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13話 再会


 柔らかな日差しに起こされる。


「くっ……あぁー……」


 頭上に気を付けながら、思いっきり延びをする。若干の気だるさはあるものの、疲れは溜まってないようだ。


 ひんやりと冷気を発するフローリングを素足で歩き、木製の扉がついた窓を開ける。

 春の柔らかな風が、若葉の生臭い香りを運んでくる。


「ひなの、あかり……。朝だよ、起きないと」

 上段に寝ている二人を起こす。日菜乃は寝起きはいい方で、すんなりと起きるが、朱莉を起こすのは毎朝の事ながら一苦労する。


 身支度を整えた私たちは、1階の食堂へ朝食を食べに行く。


「やあ、おはよう」

「おはよーさん」

 テーブルには仁井くんと陣内くんの二人がいた。

 二人はもう朝食を食べ終えたのだろうか。オレンジジュースと紅茶を飲んでいる。


「おはよう。起きるの早かったの?」

「そうでもないよ。ご飯は食べ終えたけど、そこまで早起きはしてないかな」

 そう言って仁井くんは後ろ髪の寝癖を直している。


「山口くんたちはもう行ったのかな?」

「あぁ、あいつらなら飯食う前に行ったぞ」

 そっと食堂のメニューを陣内くんが渡してくれる。

 ほとんどの料理が食べれないようで、二重の赤線が引かれている。


「トースト……はいいや」

 本来ならしっかりと食べた方がいいのだろうが、食欲があまり出ない。


「目玉焼きとサラダに……あとは……。私も陣内くんと同じオレンジジュースでいいや」

 日菜乃と朱莉はトーストも注文していた。


 食欲がない原因は何だろうかと、静かに昨日と一昨日のことを思い出す。


 一昨日は古川くんが狼に負けてしまって、その後帰還するためにフィッシャに向かった。

 昨日の午前中はうさんくさい男性と話をして、午後からルージュ村へやってきた。



 やはり昨日の午後のアレが原因か。



 道中は最悪の一言に尽きる。思い出してもイライラする。



 事の始まりは谷くんの一言から始まった。

「あのさ、疲れたから休もうぜ」


 この世界には時計がない。いや、正確には「あるかもしれないが、私たちはまだ見たことがない」が正しい。


 正確な時間が分からないため、前回は一人だけ運動能力に補正がない私がペースメーカーとなって、休憩を申告していた。

 

今回は『ランナー』で体力補正がある私ではなく、谷くんがその役目を担っていた。



 序盤は移動距離も長く、休憩時間も短くスムーズに進むことができていた。しかし、視界からフィッシャも消えてルージュ村もまだ見えてない中盤から休む頻度が増えてきた。


「また休むのか? もう少し頑張れないか?」

「疲れてたら効率悪くなるだろ」


 もう少し歩けないか仁井くんが提案してみたが、谷くんは休憩を要求する。


 確かに疲れてたら効率が悪くなるから休む必要はあるが、前回休んだ場所が見える距離だ。

 直前に1キロを走る試験を受けた私にはその距離が、1キロにも満たないことが感覚的にわかる。



「水がない」


 谷くんは休む度に水をがふ飲みして、すでに自分の分は飲み終えて杉村くんの分も飲み干していた。


 まだ口をつけていない、私の水を渡すことにした。


「うっ……」


 カードから水を取り出した朱莉が、立ちくらみを起こしたようによろめく。


 この現象に心当たりが私には二つあった。

 1つは女性特有の物でこの世界に関係がない物だ。ならばもう1つの可能性しか残っていない。


「あかり大丈夫? 魔力切れだよね?」

「うん……。これが魔力切れなのねぇ。頭がガンガンするよぉ」



「ふぅ……。しかたないここで長めの休憩を取ろう」

 仁井くんが長めの休憩を取ることにしたが、谷くんがそれを拒否した。


「魔力は体力と違って歩けば回復する。それよりも早くいくぞ」


 この一言に陣内くんが噛みついた。


「お前が休憩のたびに水を飲むから無駄にカード化で魔力使わしてんだろうが!」


「それならリュックに入れて背負えばいいだけじゃんか! わざわざカード化なんて使うなよ! 水飲むのにもいちいち許可がいってめんどくさいぜ!」

「ならお前が背負うか? どうせ後衛で体力ないから杉村にでも背負わすんだろうが! 黙って歩け」


 正直言って谷くんの「水はカード化しないでいいだろう」の言い分は分からないでもない。


 魔力補正を受ける職業を『ホルダー』しかセットしていないのに、朱莉は出発前から10枚近くもカード化して大量の魔力を消費していた。

 残りの魔力を考えても、ちょっと喉が渇いたからと言って朱莉に水を出してもらうのは気が引ける。


 そのため、2時間半ほど歩いて長めの休憩で遅めのお昼と水分補給をした後は、リュックに水を入れて歩くつもりでいた。



 しかし、谷くんは朱莉の魔力を気遣うつもりは更々ないようだ。


 気持ちのいい日差しが射す春の穏やかな気候の昼下がりに、手で持つのがだるいと休憩のたびに朱莉にカードから水を出させてはカードに戻させていた。


 自分の分どころか、他人の分まで手を出すくらい水を飲み、朱莉の残り魔力をどんどん消費させていった。



 言い分はわからくもないが、さらさら味方になるつもりなどない。


 険悪な雰囲気に包まれた中、私たち5人と山口くんたち3人が距離をとりかなり遅めのお昼を取ることにした。


 1度ルージュ村に行ってる私たちは、ルージュ村までの道のりが地図に書かれている。


「やっと半分だけどペース遅いよね」

「このままだと夜になるぜ」 

「そうなんだよな晋作。月明かりに照らされればまだ歩けるけど、月が出るの遅いからな。どうするか……」

 地図を開き、進行状況を確認する。



「あかり、少し横になるいいようよ」

 魔力を消費しきった朱莉は木陰で横になっている。


「私が『ホルダー』とった方がいいかな?」

「いや、それは辞めた方がいい」

 背後からした声に振り向くと、山口くんが立っていた。


「えっと、その……谷のことごめん」

「謝るよりも態度を改めて欲しいよ……。それより何で辞めた方がいいの?」


「う……。えっと……。魔法職って『魔法使い』『魔術師』『魔導師』ってあってね。火を扱う魔法職も『火魔法使い』『火魔術師』『火魔導師』があるんだよ。その、水や風も一緒だね」

「それは私も知っている。それで?」

 

 山口くんは分かりやすく説明をしているつもりだろうが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはよく言ったものだ。谷くんの事から山口くんまで憎く感じてしまう。


「そ、そそ、それでさ。『魔法使い』は単体攻撃魔法ができるようになって、MP上昇と魔法攻撃力が上がるんだ。『魔法使い』なら攻撃力の上がり幅は低いけど他の属性の攻撃も上がって、『火魔法使い』なんかの場合は火属性のみだけど『魔法使い』より攻撃力の上がり幅が高いんだ」


「とりあえず座ったら?」

 有力な情報と判断した私は山口くんの話をきちんと聞くことにした。


「『魔術師』は範囲攻撃ができるようになって、他は『魔法使い』と変わらないよ。」


 確か『後衛』なら威力は弱いものの、レベル5で範囲攻撃ができたはずだ。

 使い勝手が良さそうなら先に『魔術師』を取得するのも悪くないかもしれない。



「最後に『魔導師』だけど、『魔導師』だけを取得しても魔法は使えないんだ。その代わり、攻撃力が大幅に上がってMPの消費が減るんだ。」

「攻撃力が大幅に上がるのは魔法の攻撃力だけだよね?」

 私の質問の意図が分かったのだろう。少し考えた山口くんは「新田さんに覚えてもらうのはスロットの無駄使いになるよ」と答えた。



「え、えっと魔法職としてやっていくなら、『魔法使い』『魔術師』『魔導師』の1セットと、属性の1セットで合わせて6個取得する必要があるよ。あとは水田さんも分かってると思うけど、『ランナー』のように体力を上げないと歩き回るこのゲームだと辛いもんね」


「つまり、火の魔法を最大火力で打つには『魔法使い』『魔術師』『魔導師』と『火魔法使い』『火魔術師』『火魔導師』が必要って、ことだよね?」


「そ、そうだよ」

「かなり有益な情報だったよ、ありがとうね」


 属性魔法に手を出そうか考えていた私には有益な情報だった。

 そして、少なくとも山口くんからは私たちと上手くやりたい気持ちが伝わってきた。

 後半戦は山口くんたちと少しお話でもしてみようかとその時は考えていた。



 残り1/4を残して太陽が完全に沈黙した。月もまだ出ておらず、お互いの顔さえおぼつかない暗闇の中に私たちは放り込まれてしまった。


 歩くのは危険と判断した私たちは、月が出るまで待機することになった。


「だから俺は明日にしようって言ったんだよ」


 谷くんがぶつぶつと独り言を発する。

 前半のこともあり、皆極力関わるのを避けている。


 月の光で辺りが辛うじて見えてくるようになると、モンスター感知ができる日菜乃を先頭にゆっくりと進み出した。

 街道を歩いている限り、道に迷うことがないのが唯一の救いだ。


「あ、あれ灯りが見えっとよ?」

「本当だ! もうすぐつくね」


 『弓使い』の職業補正でより遠くまで見渡すことごできるようになったのに、頑なにメガネを外さない日菜乃に苦笑する。


 少し歩みを進めたところで、私たちにも灯りが見えた。

 歩くスピードが心なしか速くなり、気持ちは打って変わって今日一日楽しかったなと思えていた。





 そう、あいつが出てくるまでは。





「何か来るけん!」

 日菜乃が警戒するように大声で叫ぶ。

 陣内くんと仁井くんが日菜乃の前に出て、遅れて杉村くんも前に出る。


「どっちの方角?」

「あっち! 仁井くん見える?」


 日菜乃が指差す方向に目を向けるが、真っ暗でなにも見えない。

 『狩人』の職業補正で半径50メートル居ないであれば、おおよそどの方角にモンスターがいるのかが分かるらしい。レベルが上がれば範囲も増えて感知の精度も高くなるそうだ。



 がさがさと何か大柄なモンスターが動く気配がする。聞き覚えのある嫌な音に、心臓の音がうるさく鳴り響きモンスターの気配をかき消す。


 突如暗闇の中から真っ赤な点が二つ浮かび上がる。その点に私は、いや私たちは見覚えがあった。


 そう、古川くんを倒したあの狼だ。



「武器は秋水の刀しかねーぞ」

「暗くて矢を当てれる自信が全くないけんね、うち」

「防具は貰ってきたけど、戦うのはよそう。暗すぎて話にならないからさ、逃げの一手で」

 仁井くんは逃げを選択した。

 


 山口くんが私に話しかける。

「見覚えがあるの?」

「昨日の朝2~3メートルはある狼に襲われたんだ。森に逃げてったはずなのにまた出てきたみたい」

 震える腕を押さえつけて私は答えた。



「余裕だ余裕。俺がやる」


 内藤くんが杖をかまえて魔力を溜める。レベル差によるものだろう、私が溜める魔力よりも大きく溜まっているのが分かる。


「谷が打ったら全力で逃げるぞ!」

「了解だ昴。杉村たちもいいな?」

「わ、わかった」

 前衛の3人はもう戦う気はないようで、狼から目を離さないで逃げる手順を簡単に決めている。



「はっ。何これで倒しても知らねーぞ」


 谷くんが魔法を放ったのを合図に私たちは走り出す。

 ドンっと音を立てて、魔法の光で一瞬だけ辺りが明るくなった。



「うっわぁ! 死なねーのかよ」


 谷くんの魔法は当たったのか外れたのか分からないが、振り向くことなく転ばないように気を付けながら走る。


 後方から「お前ら戻ってこい! はやくしろ、裏切りもどもが!」と怒号が聞こえるが誰も止まらない。



 『ランナー』のおかげで、昨日の朝よりはるかに楽にルージュ村へ到着することができた。

 門番に山口くんと杉村くんが村長宅へ行くように言われたが、明日行くことにして今日は常宿の『スリーカーメラ』へと向かった。



 この宿には3人部屋しかないから、人気がない。

 その為、仁井くんと陣内くんで1部屋、山口くんと杉村くんで1部屋、あとは女性陣で部屋を借りることができた。



 夕食時に確認したが、山口くんのフレンド一覧から谷くんの名前がオフラインを示すグレーにっていた。



 食欲が出ない原因を探りながら、静かにテーブルを見渡す。


「はぁ……。あっちに戻ったら谷のやつ絶対にうるせーぞ」

「そうやね」

「あいつもう外そうぜ。秋水がいればいいだろ」

「パーティーバランス考えたら外すのはよくないよ。後衛職が一人になる」

「しかしよ、昴。上手くいかないやつ入れてもしょうがないだろ?」


 陣内くんは谷くんに対してかなり鬱憤が溜まっているようだ。


「それより私は早く帰りたいたなぁ」

「私も帰りたい」


 カランカランと鈴の音が、扉が開いたことを告げる。私たちがいる場所からは直接見えないが、山口くんと杉村くんが帰ってきたようだ。



 難しい顔をした山口くんが席につくなり開口一番に「話がある」と言った。


「君たちは……その、村長の話を覚えているか?」

 無言で顔を横に降る。他のメンバーも同じで、どうやら誰も覚えていないようだ。


「何て言ってたの?」話の続きを催促する。

「えっとな、夕方から早朝にかけて凶悪なモンスターが村の回りにいて危険だって言ってた」


 朧気にだが、確かに言ってた気もする。他のメンバーも心当たりがあるようだ。


「あの狼がその凶悪なモンスターか。俺は夜になったらモンスターの種類が変わるだけと思ってたぜ」


「た、確かに。ぼくもあのモンスターと出会ってなかったらそう判断するよ。それでどうする? 倒す?」


 山口くんの言葉に驚いて声がでない。おどおどしていたイメージしかないが、意外と攻撃的な性格なようだ。


「村長が言ってるくらいだからクエストモンスターだよな? 倒せば……その、スロットか装備かアイテムか……。何か特別なの貰えるかもしれないよ」

「確かにそれは分かるけどぉ、私たちに倒せるのかなぁ?」


「別に今すぐその……戦うわけじゃないよ。昼間は安全なの分かってるからさ、ラパン倒して職業レベル上げて装備整えたら勝てそうじゃないか?」


「勝てなくはないだろうね。秋水の攻撃でダメージが入ってたし、装備が揃ってない僕たちでも即死はしなかったから。それにあの狼はエリアボスじゃないからね」


 仁井くんの聞きなれない言葉に首をかしげる。


「えっと、エリアボスはそのフィールドの親玉みたいなものでめちゃくちゃ強いんだよ」


「あの狼は強いけど違うの?」


「そうだよ。エリアボスと戦闘になると、特殊な結界が貼られて逃げ出せなくなるらしいんだ。変更がなければ、あれはエリアボスじゃなくクエストモンスターだと思うよ」


 昨日の山口くんから聞いた話もそうだけど、私は知らないことがかなりあるようだ。

 

「いいんじゃねーの? 目標なくだらだらログアウト待つよりかは楽しそうじゃん」

 陣内くんは狼討伐に乗り気のようだ。


「ただ生活費がきつかよ? 差し引きで1人増えただけやのに、宿代が1.5倍もかかるんやけん、装備揃うん?」


 経理担当の日菜乃が経済面の不安をつげる。

 1泊の宿泊代は1部屋500リンだ。それが2部屋から3部屋に増えて1500リン必要になる。


「ぱ、パーティー人数が増えたら確定ドロップのレア率も上がってるし。元は取ると思う……けどな」


「レア率が上がっとうとね?」

 眼鏡をすっと上げて、日菜乃が給料日前の母に似た顔つきになる。


「えっとね……ラパンを倒すとカードが落ちるよね?」

「お肉のカードたいね?」


「そうそう。それはパーティーの人数分確定で落ちるんだけど、それとは別に通常のお肉がレア肉にランクアップするんだ。パーティー内の誰か1人でもレアを当てたら全員のお肉がレアに変わるんだよ」


「へぇーそれは知らんかったとよ。それなら何とかなりそうやね。ちなみにグループやっても変わるん?」

「いや、変わらないよ。グループだと一人分しかドロップしない」



 パーティーとグループの違いはレアドロップの入手率にあるそうだ。

 『ラパンの肉 500g』が『ラパンの肉 1000g』に変わってもグループなら1枚しか落ちないが、今の私たちなら7枚手に入ることになる。


 このゲームはソロには本当に厳しいようだ。

 正直内藤くんを入れるのは嫌だが、全員揃えば9人だ。あと3人誰かを誘ってフルメンバーの12人で遊ぶのもいいかもしれない。



 長く続けるつもりはなかったのにいつの間にか続けるつもりの自分に苦笑する。



「ゆきちゃんどうしたのぉ?」

「なんでもないよ。それより狩りにいこうよ、魔法打ってみたい」



 私たちは狼退治を帰るまでの目標に定めることにした。



 7000文字には届きませんでしたが、かなりの量になったと思います。

 前回の後書きでも述べたように、今後は極端に短いお話や極端に長いお話を投稿することになります。


 本日も読んで頂きありがとうございます。



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