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21話 エルベオの観光


 初日は宿探しで終わったが、何とか全員分の宿が取れた。


 一人で楽しく朝食を取り、私は待ち合わせの噴水広場に向かうことにした。


「おはようゆき。はやかね」

「おはよう。ひなのも早いじゃん」


 待ち合わせ場所にはまだ私と日菜乃しか来ていない。

 空いていたベンチに座り、どんより曇り模様の空に目を向ける。


「雨降らないかな?」

「どうなんやろ。傘って売っとうと?」

「分かんないや。ルージュ村にはなかったよね」

「カッパば着とうもんね」


 他愛もない話に安らぎを感じる。いつもは誰かしらがいて、日菜乃と二人っきりは久しぶりだ。


「現実に戻ったらさ……。初詣いかない?」

「へ?」

「私たち行ってなかったじゃん」

「あー今年はまだ行っとらんかったね」


 もう3ヶ月以上も家に帰れてない。


 母にしてみればまだ半日もたってない娘の顔なのかもしれないが、できることならばおもいっきり抱き締めて欲しいと思う。


「家に帰らずにそのまま行こうよ」

「よかよそれで」


 ただ、すぐに家に帰ると感極まって泣いてしまうかもしれない。

 1度初詣に行って心を落ち着かせてから母には会いたいと思う。


 流れる灰色の雲を眺めながら日菜乃の話をしていると、仁井くんと陣内くんがやってきた。

 挨拶を交わし、話題はやはり今日の天気になった。


 ファンタジーワールドでは天気が24時になると変わる。

 例えば雲ひとつない星空だとしても、24時になった瞬間に大粒の涙を流し始めることもあるのだ。


 その日の天気を知りたいならば、門番か宿の受付に聞くと教えてくれる。

「思ったより発展してなかったんだね」

「だな。天気教えてくれなかったし」

 空を見上げながら陣内くんが首を振る。


 ルージュ村も最初から天気を知ることができたわけではないが、村が発展していく過程で教えてもらうことができるようになった。


 エルベオの城下町では教えてもらえなかったことから、ここはルージュ村よりは発展していないようだ。


 10分程待つと全員揃ったが、時計がないため時間を合わせて集合するのも一苦労する。


「それでどこいくと?」

「適当に歩かない?」

「それいいねぇ!」


「待ってくれ、お嬢さんがた。せめて目的地だけは決めてくれ」

「それな。昨日みたいに宛もなくさ迷うのは嫌だぜ」

 適当に歩いて目につくお店に入るつもりだったが、陣内くんと杉村くんに反対された。



 地図を開き、中央広場経由でお城へ行くことにした。


 中央広場にはフィッシャと同じく噴水があった。そこでは月に1度の露天が開かれており、大勢の人で賑わっていた。


「見て回る?」

 ゲーム開始直後のフィッシャの街よりかは人が少ないが、それでも広場からはみ出そうなほどの人がいる。


「先にお城いかないか?」

「そうですね。ぼくもそっちがいいです」

「ナルミくんがそう言うならしかたないな、お城いきますか!」

「まてまて、水田。俺も言ってるから」

 杉村くんの苦情を受け流して、エルベオ城へ向かうことにする。


 中央広場から5分くらい坂道を登ると、道幅の広さの真っ白な階段が見えてきた。



「なっがい階段だな」

「そうだね。それにかなり急そう」

 陣内くんが見上げる先には長い急な階段がある。

 横幅は今まで通ってきた道幅と同じくらいの広さだが、階段の手前から上を見上げても、先程まで見えていたエルベオ城が見えなくなっている。


「私さ、もう行かなくても満足かも……」

「奇遇やねゆき、うちもそー思っとうとよ」


 ここまで来て辞める選択肢はなく、ヒィヒィ言いながらも長い階段を登ることにした。



 城門は大きな口を開いていて好き嫌いはないようで、私たちはすんなり赤い絨毯が敷かれている城内に足を進めることができた。



 ピロンっと久しぶりにブレスレットが軽快に鳴る。

『クエスト名:初めての城に到着。実績クエストをクリアしました』


「ははは……」

 誰ともなく、乾いた笑いが響きわたった。



 領主に会うにはギルドに加入する必要があり、私たちでは会えないので城内のカフェテリアで一服することにした。



「簡単にスロット手に入ったな」

 自分のステータスを確認しなが独り言のように陣内くんが呟く。


「スロット手に入ったからさ、私とナルミくんで『ホルダー』取るから、朱莉は『ホルダー』外していいよ」

「便利なんだけどぉ、そっちの方がいいかもねぇ」

「仁井くんはどう思う?」

「僕もそれでいいと思うよ」


 今までは、仁井くんが本人の希望職業とパーティーバランスを考えてアドバイスをしていた。だが、今日の仁井くんはステータスを眺めながらぼうっとしている。


「回復はどうするのぉ?」

「それもあったね」

「魔力使えるのが僕とゆき先輩だけですよね? サポート特化になりましょうか?」


「だ、ダメだ!」

 突然の大声に周りの喧騒が鳴りやんだ。


「三太どうしたんだ? びっくりしたぜ」

「あ、いや……すまない」

「そ、それで……何がその、ダメなの?」

「いや……何でもないよ」

「何でもないことはないだろ? 話せよ」

 私の質問に山口くんははぐらかそうとしたが、陣内くんが追撃をして聞き出そうとする。


 山口くんは観念したようにゆっくりと紅茶に手をつけた。

「ナルミ君はさ、そ、その最低限自衛できる手段が欲しいんだ」

「でも僕『後衛』持ってますよ?」

「いつまでも初期職のままだと何かあったときに大変だし、サポートは特化するより分散させた方がいいよ」


 分散させるよりも、特化させてスペシャリストを集めた方が都合がいいと私は思う。

 その事を口に出そうとしたら「なら『ホルダー』はまだ私が使おうかぁ?」と朱莉に遮られた。



 宿の部屋から空を眺める。

 お昼を過ぎた辺りから、駄々をこねてぐずついていた雨雲が大声をあげて泣き始めた。甲高い声で泣いて大粒の涙を見せるのは、おしめを変えて欲しいからだろうか。それとも、ご飯が足らないのか。



 外で雷鳴鳴り響こうとも、フローラルグリーンの香りが漂えば草原でのお茶会に早変わりする。今日のお客様は山口くんだ。



「そ、それで……何を聞きたいの?」


 どうやら山口くんは雷が怖いらしく、耳まで真っ赤にして震えている。


「一服して一息入れたら? 大きい音だけど、さすがに落ちないよ」

「そ、そうだね……」

 ウバの入った紅茶を一口で飲み干す。


「もう少し味わったらいいのに」

「ご、ごめん……」

「それで本題なんだけどね、何で分散させた方がよかったの?」

 先程聞けなかった疑問を聞く。


「分散させるメリットの1つ目はリスクの分散だよ」

 右手の人差し指をぴんっと伸ばし得意気な顔をする。


「このゲームは復活がないんだ」

「復活って戦闘中の復活だよね?」

「そうそれがない。つまり、集中させてた人が殺られると一気に負けに傾く可能性が高いんだよ」


 通常のRPGならば、戦闘中に倒された仲間は戦闘不能になる。その状態を回復できるアイテムやスキルがあれば戦闘に復活することができる。

 しかし、ファンタジーワールドでは戦闘中に倒されたら戦闘不能にならず、即座にログアウトすることになる。



「ふむ……。つまり炎が弱点の敵がいて、私以外炎魔法が使えない場合、私が負けちゃうとパーティーもそのまま打つ手無しでずるずる負けちゃうってことだね。おっけー理解した」


 ブレスレットからメモ画面を開くと、空中にペンとメモ帳が出てきた。


「ふ、二つ目がリアルの都合だね」

「リアル?」

 聞きなれない言葉に首を傾げる。


「リアルは現実世界の生活のこと。ナルミ君は学校も年齢も違うし、今は一緒に遊べても今後遊べるか分からないしさ……。それに、ぼ……俺たちもそれは一緒だろ?」


「あー……確かにそうだね」


 私は長くゲームを続けられるだけの余裕がないし、仁井くんは生徒会で陣内くんはサッカー部、日菜乃たちは弓道部とバラバラだ。

 カラオケに行くだけでも事前に都合を合わせないと行くこともできない。

 まして、同じ日に全員予約が取れるとも限らない中で誰か一人に職業を集中させると、全員揃うまで攻略ができなくなる可能性もある。



「た……ただ、集中させるのも悪くはない……よね」

「スペシャリストを12人集めるってことだよね」

「そうだね」

 『ランナー』や『スポーツマン』などの身体能力を上昇させる職業は重複しても問題ないが、魔法職と呼ばれる後衛系は威力を上げるために『魔導師』が必要になってくる。

 そのため、職業を分散させると火力が弱くなってしまう。


 スロットが4つ揃った私が最大火力を出すなら『火魔法使い』『火魔術師』『火魔導師』そして、全属性の攻撃力アップができる『魔術師』をセットすることだろう。


 水が弱点のモンスターがいたとしても『水魔法使い』などに付け替えで対応すれば、火力を維持したまま様々なタイプのモンスターと戦うことができる。


「んー……。難しい!」

 学校の成績は悪い方ではないが、馴染みのない問題にはとことん弱い。勉強はできても応用ができない自分に自己嫌悪する。


「何で……その、聞いてきたの?」

 のっそりと伏せてたテーブルから顔を上げる。


「仁井くんばかりに頼ってたじゃない。だから少しは力になりたいなって思ったの。ここ最近元気ないしさ、それに私はサブリーダーですから」


「そ、そっか……。あとは、そのもしこれがデスいや……」

 山口くんは何かを言おうとして口を閉ざした。


「も、もしさナルミ君一人で逃げないといけなくなった時に自衛手段がないと困るからね。だから僕は反対なんだよ」


 山口くんが何を言いたかったのかは分かる。

 仁井くんがなぜ決めたがらないのかも分かる。


 この世界がデスゲームかもしれないことを考えているのだろう。



「あ、雨やんだね」


 窓から西日が射す。山口くんの視線を追うと、エルベオの城下町から少し離れたところに大きな虹があった。


「雨……降ってないうちに俺帰るね。何かあったらまた……その、相談乗るからさ」

「ありがとうね」

 私は西日で照らされている山口くんに礼を言った。




 エルベオの観光を終えた私たちはルージュ村へ戻ることにした。エルベオにも冒険者学校はあったが、どうせならまだ訪れたことのないフラリスの冒険者学校を利用することにしたからだ。


「今日と明日はお休みで、明後日の朝一でフラリスに行くから寝坊しないでね」


 時間ぎりぎりまでエルベオの観光を楽しんだ私たちがルージュ村に帰ってきたのは日が暮れてからだった。


「それじゃおやすみ」

 食堂でお喋りをしている皆に声をかけて一足先に休むことにした。


 エルベオの城には、高校の教室の半分くらいの大きさの図書室があった。

 無料で借りれて、貸し出し終了になれば勝手に消滅して返却されるシステムだ。

 図書館にはファンタジーワールドの世界観の説明がされた本や、各職業について書かれている本もある。ただし、内容がかなり薄く世界地図もない。

 当初から一貫して、プレイヤーが冒険をして情報を手にしないといけないスタンスは崩れていないようだ。


 その中から私は『The next generation of fantasy worldのVRシステム』と書かれた本を見つけた。



「やっぱりデスゲームじゃないよ……」


 呟きは誰にも聞かれることなく、消える。


 翌日も1日部屋にこもり、借りてきた本を読み進める。



 当初、図書室は大きな図書館で考えていました。

 娯楽施設の充実として、一般小説やラノベ、漫画などが置いてある設定です。

 ただ、冒険するのがメインなのに娯楽施設が充実しているのはどうなのか? 著作権などの大人の事情はどうなのか? が気になり、お蔵入りしました。

 すごくどうでもいい裏設定です。

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