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26話 桜の木の下で(後編)


 お昼のバーベキューの事は考えないで持てるだけ持ってきたが、女性3人で食べるには少々少なかったようだ。


「もう少しだけ、何か貰ってくるね」

「うちもいこうか?」

「ひなのはあかりとここで場所取りしててよ」


 男性陣の分も調達するならば人手は欲しい。  しかし、アイドルの追っかけをしてるのならば別に必要ないだうし、日菜乃がお悩みモードになったら余計な手間もかかると、判断して立ち上がろうとした日菜乃を制止する。


「甘いもの中心でお願いねぇー」

「うちもそれでお願いするけん」


 ここでは体重を気にする必要がない。そのためか、フラリスに来てからは甘いものをばかりを食べてる気がする。

 二人の呑気な声に、現実に戻っても食習慣が治らなかったらどうしようと若干の危機感を覚える。


「あら、先ほどはお世話になりました。楽しんでますか?」

 ログアウトしてからの食習慣を考えていると、背後からのんびりとした暖かな声に振り返る。そこにはトゥルネソルさんと、なんでも焼きを作ってた青い短髪の女性がいた。


「あ、はい! 料理が美味しくって楽しいです」

「ふふ、それはよかったです。ただ、少しは花も楽しんでいただけると嬉しいかな」


 トゥルネソルさんに釣られるように回りを見渡す。桜の木しか目に入らなかったが、プランターに入れられたチューリップやパンジーが、至る所でフラワーアレンジメントされていた。 熊や犬、猫の形にアレンジされた花も置かれている。


「あ……その……すみません。気がつきませんでした」

「いいのよ。やはり花より団子ですものね」

 柔らかな笑いが少し悲しみも混ざっているように見える。


「そ、そうだ! 料理の種類が豊富で驚きました。どうやって作ったんですか?」


 ルージュ村に居たときに毎食ラパンを焼いただけの料理に飽きて、宿の厨房でハンバーグを作ったことがある。その時は、中まで火が通らずに表面だけが焼けた肉の塊ができただけだったことを伝えた。


「それはレシピを知ってるからだよ」

「レシピですか?」

「あ、ごめんね。ヴォリュビリスです。『フラワーガーデン』の料理担当だよ」

 青い短髪の女性はヴォリュビリスと名乗った。


「先ほどは失礼しました。名乗ってなかったですね」


 そして私はトゥルネソルさんにも名乗ってなかったことを思いだし、改めて自己紹介をする。


「ウォータースノーって言います。ただ、ゆきと呼んでくれると嬉しいです」

 名字の水田からウォーター、名前の由紀から雪でスノー。我ながら安直なネーミングだと思う。


「あぁ、よろしくゆき」

「改めてよろしくね、ゆきちゃん」

 挨拶も終わり、改めて疑問を訪ねた。


「ゆきは狩ったラパンをハンバーグにしようとしたんだよね? それだとしたら、ラパンは火の耐久属性を持っているんだ。だから、フライパンで焼いても半生状態にしかならないよ」


「でも、ラパンの串焼きとかありましたよね? 宿でもラパンのステーキが食べれますし」


「それは1度下茹でしてるからだね。ラパンの肉を3時間ほど茹でると中まで火が通るから、あとは表面を焼くだけだよ。あとは耐久を下げる魔法を使うと焼けるよ」

「料理にも魔法を使うのですか?」

「そうだね。そうしないと調理できない食材多いしさ」


 流石ゲームの世界だ。ただただ、調理するだけなのにモンスターの属性を考えたり、魔法を使ったりしないといけないようだ。


「あとは食材が売っている肉屋とか野菜屋で買えば、魔法とか全く使わなくて料理できるよ」

 今日はフラリスの商店街で食材を購入してきた。

 あとはここに来る前にプーレを倒して手に入れたお肉もあるが、プーレは食べない方がいいだろう。


「ふむ……。ところでレシピはどこで手にはいるか教えて貰うことってできますか?」

 バラエティー豊かた食生活は生きる活力になる。


「あー……レシピは職業の『料理人』試験に合格すれば1レベル上がる度に10種類のレシピを貰えるよ。あとは『料理人レベル10』で天性の舌ってスキルがあってね。それがあるとEランク料理なら1度食べるだけで、レシピがわかるね」

「Eランク料理?」

 料理にランクがあるのは始めて知った。


「そうそう。料理にはEからAランクまであって、そのランクの料理によって効果が全く違ってくるんだよ」

「効果……ですか?」


「そうだね、そもそも手に入れた素材は何で宿にも卸せるか考えたことある?」

 私は静かに「ないです」と首を横に振る。


 確かに疑問ではあった。交易所に卸せば街全体に広がる。それに対して宿に卸したら、その宿でしか広がらない。

 陣内くんは売り上げを手に入れることで、戦闘以外でもお金が稼げるようになってると言っていたはずだ。


「えっとね、宿に自分達が卸した食材を使ったた料理を食べると、料理効果でバフがかかるんだよ。例えば力が上がったり、足が速くなったりするのさ」


 ラパンのステーキを食べるには、ラパンの肉とバジル、ニンジン、ジャガイモが必要になる。


 それらを交易所に卸せば、その街の全ての宿で材料があれば食べることができるようになる。


 バフが付与されるラパンのステーキを食べるには宿に食材を卸せば、バフ効果のある料理を食べることができる。


「なるほど、冒険に行くときは事前にバフ効果のある料理を食べておけばいいですね」

「そうだね」

 静かにヴォリュビリスさんが頷く。



「それと、レシピが分かったら誰でもバフ付きの料理ができたりするんですか?」

「いいや無理だよ。効果がある料理は『料理人』じゃないとできないね」

「なるほど……。効果のある料理を食べたいなら『料理人』を雇うか、材料を宿に直接卸すのがいいってことですね」


「そうだねあと1つだけいいこと教えてあげるよ」

 私の何を気に入ったのか、ヴォリュビリスさんはさらに追加の情報をくれた。


「宿の食堂とレストランなどの料理屋があるけどね、宿の食堂だとCランクまでの料理しか作って貰えないよ。それより効果のある料理を食べたいならレストランに卸すしかないね」


 宿の味に飽きたらレストランで食事をするくらいにしか使ってなかったが、レストランにも意味があるらしい。


「レストランでも売り上げが貰えたりするんですか?」

「残念ながらレストランでは無理かな。それに一人分の食材だけ持っていっても料理はしてくれないよ」


 レストランではBランクまで食べることができるが、食べるには大量の食材を持ち込まないと調理してくれないらしい。


「ゆきーまだー?」

 振り返ると日菜乃がゆっくりとこちらに向かって来ていた。


「あら? お友だちかしら? それなら私たちもお暇させて貰おうかしらね」

「トゥルネソルさん、ヴォリュビリスさんありがとうございました」

「あら、私は何もしてないわよ」

 柔らかな笑みを浮かべるトゥルネソルさんと満足げな表情のヴォリュビリスさんにお礼をいいその場を後にする。



 

「ところでさ、みんなは遠征についてどう思う?」

 バーベキューも終わり食後のまったりとした空気の中、仁井くんが午前中に仕入れてきた情報を公開する。


「フラリスから徒歩で半日進んだ場所にさ、『深林』って呼ばれるエリアがあるんだって。そこは『種』を落とす植物系モンスターが豊富にいてさ、ダルク村かルージュ村で栽培すればお金がかなり稼げるらしいんだよ」


「お金かぁ……」

 陣内くんは難しい顔で腕を組んでいる。お金だけでは冒険のモチベーションが上がってないようだ。


「ゲームが始まって、もうすぐ半年立つけどさ。僕たち特に冒険らしい冒険はしてないじゃん? 行くまでに半日かかるからさ、日帰りは無理なんだよ。だからテントを持っていって夜は火を囲んでご飯食べて、深夜は交代で見張りをするってどうかな? 冒険者らしくって楽しそうじゃないか?」


 確かに私たちは冒険らしい冒険をしていない。その日の生活をよくするためにモンスターを倒してるくらいだ。唯一した冒険を上げるとするならば『狼退治』くらいだろうか。それに、これまでの移動でキャンプをすることはなかった。モンスターを警戒しながらキャンプをするのは魅力的な提案にも感じる。


「せっかくゲームしてるんだしさ、それにあと半年で帰れるわけだから、それまでに冒険したくないか?」


 どこから流れてきた情報なのかは不明だが、私たちは24時間しかプレイする権利がないのだから、ゲーム内時間で1年たてば強制ログアウトされるという噂がフラリスで流れている。


 山口くんはその考えに擬似的だが、ほとんどのメンバーはその考えを支持している。かく言う私もその一人だ。



「私は賛成かな」

「うちも賛成やね。どのみち今後もゲーム続けるなら遠出もするんやしさ、遠出のいい練習になるんやなかと?」

「だねぇー皆でお泊まり楽しみだねぇ」

 女性陣がいの一番に同意する。それに続くように男性陣も同意しはじめた。ただ一人山口くんを除いてだが……。


「三太先輩はやっぱり反対ですか?」

「あぁー……うん」

 山口くんは遠出を含めて、少しレベルが高いところへの狩りなども反対している。


「でもさ、どっかできとんと稼がないと俺たち詰むぜ? お前は何か代案あるのか?」

 杉村くんの言葉に山口くんが黙り混む。


「お前が慎重になるのもわかるけどさ、確かに変なのは変だよな」

「そーだよな。アナウンスも何もねーのに1年も閉じ込められるのは正直どうなの? とは俺の思うぜ。まぁ、男ばかりじゃなくかわいい子に恵まれてハッピーだがな」

 陣内くんが冗談混じりで杉村くんの意見に同意する。


「代案がないんだったらさ、昴の提案に乗ろうぜ? 生活費は稼げても装備代や試験代は稼げてないしさ」

 杉村くんが優しく山口くんを諭す。


 ファンタジーワールドの世界では生活することは想定されていなかったようで、生きてくだけならそこまでお金は必要ではない。それこそ、ラパンを毎日10匹狩るだけで一人なら十分に生活できる。


 その代わり、装備代がかなり高い。維持費だけでもかなりお財布を圧迫する。そのうえ職業レベルを上げる試験代や、新しい装備を買うための貯金まで必要になる。


 さらに困ったことに私たちのパーティーは中衛が3人もいる。日菜乃や明莉の矢代、山口くんの弾代と、ただ戦うだけでもお金がかかってしまうのだ。


 パーティーの経済状況も考えているのだろうか、腕を組難しい顔をして考え込んでいる。


「わかった、いこう」

 暫しの沈黙のあと、山口くんは同意した。これにより、私たちは『深林』と呼ばれるエリアに向かうこととなった。



 長くなりましたが、桜の木の下で編は終わりです。

本当は料理の会話はもう少し続き、BBQのお話もありましたが全面カットしました。

 明日からはまた18時からの投稿のみとなります。

 本日も貴重なお時間頂き、感謝いたします。

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