23話 移住計画
フラリス探索二日目で私たちは温泉を見つけることができた。
まだ日暮れにはほど遠いが、女性陣の強い要望により、入浴することになった。
ルージュ村のお風呂屋とは違い、フラリスは大浴場と露天風呂にサウナがある本格的な温泉だ。
ただ、LED照明などなく魔力ランタンで室内が灯されているだけだが、十分に明るい。
露天風呂はどこか別の場所へ転送されるらしく、扉を開けると森の中だった。
「ここどこぉ?」
「すごかね」
「夜来ると月が出て綺麗かもね」
扉から浴槽までは飛び石で3メートルほど離れている。
浴槽は大きな岩をくりぬいて作られているようで、中心部に行くほど深くなっている。
そして、何より目を引くのは桜の木だ。
「めっちゃ綺麗やね」
「うん」
「だねぇ」
露天風呂をすっぽりと覆うくらいの大きさの桜の木が私たちを歓迎してくれていた。
いい湯加減に癒されながら移住について話をする。
「もうさ、フラリスでいいよね?」
「うちはよかよ。でもさ、今すぐには無理よね?」
「無理だね……」
「え? 何でぇ?」
頭にタオルを乗せた朱莉は、おさるさんのように真っ赤になっている。
「まず、装備。狼退治のときに使った装備がここでも通用するのか、耐久は持つのかって問題があるのよ」
私たちは狼退治からしばらく停滞期になっていた。その間、ラパン狩りなどで生計を立てていたが、耐久が減らない初期装備ではなくフィッシャの街で購入した武器を使用していた。そのため、武器の耐久がかなり減っている。
「私たち狼退治の報酬とかかなり残ってるよぉ?」
「それがそうでもないのよ。装備がインフレしててさ、私の杖とか買ったときの3倍はするよ」
「矢代は変わらないのにねぇ」
レベルが低い装備や、矢や弾丸などはNPCのお店でも在庫がなくなることはないようで、常に買うことができる。
しかし私やナルミくんが装備している杖は個数に限りがあるらしく、すでにNPCのお店では買うことができなくなっている。
「装備を求めるならバザーとかで買うしかないもんね」
「そうやね」
日菜乃が目で続きを催促する。寝るとき以外眼鏡は外さないため、お風呂でも眼鏡をかけている。
「あとは、仁井くんや山口くんが言ってたけど、レベル的に通用するのか」
「うちら何もしとらんもんね」
「でもさぁ、ここってかなり早い段顔で来ることできたよねぇ?」
情報だけはゲーム開始から3日目には知っていた。それに、初期に配布されるリンを使えばフラリスまで行くことができていた。
「そうなんだよね……。だから私はある程度は戦えると思ってるかな。それにさ、ルージュ村の畑に植えてた種はここのモンスターから取れたらしいよ」
私たちは報酬の種以外を手に入れることはできなかったが、フラリスからモンスターを倒して手に入るドロップ品の種がルージュ村まで届いていた。
「そうなのぉ? なら楽勝じゃん!」
勢いよく立ち上がった朱莉の水しぶきが私たちにかかる。お返しとばかりに日菜乃が朱莉にお湯をかけて、水遊びが始まった。
フラリスに滞在して3日目。当初の予定通り職業を取得しに冒険者学校まで来た。
「人あんまおらんね」
日菜乃がキョロキョロと見回すと、それにつられてポニーテールが犬の尻尾のように動く。
普段はたらしたままだが、運動をするときはきちんとまとめている。
「さすがにもう集中することはないと思うよ」「それもそうやね」
私たちが知るだけでも冒険者学校はフィッシャ、フラリス、エルベオの3ヶ所もある。
授業は日時の指定があるが、試験は24時間365日受けることが可能だ。余程のことでもない限り混雑することはなさそうだ。
「結局ゆきちゃんは属性何にするのぉ?」
「水だよ。水田だし漢字は違ってもユキだしね」
「安直!」
「合わなかったら変えるつもり。ただ、一番コントロールがつくのが水だからね」
とは言ったものの、火魔法は使用が禁止されている。雷は範囲を指定して打つ感じだから、どこに飛ぶのかわからない。風はコントロールが非常に難しく、土は森では通用しないと言われた。
つまり、水以外選択肢がないようなものだ。
受付を済ませた私たちは、試験会場へ移動する魔方陣に乗る。久しぶりに感じる浮遊感に少し目眩を覚えた。
空のバケツに水魔法で満杯にすれば終わりだったから、『水魔法使い』の試験は簡単だった。
『ホルダー』の試験は事前に朱莉に聞いていたから難なく取得できた。
これで私は、『水魔法使い 1』『魔法使い 5』『ランナー 2』『ホルダー 1』になった。
ルージュ村へ戻った私たちは新しい職業に体を慣らしていた。
「水魔法に変わって安全になったな」
「海辺では使えないけどね」
背後からの攻撃を気にしなくてよくなった杉村くんはご機嫌だ。
水魔法はコントロールがしやすい。そして、『後衛 5』で使える水魔法はお試しだったようだ。
『後衛』時は野球のボールくらいの大きさの水の固まりが10メートルくらい飛ばせるだっけだった。
それが『水魔法使い』だど、サッカーボールくらいの大きさの水の固まりを20メートルは飛ばすことができるようになった。
「ナルミくんもよくできましたぁ」
隣では朱莉がナルミくんを誉めている。
事前情報では判明していなかったが、『魔法使い』には『呪術師』の阻害魔法を強化する効果もあるようで、浜辺のモンスターなら1発で動きを止めることができるようになった。
「よくあの距離届くよな、すげーぜ」
陣内くんが驚きに声をあげた隣では、日菜乃が50メートルは離れてそうな場所にいるモンスターを射ていた。
「うん。やっぱり『スナイパー』はよかね。目に力を入れっと、望遠鏡で覗いとう感じでよう見えるもん」
「『アーチャー』の方はどうなんだ?」
「レベル1やと影響力が少ないなかけん、ようわからんとよ」
『スナイパー』は視力が大幅に強化される。 レベルが上がるのに合わせて、より遠くが見渡せるようになり、更に隠れているモンスターの体温や魔力も見ることができるようになるらしい。
「空気抵抗軽減と重力軽減だっけか?」
「やね。あとは飛距離アップもあっとよ」
日菜乃が言うには、矢は空気抵抗を受けて真っ直ぐに飛ばない。また、重力の影響を受けて放物線を描くように沈んでいくものだそうだ。
『アーチャー』の職業を取得すると、空気抵抗や重力から解放される。
レベルが上がる毎に1%軽減率が増えていき、最終的には100%の恩恵を受けることができるらしい。
「レベル100で100%の軽減になるのか?」
「らしかね。うちも山口くんに聞いただけやけど、テストプレイの時は最大飛距離まで飛ぶと『矢がその場で消滅』しとったらしかよ」
「ゲームの世界だよなぁ……。それでどっちにするんだ?」
日菜乃は『スポーツマン』を外して、『弓使い』『狩人』に『スナイパー』と『アーチャー』をセットしている。
私は選択の余地がなかったが、日菜乃はとりあえず両方取得して試してから決めるそうだ。
いつもの優柔不断が出ただけの気もするが……。
「陣内くんはもうよかと?」
「いや、もう少し練習してくるぜ」
大きな盾を構えて陣内くんはモンスターの攻撃を受ける練習に向かう。
私たちが停滞してた時期でも、毎日盾の練習はしていたから、今回無事に『ナイト』を取得できた。
『ナイト』は軽減させた攻撃を盾で受けたり、敵対心を煽って自分にモンスターの攻撃を向けることができる。
「水田さん少しいいかな? 話したいことがあるんだ」
背後からの声に振り向くと、仁井くんと山口くんが難しい顔をしていた。
「どうしたの?」
「職業レベルが上がると装備の威力が上がるのは覚えてる?」
「レベルによる職業補正でしょ? 確かレベル×10%アップだったかな」
「そうそう。それでさ、装備を整えるかレベルを先に上げるかで三太と少し揉めててね。意見が欲しいんだよ」
手のひらをほほに当てて少し考える。
職業補正による装備の上昇率はかなり高い。 例えば『魔法使い 5』『水魔法使い 1』を取得している私だと水魔法を使うなら攻撃力に60%の補正を受ける。
日菜乃の場合は『弓使い 20』『狩人 5』『スナイパー 1』『アーチャー 1』と、どの職業も投擲、射撃武器に補正がかかり、270%も上昇する。
次に武器についてだが、攻撃力100の杖を使って水魔法を私が撃てば攻撃力が160になる。攻撃力が200の杖ならば320だ。
逆に攻撃力が110の武器なら攻撃力176にしかならない。
高レベルの武器を装備できるならいいが、今装備している武器より多少強いくらいならばレベルを優先した方がいいだろう。
「んー……。私はレベルかな?」
「ならレベルで決まりだな」
仁井くんはレベルを優先してて、山口くんは装備を優先に考えていたようだ。
「新しく取得した職業はレベル5までで、以前から覚えているのはレベル10を目指すか!」
以前のように皆をまとめる立場に戻ってきた仁井くんが新たな目標を定めた。
本編では紹介予定のない個別データ等は投稿が終わった後にでも活動報告の方に載せたいと思います。
また、職業やスキルなどの設定も設定資料集として別枠で掲載するかもしれません。




