16話 ダンスパーティーへようこそ
取得テストは無事終わったと連絡があり、私たちは集合場所に向かう。
今回は杉村くんおすすめのお店だ。サラダの種類が豊富でアップルパイやミートパイが美味しいらしい。
山口くんは野菜があまり好きじゃないようで最後まで反対していた。
「買ったねぇ」
「買ったね」
「うちら怒られるかな?」
両手いっぱいの買い物袋に目を向ける。
疲労の回復や魔力の回復が速くなるアロマキャンドルに、魔法の命中補正や持久力補正などがつく香水、そしてシャンプーやリンスなどを大量に買った。
またおまけとして大量の試供品まで貰ったため、朱莉の『ホルダー』だけでは全ての商品をカード化できなかった。
「無駄な物は買ってないから平気だよ」
無駄な物は確かに買ってないが、今必要かと問われれば疑問は残るかもしれない。
店内には既に四人揃っていた。
全員メニューを決めたのを確認して野菜たっぷりのグリルパイとささみのサラダに紅茶を頼む。最初は風情がないと思っていたが、慣れるとすぐに商品が出てくるのも悪くないと思うようになった。
久しぶりのラパンの肉以外の食べ物に香りだけで舌鼓を打つ。網目状に編み込まれた生地に卵黄を塗って焼かれたパイは焦げ目がいい味を出している。
ナイフとフォークで丁寧に生地を切ると中から小さく切られたブロッコリーと人参とナスがホワイトソースと共に出てきた。どうやらホワイトソースに彩られたパーティー会場でダンスをしているようだ。
とろみのあるホワイトソースにブロッコリーを絡めて一口食べる。口いっぱいに濃厚なミルクとチーズのとろみが真っ白な絨毯のように広がり、歯ごたえのあるブロッコリーが情熱的なタンゴを披露する。
2曲目はナスと人参によるワルツだ。口の中を柔らかく煮込まれた人参と食感が残ったナスが3拍子のテンポで入れ替わる。人参の甘さが広がればナスの苦味が出てきて、ナスのしゃきしゃきした食感を感じると次は人参の柔らかな食感が楽しめる。
お城の上部を切り取り食べると遠くからピンヒールの足音が聞こえる。優雅なワルツに連れて生地のサクサク感に甘ったるい卵の味がする……。
甘ったるい? もしやこれは、砂糖皇太子ではなかろうか。アップルパイなら生地に砂糖を溶かした卵を塗るも理解できるが、このままでは市民革命が起きやしないだろうか。
ひやひやしながらも奥に顔を見せるジャガイモと上生地を合わせて食べる。
世界が一瞬で甘ったるいピンク色の景色に包まれた。隣国の王女に恋をしてしまった王子の悲恋が伝わってくる。なぜこの料理で出会ってしまったのかと、なぜオムレツで出会わなかったのかと……。
突如現れた王子と王女の悲恋には食休みが必要だ。
会場を1度リセットしようと紅茶を口に含むとそこには、青リンゴの香りが漂う若葉広がる農園が現れた。
今まではお城での舞踏会ならば、今からは農園での舞踏会だ。漆黒の闇に覆われた世界なんて関係ないと明々に灯した室内で踊る貴族の舞踏会にたいして、やさしい太陽の光に包まれながら、礼儀も作法なく感情のまま踊るのが農民の舞踏会だ。
同時に注文していたサラダからトマトに狙いを定めて舞台にあげる。ホワイトソースの絨毯はもうない、あるのはお立ち台代わりの荷車だけだ。
熟して柔らかいトマトから大量の生命の息吹が口内に広がる。なるほど、君は今回主役を張らずに裏方に徹するのかとトマトの意外な一面を見つけた喜びでササミを口にいれる。トマトに包まれたササミからは生臭さが消え去り、鳥が羽ばたいていく。
次はキュウリとササミを試してみる。
やりやがったな!
何が裏方に徹するだ、ササミを挟んでキュウリとトマトが喧嘩をしている。貴族の舞踏会ならばあり得ないだろうが、やはり農民だとそうもいかないらしい。
街から村へやって来た最先端の真っ赤な衣装に身を包んだトマトと、着るものは縦じまの模様の入った服を着る村育ちの素朴なキュウリがササミを奪い合いする。
キュウリはササミの全てを愛するように生臭さも自信のみずみずしさで洗い流し、弾力のある歯ごたえに疲れたオーディエンスを、しゃきしゃきの歯ごたえで癒してくれる。
相手の短所を自分で補うトマトと相手の短所も1つの調味料と生かすキュウリの愛情劇の幕開けだ。
農村には農村のドラマがあるのだ、と楽しんでいると突如として最後の審判が訪れた。
ノアの箱船には誰も乗れなかったようだ。
口内に大量の洪水を注ぎ込みながら日菜乃を見ると、また話聞いてなかったでしょうと目で語ってくる。
「ごめん、ひなのに見とれてたよ」
「はぁ……。ご飯に見とれてたの間違いでしょ。装備のことよ装備」
どうやら私がダンスパーティーに招待されている間に午後の予定を話し合ってたらしい。
午後からは武器を買いに行くことになった。
店売りの装備は、品質は一定で街の発展と共に種類も増えるが、それ以上を求めるならクエストやイベントで貰える設計図で作成するか現物入手しかないそうだ。
ただ、ゲームが始まってまだ二十日もたっていないため、プレイヤーが作った装備よりは店売りの方が品質がいい。
「それで『銃士』と『鍛冶屋』は取れたの?」
グリルパイは失敗したなと思いながら、とりあえず会話に加わる。
『銃士』は銃剣を装備して戦う職業だ。位置取りは中衛と前衛の中間で、状況によっては銃剣突撃をしたり後方より銃を撃ったりする。
『鍛冶屋』は武器の耐久や攻撃力を調べるために必要だ。
このゲームでは武器の耐久はかなり重要な要素になるが、『商人』か『鑑定士』それに『鍛冶屋』の職業をセットしないと武器の耐久や攻撃力を知ることができない。
「取れたよ」
「おめでとう」
「あ、ありがとう」
山口くんが照れながらも不満を口にする。
「そ、それにしても、その『ホルダー』もだけどさ……。ソロプレイがしにくい設計で作られてるよね」
「1パーティー12人も組めることを考えたらそうだろうな」
杉村くんが自分にも聞いてくれと目で語る。
「杉村くんはどうだったの?」
「『前衛』はそのままで、『スポーツマン』と『ウエイト』を取ったよ」
「結局『ウエイト』にしたんだね」
「『ウエイト』って何ですか?」
次は僕の番だと待っていたナルミくんだが、聞きなれない言葉に反応をした。
「『ウエイト』は怪力になれるんだ」
「なるほど、分かりやすいですね」
「それで君は何を取ったの?」
杉村くんが端的に答えて会話の水をナルミくんへと向ける。
「ゆき先輩と同じで補助職を『ランナー』にしました。攻撃は『後衛』と『呪術師』ですね」
「『呪術師』受かったんだね! 偉いねこの子は」
体をのりだしナルミくんの頭を撫でる。後輩ができたらやりたかたったことだ。
『祈祷師』は味方単体の戦闘能力を上昇させて、『呪術師』は敵単体に呪いをかけて戦闘能力を下げる職業だ。
また、同じ系統で『シャーマン』がある。『シャーマン』は味方全体の能力を上げるだけではなく、敵全体の能力を下げたりもできる。
「あ、水田さんお金はいくら残ってる?」
「8万リンはあるよ」
「2万リンも使ったのか……」
仁井くんに連絡を取り、パーティー資金から『フラワーミスト』の代金を出した。その際、事後報告でいいとのことだったので金額は伝えてはなかった。
「まぁー必要なものだったしいいじゃん」
陣内くんがフォローに回ってくれる。
「今そんなに必要だったのかは疑問が残るけど、三太。8万リンで装備整うか?」
「海岸狩り装備だよな? 矢が買えないかもしれないが、問題ないよ」
「海岸で狩りをするなら、私とナルミくんは午後から『後衛』の昇級テストを受けないとだね」
ルージュ村から南へ1時間程進むと海へ出る。
海付近の砂浜には魚類系モンスターが数多く生息していて、巨大カニや巨大な貝、さらには浅瀬からはタコや魚型のモンスターが出てくることもあるらしい。
カニや貝は甲殻系モンスターと呼ばれており物理攻撃に強いが魔法攻撃、特に雷系の魔法に弱い特徴を持つ。
また、阻害魔法のデバフ耐久も極端に低いモンスターが多いのも特徴だ。
私たちはナルミくんが『呪術師』を取得できて、さらに私とナルミくんのどちらかが『後衛 5』になれたら海で狩りをするつもりだ。
もしだめならルージュ村から西にあるダルク村方面の草原に出る猪を狩る予定になっている。
獣の肉よりお魚が食べたい女性陣からのプレッシャーに打ち勝ち、よくぞ取得したと再度ナルミくんを誉めたい。
『後衛』の昇級テストは『魔法使い』の取得テストと同じ部屋でおこなうようだ。
前回の私たちのように列の流れを止めて説明を受けるプレイヤーもおらず、すんなりとテストを受けれた。
『ただいまより後衛レベル5テストを開始します』
1面だけある白の壁が消えて奥の部屋が出てくる。的までの距離は20メートルもないだろう。
『奥に見えます、白色の壁に10発中5発当ててください。なお、5発当たるか外れた時点で試験は終了とします』
5発くらいすぐにあたる。イージーだ。
魔力を込めて放たれた1発目は天井に当たった。
2発目は床に当たった。
「ま、まだこれからだよ。感覚は掴めた」
大きく振りかぶり「てりゃ」と掛け声と共に放った3発目の魔法は的中した。ここらは順調で1回外したが、5発命中させて無事にテストは終了した。
テストが終了してから30分は試射ができる。必要ない場合は魔方陣に乗れば帰ることができる。
的に向かって火の玉を飛ばしてみが、感覚的には魔力の塊を飛ばすのと違いはない。
水魔法は水の塊が杖先にできた。重さがあり、的までは届かず水風船が割れるように床に落ちてしまった。
風魔法は使い道が思い付かない。なぜなら杖先から強風が出るだけのようだからだ。
土魔法は握りこぶしの大きさの石を飛ばせた。どんっと響く音を残し、的に当たった石は消えていった。
最後に雷魔法を試してみる。
雷をイメージしながら魔力を溜めると、赤い点が視線の先に浮かんできた。
視線を右から左に向けても赤い点はついてくる。杖を降り雷を飛ばすと、赤い点に向かって飛んでいく。
雷魔法だけマーカーがつくのが不思議ではあったが、とりあえず飛び級に成功だ。
テストを終えて皆がいる武器屋までやって来た。
「どうだったぁ?」
「らくしょーだったよ」
いい結果だったこともあり、朱莉が抱きついてくる。
「もう武器は買ったの?」
ちょっと硬質の髪を撫でながら聞くが……。
「私たちちょっとあれだよね」
「うん……」
とても華の女子高生とは思えない臭いをお互い発している。
「はやくお風呂いきたいね」
「だねぇ」
武器屋の内部は剣が飾られている。
どうやらここは刀剣屋で刀剣の専門店のようだ。
「ルージュ村ってやっぱり物が揃ってないんだね」
剣の良し悪しなど全くわからないが、壁一面に飾られている剣からは、厳格な雰囲気がする。
「週1で遊びにいけるようにするから我慢してくれ」
独り言を仁井くんに拾われたようだ。
振り返ると、仁井くんは刃渡り45センチくらいの鉈を持っている。
「ずいぶんと短いけどそれにするの?」
「ああ、カニとか貝が相手なら殻のすき間からえぐった方がいいかと思ってね」
武器を選ぶなら攻撃力が強いやつと考えていたけど、モンスターに合わせて武器を変える必要があるようだ。
杉村くんは150センチは優にあるだろう。自身の身長に近いくらい長い両手剣を購入している。
「ずいぶんと長いよね」
「レベル1しかないけど、『ウエイト』のおかげでそこまで重さは感じないからな。それに古川君に物理エースは任せるつもりらしくってさ、昴のやつに二番手のアタッカーになってくれって言われたんだよ。使いこなせるようにしないとな」
陣内くんは『ナイト』を目指すため、武器より盾と鎧を購入した。
靴は鉄板が入った安全靴っぽい黒のロングブーツで、革で作られた鎧に兜っぽい帽子。そして30センチくらいの円形の盾を購入した。
「盾ってもっと大きいと思ってたよ」
「うちもそう思ってた」
「これはバックラーってやつで、盾の使い方を覚えるためにこれにしたんだぜ」
陣内くんも目的を持って装備を選んでいる。今なら山口くんが10万リンも貯めた理由が分かる。
女性陣と男性陣とでは致命的な目的の差があるようだ。
お互い「ゲームを楽しみたい」は共通していることだが、私たちは観光メインで楽しみたい、男性陣は「強くなることを楽しみたい」だ。
現に今も、装備よりも生活環境を整えたい私たちは石鹸やシャンプー、アロマに香水を優先して買った。
仁井くんは次に戦うフィールドに合わせた装備を選び、陣内くんや杉村くんは将来的になりたい職業に合わせて装備を考えている。
どこかで一度話し合う必要があるだろう。
共に弓道部所属の二人は弓の良し悪しを知っているようで、攻撃力よりも使いやすい和弓を選ぶことで弓選びはすんなりと決まった。
銃剣も選べるほど種類がなく、唯一自由に選べたのは刃渡りの長さくらいだった。
最後に杖を買うために杖専門店『ウィザードロッド』へやってきた。5センチくらいから2メートルはある杖まで長さ、材質ともに店内から溢れんばかりある。
「杖って種類たくさんあるね」
「ですね。どれ選べばいいですか?」
私では判断に困るので山口くんを探すと、長さの違う数種類の杖を持ってきた。
「杖は長さによって種類も効果も変わるんだ」
山口くんが3本の杖と指輪をテーブル上に置く。
テーブルの上には指揮棒に近い30センチくらいの細い杖、今使ってる杖と変わらない長さの1メートルくらいの杖、直接殴っても使えそうなくらい大きい2メートル近くの杖、そして指輪が置かれた。
「ま、魔法を使うには職業のセットとは別に杖か指輪、ブレスレットがないと、魔法を使えないんだよ。例外として『ホルダー』があるけどね」
朱莉は弓を使うときに邪魔にならないように、魔力消費を押さえるブレスレットを買った。
「杖にも補正があってね。命中補正なら短いワイド、範囲補正なら中間の長さのロッド、威力重視ならスタッフがいいよ」
前衛からの熱い命中補正押しで私は真っ白なワイドを選んだ。ナルミくんは真っ黒で色違いのお揃いだ。
次に命中補正の指輪と魔法威力向上の指輪を、ナルミくんは命中補正と消費軽減の指輪を購入した。
ゆきちゃんは食べてる時は常に脳内ダンスパーティーです




