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19話 新たな日常


 死闘を繰り広げた私たちがルージュ村へ戻ると、門番に村長宅へ行くように言われた。


「ご褒美、ご褒美、嬉しいなぁ」

 茶色の髪を揺らしながら朱莉が上機嫌に口ずさむ。その隣で杉村くんが大きくあくびをする。


「元気だよね。おれは眠いよ」


 ナルミくんがルージュ村へ初めて訪れた時は、宿が足らずフィッシャまで引き返すことになったが、今では半数近くの人が村を捨てて別の街へ拠点を移している。

 宿命のライバルを倒した以上、私たちもそのうちルージュ村を離れることになるのだろうか。



 村長宅には見知らぬ農夫の格好をしたNPCが村長と共にいた。



『冒険者様ありがとうございます。これで、我が村も農業が再開できるようになりました』

 村長宅へ入るなり、開口一番に感謝を述べる。



『冒険者様がモンスターを討伐されますと、種を手に入れることがございます。その種を我が村の畑で育てることができるようになりました。つきましては、この者を紹介したく思います。『農夫のドルア』です』



 農夫のドルアが新機能の畑について説明をする。

 ラパンは落とさないが、小動物系モンスターの中には『種』を落とすモンスターがいる。

 また、植物系モンスターは『食用肉』を落とさない代わりに、確定ドロップとして『種』を落とすそうだ。


 手に入った『種』はそのままでは、何も効果がない。しかし農夫NPCに『種』を渡せば、プレイヤーの代わりに畑に植えるそうだ。

 そして、地方や村に個別設定されている野菜や果物表の中から、ランダムで採取したものをカードとして貰える。



「つまりね、ドルアに『種』を渡せば勝手に畑を耕して24時間後には収穫して、カード化されて野菜か果物が手に入るってことだよ」

「分かりやすいぜ! さすがゆきっち」


 村長宅を出た私たちは、話をほとんど聞いてたかった陣内くんに再度説明をした。

 ただ陣内くんだけではなく朱莉以外、皆が疲れきった顔をしている。


「今日は種を渡したら自由行動にしようか?」

 仁井くんの提案に皆が賛同する。


 狼討伐の報酬として『白い種 10粒』『黒い種 10粒』『赤い種 10粒』『青い種 10粒』『黄色い種 10粒』のカードをそれぞれ20枚と、10万リンが貰えた。



 人が少なくなったことから、私たちは宿を『スリーカーメラ』から全部屋個室の『ナンダイン』に移った。

 現実世界の六畳一間の私の部屋よりかなり広く、十畳はありそうだ。ベッドに収用棚にタンス、そしてソファーとテーブルがついている。

 

 一泊200リンで8人で1600リンと、『スリーカーメラ』より100リン高いだけでかなりお得な部屋を借りることができた。


 畑で野菜が採れる噂はすぐに広まり、宿を移した翌週には全ての宿がまた埋まったようだった。




 ゲーム開始から42日がたった。


「それで、これからどうするんだ?」

 『本日のオススメ』と書かれたワンプレート料理は美味しくないようだ。陣内くんは顔をしかめながら食べている。


「今日で現実世界でも1週間だな。1度フィッシャにいくか?」

 コーヒーにたっぷりと砂糖を仁井くんは入れている。無理してブラックで飲むのは諦めたようだ。


「やっぱそうなるか。三太、お前はどう考えてる?」

「お、俺も行くのは賛成だよ。さすがに……その、おかしいよ」

「一番人が多いのはフィッシャかな?」

「最初の街選びが均等ならどこも一緒だけど、宿が足らないくらい人が多かったし。多分そうだと思うよ」


 隣のテーブルでは、ナルミくんを除く男性陣でログアウトの方法を話し合っている。


「あかり、それ何個目なん?」

「んー……。二つ目かな?」

「4個目ですよ朱莉先輩」

「そんなに食うことなか! もうやめときいよ」


 畑から大量の小麦と砂糖が採れるようになった。

 そして、隣村のダルク村でもクエストがクリアされて酪農が始まったそうだ。おかげで、ルージュ村の食文化は大きく進化している。



「へへへ……。最後に1個だけぇ」

「それで最後やけんね」

「ははは……。朱莉先輩本当に甘いの好きですよね」

 現実では絶対にできない糖分の過剰摂取をするべく、5個目のミニシュークリームに朱莉は手を伸ばす。

「ねぇ、ゆき」

「ん?」

「今後うちらどうなるん?」

 眼鏡の奥に隠れた瞳が不安に塗られていた。

「フィッシャに行けば、さすがに何か分かると思うよ」


 いくら仲がよかろうとも、四六時中も一緒にいるのだ。ストレスは誰でも感じている。

 だが今までは、そのストレスよりも楽しさが勝っていたし、それに30日たてば帰れるとも思っていた。


 しかし、ずるずると帰還日が延びるなか、私たちは生活環境をよくするために宿を移した。


 その時に誰からも反対意見がなかったのは、薄々このゲームはおかしいと口には出さないが、皆も考えているからだろう。


 誰も口に出さないだけで、私たちは徐々に生活改善を優先して活動するようになっている。「このままずっと帰れないかもしれない」という不安を胸にしまって。



 ゲーム開始から45日目の朝一の馬車でフィッシャに向かうことにした。


 フィッシャの街は相変わらず喧騒に包まれている。

 船を使った貿易にも手を出したプレイヤーもいるようで、見たこともない服装をしている人もいる。


「あの子和服だよぉ」

「中学生かな? 可愛いよね」

 中学生くらいの女の子二人組が仲良く和装姿でオープンテラスで食事を取っている。保護者であろう、髷を結った侍のような格好をした男性も一緒だ。


 感情表現が苦手で常に仏教面をしていた古川くんとは対照的に、笑顔が絶えないお侍さんのようだ。


「あれ? 人が集まっとうよ?」

 噴水広場から少し外れた場所に人だかりができている。


「このゲームはデスゲームかもしれません! 絶対に迂闊な行動はしないでください!」

「体感時間は間違いなく1年が1日に圧縮されています! 注意してください!」


 二十代半ばくらいだろうか。

 両手剣を背中に装備した男性と、銃剣を手に持った男性が大声で演説をしていた。


 両手剣を装備した男性は、普段から人と接する機会が多い仕事でもしているのだろう、きっちりと頭髪を整えている。

 対して銃剣を装備した男性は、緑かかった髪をただ無作為に後ろに流しているだけだ。


「私たちは取得テストでわざと落ちました! 再取得するには『現実世界の時間』で1週間必要です!」

「ゲーム時間で42日、現実時間で1週間はとうにたちましたが、未だに受けれません!」


 隣にいた仁井くんの顔がみるみる青ざめる。 山口くんが震える声で何かを言っているが、声が小さく聞こえない。


 この世界は本当に1年が1日に圧縮されているのか?


「パーティー集会所にいこう」


 震える声で仁井くんは提案した。



 本当は前回部分と合わせて投稿するつもりでしたが、前回の終わりかたの方が綺麗だったので新たなお話としました。


 今回はかなり短めですが、何度目かのターニングポイントになります。そのため、中途半端な形で区切らせて頂きました。


 また、浜辺もそうでしたが変わりゆくルージュ村の様子も全体の文字数の関係で削除しています。

 そのうち、短編集なりで書けたらなと思っています。



 本日も貴重なお時間を頂戴できまして、感謝致します。

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