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20話 1つの真実


「初めて入ったよ」

「僕もです」

 杉村くんとナルミくんは物珍しいのか、集会所をきょろきょろと見回している。


 テーブルの上には受付で注文した紅茶とコーヒーが入ったポットが置かれていた。


「それで、圧縮の話は信じるか?」

 ポットからコーヒーを注ぎながら、陣内くんが口火を切る。


「何かさ、それ何回目の話って思うんうちだけなん?」

「私も同じこと思ってるよぉ」

「もうさ、この際だからはっきりさせるべきだと私は思うの。皆も薄々感じてたでしょ? 何かがおかしいって」


 静寂が訪れる。


「ちょっといいか? まずは、圧縮について考えようぜ。俺はゆきっちが言う通りおかしいとは思ってた。でもさ、だからといってデスゲームとは思えないぞ」

「圧縮率を調べるだけなら、あの人たちと同じ事をすれば確認はできるよね。今の私たちレベル低いからデメリットはほとんどないよ?」


 山口くんが恐る恐る手を挙げる。


「ぼ、僕がやるよ。鍛冶を外して適当に何か受けるよ。付け替えのクールタイムはゲーム時間でレベル×1日だから、鍛冶屋なら明日にはまた付けれるし」


「なら、三太に1年が1日に圧縮されているか調べることは任せるとして、デスゲームについてはどう判断する?」

 いつも通り冷静を装っているが、仁井くんの声が震えている。


 1度目は古川くんに殿を命じた。2度目は内藤くんを囮にして逃げた。


 どちらもゲームだからできた行為だ。もし、デスゲームなら自分の判断で二人の命を犠牲にしていることになる。


「私は前も言ったけど、信じることはできない。仮にデスゲームだとしても、その……。古川くんが亡くなった時点で、何らかのアナウンスはあってもいいはずだよ?」

 1度落ち着くために紅茶を口に含むが味が全くしない。


「デスゲームはやっぱり信じられないよ。それこそ運営そのものが敵に回らないと無理じゃないの?」

「確かに一人でやれる恐慌じゃないしな。俺もゆきっちに同意だ。そもそも一企業でできるのかって事にもなるからや」


「でもゆきちゃん……。1年が1日に圧縮されているんだよぉ?」

「そうだよね……。まずはさ、できることからやっていかない? 山口くんは圧縮率の確認、私たちは情報を集めよう」



 山口くんが取得テストを落ちてたから53日が経過した。



「人がまた多くなったよねぇ」

「おらんよりよかやん」

「結構発展したね」


 土の感触を楽しむように強く踏みしめる。

 ルージュ村へ来た当初はでこぼこしてた道も、整地されている。

 これからさらに発展すると石畳になるそうだ。



 そして何よりも大きく変わったことがある。


「明るいよねぇ」

「明るかね」

「明るいね」


 今まではかがり火すらなかったルージュ村も、日が落ちると魔法のランタンで村が照らされるようになった。

 鉱山の街チェッサウッドからフィッシャへ魔石が大量に輸入された。その魔石をルージュ村の交易所に一定量卸すと、街頭が整備されたのだ。


「でもさぁ……。遊べるところないよねぇ」

「なかよな」

「ないよね」

 娯楽施設が乏しいルージュ村では時間を潰すだけでも大変だ。

 ダルク村から連れてきた馬で乗馬を楽しむか、トランプをするかくらいだ。

 ギャンブルをやらない私たちとは無縁だが、賭場を開いているプレイヤーも中にはいる。


 1年が1日に圧縮されている疑惑。デスゲーム疑惑。明確な答えが見つからないまま3日狩りをしたら1日休むサイクルで、私たちはだらだらと日々を過ごしていた。


「明日いくんよね」

「だねぇ」

「……うん」


 『現実世界で1週間は再受講ができない』ことから、少し日を置いて現実時間で9日になる54日目に再テストを受けることになった。

 それまでにログアウトできたら笑い話になったのに、ついにログアウトすることなく再テストの日を迎えることになる。


「これ以上暗くならないでさ、お風呂楽しもうよ」


 村は徐々に発展しているのに、お風呂だけは未だに変わらない。

 もしかしたら、木材とかを納める必要があるのだろうか。



 フィッシャのパーティー集会所は重い空気で満たされていた。


「ダメだったのね」

「うん……その………ごめん」


 山口くんは再テストを受けれなかった。つまり、私たちもこの世界が1年を1日に圧縮していることを認めることになる。


「圧縮されていると決まったからってデスゲームとは決まってないよね? それに、その圧縮率ならまだ1日どころか半日もたってないのよ? 外の世界だとさ」


 重い空気の中、私が口火を切る。


「それはそうだけどさ、だからって何するよ?」

「そこなのよ陣内くん。私たちは1ヶ月以上なにもしてこなかったよね? レベルもそのままだし、装備だって変えてないよ」

「まぁ、そうだな」


 狼退治の報酬も手元に残ったままだし、耐久値はかなり減ったものの装備も変えてない。

 リンにゆとりがあるならやることは1つだ。



「とりあえず旅行してみない?」


 皆がぽかんとした表情をする。


「り、旅行ってどこいくつもりですか?」

「城下町とかどうかな?」

「エルベオにいくのぉ?」

「うん。お金はかなり貯まってるじゃない。今まで陰惨としてたからさ、気分転換に遊びにいかない?」


 エルベオ地方の初期スタート地点に選ばれている街はフィッシャだ。正確には『港町フィッシャ』なのだが。

 そのフィッシャから西に半日進むとルージュ村があって、フィッシャから北に半日進むとエルベオ地方を治める領主がいる『エルベオ城』と『エルベオの城下町』がある。


 情報は狼退治の前には手に入れてはいたが、今までリーダーシップを取っていた仁井くんの不調により、未だに向かってはいなかった。



「いいんじゃないかな? 息抜きにもなるし小旅行になるよ」

「でもさ昴、宿はどうする?」

「宿か……」

 杉村くんの指摘に仁井くんが難しい顔になり、目が泳ぐ。

 今までなら自信に充ち溢れた顔でアイディアを披露していたが、やはり自分からは決めようとしない。


「でたとこ勝負でいいじゃない!」

「でた。ゆきの行き当たり作戦」

 からかうような発言を日菜乃はとるが、賛成のようだ。フレーム奥の目が楽しそうに笑っている。


「僕もいきたいです」

 ナルミくんが大きく背を伸ばし手を挙げる。 隣にいた朱莉も行き当たり作戦で賛成のようで、ナルミくんに負けじと手を挙げる。


「最悪パーティー集会所で寝ればいいしな。俺もいいぜ」

 陣内くんも賛成して過半数は乗り気だ。



 1度フィッシャに戻り、宿泊延長手続きと細々した旅行準備をしてエルベオの城下町に向かう。


「あ! お城発見だよぉ」

「本当だ。俺も見つけた!」


 フィッシャを出発して1時間ほど馬車に揺れていると、窓側に座っている朱莉と杉村くんは遠くにエルベオ城を見つけることができたようだ。


 杉村くんの隣に座っているナルミくんが一生懸命探している。そして、ナルミくんの隣に座っている仁井くんは暗い表情をしていた。


「やっぱり乗り気じゃなかった?」

「いいや。こうやって旅行しているとさ、本当にデスゲームなのかなって思ってしまうよ」

「昴はさ、考えすぎなんだって。もっと気楽に生きようぜ」

「陣内くんは何も考えとらんけどね」


「い、いや。女の子のことは、常に考えてるよ」

「てめー三太! よけいなことを言う口はこれか? 縫い付けるぞ」


 山口くんの発言で馬車内が笑いに包まれた。


 エルベオの停留所から泊まる宿を探すために、とりあえずお城の方へ向かうことにする。


 フィッシャでは木造の建物が多くあったが、ここではほぼすべてがレンガ造りで石畳だ。

 ただし、宿の1階部分の外壁の色だけはエルベオでも同じで、『赤壁のお店では飲酒が、できない』『青壁のお酒では飲酒が、できる』のルールは適用されているようだ。


「何か城下町って雰囲気だよね」

「そうだねぇ……こっちまた行き止まりだよぉ」

「何でこんなに行き止まり多かと?」

 地図も見ずに適当に歩いているのが悪いのだが、エルベオの城下町は迷路状になっている。

 また山の中腹に城下町は作られていて、坂道や階段が非常に多い造りになっている。


「それは敵が攻めてきても守りやすいようにしてるからじゃないかな?」

 確か江戸の城下町も戦を想定して作られたはずだ。

 エルベオの設計も戦いを想定しているのだろう。


「なるほどね、ゆきって物知りやね」

「いや、小学校の時に習ったじゃん。音楽の黒川先生の授業でさ」

 小学生の音楽の授業で、滝廉太郎の荒城の月を習った。その時に雑学で江戸の城下町の話をしていたことを覚えている。


「あぁーあの先生やね、なつかしかね」

「それより宿どうする? もう少し中心部で探す?」

「そうやね……どうしようか?」



「お? 宿発見! とりあえず入るか」

 言うが早いか陣内くんはすでに目についた宿に入っていった。


 「陣内くんは仕方ないね」っと日菜乃と目で笑いあう。


 見上げると気持ちのいい青空が広がっていた。



 一気に時間が経過しました。

 徐々にですが、この世界のあり方を模索していっています。

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