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32話 フラリスの進化


 前回試しでアルブルユマンと戦ったときに、大雑把な日時計で倒す時間を計ったら30分ほどかかった。索敵に30分戦闘に30分休憩に30分で、1体討伐に1.5時間。それを1日に6時間の活動で、4体のアルブルユマン討伐を目標に掲げていた。


 ところが、アルブルユマンを狩るパーティーは少ないようで、狩り場が空いていた。そのうえ、レベルアップの恩恵や攻撃パターンを看破したことにより、狩りは驚くほど順調に進んで、多いときで7体。最低でも5体のアルブルユマンを6時間の活動で討伐することができた。



 狩り場には歩いて向かい五日目の夕方には『PTS:礼拝』でフラリス帰り、1日は冒険者学校で皆で勉強をしたりルージュ村へ行き畑に種を蒔いたりして、残りの1日は休日に当てるサイクルが8周した。


 つまり、アルブルユマンを狩りの対象にしてから早2ヶ月がたったことになる。



 日が沈む様子を日菜乃の部屋から眺めていると「ゆき、やっぱり寂しかと?」と声をかけられた。


 現実世界ではまだ1日も経過していない。世間はお正月ムードの真っ只中だ。

 古川くんと別れてからも6時間も経過してないはずだが、体感時間では8ヶ月もゲームの中で過ごしている。


「んー……寂しいってより、不安かな? 戻ったときのこと覚えてるか自信ないもん」


 冬休みの宿題は半分は残ってたはずだし、バイトも4日にシフトが入ってた気がする。

 クラスメートや担任の顔を忘れたりはしてないが、授業の内容を覚えている自信がない。


「それあるよねぇ。私も覚えてるかわかんないもん。お仕事してる人は大変だよねぇ」

 枕を抱いて机に伏せてた朱莉が顔を上げと、額には真っ赤な跡がついている。


「そやね……。体感時間変わるならさ、事前に言っとって欲しかよね。しかも、ログアウトまだできんとよね?」

「多分そうじゃないかな? できたって話聞かないしさ」


 跡のついた額を前髪で隠しながら朱莉が「ねぇねぇ、戻ったらなにしたい?」とログアウトしてからの事を聞いてきた。


「おせち食べたい! 私まだ食べてないのよ」

「うちは親戚回りをせんといかんとよ」

「お年玉貰えてラッキーじゃないのぉ?」

「まぁーそうやけど、移動がだるかとよ。車乗るのあんまり好きやなかけん」

 日菜乃は酔いやすい体質だったっけ? と昔を思い出していると、コンコンと扉を叩く乾いた音がした。


『おう、待たせたな嬢ちゃん。宿の建て直すから1度外に出てくれや。荷物はそのままで構わねーぜ』

 白の色褪せた麻の上着に、同じく黒の色褪せた麻のズボンを履いた宿の店主がやってきた。

 

 山岳地方を有するダルバーグ地方から大量の石材がここエルベオ地方にも流れてきた。アルブルユマンなのど植物系モンスターを倒すと手にはいる木材とダルバーグ地方の石材、硝子、鉄材を一定量フラリスの交易所に卸すと街が発展することがわかり、ギルドの『フラワーガーデン』を筆頭に、フラリスの冒険者総出で植物系モンスターを狩り始めた。

 一時期グノンやプーレ、ラパンなどの小動物系モンスターから手に入る食材が不足したが、一月でなんとか発展できるまでになった。


「楽しみだねぇ。どんな風に変わるのかなぁ?」

「そうやね、うちはお風呂ついて欲しかとよ」

「お風呂もいいけど、お布団! 薄っぺらじゃんかあれ。ルージュ村とまでは言わないけどさ、もう少しふわふわにして欲しいよ」

 ルージュ村やエルベオの城下町では、ふかふかとは言えないがまだきちんとしたベッドと布団だった。

 なぜかフラリスでは、カーペットのような固さの毛布を木の板のベッドに、下に1枚上に2枚かけて寝るだけだ。


 近隣の宿も一斉にリニューアルするのだろうか、宿の外は沢山の人で賑わっていた。

 全員が外に出たのを確認した受付のおじさんがモンスターを倒した時と同じように崩れ去さり、宿全体が淡い青色の光に包まれた。

 カッと一瞬だけ強く光を発した宿は、外装に変化はないが1階分、階層が増えていた。

 そして先程までとは違い、小綺麗なおじさんに受付が変わった。


 さっそく日菜乃が借りている部屋へ突入する。

 ここ最近は、この世界がゲームの世界だと忘れてしまってどこか遠くの異世界にでも来た気分だった。しかし、一瞬で建物が作り変わるのを見ると「やっぱりゲームの世界だね」と改めて認識して安堵する。


 ドンっと勢いよくドアを開けた部屋を見た瞬間、私たちは歓喜の桜吹雪が辺り一面に舞った。


「きゃーー! めっちゃすごかやん!」

 むき出しの床にはカーペットが敷かれている。


「あー鏡だよぉ! 鏡があるよぉ! しかも洗面台付きだよぉ!」

 朱莉が指差す方向には、上半身はゆうに写すであろう鏡と蛇口のない洗面台があった。


「水かお湯は貰ってこないといけいけど、流し台があるだけでもいいよね!」

「おっ……おお! ベッドめっちゃふかふかとよ」

 飛び乗った日菜乃のスカートが捲れたが、注意する必要はないだろう。

 それよりもふかふかの布団が羨ましいく思う。


「羽毛かな?」

「多分そうやろうね。プーレ倒すと『プーレの羽毛』って落ちよったけん、それやなかと?」


 ふかふかの布団をにぎにぎと触っていると、背後から「これ見てこれ見て!」と朱莉が呼び掛ける。


 朱莉の指差す方向を見とそこにはメニュー表が置かれていた。


「それってメニュー表なん?」

「そうだよぉ! ねぇねぇ、何か頼まない?」


 今までは部屋にメニュー表はなく、水が欲しい場合はカウンターまで貰いに行くしかなかった。食事も外で買ってきたものならば部屋で食べれたが、食堂の料理を部屋に持ち込むことはできなかった。


 エルベオの城下町では部屋にメニュー表があり、ルージュ村ではなかったから、ここフラリスではメニュー表が置かれているのではないかと若干期待したものだ。


「甘いものめっちゃ多くなか?」

「私はチーズタルトね! ひなのはアップルパイであかりは何にする?」

 絶対に悩んで結論が出ないであろう日菜乃の注文を勝手に決めてしまう。


「私はぁ……これ! シャティマンのタルト!」

 また名前からは判断できないお菓子を朱莉は選んだ。


 メニュー表の『注文受付』の文字をなぞると、注文受付の文字が赤いマーカーで塗られる。次にチーズタルト、アップルパイ、シャティマンのタルトをなぞる。最後に飲み物を頼み注文完了を押して、お金をメニュー表の上に置けば注文完了だ。


 すっと淡い赤色の光がメニュー表のから発する。すると、メニュー表の上にチーズタルトが出てきた。

 チーズタルトを取ると、また淡い赤色の光がメニュー表が発してアップルパイ、シャティマンのタルトに紅茶が出てくる。

 最後の紅茶をテーブルの上に置くと注文終了の合図だろうか、濃い青色の光を発した。


 階層が増えたことで空き部屋のできたこの宿に私と朱莉は部屋を移すことにした。



 フラリスの街が生まれ変わった翌日は、皆で探検をすることになった。


「街中はそこまで変化なかね」

「4階建ての建物が多くなったくらいかなぁ?」

「泊まれる場所が増えるのはいいことだけどさ、今の時期に増えても意味ないよね」


 日菜乃と朱莉が「そうだね」と同意する。

 元々何日も宿泊するように想定してなかったのかは分からないが、はじめから増築されてたらフィッシュの街で野宿する必要もなかったのだ。


「お? ついでだし装備も見ていこうぜ」

 陣内くんはフルアーマーの鎧が欲しいらしい。今使ってる防具は、お腹は金属で覆われているが背中はベルトを通すだけのできた、剣道の胴と同じ作りの鎧を使っている。


 特に反対意見もなく目についた防具屋に入った。


「ダルバーグ地方から金属が流れてきたから、防具の種類も増えたね。値段も安くなってないか三太?」

「や、安くなってる……。なあ、お金に余力あるからか、買いそろえるか?」

「お? ついにフルアーマー着れるのか?」

「そ、そこまではお金ないし装備できないだろ? これならいいよ」

 山口くんが手に持った鎧は上半身だけの背中も金属で覆われた甲冑だ。


「おーこれこれ! やっと冒険者って感じになったな! ついでに盾と槍も新調したいぜ」

「それ買うなら足もこれにしたらどうだ?」

 仁井くんはグリーブと呼ばれる足首から膝下までの金属でできたすね当てを持ってきた。


「まてまて、それ買うならこれも必要だな」

 杉村くんが金属でできたサバトンと呼ばれる鉄靴を陣内くんに渡す。


「んー……それだと手元が寂しくないですか? これも必要でしょ」

 ナルミくんが手を守る手甲を渡す。


「肘とか危なくなか? これとかよくなか?」

「男の子の大事な部分が無防備だよぉ……腰当ているよねぇ」

「最後にこれ被せて完成かな?」

 私がヘルムを被せると一端の騎士が誕生した。


「どうだ! 強くなっただろ?」

 ガチャガチャと音をたてながら陣内くんが店内を動き回る。


「重くないのかなぁ?」

「職業補正足らないよね? よく動けるね」

 防具の装備にも職業補正が影響する。レベル1だと重く着れない装備も、レベルが上がれば装備可能になる。


 ドン!っと大きな音をたてて陣内くんは倒れた。やはり重かったようで、一人では立てなかった。


 陣内くんは上半身とグリーブ、サバトンを購入した。前衛陣も金属製の装備にして、中衛はシュヴローと呼ばれるモンスターの皮を使ったレザーアーマーとブーツに変更した。


「私たちはどうしようか?」

 防具屋には私たちが装備できそうな物がなかった。


 陣内くんは重くて歩けなかったが、別に装備しても防御効果がなくなるわけではない。重さに耐えれるならば、私たちでも装備はできる。

 シュヴローのレザーアーマーを最初は購入するつもりだったが、これを装備して半日も歩き回るのは無謀だと感じた。


「『スポーツマン』とかの筋力もアップする職業取ってたらよかったですね」

「そうだよね……はぁ」

 体力向上重視で『ランナー』を取得したが、装備に影響するならば変更も視野に入れないといけないかもしれない。


「アルブルユマンならこのままでいいけど、ブルジェオンを想定するなら防御力上げないと戦えないよね」

 アルブルユマンを討伐をしている最中に1度だけ、ブルジェオンに襲われたことがあった。


 その時飛ばされた種子が私に直撃して、HPを表すブレスレットの青い宝石が一気に3つも減ったのだ。骨が折れたような激痛に襲われながらも、何とかナルミくんに支えられながら木の裏に避難することができた。


 痛みは数秒で引くが、痛いものは痛い。それにHPが一気になくなるのは精神的にもきつい。私たちの防御力向上は急務のはずだ。


「そ、それならアクセサリーショップにいく?」


 山口くんの提供でアクセサリーショップに行くことにした。

 以前行ったときは、身体能力向上の指輪や魔力増加のネックレスなどがあった。

 効果は重複しないものの、装備してる限り継続して効果があるため値段もそれなりにする。


「あ、あったこれだよ」

 山口くんが手渡す指輪には防具超過減少と書かれていた。


「これはその……。身体能力とかは上がらないけど、重くて装備できない鎧とかが軽くなるんだよ」

 隣に置いてある身体能力向上の指輪は1500万リンもするが、こちらの指輪は桁が2つも違って30万リンだ。


「これとレザーアーマーならいい組み合わせかもね。お金がぎりぎり足りないけど、下取りに装備を出すか遠征に1回いけば事足りるかな?」


 装備を下取りに出したとしても、お金は足らずシュヴローのレザーアーマーと指輪の2セットは買えないことが判明した。


 今回は前衛に近い中衛の山口くんはそのままシュヴローのレザーアーマーを装備して、日菜乃と朱莉が装備する予定だった装備を、防具超過減少の指輪を付けた私とナルミくんが装備することにした。

 皆の装備が一新されたのに二人だけ古いままで多少ふて腐れていたが、狩りに出たらすぐにでも忘れるだろう。



 長くなってしまい申し訳ございません。

 明日も同じく12時と18時に投稿します。

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