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24話 フラリスでの狩り(後編)


 早速、翌日にボスケの森の中心部に向かうことにした。


 ボスケの森入り口周辺は間引きされて管理されていたが、中心は全くされていない。そのため視界が悪く、日中でも薄暗い。

 また、森の中心に行くには沢を越えなければいけなかった。


「長靴あってよかったよねぇ」

「やね。でもさ、履き終えたらまたカードに戻すんやろ? めんちくなか?」

「そうでもないよ。後衛職だから魔力はあかりよりあるし」


 『ホルダー』の職業は後衛職とやはり相性がよかった。

 以前は小物類をリュックに入れていたが、今は各々が装備する武器と腰にぶら下げている小さな水筒以外はすべてカードにしてウエストポーチに入れてある。


 流れが速い、水深が膝したまでの川を渡りきると休憩をすることにした。


「思った以上に時間かかるね」


 エルベオのバザーで手にいれた簡易日時計をカードから現物化する。


「太陽くんが出でるのに合わせて出発したのに、もう9時かぁ……。それにしてもこの子は優秀だねぇ」

 朱莉は簡易日時計を指でツンツンと触りながら、大まかな時刻を告げる日時計を誉める。


「本当にいい買い物したよね。高かったけど……」

 ファンタジーワールドではヤマト地方を除き、他のエリアは季節が固定だ。

 そのため各エリア毎に設定された日の出と日の入りの時間は毎日同じらしく、それを元にプレイヤーが自作したのがこの簡易日時計だ。


 今までは正確な時間を知ることができず、太陽の位置で大まかな時刻を判断していただけに、非常に冒険の役に立つアイテムを買えた。


「それでぇ、他のプレイヤーはどうしてるのかなぁ?」

「やっぱり泊まりやなか?」

「キャンプだねぇ! 楽しそぉ」

 無邪気に喜ぶ朱莉とは対照的に私の心は曇り模様だ。


「テントってさ、回数制限あるからどんなに丁寧に使っても限界越えたら壊れる消耗品だよ。しかも1個10万リンもするからね……」

「高かね。何でそげんすっと?」

 理由までは分からないので、仁井くんに助けを求めた。


「多分だけど、冒険に必要だからだよ。特に衣類が一番分かりやすいかな。防御力が上がる衣類とおしゃれ衣類だと値段が違うだろ? それと同じで、テントは冒険に使うから高いんだよ」

 同じワンピースでも防具だと『赤色のワンピース 防御力10』になるが、おしゃれ装備だと『赤色のワンピース 防御力0』となる。

 おしゃれ装備の方が値段も圧倒的に安く、街中での普段着にしている。


「ふむふむ。何で冒険に必要やと高かかと?」

「ゲーム……だから……?」


 結局のところ明確な答えはなかったようだ。談笑も終わり、私たちはもう少し進んだ先でモンスター退治をすることにした。



「いたぁ!」


 朱莉が指差す方向に『サル型モンスター グノン』が3匹木の上に居た。グノンたちはまだ私たちに気がついていないようだ。


「3匹か……」

「右のやつ狙いつけとうよ」

「左は任せてぇ」

 仁井くんの不安めいた呟きを払拭するように、日菜乃と朱莉がそれぞれ攻撃準備ができたことを告げる。


「俺たちもいけるぞ昴」

 両手剣を構えた杉村くんの隣に、盾を構えた陣内くんが皆を守るように前に出る。


「わかった。ナルミ、拘束を頼む」

 モンスターは動物と違い、常に辺りを警戒しているわけではない。モンスターごとに設定された、感知範囲に引っ掛からなければ先制攻撃が可能だ。


「いきます」

 深く息を吸いナルミくんが阻害魔法をグノンにかける。

 木の枝から黒い手が出てきて、グノンを拘束する。それと同時に左右のグノンには矢が飛んでいき、真ん中のグノンには私が放った水の塊が飛ぶ。


 どすっと短く鈍い音の後に「キッキー」とグノンの悲鳴なのか威嚇なのか分からないが、鳴き声を発しながら3匹とも木から落ちた。


「ダメ! 1発ではやりきれとらん」

 グノンは日菜乃の攻撃力をもってしても、即死させることはできなかった。


「こっち来ないねぇ……。もしかして気がついてないのかなぁ?」

「私たちだと見えないからどうなってるのか教えて」

 『狩人』と『ハンター』を取得している二人には見えていても、私たちには鬱蒼と生い茂る草木が邪魔で視認できていない。


「さっきの木の下で固まっておっとよ。全く動いとらん」


 先ほどの木の下を見つめながら魔力を杖先に溜める。

「もう一発打とうか? 私なら木ごと倒せるかもしれないよ?」


「根本に打つとこっちに倒れる可能性が高いから、ナルミは上の方を水田さんの後に打って倒す方向を調整してくれ」

 ナルミくんは元気よく「了解しました」と返事をしながら魔力を溜め始めた。


 アイコンタクトでまず私が打つ。


「てぃっ」と杖を振り水の塊を飛ばすと、見事に根本に命中した。案の定木は私たちの方に傾いてきたので、ナルミくんが反対方向へと倒す。


「魔法上手くなったよな」

「それでもまだ後ろは怖いぞ」

 誤爆被害によく合う陣内くんと杉村くんの信頼は、いつ頃回復できるのやら……。


「見えたぁ!」

「うちも!」

 倒れた木の根本にいた2匹のグノンに向かって、2本の矢が飛ぶ。


「こ、こいつは……殺れる!」 

 二人より一呼吸遅れてパッンと山口くんが放った銃声が木霊する。


「まだ死なないよぉ」

「うちの方は倒せた!」

 パーティーで最大火力の日菜乃が狙ったグノンは倒すことができたが、朱莉と山口くんが攻撃したグノンはまだ生きていた。


 グノン達は明後日の方角を見ながら「キッキー」と叫ぶだけで、こちらを見ようとはしない。


「どうする? 間合いを詰めるか?」

 陣内くんが盾を構えて、警戒を解かずに訪ねてくる。


「いや、様子を見よう。あと一撃で倒せるはずだから、こちらに来たら遠距離から攻撃してくれ。晋作はそのまま警戒はしとけ」


「ああ。分かった」

 仁井くんの指示に従い、遠距離攻撃がいつでもできるように魔力を溜める。


 異変に一番最初に気がついたのは日菜乃だった。


「あっこから何かきよっとよ!」

 日菜乃の指差す方角を見るが何も見えない。

 朱莉も見えてないことから、『狩人』と『シューター』の能力で見つけたのだろう。


「仲間呼んどらん!? 1……2……3……5匹! 5匹来ようよ!」


「あの2匹はすぐに倒してくれ!」

 日菜乃の報告を受けて、残っているグノン2匹私の魔法と朱莉の矢ですぐに止めを刺した。


 止めを刺した直後。


 ビュっと小さな音をたてた石が、私の頭に直撃する。


「うっ……ぅぅ」


 意識が飛びブラックアウトするが、鋭い痛みが頭部を襲い、強制的に意識を覚醒させられる。


 血こそ出ていないが、現実世界なら大怪我は間違いないだろう。


「ゆき先輩! すぐに回復してください」


 ナルミくんに言われて、慌ててポケットに入れている錠剤の回復薬を取り出す。

 名刺サイズの小さな平べったい木の箱の中から一粒取り出すつもりが、焦って地面にばらまいてしまった。


 今までは自分の魔法で回復していたからこのようなミスはなかったが、回復薬の取り扱いも考える必要がありそうだ。



「体制を建て直す! ナルミは動きを阻害しろ! 晋作は奥の2匹のヘイト稼げ! 橘と新田は俺に続いて手前3匹の進路を潰す! 弾幕射撃をしろ!」


 山口くんの突然の指示に驚き、戦闘に意識を戻す。


「はっ!」


 日菜乃の掛け声と共に、ガッガッガと銃弾と無数の弓が飛び交う。


「こっちに来やがれサル野郎が!」


 間合いを詰めていた3匹のグノンは弾幕射撃に進行を阻まれ、投石していた2匹のグノンは狙いが変わり陣内くん目掛けて投石をはじめた。


「よし、狙いを変えるぞ! 奥は弓で殺る! 手前3匹は前衛と魔法で殺ってくれ!」


「分かってる三太! どっりゃぁぁああ!」

 言うが早いか、杉村くんが両手剣を振り被りグノンに一撃を入れる。そして剣の遠心力を利用して、野球のスイングのように回転しながら横凪ぎの一撃を再度加える。


「水田!」

「いっけ!」


 杉村くんの叫び声に合わせて、吹っ飛んだグノンに水魔法を撃ち込む。

 私の放った魔法は真っ直ぐグノン目掛けて飛び、直撃した。


「倒した! 次だ!」

 木の影に飛んでいったグノンを倒せたか分からなかったが、杉村くんの叫びを聞く限りどうやら無事に倒せたようだ。


 次なるターゲットを求めて、他のグノンを見る。


 1匹は石を投げていたグノン達の方に逃げていて、残りの1匹は噛みつくのかひっかくつもりだったのか、仁井くん目掛けて飛び上がっていた。


「胴ぉぉおおお!」

 だが、そのグノンに仁井くんは足場の悪いなか綺麗な抜き胴を決めた。


 しかし、まだ倒しきれていない。


 再び顔めがけて飛び上がったグノンの頭を、今度は面打ちで叩き落とす。そして、止めとばかりに地面にひれ伏すグノンに剣を突き刺す。


「1匹そっちに逃げた! それ以外は終わったが、そっちはどうだ?」

 仁井くんの声に山口くんが「まだ倒せてない」と答える。


 残りのグノンは木の後ろに隠れていて攻撃できないようだ。


「あそこだな? 任せとけ!」

 盾を構えてグノンが隠れている木に向かって、「さっさと出てこいサルが!」と挑発をする。

 1匹のグノンが挑発に乗ったようで、顔を出した瞬間2本の矢に居られた。


 これで残り2匹だ。


 しかし、木の後ろからまた「キッキー」とグノンの鳴き声が聞こえる。


「仲間呼んでない? また木ごと撃とうか?」


「そうだね……。僕たち前衛が走って間合いを詰めるから、それに合わせて打ってくれ! 中衛は石を投げれないように援護を頼んだ!」


「任せて!」

 

 前衛の3人が走り出す。距離はおよそ30メートルだ。先程より長い距離だが、当てれないことはない。




 そう、当てれないことはない……





 ないはずだった。





 走り出した前衛に合わせて、「てぃ!」と威勢のいい掛け声と共に放った魔法は……。






 目標の木よりもはるか前にある杉村くんの後頭部に直撃した。



「ぐっあぁぁあ」



 杉村くんは背丈ほどの大剣を肩に担ぎながら走っていたため、両手は塞がっていた。


 あとは物理法則に乗っとり顔から地面にダイブだ。


 勢いよく走り勢いよく後頭部に魔法が直撃したからなのか、顔が支点となった見事な前方倒立回転飛びを杉村くんは披露した。



 そして、止めととばかりにナルミくんの魔法がまたしても一回転した杉村くんの後頭部に直撃する。



 すでにグノンまで走りきっている陣内くんと仁井くんが木の裏にいるグノンを1匹仕留めた。


 最後の1匹は日菜乃から見える位置に逃げていたようで、笑いを堪えるような顔つきで仕留めた。



「はじめて職業補助が役に立ったとよ。普段なら絶対に外しとうけん」


「ゆきちゃんとナルミくんは何をしてるのかなぁ」

 笑いを堪える日菜乃とあきれ果てた顔の朱莉、そして呆然としている山口くんと後ろから魔法の誤爆を見ていた中衛の3人は三者三様の反応をしている。


 そして、杉村くんは今にも泣きそうな顔で「やっぱり魔法使いは信用できないよ」と呟いた。



 私たちは3時間ほどさらに狩りをした。森の中心での狩りは多少のハプニングに見舞われたものの、誰一人欠けることもなく終了した。




 事前連絡無しで投稿して申し訳ございませんでした。

 1日3話投稿するのが流れ的にはいいのですが、他の方への迷惑になりそうなので今日はここまでと投稿とします。


 明日もお昼に分量少な目で1話。18時頃に1話の2話投稿します。

 是非ともよろしくお願いいたします。

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