22話 フラリスの観光
「温泉あるならさ、ここに移住するのありじゃない?」
ルージュ村から西へ街道を進むとダルク村があり、さらに進むとナシミナの森が現れる。その、ナシミナの森を街道沿いに進むとフラリスに着く。
フラリスの街は別名「花の街」と呼ばれていて、街のいたるところに花壇があり、森林公園や植物園、更には街の中に湖までもがある。
「ルージュ村捨てちゃうのぉ?」
以前は田舎すぎて嫌だと言っていた朱莉だが、今ではルージュ村に愛着が湧いているようだ。
「人が思ったよりいないし、宿も簡単に取れたじゃない。こっちでよくない?」
「いいんじゃねーか? このままだらだらルージュ村にいるよりマシだろ」
「僕も賛成です。拠点があるなら移りたいです」
フラリスの街を観光した私たちは夕日に照らされながら道すがら今後について話をする。
「うちはエルベオの城下町でもフラリスでもどっちでもよかよ」
「おれもどっちでもいいけどさ、こっちなら火魔法は使わないでよ。ようやく誤爆がなくなってきたけど、今度は火だるまにされかれん」
パーティーメンバーに攻撃することはできないが、フィールドを燃やしたり凍らせたりすることはできる。
その際、燃えている草原に触れれば火傷をするし、凍った地面で滑ることもある。
私たちは対策として、属性魔法を使うには事前に前衛からの許可が必要になっている。
杉村くんの苦情を聞き流し仁井くんの方を向くが、一人難しい顔をして黙っている。
「それで昴。話って何だ?」
「こっちに移住するならさ、それに合わせて職業の見直しが必要になるだろ? 冒険者学校に行くなら、事前に決めときたいんだよ」
仁井くんに「食後に話したいことがある」と言われて、私たちは喧騒包まれる食堂の一角で話し合うことにした。
「そ、それは必要だよね。森での戦闘になるから、『狩人』は必須職業だし。それに『ホルダー』も見直した方がいいよ」
「私じゃ力不足かぁ……」
「んならさ、誰が取るん? やっぱりゆき?」
泣き真似をしながら日菜乃に抱きつく。そして、日菜乃は朱莉の頭を優しく撫でながら、山口くんを軽く睨み付ける。
「そ、それは……その……」
「はいはい、三太を苛めるな苛めるな。それで、『ホルダー』を変える理由はなんだ?」
山口くんに助け船を出した陣内くんは先を促すように腕を組む。
「森で狩りをするなら解毒剤や水、そ、それに遭難したら困るから食料も必要だ」
「狩りのたびにカード化をするなら、確かに僕かゆき先輩が取った方がいいですね」
「特化しない方がいいなら私が『ホルダー』だね」
「う、うん。ナルミ君が覚えると、完全にサポート特化になっちゃうから水田さんがいいよね」
話す場は仁井くんが設けたが、主導はしないままだ。
「そ、それとさ……。新田さんは『ハンター』を取得して欲しい。一人でカバーするよりかは二人の方が索敵範囲も広がるし、穴も塞がるからね」
山口くんは、私の空きスロットに『ホルダー』、朱莉の今まで『ホルダー』で埋まってたスロットを『ハンター』で埋める考えだ。
「『ハンター』って何だっけぇ?」
「『ハンター』はフィールド限定で罠の設置や解除ができる職業だよ。索敵能力は『狩人』より低いけど、罠の設置は『狩人』が設置した罠より効果は上だね」
「おぉーありがとうゆきちゃん」
ひとまず朱莉の『ホルダー』の件が片付き、一息入れるために紅茶とフルーツケーキを追加注文した。
「やっぱりさ『花の街』って呼ばれるだけあって、メニューはこっちの方が豊富だよね」
「やね。エルベオの城下町には温泉あったけど、こっちにもあればうちはこっちがよかね」
私は空きスロットは『ホルダー』で埋まってしまったが、他のメンバーはまだ何も決まってない
。
これから会議の後半戦だ。
「昴はそれでいいのか?」
まったりとした空気を最初に壊したのは陣内くんだった。彼もまた、仁井くんの不調を気にしている。
「そうだね……。水田さんに『後衛』を外して、属性魔法を覚えて欲しいかな」
暫し沈黙の後、仁井くんがようやく展望を口にした。
「属性か……。何にしようかな」
「火以外」
杉村くんの発言に前衛皆が頷き同意する。
「前衛は各々足らないものを補強する感じがよくって、ナルミは一旦保留にして欲しいな。二人とも『後衛』外すと、回復できる人がいなくなるから」
「お、俺はその……。回復は回復薬を使えばいいと思うからナルミ君には『魔法使い』か属性魔法を覚えて欲しいけど……な」
「三太がそう言うならそれがいいよ」
意見が山口くんと対立すると仁井くんはすぐに自分の意見を引っ込めた。
少し前までなら「なぜ?」と仁井くんなら、聞き返すくらいはしたはずだ。
「えっと、回復は回復薬頼りでいいの?」
下を向いたまま顔を上げない仁井くんの変わりに疑問を山口くんにぶつける。
「こ、『後衛』の回復は対象に触れないといけないからさ、そ、それなら回復薬を飲むのと変わらないよ」
山口くんの回答について少し考える。
回復の専門職である『僧侶』や『プリースト』の『Ta:小回復』は離れていても回復させることができるが、私が使える回復魔法の『Ta:小回復』はそれができない。直接触れなくても、杖の範囲内に入っていれば回復させることはできるが、精々1メートルくらいが限界だ。
また、回復薬は錠剤や飲み薬がある。
錠剤は水無しで戦闘中でも手軽に飲める分HPの回復量は少なく、飲み薬は小さめのペットボトルくらいの量を全て飲まないと効果がでないが、回復量は錠剤よりも多い。
現状、戦闘中に回復するには1度後ろまで下がる必要がある。それを回復薬に頼れば下がる必要もなく隊列を乱すこともない。
戦闘終了時の回復が気軽にできなくなるデメリットはあると思うが、戦闘中はほぼ死にスキルの回復を後生大事に取っておくよりかはいいと思える。
「確かにそうだね。私は山口くんに賛成するよ」
「僕は難しいことはよく分かりませんけど、ゆき先輩が賛成するなら僕も賛成です」
仁井くんはうつむいたままだ。
「んで、中衛はどうすっと?」
日菜乃が次の話題を振る。
「『密偵』か『工作員』を三太には覚えて欲しいな」
仁井くんは恐る恐る顔を上げて提案をする。
『密偵』はダンジョン内部のモンスター感知ができる職業だ。
『工作員』はダンジョンに罠を設置したり解除する職業になる。
共にダンジョンで活躍する職業で、フィールドの『狩人』『ハンター』とダンジョンの『密偵』『工作員』で役割が対になっている。
『ハンター』でもダンジョン内で罠の設置や解除はできるが、職業補正がつかないため罠の威力が激減したり、解除の成功率が下がったりする。
「『密偵』ってことはダンジョンに行くのぉ?」
「フラリス周辺の森には洞窟型のダンジョンがあるらしいんだ」
「へぇー洞窟があるんだぁ」
朱莉は新たな冒険の場所に思いをはぜているようだが、私は気になることができた。
フラリスへの行き方は、前々から分かってはいたが、いつダンジョンの存在を知ったのだろうか。
今日の午前にフラリスに到着してからま8人一緒に行動をしていたから、今日手に入れた情報ではないはずだ。
「なら中衛は、うちはそのまま『狩人』で朱莉が『ハンター』、山口くんが『密偵』か『工作員』でよかかな?」
「そうだね、それでいいと思うよ」
話がまとまったタイミングで、仁井くんに質問をする。
「仁井くんはいつダンジョンの情報を手に入れたの?」
「元々先に進むことは考えてたからね。ただ、そのさ……」
「はぁ……昴。お前さ、まだデスゲームかもしれないって思ってるのかよ?」
大きなため息をつき呆れた顔つきで陣内くんが仁井くんを見る。それに同意するように、杉村くんとナルミくんが首を縦に大きく振る。
「あのさ、エルベオの図書室で本借りてきたけどね。やっぱりデスゲームじゃないよ?」
エルベオの図書室で見つけた本をリュックサックから取り出す。
「えっとね、ここのページ見て」
安全性と品質と書かれたページを皆に見せる。
「たまたまさ、マニュアルを見つけたの。要約するとね、まずVRヘルメットと私たちが中に入ったVRカプセルにはそれぞれ個別に安全装置が付いてるって書かれてるよ」
マニュアルには装置の仕組みやダメージフィードバック、さらには安全対策にサポートセンターへの連絡方法などが書かれている。
「サポートセンターへの連絡はできなかったけどね、デスゲームとか個人じゃできないよ。設計段階や製作過程で誰か気がつくと思うしさ、それこそ運営会社や装置を作った会社含めた組織的なテロ行為じゃないと無理だよ」
「確かにそーだよな。無理だな」
陣内くんが大きく頷く。
「昴はさ昔から悪いことばかり考えているからな。もう少しバカになれよ?」
やはり仁井くんはデスゲームの可能性を考慮していたようだ。緊張した顔つきが和らぐ。
堂々巡りしていた思考に1つの答えが出て満足したよで「お前はもう少し物事を深く考えろ」とじゃれあっている。
二人を眺めていると、隣に座る山口くんがぼそっと「正常性バイアス」と呟いたのが聞こえた。
もうお気づきかと思いますが、彼女たちは正常性バイアスに支配されています。
物語は終盤に差し掛かっていますが、今回のお話は本作の核心部分ではないかと考えています。
本来であればもう少し語りたいところですけど、本作のあとがきは全て投稿したあとに活動報告で語らせて頂きたいと思います。
あと4万字程度ですが、お付き合いいただけたら幸いです。




