絶対に攻略不可能な死のダンジョン、巨大アスレチック&超特大パフェの聖地に改訂いたしますわ
「――さあ、参りましょうか、レオン」
メロリアスが優雅に手袋をはめ直し、見上げるのは、禍々しい紫色の瘴気が立ち込める巨大な岩山だった。
王国が誇る最凶の難所――『絶望の回廊・死のダンジョン』である。
「足を踏み入れた者が、二度と生きて帰ることはない」と言われ、数々の猛者たちが骨肉を晒してきた魔の迷宮。
神託のプロットにおいても、「主人公たちが血を流し、絶望の淵で精神をすり減らすための残酷なステージ」として厳かに記されているはずだった。
「おや、メロリアス様。
入り口の看板に何か書かれておりますよ」
レオンが片手に魔法水筒を携えたまま、真新しい立て札を指さす。
そこには、トゲトゲしいフォントで『生きて帰りたければ、血と涙を捧げよ』と恐ろしい脅し文句が刻まれていた。
「ふん、相変わらず悪趣味な書き出しですこと。
これだから三流のファンタジーは困りますのよ」
メロリアスは鼻で笑うと、愛用の万年筆を取り出し、スッと指先で一回転させた。
そして、空中に浮かび上がる『マスタープロット』のダンジョン該当ページを、指先でぴっと引っ張り出す。
「――『第一章、冷酷な魔獣たちが牙を剥き、挑戦者の肉体をズタズタに引き裂く。血塗られた迷宮の最深部で、人間は自身の無力さに泣き叫ぶ』……と。
まあ、なんて安直で品のない暴力描写でしょう」
メロリアスはあきれ果てたようにため息をつくと、万年筆の鮮やかな赤インクで、容赦なくその一文にバッテンを叩きつけた。
「――赤字訂正。
魔獣の殺戮ショーは全面中止。
代わりに、迷宮全体のトラップはすべて『巨大アスレチック』および『全長十メートルの超特大フルーツパフェが常設されたファミリー向けアミューズメントパーク』へと強制改修する。
挑戦者たちは死闘の代わりに、童心に帰って生クリームの海を泳ぎ、スポンジケーキの山を登頂しなければならないものとする」
「……相変わらず、斜め上を行く素晴らしい改訂案ですね」
レオンがクスリと笑みをこぼしたその瞬間。
ズズズズズ……ッ! と大地が大きく揺れ動き、死のダンジョンを包んでいた禍々しい瘴気が、パァァッと、甘いバニラと焼き菓子の香りに塗り替えられていった。
「な、なんだ……!? 一体何が起きた!?」
ちょうどその頃、血相を変えてダンジョン攻略にやってきていたS級冒険者パーティの面々が、武器を構えたまま立ちすくむ。
屈強な戦士や冷徹な魔法使いたちが、目の前に突如出現した「巨大なピンク色の滑り台」と、天高くそびえ立つ「超特大プリンアラモードの城壁」を目の当たりにして、完全にフリーズしていた。
「――さあ、突っ立っていないで、早くアスレチックをクリアしなさい!
ゴールには特大パフェが待っていますわよ!」
メロリアスが声を張り上げると、なぜか戦士たちは武器を放り投げ、「うおおおお! 生クリームの海だぁぁぁ!」「スポンジの山を登るぞおおお!」と大はしゃぎで飛び込んでいく。
命がけの死闘の場であったはずのダンジョンは、最高にハッピーなテーマパークへと成り果てたのだった。
「ふふ、見事な編集完了ですわね。
さて、レオン。私たちの分のパフェも確保しておいてちょうだい」
「かしこまりました。
一番上のイチゴは私が死守いたします」
二人は笑顔を浮かべ、甘い香りに包まれた世界を後にし、次なる理不尽なフラグを赤字で叩き直すため、軽やかな足取りで先へと進むのだった。
第6話をお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、王国最凶の難所であるはずの「死のダンジョン」を、メロリアス様が「巨大アスレチック&超特大パフェのアミューズメントパーク」に強制改修してしまう回をお届けしました。
命がけの死闘を繰り広げるはずだった屈強な冒険者たちが、生クリームの海に大はしゃぎで飛び込んでいく姿は、見ているだけでもお腹いっぱいになりますね!
一番上のイチゴを死守するレオン君の忠義(?)も、すっかり安定してまいりました。
さて、奇想天外な大暴走はまだまだ続きます。
次なる目的地で、どんな理不尽な神託が赤字で叩き直されるのか……!?
「続きが気になる!」「パフェ食べたい!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、メロリアス様の万年筆のインクが甘いシロップに変わる……ことはありませんが、執筆の最高のエネルギーになります!




