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28話 大人


 パチパチっと枯れ木が静かに爆ぜる。

すっぽりと静寂の闇に包まれた『深林』とは対照的に、キャンプ場では大人たちの酒盛りが始まっていた。


 私たちは小さな焚き火を囲んで反省会だ。


「戦う前の大剣の耐久値に問題はなかったのよね?」

「ま、全く問題ないよ。たしか80以上はあったと思うし」

 山口くんはこちらには目を向けず、中程から曲がってしまった大剣を真剣な眼差しで検分している。


「ここはゲームの世界だし、現実とは違う物理法則があるわけだけど……。衝撃だけで壊れる物なのか?」

 仁井くんは腕を組んで難しく考え込む。


 アルブルユマンを倒した私たちは一度キャンプ場に戻ってきた。武器のない杉村くんを連れて、戦いにいくのは危険だからだ。

 幸いにも私たちに一番最初に声をかけて下さった方が大剣使いで、お古の大剣を頂けることになった。


 何でも「アルブルユマンは普段戦わないからな。武器破壊をするモンスターはかなりいるが、それは武器の耐久値が減るだけだ。耐久値はそのままで、折れ曲がって使えなくなるとかはじめて聞いたぞ。その情報料としてお古で悪いが、これをやるよ」とのことだ。


「この問題って私たちで答え出るのかな? アルブルユマンと戦うときは手足を狙うことと、半回転切りをやめればいいんじゃないの?」


「俺は水田の魔法のせいだと思うけどな」

 杉村くんのジト目に思わず「うっ……」と言葉が詰まってしまう。このままアルブルユマンのせいにしておこうと思ったが、どうやら失敗のようだ。


「ゆきの言い分も分かるんやけど、やっぱり考える必要はあると思っとうとようちは」

「えぇー……ひなちゃん何でぇ?」

 眠いのか、朱莉は目を擦りながら首を傾げる。


「あんね、嘘か本当かわからん情報やんか。にも関わらず情報料って理由で大剣ばくれっとよ。やっぱりなんかあるんやなかとね?」

「んー……何かあるのかなぁ?」


 私は今出てる意見をまとめる。

「んーと……。まずアルブルユマンが武器を壊した、次が魔法で倒したアルブルユマンが倒れるときに曲がった、最後に私の魔法で壊れた、だよね」


「そうだね」と仁井くんが同意する。


「あいつが武器を壊した可能性についてだけど、杉村は刺さったままの武器を手放したよな。それが原因だとすると、どんな問題があるんだ?」

 焚き火で暖められている、リンゴのホットジューズをコップに注ぎながら陣内くんが疑問を呈する。


「と、投てき全般に係わってくるよ。お、俺や橘さんや新田さんは、投てき武器使わないけど……。使う人には重要な問題だね」


 投てき武器とはクナイや投げナイフのことだ。刺さった投げナイフが耐久はまだあるのに曲がって使えなくなったら、死活問題に関わるのは安易に想像できてしまう。


「あとは緊急避難をするときに戸惑ってしまいそうだね」

「昴、それな。あんとき武器を手離さなかったら杉村やられてたもんな」

「武器か命かなら、今回は命を優先したけどさ。もう少しいい武器なら武器を優先してしまうな俺は」

 前衛3人は常に最前線で体を張っている。危険を少しでも減らすために、回避の方法や連携などをよく休日にも合わせる練習をしているのを目撃する。


「だとしたら、アルブルユマンは手放した武器を曲げる能力があったってこと?」


 私の疑問に仁井くんがすぐに答える。


「その可能性もあるよね。ただ僕は、手放した武器は装備品扱いにならず、木とか石とかそれこそ草とかと同じオブジェクト扱いになった可能性が高いと思ってるかな。それと、その2の倒れるときに曲がったが有力たと思うけどな」


「ねぇーねぇーそれってさっきのと違うのぉ?」

 そろそろ睡魔に負けそうなのか、間延びした朱莉の声はずいぶんと眠たそうに聞こえる。


「かなり違うよ。モンスターを倒すとさ、その場に倒れてから砂のように消えて、最後にアイテムをドロップするじゃん」

 朱莉は仁井くんの説明に首を縦に振っているのか、眠くて船を漕いでいるのか頭をゆっくりと上下させる。


「倒れるときに曲がったなら倒れるモンスターはオブジェクト扱いになるってことだよね。それで、オブジェクトのモンスターがオブジェクトの剣を壊したのなら、倒す方向を変えることや最悪僕たちが、倒れてくるモンスターを支えてやればいいから、わりかし対処は楽だね」


「生きてる間に武器を曲げたか、死んだあとに武器曲げたか……か」

 小さく杉村くんが呟く。


「そうそう。死んだあとに武器が曲がったのなら、大型モンスター全般注意が必要になるしさ。それとやっぱり一番気になるのは、倒れるときに武器を持ってなかったら曲がるのか、武器を持ってても物理法則に従って曲がるのかだね」

 仁井くんの疑問に陣内くんが低く唸る。


「あぁー……それがあったな。槍刺さったまま倒すこと結構あるんだよな俺」


 陣内くんの戦闘スタイルを思い浮かべる。左手の盾でモンスターを押さえ込み、右手のショートスピアで急所を刺す戦いかただ。時々ラパンを刺したまま持ち上げてた気もする。

 戦闘スタイルを思い出して、1つの疑問ができた。


「ちょっと待って、陣内くんラパンを槍1本で持ち上げてたよね? あの時は曲がってなかったよね?」

「あー確かに……。なら、武器持ってたら曲がんねーのか?」


「あ! 山口くんさ、具体的な耐久値覚えとうと?」

 何かを思い付いたのだろうか、日菜乃が楽しそうな顔で山口くんを見る。


「出発する前は82以上はあって、壊れた時は82だったよ……」

「出発前から82やったりせん?」

「ど、どうだったかな……ただ、85とかはなかったと思う」

 自信なさげに昨日の夕方の事を思い出している。


 武器の耐久を知ることや、整備をするには『鍛冶屋』の職業をスロットにセットするか、整備屋に持っていかなければならない。そのため私たちのパーティーでは、装備全般の整備は山口くんに丸投げ……もとい山口くんが担当している。

 

「それなら今から試してみたいことがあっけん、やってみてよか?」

 同意を求めてる割りには、そそくさと日菜乃は準備に取りかかった。焚き火を作るときに集めてた石を2つ等間隔に並べて、その上に矢を1本置いた。


「これ買ったばっかやけん、耐久値は3のままやんか。んでさ、石ば落として耐久値が残ったまま折れたらオブジェクトは耐久に関係無しに壊れるってわからん?」


「確かに耐久が残って折れたならそうだけどさひなの。耐久が0になって折れたらどうするの?」


「そんときはそんときでよかやん」

「た、確かにそれもそうだね……。実験は失敗がつきものだし」

 無言の沈黙を同意と捉えた日菜乃が、腰の高さから30㎝はある石を落とした。

 バキッドスと矢が折れる音と、石が地面にぶつかる二つの音がユニゾンを奏でる。


「見事に折れたねぇ」

「実験とは言ってもさ、やっぱり気分よくなかね」

 折れた矢を山口くんに渡す日菜乃は悲しそうに目を伏せる。


「んー……。た、耐久値は0になってるよ」

「そっか……残念やったとよ」

「いや、失敗とは分からないよ。意図的に壊そうとしたら耐久値が減るのか、無意識なら耐久値が減らずに壊れるのかが判断できてないけどさ。意図的に壊そうとしたら耐久値が減るってわかったわけだし、一歩前進だよ」

 仁井くんの励ましに山口くんが同意する。


「た、確かにそれは大きいよ……な」

「最後が水田の魔法か?」

 魔法被害に一番あっている杉村くんがジト目でこちらを見てくる。


「え、冤罪だよ! 今までなかったじゃない?」

「確かになかったよな」

「だな」

「くっ……確かに冤罪なのか」

 仁井くんと陣内くんはすぐに納得したが、杉村くんは腑に落ちないようだ。

 これまでの実績を考えれば分かる気はする。


「無意識に壊した可能性もあるかもだけどさ、それは私じゃ対処できないよ」

「なら対処できることを考えようか」

 仁井くんの提案に日菜乃が素早く答える。


「予備の武器はもっとった方がよかね。剣に関わらず弓とかも」

 初期装備の武器は威力がないが耐久値もない。ラパンなどのモンスター狩りをするときのために、初期装備の武器は未だに持ってはいるが、メイン武器の予備は誰も持っていなかった。


「他には……なるべく切り落とせる場所を攻撃するだな」

「あとは突いたらすぐに抜くもあるな」

 杉村くんと陣内くんは自分の攻撃パターンを振り返っているようだ。


 静寂が場を支配する。


「大人ってさすごいよね……」

 私の呟きに日菜乃が首を傾げる。


「折れた大剣を見ただけでさ……たったあれだけの情報でここまで考えてたから私たちに替わりの大剣くれなわけじゃない」

「あぁー……確かにすごかな。うちらやと問題提議しかできとらんもんね」


「もしかしたら、単純に面白かったお礼かもしれねーぜ? それかめっちゃいい人だったのかもな」

 陣内くんがおちゃらけた雰囲気で考えに煮詰まった場を和ます。


「これ以上は考えてもしかたないから、当初の予定通り見張りをたてて他の人は寝ようか」

 仁井くんが場を閉めて、各々就寝準備に入っていった。


 オブジェクトについて説明が分かりにくかったと思います。申し訳ございません。


 全て終わってから再度説明するかもです。


 本日も読んでいただき感謝いたします。

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