りを見回しながら訪ねた。


「何か大きな生き物が近づいてきとうきがするんよ」

「気配だけ感じるってこと?」

「うん、そうやね」

「大きなモンスターってこの辺でるのか?」

「き、聞いたことないよ」

「俺もねーぜ。杉村はどうだ?」と陣内くんに問われた杉村くんは「同じく知らないね」と一言発した。


「モンスターが近づいてきているから警戒するってことで先に進もうか」

「え、エリア的にも倒せないレベルじゃないと思うし、それ賛成する」

 仁井くんと山口くんの方針が一致したことにより、このまま西へ歩みを進めることにした。


 歩きはじめて10分もたたずに、突如朱莉が叫んだ。


「後ろからモンスターが来るよぉ! めっちゃでっかいよぉ」


「前後入れ替われ!」


 朱莉の報告を聞いて即座に仁井くんが指示を飛ばす。「前後入れ替われ」と言われた時は後方にいる私たちは右側から先頭の陣内くんたちがいる場所まで走っていく。

 逆に陣内くんたちは、私から見て左回りに後方に下がる。スポーツの広場で何度も練習した陣形移動だ。


 所定の位置につき振り返り、戦闘態勢をとる。


 ドン! っと大きな音と砂煙をたてながら、巨大なモンスターが遠くから飛んできた。

 

 砂ぼこりが落ち着き、モンスターが姿を見せる。そこには3メートルは優にある屈託な体型に真っ白な毛並み、どこか冷たさを感じる真っ青な瞳。

 そして、口の両端からは牙が見え、頭には鎧など容易く貫きそうな2本の角が映えた、二足歩行のモンスターがいた。


「どうする? 昴、三太戦うか?」

 大きな盾を構えた陣内くんが先頭に立ち、後方からの指示を待つ。


「すまん! 僕は知らないモンスターだ」

「お、俺も知らないけど……この辺のモンスターなら戦えると思う」

「よし! なら戦うぞ」


 戦うと決めた矢先、そのモンスターはゆっくりと5メートルはあるであろう倒木を片手で拾い上げた。


 攻撃のモーションに入ったモンスターにナルミくんが「動けなくしてやる!」と阻害魔法をかける。


 地面から生えてきた無数の黒い手に掴まれたが、多少動きが鈍くなったところでお構い無しとばかりに、手に持った倒木を朱莉に向けて投げ飛ばした。


「きゃぁぁああ!」

 ドッンと大きな音をたてて、朱莉がノーバウンドで10メートルは吹き飛ばされる。


「あかり!」と皆が朱莉の方を見た。


 全ての仲間の視線が離れたその一瞬をモンスターは決して見逃さなかったようだ。


 スッゴォォォオオオと、実は掃除機を持って掃除をしに来た清掃員ではないのか? と思うくらい大きな音を立てて息を深く吸い込む。


「なにか来るぞ! 後ろに隠れてろ!」

 盾を構えた陣内くんが一歩前に出る。


 そして、モンスターは陣内くんめがけて口から炎を吐き出した。


「うっわぁぁぁぁああ! あ、熱い!熱い!!」


「晋作!!」

 仁井くんがゴォゴォと絶望を歌う炎に向かって叫ぶのと同時に、水魔法を陣内くんに放つ。


 酔っぱらいの魔法使いのお姉さんに教わる前の私は、水の固まりを飛ばすだけしかできなかったが今は違う。


「いっけぇぇぇえええ!」

 陣内くん目掛けてシャワー状の水を勢いよく飛ばす。


 きちんとコントロールした場所に飛びジュっと水が蒸発する音と共に、白い水蒸気の湯気が広がる。


 鎮火に成功したかと一息つこうとしたところ、「俺はダメだ! 死んだ、逃げろ!」と陣内くんの叫ぶ声が白い湯気の向こう側から聞こえてきた。


「くっそ!! 『PTS:礼拝』!!」

 仁井くんが離脱のためにPTSを叫ぶが発動しない。


「『PTS:礼拝』!『PTS:礼拝』!

! ダメだ発動しない!! 走って逃げろ!」


「分かった! ナルミくん、あかり走って!」

 後方で回復中だった朱莉とナルミくんの手を引き森の中へと走りだす。


 山道を避けて、獣道を走る。

 

 枝が頬を切り裂き、根が足を掬うなか転がりながら私たちは逃げた。


「はぁはぁ……」


 後ろを振り向く余裕がない。首筋にあの凶悪な牙が触れているような気がする。



 心臓が高鳴る。間接がギシギシと悲鳴をあげる。涙が自然と流れ出て視界がぼやける。少しでも多くの空気を吸い込もうと息が荒くなる。



「ゆきちゃん……はぁはぁ……」

 いつの間にか私の前を走っていた朱莉が「もういいよぉ」と立ち止まる。


 朱莉の関知範囲の外に出たようで、近くにはあのモンスターはいないようだ。


「な……何なのよあれ? はぁはぁ……」

 息を整えながら先ほどのモンスターについて訪ねる。二人とも心当たりはないらしく、勢いよく左右に首を振る。


「と……とりあえずPTS使ってみるね。『PTS:礼拝』!」

 サブリーダーの私はパーティースキルを使う権限を持っている。モンスターから離れた距離で使ってみたが、やはり発動しない。


「朱莉先輩これも舐めててください」

「ありがとうねぇ、偉いぞぉ」

 私がPTSを何度か試している間に、ナルミくんが朱莉に舐めている間は体力を回復させるあめ玉を渡してい。


「一発で4個も石がなくなったよぉ……。逃げるのを優先しないとダメだねぇ」

 

 今は全て綺麗に光っている朱莉のブレスレットに目を向ける。

 HPを表す石は全部で5個あり、全てが消えるとHPが0になったことになる。つまり、石1個がHP20%分を表示していることになるのだが、先ほどの一撃で4個分も減ったなら80%以上のHPがなくなったことになる。


 中衛の朱莉は動きやすさ重視の装備だが、職業補正で後衛の私たちよりも防御力が高い。

 その朱莉が、阻害魔法がかかった投てきの攻撃で瀕死になるのなら私やナルミくんは間違いなく即死だ。


 乱れた呼吸を整えて、ここから1時間程の離れた場所にあるキャンプ地に向かって歩きだす。


 無言で歩き出した私たちは、見えない壁に阻まれてすぐに歩みを止めることになった。


「これ……なに?」


 遠くから見たらパントマイムのような動きで、ペタペタと透明の壁を触る。


 逃げれない状況に思い当たる節がある。


 エリアボスと呼ばれるモンスターと戦闘になると、他のプレイヤーからの横やりを防ぐために指定されたエリアに結界が張られる。


 張られた結界の解除方法はボスを倒すか、パーティー又はグループを解散するかだ。



 1度心臓がドクンっと大きく波打つ。


 そしてパーティーの解散の方法は3つある。

 1つ目が神殿か教会で解散手続きを行うこと。これは正規の方法になるがここでは使えない。


 2つ目は地方を跨ぐことだ。

 私たちはエルベオ地方にいるが、タシア地方やヤマト地方に向かうには1度船に乗らないといけない。船に乗るにはパーティーを解散する必要があり、その際に港で解散することができたはずだ。



 そして最後の1つは……強制解散をすることだ。




『パーティーが強制解散になるのは6人を割ってから24時間たつか』



 優しい声で皆に説明をする仁井くんの笑顔が脳裏に浮かぶ。



『リーダーとサブリーダーが戦闘に負けて強制ログアウトしたときだけだね』



 頭からすっと血の気が引くのが分かる。自然と涙が溢れ出る。




 そうだ……私はサブリーダーだ。




「ゆきちゃん?」

 見えない壁に阻まれて立ちすくす私の手を朱莉は優しく握る。

 その薄い茶色の瞳は不安に塗られていた。


「大丈夫だよ。すぐに終わるから」

 握られた手を手解き、朱莉の髪を撫でる。


「ゆきちゃん、何をするきなの?」

 

 最後に日菜乃に会いたいなと思いながらブレスレットからパーティー画面を出す。



 そこには現在パーティーを組んでいるメンバーが表示される。



 陣内くんともう一人名前が消えていた。



「そっか……生き残ったのは私と君なんだね……」


 小さく呟くと、何か言いたそうな朱莉とナルミくんをその場に残し今来た道を全力で走って戻る。



 明日は18時に最終話を、19時にエピローグを投稿します。

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