王国と隣国の不可避な全面戦争、国境でのガチンコ大喜利バトルに改訂いたしますわ
「――さて、お次の不穏なフラグはこちらかしらね」
メロリアスが優雅にティーカップをソーサーに置き、ふわりと細い指先で地図の一点を指し示した。
そこは、王国と隣国を隔てる広大な荒野――。
神託のプロットにおいて、「両国の精鋭部隊が血で血を洗う壮絶な全面戦争を繰り広げ、数千人の死傷者を出す悲劇のステージ」として、重々しく記されているはずの場所だった。
現地に到着した二人の眼前には、ガチガチの重装備に身を包んだ両国の軍勢が、殺気立った様子で、にらみ合いを続けている……はず、だった。
「おや、メロリアス様。
様子が少々おかしいですね」
レオンが片手に魔法水筒を持ったまま、前方の陣地をじっと見つめて首を傾げる。
荒野の真ん中になぜか巨大な「特設ステージ」が組まれ、両脇には「フリップボード」や「得点盤」、さらには謎の「特製マイク付きスタンド」がズラリと並べられていた。
「どうやら、神の書いた戦争の台本も、土壇場で勝手にボロを出しているようですわね」
メロリアスはふんっと鼻を鳴らし、愛用の万年筆を取り出した。
空中にピッと引きずり出した『マスタープロット』の該当ページには、血生臭い戦闘指令が並んでいる。
「――『第一章、両軍の怒涛の突撃により大地は赤く染まり、絶叫と悲鳴が国境を包み込む。
生き残るのはわずか一握りの者のみ』
……ふう。
相変わらず、脳筋思考の三流バトル展開ですこと。
読者のメンタルに優しくありませんわ」
メロリアスはあきれ果てたようにため息をつくと、万年筆の鮮やかな赤インクで、不穏な一文に容赦なく「ザシュッ」とバッテンを叩きつけた。
「――赤字訂正。
流血の惨劇は全面中止。
代わりに、両国の和平と知性の限界を試すため、国境の真ん中で『全大陸同時中継・ガチンコ大喜利バトル』を開催する。
敗北した国は、勝者へ『どんなに絶望的な状況でも「なんとかなる気がする」、謎のポジティブ思考になる【魔法の高級たくあん】を献上する』ものとする。
なお、面白くない回答をした兵士は、問答無用のケツバットの刑に処す」
「……相変わらず、平和的かつ素晴らしい改訂案ですね」
レオンがクスリと笑みをこぼした瞬間。
天からまばゆいスポットライトが降り注ぎ、戦場全体に軽快なファンファーレの音楽が鳴り響いた。
「な、なんだ……!?
一体何が起きたんだ!?」
血気盛んに突撃の掛け声を上げようとしていた両国の将軍や精鋭部隊たちが武器を手放し、完全に間抜けな顔で立ちすくむ。
同時に、彼らの頭上には強制的に『大喜利参加者』というプレートが赤字で浮かび上がった。
「――さあ、両国の精鋭たち! ぐずぐずしていてはケツバットですわよ!
早速第一問、『こんな魔王軍は絶対に嫌だ』、答えなさい!」
メロリアスが特等席のテーブルに腰掛け、優雅に声を張り上げる。
刹那、逃げ場を失った両国のガチムチな戦士たちが、青い顔をして絶叫した。
「な、なんだこれ!?
答えなきゃいけないのか……っ!」
「ええい、こうなったらヤケだ!
『総攻撃の作戦会議なのに、ホワイトボードの端に『今週の当番:魔王様』って書いてある』!」
歴戦の猛者がフリップを掲げると、会場の判定システムが「ピコン!」と涼しげな音を鳴らした。
「……クスリともきませんわね。
やり直しです、問答無用のケツバットの刑に処しますわ」
どこからともなく現れた屈強な黒衣の男たちによる容赦ない一撃を受け、「ぐわぁぁぁ!」と吹き飛ぶ戦士を見ながら、メロリアスは紅茶を啜る。
殺戮の戦場は、冷や汗と笑いにまみれたシュールな大喜利会場へと成り果てた。
「ふふ、血を流すよりよっぽど知性的ですわね」
「【魔法の高級たくあん】の行方が気になるところです」
二人は和やかな空気の中、次なる理不尽なフラグを叩き直すため、さらに軽やかな足取りで先へと進むのだった。
第7話をお読みいただき、ありがとうございます!
メロリアス様がガチンコの大喜利バトルへと強制改修してしまう回をお届けしました。
面白くない答えを出した瞬間に飛んでくるケツバットの恐怖に怯えながら、冷や汗を流して笑いを追求する戦場は、平和なようで別の意味で地獄絵図かもしれません。
大汗を流す両国軍を見守りながら、レオン君と共に優雅に紅茶を啜るメロリアス様のマイペースぶりも、ますます冴え渡ってまいりました。
さて、大暴走はまだまだ止まりません。
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