30話 反省会その2
遠征から帰った私たちは反省会を翌日に後回しにして、各々疲れを癒すことにした。
私は日菜乃や朱莉と温泉に行った帰りに、ヴォリュビリスさんお勧めのレストランで食事をした。やはり宿の食事よりかは、飯処で食べた方が美味しく感じられる。
そして今日はいつものパーティー集会所で反省会だ。昨日の夜食べたチキンソテーをもう一度食べたいなと考えている私とは違い、仁井くんは難しい顔をして何やら計算していた。
「どうしたの?」
「んー……水田さんが手に入れた結界の情報があったじゃん。今それを使った場合るの収支を計算しているんだよ」
時おり「うー」とか「結界かぁ……」とか唸りながら計算している仁井くんを横目に、モンブランケーキを食べることにした。
エルベオ地方では砂糖を作ることができないのか、そもそも砂糖ができる種が落ちないのか分からないが、フィッシャ経由で大量の砂糖がタシア地方から入ってきた。
そのお陰で、久しぶりに甘いケーキを安定して食べることができるようになった。
「やっぱり流通は大事なんやね」
「聞いた話だとさ、不足している地域に持っていくと割高で売れるらしいぜ」
「種を植えて交易に手を出せば儲かるん?」
「じゃねーの? その辺の難しいことはわなんねーや」
「そーやね。うちら頭脳担当やなかもんね」
日菜乃と陣内くんは相変わらずの会話をしている。見張りの時間が一緒だったのだから、二人の仲は少しは進展したのだろうか。
「あのさ、ちょっといいかい」
お喋りを止めて皆が仁井くんに注目する。
「まず、武器のことは『フラワーガーデン』に話を持っていこうと思っている。それに関して意見はあるかな?」
特に問題はないと軽く頷く。
「いいみたいだね。それで……次が結界についてだけどさ」
あまりよくないことだろうか、すごく歯切れの悪い。
「食料だけじゃなく、武器やアイテムも在庫の数が限られていたよね」
「そうだね」
私が使ってる杖も値上がりしているし、回復薬も想定してた額よりも高くなっている。
「えっとね……。そもそも大前提として、プレイヤーがモンスターを倒して手に入れたアイテムを売ると街が発展していくじゃん」
ルージュ村には最初『ラパンの毛皮コート』
は置いてなかった。私たちがラパンの毛皮を交易所に納品するようになってから、防具屋に『ラパンの毛皮コート』が売られるようになった。
「フラリスとかフィッシャとか大きな街ではある程度の食材やアイテムが初めから準備されていたんだよね」
ゲームを初めてすぐの食事で朱莉はフラリス周辺で出没する巨大芋虫のシュニーユの唐揚げ定食を食べていた。また、ルージュ村にはなかった武器や防具もフィッシャで売られていた。
「テントは材料が簡単に集まるみたいで、値下げ傾向なんだよね。僕たちが買ったときは、ゲーム開始直後は10万リンだったテントも8万リンまで値下げしてたからね。でもさ、結界は材料がまだ判明してないのか分からないけど、1個70万リンもしたんだよ……」
結界はルージュ村で活動してたときに、遊びに行ったフィッシャで見たことがある。その時は50万リンだった。20万リンも値が上がってるようだ。
「高いね……。ちなみに1日の稼ぎはどれくらいになりそうなの?」
「まずラパンよりは稼げる。素材だけで1日3万~5万リンはいけると思うよ」
それを聞いた陣内くんが「3万か……」と腕を組考え込む。
「さ、3万ならルージュ村近くの海岸が、そのえっと……同じくらいだよね」
山口くんの言葉に皆が同意する。
ルージュ村近くの海岸は、素材は中々落とさないが食材ドロップは豊富だった。ただ、たくさんの冒険者が海岸で狩りを初めてから旨味が減った。
「今だと1万リン稼げるかどうかだよね?」
多分そうだろうな、と陣内くんが同意する。そして、「仮に1日に5万リン稼げても結界分を回収するには14日かかるわけだろ? 3万リンならほぼ一ヶ月はかかるぜ」と続けた。
「1ヶ月もあそこで生活するとかうちは嫌よ」
「私もひなちゃんと同じで嫌だよぉ……」
長期の泊まりこみは私も嫌だ。
「装備も考えないといけないしさ、やっぱり今回と同じで線香を炊けばいいと思うよ? 皆は睡眠不足には悩まされてないのよね?」
私の質問に「多分大丈夫と思う」と各々が答えた。
1日の合計で6時間の睡眠が必要なのか、1度の睡眠で6時間必要なのかは分かっていなかったが、日菜乃や朱莉たちの睡眠不足値が貯まっていないことから、1日の合計で6時間寝ればいいようだ。
「それなら睡眠のローテーションはそのままでいいとしてさ、結界はいらないんじゃないの?」
「それしかないかな。それに種から採れた野菜が今ならどれくらいの値段で売れるかも分からないしな。なら、とりあえずは四泊五日を目処にやってみようか?」
仁井くんの提案に皆が頷く。
「あ、そ、それと……パーティークエストも受けたい」
「パーティークエスト?」
山口くんは自分のブレスレットからメモ帳の画面を開いた。
「えっとね……。昨日帰りに神殿によってパーティークエストを見てきたんだ」
パーティークエストは神殿が監理、発行しているクエストのことだ。パーティークエストをクリアすると、ポイントが貰えて様々な恩恵を受けることが可能になる。
例えば『深林』からここフラリスの教会までワープする『PTS:礼拝』や、遠くにいる仲間を呼び寄せる『PTS:招集』などが使えるようになる。
「た、種を100個納品したら1ポイント貰えて、10ポイントで『PTS:礼拝』が使えるようになるよ。あと、討伐クエストでアルブルユマンを3体討伐するたびに1ポイント貰える」
「『PTS:礼拝』あると帰りは歩かなくていいのか! それは楽だな」
帰り道に絶望してた杉村くんが元気になる。
「種は種類の指定はあるの?」
私の疑問に山口くんが「なかったよ」と答えた。アルブルユマンは1回の戦闘で80個の種を落としたから、9体倒せば討伐3ポイントと種の納品で7ポイント貯まることになる。
「ならアルブルユマンを中心に狩りをすればいいのかな? 大剣を譲ってくれた人は普段狩ってないって言ってたけど」
「当面はそれで問題ないと思うよ。ブルジェオンやセルマンよりかは戦いやすかったからね。将来的に装備を整えたらそっちに移ればいいから」
ブルジェオンは先端に3メートルくらいの大きな蕾をつけたシダ植物型のモンスターだ。葉の裏にある30センチくらいの固い胞子の塊を大量に飛ばして攻撃してくる。
サッカー部の陣内くんが言うには「俺のシュート速度より速いな、多分100キロは出てるぜあれ」とのことだが、飛ばすモーションが大きいことから木の裏に早めに隠れることで回避することができる。
ただ、モーションも大きくコントロールも悪いから倒すことはできたが、後衛の私たちなら致命傷を負いかねない威力だった。
セルマンは枯れ木のようなモンスターだ。
地面を這うように伸ばされた蔦で攻撃をしてくるが、遠距離攻撃がないため蔦の届かない攻撃範囲外から攻撃すれば、日菜乃たち中衛や私たち後衛にとっては動かない的にすぎなかった。
ただし、モンスターとしてエンカウントするには1度セルマンの根本までいかないと戦えず、枯れ木を見ただけではどれがセルマンなのかも分からない。常にセルマンの不意打ちを警戒しながら探すのは精神的な消耗が激しい。
どちらが倒しやすいかと言えば圧倒的に前者だ。
「多分だけどさ、ブルジェオンの攻撃は防具がしっかりしてたらノーダメージで戦えると思うんだよね。ブルジェオンからは種が400個も手にはいったから、何かしらの狩りのパターンがあるとは思うよ」
「そうだね」と仁井くんに同意する。今はまだ戦いたくないが、将来的にはあれくらいは倒せるようになりたい。
「んじゃ、当面はアルブルユマンを狩りつつパーティークエストをこなしつつリンを貯めて装備を揃えるってことか。何か冒険してねーな俺たち……。もっとこードラゴンと戦ったりすると思ってたぜ」
「確かにもっと冒険冒険すると思ってたよぉ」
陣内くんと朱莉の嘆きで反省会は幕を閉じた。
明日はお昼と夕方の二回投稿します。




