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27話 深林へ


 『桜の広場』で開催されたお花見が終わってから一週間が経過した。今日は仁井くんが仕入れてきた『深林』へ冒険する日だ。


「忘れ物はないかな?」

 前日に何度も確認をした荷物をもう一度リュックから取り出して確認をする。

 日菜乃が隣で「水が一枚……二枚……」とカードの確認をしている。


 今回はお試し期間として一泊二日で冒険をすることにした。本当は二泊三日の冒険がよかったが、それは山口くんが同意しなかったからだ。


 北門を抜けて『桜の広場』へ行った時と同じ道を進む。途中までは一緒だ。


「半日ってさ、フイッシャとルージュ村くらいの距離だよねぇ?」

「そうだね。しかも今回は山道だよ」

「行く前から気後れしてしまいそうやん」

 『ランナー』の職業補正のお陰で、2時間歩くのは苦にならない。むしろ楽しいくらいだ。

 ただ、半日も歩くとなるとやはり疲れてしまう。


 山の山頂にたどり着くと30分ほど休憩することにした。

「ここが一番高いわけじゃないからそこまで、見晴らしよくないよね」

 遠くにはまだ高い山々が見える。


「大体2時間くらいだね」

 仁井くんが日時計を使い、ここまでのかかった時間を計測する。


「山越えに登り下りで4時間で、あとは森の中を1時間進むと『深林』だったよね?」

「そうだね……。分かってはいたけど、やっぱり遠いね」

 力ない笑顔を私に向ける。


「今回は一泊二日だけど、三泊四日とかにしないと精神的に参りそうだよ」

「確かにそうだね。睡眠のバットステータスがどれくらい蓄積されるかにもよるけど、それくらいは欲しいよね」


 睡眠不足。ゲームが始まってすぐの私たちやナルミくんがかかった初めてのバットステータスだ。


 仁井くんが調べてきた情報によると、24時間のうち6時間はベッドで寝ないといけないらしい。例えば4時間ベッドで寝て、20時間起きてたら2時間分の睡眠不足が蓄積される。

 累計で寝不足が6時間越えてしまうと、バットステータス睡眠不足になってしまう。


 解決方法はベッドで6時間寝てしまえばいいということだ。

 また、4時間睡眠を2日続けて3日目に6時間寝たら、1回の睡眠で睡眠不足の蓄積がリセットされるのだ。


「テントあるから何とかなるとは思うけどね」


 テントで寝ると睡眠不足が蓄積されなくなるから、野外で活動するには必須アイテムだ。

 さらに追加効果として、6時間の睡眠で1時間分の睡眠不足を解消してくれる。


「確かにそうだね」

 優しい笑みを見せながら仁井くんは休憩の終わりを告げた。



 フラリスの北門から『太古の遺跡』まで『ノールグランの森』を経由して1本の道が続いている。

 その『ノールグランの森』と『太古の遺跡』の境目にある場所が『深林』と呼ばれている場所だ。

 きちんとしたエリアとして存在するわけではなく、プレイヤー達が勝手に呼称しているだけのエリアだ。そのため無事に辿り着けるのか不安ではあったが、確かに行けば『深林』の場所が分かった。


 小川を渡り曲がりくねった道を抜けた先で、急に視界が開けた。


 そこには私たちの他にも何組ものパーティーがテントを張ってキャンプをしていた。


「キャンプ場が出てきたけど、ここでいいのよねぇ?」

「多分そうじゃないかな……?」

 明莉の疑問に力なく返答する。


 今までの森は人の手が入っておらず自然のままだったが、『深林』はキャンプ場に近い雰囲気がする。

 適度に伐採された木々に地面には落ち葉や枯れ木があまり落ちておらず、きちんと整備されている。


「おう、こんにちは! はじめて見る顔だな」

 突如現れたキャンプ場に右往左往していると、40代くらいの背の高い男性に声をかけられた。背中には大きな剣を装備していることからも杉村くんと同じで大剣を使ってるようだ。


「えっと、この辺まで来るのは初めてか?」


「はい、そうです。僕たちは先週『フラワーガーデン』のイベントに参加した時に、ここの情報を教えて頂きました。それでここまでやってきたのですが、ここは『深林』でよろしいのでしょうか?」

 仁井くんが代表として受け答えをしてくれる。


「ああ、そだな。『深林』と呼ばれているよ」


 目的地に無事に辿り着けたことが分かって、思わずにやけてしまう。


「いくつか細かいルールがあるが、知ってるか?」

「いえ、特になにも知らないです」

「そうかそうか。まずごみは持ち帰ること、次にモンスターをここまで連れてこないこと、勝手にここを開発しないこと、あとはあまり騒がないことだな」

 特に問題のないルールで安堵した。


「わかりました、ルールを守るようにします。ところで……ここはキャンプ場ですか?」

「ここは『フラワーガーデン』さん始め沢山のプレイヤーによって作られた場所でな、いつのまにかキャンプ場になってたな。管理とかは有志で勝手にやってるから気にしなくていいぞ」



 人里離れた山奥のさらに奥の森深くで狩をするにはリスクが大きい。そのリスクを減らすために始めは少数が固まってテントを張っていたそうだ。

 そして人が増えるにつれて、徐々に生活しやすいように整備をしていたらいつのまにかキャンプ場になっていたらしい。



「それじゃーテントを出すよー」

 私たちはなるべく中心に近い場所にテントを張ることにした。

 回りに他のプレイヤーが居れば、襲撃に気がつかないことはないだろうと思ってのことだ。

 『ホルダー』の能力を使って、すでに組み立てられている3人用テントを3つ用意した。


「他の道具はいらんよね?」

「まだいいよ。お昼食べたら狩にいくからね」

 マットの上でゆっくりお昼を食べたあとは少しだけ辺りを散策することにした。


 プレイヤーが沢山いるが、一応フィールドなのは変わらない。そのため、武器を持って全員で行動だ。


「人多いよねぇ……30人くらい今いるねぇ」

「そうやね、しかも今狩に行っとう人もおるんやろ?」

 明莉と日菜乃に相槌を打つ。


「確かにそうだね。夜になるともっと多くなりそう」


 ざっと見た感じテントは40個は建っていた。 三人用よりも少し大きい4人用テントがメインに建っているから、単純計算でも160人近くはいるのだろう。

 テーブルや椅子に調理器具を出したままのところや、洗濯物を干しているところまである。


「連泊してる人多いみたいだねぇ」

「うちらもしてみる?」

「んー……今回はお試しだから予定通り帰ってさ、次は一気に四泊五日とかでいいと思うよ」


「あとはまん中不人気だよね」

「やね。安全だと思っとったけど、危ないんかな?」

「んー……入れ違いにいなくなったんじゃないかなぁ?」


 キャンプ場と森の境界線には円を描くように沢山のテントが並んでいるが、中心部は驚くほどすいていた。


「なるほどね、あかりのいう通りかもね」

 元々中心部を使ってたパーティーと入れ違いに私たちが来たのだろうと軽く納得をする。


 フィールドにいることを忘れてゆっくりと散策を終えた私たちは、狩に出ることにした。



 キャンプ場から30分ほど離れた場所で早速モンスターを見つけた。

 細い蔓が絡まり、2メートルくらいの人の形になっているモンスター『アルブルユマン』だ。


「1体か……。俺にやらせてくれ、あいつの攻撃をきちんと防御できるか試したい」


 陣内くんが盾を構えて前に出る。


「デバフは必要ですか?」

「攻撃力ダウンだけやってくれ」

 ナルミくんが「わかりました」と返事をすると同時に陣内くんが飛び出した。慌ててナルミくんが攻撃力ダウンのデバフを唱える。


 アルブルユマンはゆっくりとした動きで、蔦が絡まってできた腕を大きく振り上げて、陣内くんめがけて振り下ろした。


 ガッチンっと大きな金属音が鳴り響いた。


 陣内くんは振り下ろされたアルブルユマンの手を、自分の頭より上に構えた盾できちんと防御していた。


「攻撃は防げるぞ! デバフなくてもいける!」

「次は僕たちが切る!」

 仁井くんは「うっおおおー」と掛け声を発しながら、陣内くんに向かって振り下ろされている手を肘辺りから切り落とす。

 腕が切り落ちたと同時に、仁井くんと陣内くんがその場を離れる。待ってましたと言わんばかりに杉村くんが半回転して、遠心力を乗せた大剣の横薙ぎに払う。


 ドッンっと大きな音をたてた大剣はアルブルユマンの胴を半分ほど切っていた。


「やばい! 抜けない」


 しかし、アルブルユマンはまだ倒されておらずに残った腕でを大きく振りかぶり杉村くんめがけて振り下ろした。


 仁井くんの「投げ捨てろ!」の叫びと同時に、杉村くんは大剣を手放し後ろに転がるように飛ぶ。

「間に合えぇぇーーー!」


 陣内くんの防御が間一髪間に合ったようで、再びガッチンと乾いた金属音が鳴り響いた。


 武器を手放した杉村くんが後方に走ってくる。攻撃手段も防御手段もない以上は、私たちより後ろに下がってくれた方が安全だ。


「すまん、やらかした」

「無事だったしいいよ」

「水田、好きなだけ魔法をぶっぱなしてくれ!俺には当たらん」

「うっ……」


 最近は当ててないと否定しようとしたが、ここに来るまでに1度当てた事に気がつき言葉につまる。


 杖先に水の塊を、そして徐々に杖先が重くなっていくことをイメージする。


 魔力は十分に満ちた。あとは放つだけだ。


 中衛の援護を受けて陣内くんがアルブルユマンから離れたのを確認して、「いっけえぇぇぇぇえええ」と気合いの入った掛け声と共に飛ばされた魔法はアルブルユマンの胴体に直撃した。


 元々胴体の半分は切れてたからだろう。ずっん!と大きな音をたてて上半身が崩れ落ちた。

 その場に残った下半身は砂のように崩れ去っていった。


「カード発見! 種のカードめっちゃ落ちてるぜ」

 一番近くにいた陣内くんがドロップ品を漁っている。

「あ……」

 落ちてた大剣を拾った仁井くんが気まずそうに杉村くんを見つめる。


「まじかぁ……やっぱり水田の魔法に関わるとろくなことねーな」

 仁井くんから受けっとた大剣は、魔法の衝撃で曲がっていた。


 杉村くんの受難はまだまだ続くようだ。


 杉村くんは魔法にとことん嫌われてます。

 本日よりしばらくは18時ジャストに予約投稿いたします。

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