18話 月桂樹の下で
前日は各々自由に過ごした。そして、今日これからお風呂に入って狼狩りをする。
『水田さん達が手にいれた情報にモンスターは関知できる種類が決まってるとある。狼は嗅覚感知で間違いないはずだ。だからそれを潰す』
今回の作戦は仁井くんと山口くんで立てた。
まず、前日夜から私たちは物理防御力がアップする、ラベンダーの香りの石鹸を使いお風呂に入る。寝るときもラベンダーのアロマオイルを炊いて寝た。
そして、日が出るよりも早く起きて、お風呂屋でもう一度ラベンダーの石鹸を使って、体を洗う。
「ゆき、背中洗って」
「分かった、こっち向いて」
「ならゆきちゃんの背中は私が洗おぅ」
「ならあかりの背中はうちが洗おう」
「ひなのからじゃ届かないよ。じっとしててね」
お互い手の届きにくい背中を洗いあい、髪もまたラベンダーの香りがするシャンプーを使って入念に洗う。
身体中からラベンダーの香りが漂う。
『第一段階はみな同じラベンダーの香りをまとうことだ。ラベンダーの理由は、物理防御のアップだね。前回狼は噛みつきと引っかきしかしてこなかったから、攻撃手段は物理しかないと思って間違いないだろうし』
「よし、第一段階終了だねぇ」
濡れた髪を乾かしながら朱莉が軽く拳を上げる。いくらお人形と同じ体の作りとはいえ、もう少し隠すところは隠してほしい。
『第二段階は戦う場所を準備する』
「昴、そこもう少し草を刈ってくれ」
「三太、こんなもでいいか?」
「十分だよおつかれさま」
男性陣で半径10メートルくらいの円形に草を刈り、罠を設置する。
日が沈むと北の森から出てきて、街道を横断して海岸沿いを巡回する。
その後、日の出と共に北の森へと帰るサイクルで行動しているようだ。
事前にヤツの情報を集めてた私たちは一番目撃情報が多い、街道から海岸沿いに逸れたこの場所で戦うことにした。
『普通の動物ならあからさまな罠には警戒して突っ込んでこない。でもあいつらはモンスターだ。そしてパターンが決まっているAIならば、罠にかかる可能性は高いはずだ』
「きたけん!」
日菜乃の合図をきっかけに緊張が走る。
朝日が昇りきる前の、1日で1番暗い時間帯にヤツはやってきた。
威嚇する唸る声を発しながら牙を剥く、真っ赤に燃えあがる瞳には何が写っているのだろうか。
『第三段階は水田さんの魔法で火をつけてくれ。事前に燃えやすいように油を撒いておくし、飛び火しないように草も刈っておくから安心ていいよ』
「てゃっ!」
導火線に火の魔法を放つ。私たちとヤツを囲うように炎の円ができあがる。
これで前回と違い光源ができた。今回は一方的に狩られるだけではない。
そして、燃える草の中からラベンダーの香りが漂ってくる。
『フォーメーションは狼正面は晋作だ。その右に僕が構えて、逆どなりは杉村だ。杉村の左後ろに三太がいてくれ』
前衛の3人と山口くんは指示された場所で構える。ヤツは隙を伺いながら姿勢を低くして、ゆっくりと動く。
『もし狼が前傾姿勢を取り、飛びかかってきそうになったら三太と新田さんは威嚇射撃をしてくれ。絶対に当てないようにな』
パッン、パンと短い発砲音が響き、風を切る音が矢と共に地面に突き刺さる。
飛びかかろうとしたヤツの動きを封じるには十分だ。
『そして、第四段階がこれを狼にぶつける』
一瞬怯んだ隙に陣内くんがバックラーでヤツの顔を押さえつける。
すかさず、仁井くんがラベンダーの香水が入った皮袋を狼の鼻に投げつける。浴びやすいように袋の口は開けっぱなしだ。
『これで同じラベンダーの匂いで、僕たちはある程度は同化して、狼の嗅覚を完全ではないにしても封じることができるはずだ。ナルミは阻害呪文を狼に放ってくれ』
ヤツは完全に標的を見失ったようで、明後日の方向に吠える。
ナルミくんがヤツの動きを鈍くする呪文を放つ。私も合わせて水魔法をヤツの足元に撃つ。
「くっそ! 食らっちまった」
ヤツを押さえつける時に陣内くんはダメージを受けたようだ。
手首のブレスレットに目を向けている。
「ただ変化はほぼない! 回復はいらないから次にいくぞ!」
防具の効果なのかラベンダーの効果なのか、陣内くんにはほとんどダメージが入ってないようだ。
「よし! なら橘さんお願いするよ!」
仁井くんがヤツから視線を外さずに、次の作戦実行の合図を送る。
『ここまで準備ができたら橘さんの出番だ。どぎついのを1発ぶちかましてくれ』
髪を1つに纏めて、大会の時のような真剣な眼差しでヤツに狙いを定めている。
「はっ!」
短い息を吐く音が聞こえたときにはもう、ヤツは3メートル近く矢と共にぶっ飛んでいた。
技術力が手に入るだけではなく、巨大な狼を矢と共に飛ばすだけの攻撃力も貰えるようだ。 威力だけなら完全に人間離れしている。
「まだ生きとうけん!」
「追撃だ!」
仁井くんの叫びに合わせて、朱莉と山口くんが遠距離から攻撃する。
「ガッウゥ!」
矢と弾丸が当たったと同時に小さな叫びをヤツはあげる。
「はぁぁぁあ! やっぁあーー」
前足から脇腹を仁井くんが切り上げて、ヤツの背後で残心をとる。
「おっりゃぁぁあああ!」
仁井くんの後に続くように、少し浮かび上がったヤツを盾で押さえつける。
そして、陣内くんは刃渡り15センチくらいの短剣をヤツの首筋に深々と刺したまま、後ろにステップをしながらその場を離れる。
何度も練習をした仁井くんと陣内くんのコンビネーションが綺麗に決まった。
『僕と晋作は攻撃をしたら、すぐにその場を離れる。タイミングがかなりシビアだけど、魔法で止めを刺してくれ』
二人が残心を取るのに合わせて、無属性の魔法をナルミくんと共に撃つ。
「いっけぇー!」
私たちの放ったは魔法はドンっと音を立ててヤツに直撃した。
事前に水を撒いて多少外しても、砂ぼこりは舞わないようにしていたが、必要のない準備だったようだ。
「グ……グァァァア!」
何が原動力になっているのか分からないが、ヤツはそれでもまだ、立ち上がろうとしていた。
『もし、狼が生き残っていてら杉村が止めを刺してくれ』
「うっおぉぉぉお」
背丈ほどの大きさの両手剣を振りかぶりながら杉村くんがヤツに向かって走る。
それに合わせるように山口くんも銃剣突撃を仕掛ける。
見えた。
確かにヤツは今笑った。牙を剥き下で口回りを舐めた。ヤツはこの突撃が見えている。
なぜか確信が持てた。
ヤツの嗅覚は封じられているが、この世の憎悪を込めたような、燃え上がる深紅の瞳に私たちは映っていると。
無意識に雷の魔法をヤツの目の前で炸裂される。
「ひなの!」
「任せて!」
打ち合わせもしてないのに日菜乃は雷のフラッシュを避けて、矢を射る。
ヤツの左目に当り、右目に山口くんの銃剣が突き刺さる。
嗅覚も視覚も封じられ、動きを阻害されては打つ手無しだろう。
恨みを憎しみを込めた咆哮が響き渡る。
その叫びに小鳥が飛び立ち、ゆっくりと勝利のファンファーレを鳴らしながら日が昇る。
朝日に照らされながら静かに崩れ去っていくヤツの潰れた両目には、もう憎しみの炎は宿ってないように感じられる。
「そっか……。キミは認めてくれたんだね」
最後の咆哮は恨みや憎しみなんかじゃない。きっと死闘を尽くした相手に向けて、敬意を表したものだろう。
崩れ去った後に出てきた数枚のカードから1枚拾う。
そこには『アンシヤンルーの牙』と書かれていた。
「キミは『アンシヤンルー』って名前だったんだね」
結果的に私たちは圧倒的な強さで勝てた。
誰一人倒されることはなくだ。
唯一の被害を上げるなら、それは私が放った雷に驚いて、顔から泥にダイブした杉村くんくらいだろう。
だが、紙一重の戦いだったのは間違いない。
やっと狼を退治できました。長かったです……。




