17話 決戦に向けて
翌日さっそく海岸に行った。
白浜の浜辺には1メートル近いカニと30センチくらいの大きさの貝がいる。
カニは横の動きは早いが、直線移動ができない。貝は甲羅のすき間から水鉄砲を打ってくるが、発射口が赤く光るので魔法職の私でも避けるのは容易い。
確かに巨大カニや巨大貝で間違いないが、2~3メートルの大きさを想像していた。
仁井くんはカニを足で踏みつけて、甲羅のすき間に刃を通して倒している。陣内くんは盾の練習をするためにわざと水鉄砲を受けてる。
杉村くんは身長より長い剣を振るって戦っているつもりだろうが、餅つきをしているようにしか見えない。
私は日菜乃たちと一緒に魚型モンスターを倒している。やることは簡単で、海に雷を打ち気絶した魚を弓で仕留めるだけだ。
魚肉カードなどのドロップ品が海中に落ちずに、砂浜に落ちてくれる親切設計には感謝をするが、早くログアウトを直してほしい。
そしてドロップ品が謎だ。
「ズワイガニだったぁ」
朱莉が落胆した表情でカードを日菜乃に渡す。
「これでズワイガニが96杯やね」
「こっちはサンマとイワシだったよ」
砂浜に落ちてたカードを集めて日菜乃に渡す。
「不思議だよね」
ラパンは倒すとラパンの肉を落としたが、巨大カニは「カニ類」を貝は「貝類」を、魚は「魚類」の食材を落とす。
試しにドロップしたズワイガニを食べてみたが、ズワイガニの味しかしなかった。
「た、単純に考えて、現実世界の食材をドロップするようにできている。それか特定の条件が必要。または、魚モンスターの肉はレアドロップくらいだよな」
「特定の条件が必要って?」
山口くんに聞き直す。
「えっとね、船上で倒さないといけないとか、釣ってから倒す必要があるとかだよ」
「なるほど。つまり私たちのやり方は邪道と言うことだね」
「邪道かどうかは分からないけど……。そ、その可能性はあるかな」
その日1日で3万リンを越える収入を得た。
「もう少し移動しようか」
「そうだな。人が多すぎて練習できねーぜ」
しばらくは私たちの独占で狩りをしていたが、ルージュ村に魚が出回るようになってからは、他のパーティーも魚狩りをするようになってきた。
「食生活が豊かになるのはいいけど、移動に時間とられて収入が減ってきたよね」
「移動だけで一時間半くらいかかってるよな? それなら、ラパンの方が儲けでかいかもしれないな」
集団の後方の方で陣内くんとのんびりとお喋りしながら歩く。
先頭は日菜乃と杉村くんと仁井くんで、後方からの不意打ち警戒で陣内くんが最後尾にいる。
他のパーティーの真似をして隊列を組んで歩くことにしたのだが、少しはベテラン冒険者らしく見えるだろうか。
その日の狩りはまずまずといったところだ。 初日のように3万リンは越えなかったものの2万5千リンは稼げている。
「明後日フィッシャに行こう」
夕食を食べ終えて余韻に浸っていると、仁井くんが今後の予定を話始めた。食事中は私が話を聞いてないため、いつの間にか大事な話は食後にすることになっていた。
「ついに狼と戦うのか?」
ニヤリと好戦的な笑みを陣内くんが見せる。
「もうすぐゲームが始まって一ヶ月経つからな。それまでに蹴りをつけたいと思ってるよ」
いつ頃からか30日たてば強制ログアウトされる噂が流れていた。
現実世界で5日たてば、1月6日の日曜日になる。翌日、月曜日からは学校や仕事が始まる。
つまり、日常が始まるまでにゲームを終わらせるには、6日までに強制ログアウトをしなければならないからだ。
「間に合うかな?」
「1発合格すれば余裕たろ」
金銭面の都合で、前回は私とナルミくんしかレベルを上げていない。
陣内くんは初の昇級テストを受けるのに、全く緊張していないようだ。
「明日は自由日としてフィッシャで授業を受けてもいいし、ルージュ村近隣で修行してもいいし、体と心をリフレッシュしてもいい日にするよ。明後日テストを受けて、その次の日は体をならす日にあてて……。そして最終日の日の出前に狼退治だ」
休養日を1日挟んで、テストを受けるためにフィッシャにやってきた。
前日にテスト対策で授業を受けにフィッシャへ行ったときも感じたが、やはり人が多い。
30日でゲームが終わる噂は近隣の村にも広がっているようだ。
「それでゆきっち。魔法使いの授業は何をしたんだ?」
「座学で『魔法使い』のレベルが上がると、どれだけ強くなるかを教えてもらって、実技は魔法の撃ち方の練習かな」
『魔法使い』は無属性の魔法の塊を飛ばせる。また、レベル×1%だけ魔法攻撃力が上がり、レベルが5の倍数になるたびに消費魔力1%減少のスキルが付与される。
「ランナーは酷かったよ」
「あー10キロ走ったんだろ?」
「うん。ひなのたちの馬車を追いかけながら走ったよ」
『ランナー』の授業は受けていて本当によかった。受けたいレベル×10キロの距離を事前に走っていないとテストを受けれなかった。そのため、帰りはナルミくんと共に走って帰った。
「後衛は受けないんだよな?」
「そうだね。今回は魔法使いをレベル5にしてランナーはレベル2にするかな。ランナーは、もっと上げたかったよ」
『後衛 10』になれば、味方の能力を上げるバフや敵の能力を下げるデバフなどを新たに覚えることができる。
ただ効果が極めて弱いこと、それに対狼用に装備を一新することにしたため、今回は費用の問題で見送ることにした。
魔法使いのテストは後衛のレベル5のテストと同じだった。そして、装備の持ち込みが許されていたから非常に楽に終わった。
ランナーの試験では装備の持ち込みはできなかったが、こちらも楽に受かった。
ランナーやアスリートなどの身体能力を上げる職業は飛び級せずに、レベルを1ずつ上げていけば落ちることはまずないようだ。
どうしても飛び級したいなら、他の職業の能力を頼れば5レベルくらいは飛ばせるのかもしれない。
試験を終えた私たちは甘いものを食べにレストランに集まった。
「はぁ……落ちたの僕だけか」
山口くんがテーブルに伏せて落ち込んでいる。
「筆記試験があるとか予想できねーだろ。気にするな」
山口くんの隣に座っている陣内くんがパフェ片手に励ます。
「確かに難しいよね。筆記試験は」
『鍛冶屋』のレベル5テストでは筆記試験と実技試験があって、筆記試験の合格者のみ次の実技に進むことができる。
しかし、取得してからほとんど鍛冶をしていなかった山口くんは白紙のテスト用紙を出すしかできなかったそうだ。
「ひなのはよく受かったよね?」
日菜乃のステータスには『弓使い 20』の文字が輝いていた。
「ふふふ。うちくらいだとよゆーやけん、よゆー。あぁ……自分の才能が怖か」
職業はレベル30で、その競技のインターハイ出場者相当の恩恵を受ける。レベル40で達人になり、50超える頃には人間を辞めていると言われている。
日菜乃はあと1歩のところでインターハイを逃したが、今回のテストでは普段通りの実力が出せたようだ。
「まさか本当に取るとは思わなかったよぉ。私も受ければよかったぁ」
隣のテーブルにいる朱莉が身を乗り出してくる。
「10レベルでも十分にすごいからねあかり」
私は朱莉のステータスに目を通す。『弓使い 10』『アスリート 5』『ホルダー 2』は立派なものだ。日菜乃が無茶な冒険をしたにすぎない。
メンバーの能力を見る。
私は『後衛 5』『魔法使い 5』『ランナー 2』
ナルミ『後衛 5』『呪術師 5』『ランナー 2』
日菜乃『弓使い 20』『スポーツマン 5』『狩人 5』
朱莉『弓使い 10』『スポーツマン 5』『ホルダー 2』
山口『中衛 5』『銃士 5』『鍛冶屋 1』
仁井『剣士 5』『スポーツマン 5』『アクロバット 5』
陣内『戦士 5』『スポーツマン 5』『ウエイト 5』
杉村『前衛 5』『スポーツマン 5』『ウエイト 5』
「お金かかったよね」
「一瞬で消えたな」
「生活費程度でよければすぐに貯まっけど、出ていく費用も半端なかよね」
「ぼ、僕は落ちたし……」
普段なら『俺』と言う山口くんだが、落ちたのが余程ショックらしく今日は『僕』と言っている。
「これから考えものだよね」
「ん? 何がだ?」
陣内くんがきょとんとした顔をする。
「今後のテストのことやろ?」
「そうだね、ひなの。今回みたいに一斉に受けないで時期をずらすとかしないとすぐに底をつくよ」
私たちが無駄な買い物をしてお金を消費したのもあるが、それ以上にレベルアップで出ていく量が多い。
「確かにな……。俺たちほぼ毎日狩りをしてたのに、すっからかんだもんな。通常営業に戻ったら、月1回くらいしかファンタジーワールド来れねーし、かなり気長に攻略考える必要あるよな」
「お金を払ってレベル上げて、お金を払って装備整えて。はぁ……。現実でも苦労してるのにこっちでも苦労するのね結局さ」
こちらのテーブルではお金を頑張って貯めてもすぐになくなる現実に崩れ落ちる。
「明日は1日体を慣らして明後日の日の出と共に狼狩りだな」
「狼のお肉は美味しいのかなぁ?」
「ボクは鶏肉に似た味って聞いたことあるよ」
「ラパンのお肉も鶏肉に似てるよぉ……牛食べたい」
「分かります。お刺身も悪くはないですけど、たまにはがっつり脂身食べたいですよね」
「俺は刺身好きだからこのままでいいけどな」
隣のテーブルで対照的に明るい話題で盛り上がっている。
明後日はついにヤツとの勝負になる。
ついに狼討伐に向かいます。
今回のお話はもう少し長めで、海岸でのBBQなどの日常会を書いていましたが、諸事によりカットしました。
この作品を終えた後に、短編として投稿するかもしれせん。
その時はよろしくお願いします。




